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後日談
デート前編(ルドの場合)
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魔法騎士団の服を着たルドが帝城内を闊歩する。その勢いのままセルシティの執務室のドアを盛大に開けた。
「セル! いい加減にしてくれ!」
「どうしたんだい?」
セルシティが書類から視線を外さずに答える。
バン!
ルドが注意を引くように机を叩いた。
「もう、ずっと師匠と会えていない!」
「報告会とかで会っているだろう」
「あれは会っているではない! 見かけている、だ!」
確かに報告会で顔を合わすことはある。だが、会議のため私語は厳禁。見ることしか出来ない。
たまに魔法騎士団に治療魔法の指導に来ることもあるが、忙しすぎて会話をする時間もない。
「もう、限界だ。これ以上、師匠に会えないなら……」
「ん? どうするんだ?」
セルシティが顔をあげた。ルドがなにを言うのか期待して目を輝かす。
「師匠を誘拐してケリーマ王国に行く!」
「ブッ!」
ひたすら気配を消し、空気になろうとしていたオグウェノが吹き出す。
「オレを巻き込むな!」
「以前、ケリーマ王国に来いって言ったじゃないですか!」
「あの時と状況が違う!」
オグウェノとルドが歪み合う。セルシティは優雅に微笑みながら提案した。
「そろそろ限界だとは思っていたよ。だから、明日。自由時間をあげよう」
「え!?」
ないはずの犬耳がピクッと立ち、尻尾を盛大に振る……幻影が現れる。
「昼食から午後のお茶の時間まで自由にしたらいい。その時間はクリスティも仕事を空けるように手配しておく」
「本当か!?」
「あぁ。仕事の効率が落ちても困るからな。ただし、それまでに終わらせないといけない仕事は終わらせておくように」
「わかった!」
ルドが執務室から飛び出す。オグウェノが肩をすくめた。
「行動が犬だな。それにしても、あっさりと休みを与え……」
オグウェノは思わず言葉を止めた。
セルシティが、それはそれは楽しそうに優美に微笑んでいる。この微笑みの時はロクなことがない。この短い付き合いの中で学んだ。
「さぁて、準備をしようかな」
ふふふ……極上の楽器のような声だが不気味な気配が含まれている。
オグウェノは、なんの準備を? と聞けなかった。
※
翌日。
午前中の仕事を終わらせたルドは魔法騎士団の宿舎の自室に戻った。午前中は仕事だったが、これからは自由時間。クリスとの時間。仕事着で会うなど野暮なことはしたくない。
ルドはクローゼットを開けた。そして、固まった。
「ない!?」
いつもなら私服が並んでいる。それが目の前にはクローゼットの木の壁しかない。
「どこ!? どこに!? 一晩考えた服はどこに!?」
ルドがクローゼットの中に顔を突っ込む。バンバンとクローゼット内の壁を叩くが服はない。
クリスと会うため一晩考えて服をコーディネートした。その服を含めて、すべての服がない。
「盗まれたか? 魔法騎士団の宿舎だと油断した」
自分の屋敷なら侵入防止のため、魔法で侵入者対策をしていた。しかし、ここは屈強な騎士が集まる魔法騎士団の宿舎。わざわざ侵入してくる愚か者はいないと思っていた。
「犯人捜しをしている時間も新しい服を準備する時間もない……仕方ない」
ルドは魔法騎士団の服のまま待ち合わせ場所へと移動した。これも、セルシティの嫌がらせの一つと気づかずに……
待ち合わせ場所は女性に人気の店が集まる通りの入り口だった。その場所に到着したルドが周囲を見回す。
そこに聞き覚えがある声が耳に入ってきた。
「こんなところに一人でどうしたんですか?」
「暇なら一緒に食事でもどうです?」
ルドが声の方を向くと、魔法騎士団の服を着た三人組が壁際に立つ人を囲んでいた。三人組の体が大きいため、囲まれている人の姿は見えない。
「そうそう。新しい治療魔法について聞きたいこともあるんですよ」
「新しい治療魔法を学んでいるのか?」
それまで無言だった相手が興味あり気に訊ねる。その声にルドが気配を消した。
「はい。ですので、ぜひ……」
「疑問点については明日の講義で説明しますので、書面に書いて提出してください」
三人が一斉に振り返る。背後に立つルドを見て、一瞬で顔が真っ青になった。
一方のルドはとてもとても良い笑顔で、三人の顔を順番に確認していく。その背後には牙をむき出しにした赤狼の幻影。
「そもそも、治療師総統に気軽に声をかけるとは、どういう了見ですか? 言うなれば、一般兵が敬語も使わず、魔法騎士団長に声をかけているのと同じことですよ? それとも、総統を軽んじるナニかがありますか?」
言葉の圧に三人が震える。
魔法騎士団の騎士といえば、騎士の中でも実力あるエリートの集まり。勇猛果敢で、他国の騎士たちから恐れられている。そんな騎士三人が生まれたての子鹿のようにプルプルしている。
ある意味、恐ろしい光景なのだが、三人に囲まれていた人は気づいていない。三人に対して不愛想で声も低かったが、ルドに気づくと笑顔で声をかけた。
「犬か! 久しぶりだな」
深緑の目が輝き、声も少し高くなる。その姿にルドは胸を射ぬかれた。
胸を押さえて固まるルドをクリスが慌てて覗き込む。
「どうした!?」
「な、なんでもありません」
重傷に近い傷を追いながらもルドが笑顔で顔をあげる。そこで、クリスの全身を見た。
金髪を右耳の前だけ垂らし、残りの髪は編み込んで一つに纏めている。いつもは隠れているうなじが現れ、そのすぐ上には飾りの花。
服はいつもの治療師の服。だが、髪型が違うだけでルドには極上のドレスになる。
「うっ……」
予想外の衝撃にルドが顔を押さえた。久しぶりのクリスが眩しい。
ルドが一人で悶絶している隙に三人が退散する。いや、気づいてはいたがクリスを前にすると埃のように小さいことになった。いや、明日きっちりと制裁はする。
ルドはどうにか気を取り直して深呼吸をした。
「待たせましたか?」
「いや、さっき来た」
「行きましょうか」
ルドが手を差し出す。クリスは恥じらいながらもそっと手をのせた。その動作にルドの顔が真っ赤になる。
(ヤバイ! 師匠が可愛い! いや、知っていたけど、ますます可愛い!)
ルドが心の中で悶える。一回り小さな白い手を握る。クリスが表情を隠すように俯く。それだけで心臓が飛び出そうなほどドキドキする。
抱きしめたり、担いだり、抱き上げたり、散々クリスには触れてきた。それなのに、手を繋いで歩くことがこんなにも緊張するとは。
お互い微妙な沈黙のまま店へと歩いていった。
店は相変わらず明るく、女性向けの内装。ルドはクリスの前に座り、ランチを注文した。
女性に人気の店のため、客は女性が多く、男であるルドは浮いていた。しかも着ている服は魔法騎士団の騎士服。で、外見は美形の好青年。嫌でも注目が集まる。
だが、当の本人は気にすることなく、ひたすら笑顔でクリスを見つめている。
あまりにもニコニコしているルドをクリスが訝しんだ。
「どうした? 私の顔になにか付いているか?」
「いえ。師匠が魔宝石のピアスを付けてくれていることが嬉しくて」
髪を上げているため、左耳に付けている魔宝石のピアスが一際輝く。上機嫌のルドが右手を伸ばし、クリスの左耳に触れる。クリスは自分のモノだという証。
満足そうなルドからクリスが視線を逸らす。
「お、おまえが付けろと、しつこいから……」
「そうですね。ありがとうございます」
自分のせいでも、なんでもいい。ようやく耳に付けてくれた。それだけで十分だ。
「その髪型も、よく似合っています」
「こ、これは、ラミラが……着替える時間がないなら、これぐらいはしろと、無理やりだな……」
「月の精霊かと思ってしまいましたよ」
クリスが顔を真っ赤にする。
「そういう世辞はいらないと……」
「世辞なんかじゃないですよ。本当にそう思いました」
「だから、そういう恥ずかしいことを言うな」
ニコニコと嬉しそうなルドをクリスが顔を赤くしたまま上目遣いで睨む。
デザートの甘い香りが漂う店内が、この二人によってますます甘くなる。店内で食事をしていた他の人達がこぞって砂糖抜きの紅茶を注文した。
食事を終え、デザートを食べながら雑談をする。少し前までは、共に食事して、なに気ないことを話すことが普通だった。なのに、今はそれさえ難しい。
あの日々がどれだけ貴重だったか。ルドが悔やむ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、別れの時間になった。クリスも忙しい身の上。仕事に戻らないといけない。
迎えの馬車を前が来た。乗り込む前にクリスがルドの服を摘まむ。なにか言おうとして言葉にならなかったのか俯いた。顔は悲しげで、深緑の目が揺れる。
そんなクリスにルドの中で何かがキレた。クリスの肩を勢いよく掴む。
「待っててください。次の休養日には、必ず家に帰ります」
「へ?」
十日に一日、休養日という休日がある。だが、クリスとルドは仕事が多過ぎて、休養日に書類仕事を片付けていた。
「師匠は自分の実家にいますよね?」
「あ、あぁ」
帝都で仕事をすることになった時、小さめの屋敷を買い、そこで生活をしようとした。だが、ルドの母エルネスタによって阻止され、そのままルドの実家に住んでいる。
「次の休養日には、絶対に帰りますから。だから、待っていてください」
「では、私も次の休養日には休みが取れるように仕事を終わらせよう」
嬉しそうなクリスをルドが抱き締める。
「絶対に帰りますから」
「あぁ。待ってる」
ルドはクリスを乗せた馬車を見送った。
翌日。
「なんだこりゃ!?」
倍に増えた仕事量を前にルドが固まる。だが、ここで止まっていては次の休養日までに仕事が終わらない。
「セルの嫌がらせか? だが、思い通りにはいかない!」
ルドが昨日のクリスを思い出す。
「絶対に終わらす!」
すざましい気迫とともにルドは仕事にとりかかった。
「セル! いい加減にしてくれ!」
「どうしたんだい?」
セルシティが書類から視線を外さずに答える。
バン!
ルドが注意を引くように机を叩いた。
「もう、ずっと師匠と会えていない!」
「報告会とかで会っているだろう」
「あれは会っているではない! 見かけている、だ!」
確かに報告会で顔を合わすことはある。だが、会議のため私語は厳禁。見ることしか出来ない。
たまに魔法騎士団に治療魔法の指導に来ることもあるが、忙しすぎて会話をする時間もない。
「もう、限界だ。これ以上、師匠に会えないなら……」
「ん? どうするんだ?」
セルシティが顔をあげた。ルドがなにを言うのか期待して目を輝かす。
「師匠を誘拐してケリーマ王国に行く!」
「ブッ!」
ひたすら気配を消し、空気になろうとしていたオグウェノが吹き出す。
「オレを巻き込むな!」
「以前、ケリーマ王国に来いって言ったじゃないですか!」
「あの時と状況が違う!」
オグウェノとルドが歪み合う。セルシティは優雅に微笑みながら提案した。
「そろそろ限界だとは思っていたよ。だから、明日。自由時間をあげよう」
「え!?」
ないはずの犬耳がピクッと立ち、尻尾を盛大に振る……幻影が現れる。
「昼食から午後のお茶の時間まで自由にしたらいい。その時間はクリスティも仕事を空けるように手配しておく」
「本当か!?」
「あぁ。仕事の効率が落ちても困るからな。ただし、それまでに終わらせないといけない仕事は終わらせておくように」
「わかった!」
ルドが執務室から飛び出す。オグウェノが肩をすくめた。
「行動が犬だな。それにしても、あっさりと休みを与え……」
オグウェノは思わず言葉を止めた。
セルシティが、それはそれは楽しそうに優美に微笑んでいる。この微笑みの時はロクなことがない。この短い付き合いの中で学んだ。
「さぁて、準備をしようかな」
ふふふ……極上の楽器のような声だが不気味な気配が含まれている。
オグウェノは、なんの準備を? と聞けなかった。
※
翌日。
午前中の仕事を終わらせたルドは魔法騎士団の宿舎の自室に戻った。午前中は仕事だったが、これからは自由時間。クリスとの時間。仕事着で会うなど野暮なことはしたくない。
ルドはクローゼットを開けた。そして、固まった。
「ない!?」
いつもなら私服が並んでいる。それが目の前にはクローゼットの木の壁しかない。
「どこ!? どこに!? 一晩考えた服はどこに!?」
ルドがクローゼットの中に顔を突っ込む。バンバンとクローゼット内の壁を叩くが服はない。
クリスと会うため一晩考えて服をコーディネートした。その服を含めて、すべての服がない。
「盗まれたか? 魔法騎士団の宿舎だと油断した」
自分の屋敷なら侵入防止のため、魔法で侵入者対策をしていた。しかし、ここは屈強な騎士が集まる魔法騎士団の宿舎。わざわざ侵入してくる愚か者はいないと思っていた。
「犯人捜しをしている時間も新しい服を準備する時間もない……仕方ない」
ルドは魔法騎士団の服のまま待ち合わせ場所へと移動した。これも、セルシティの嫌がらせの一つと気づかずに……
待ち合わせ場所は女性に人気の店が集まる通りの入り口だった。その場所に到着したルドが周囲を見回す。
そこに聞き覚えがある声が耳に入ってきた。
「こんなところに一人でどうしたんですか?」
「暇なら一緒に食事でもどうです?」
ルドが声の方を向くと、魔法騎士団の服を着た三人組が壁際に立つ人を囲んでいた。三人組の体が大きいため、囲まれている人の姿は見えない。
「そうそう。新しい治療魔法について聞きたいこともあるんですよ」
「新しい治療魔法を学んでいるのか?」
それまで無言だった相手が興味あり気に訊ねる。その声にルドが気配を消した。
「はい。ですので、ぜひ……」
「疑問点については明日の講義で説明しますので、書面に書いて提出してください」
三人が一斉に振り返る。背後に立つルドを見て、一瞬で顔が真っ青になった。
一方のルドはとてもとても良い笑顔で、三人の顔を順番に確認していく。その背後には牙をむき出しにした赤狼の幻影。
「そもそも、治療師総統に気軽に声をかけるとは、どういう了見ですか? 言うなれば、一般兵が敬語も使わず、魔法騎士団長に声をかけているのと同じことですよ? それとも、総統を軽んじるナニかがありますか?」
言葉の圧に三人が震える。
魔法騎士団の騎士といえば、騎士の中でも実力あるエリートの集まり。勇猛果敢で、他国の騎士たちから恐れられている。そんな騎士三人が生まれたての子鹿のようにプルプルしている。
ある意味、恐ろしい光景なのだが、三人に囲まれていた人は気づいていない。三人に対して不愛想で声も低かったが、ルドに気づくと笑顔で声をかけた。
「犬か! 久しぶりだな」
深緑の目が輝き、声も少し高くなる。その姿にルドは胸を射ぬかれた。
胸を押さえて固まるルドをクリスが慌てて覗き込む。
「どうした!?」
「な、なんでもありません」
重傷に近い傷を追いながらもルドが笑顔で顔をあげる。そこで、クリスの全身を見た。
金髪を右耳の前だけ垂らし、残りの髪は編み込んで一つに纏めている。いつもは隠れているうなじが現れ、そのすぐ上には飾りの花。
服はいつもの治療師の服。だが、髪型が違うだけでルドには極上のドレスになる。
「うっ……」
予想外の衝撃にルドが顔を押さえた。久しぶりのクリスが眩しい。
ルドが一人で悶絶している隙に三人が退散する。いや、気づいてはいたがクリスを前にすると埃のように小さいことになった。いや、明日きっちりと制裁はする。
ルドはどうにか気を取り直して深呼吸をした。
「待たせましたか?」
「いや、さっき来た」
「行きましょうか」
ルドが手を差し出す。クリスは恥じらいながらもそっと手をのせた。その動作にルドの顔が真っ赤になる。
(ヤバイ! 師匠が可愛い! いや、知っていたけど、ますます可愛い!)
ルドが心の中で悶える。一回り小さな白い手を握る。クリスが表情を隠すように俯く。それだけで心臓が飛び出そうなほどドキドキする。
抱きしめたり、担いだり、抱き上げたり、散々クリスには触れてきた。それなのに、手を繋いで歩くことがこんなにも緊張するとは。
お互い微妙な沈黙のまま店へと歩いていった。
店は相変わらず明るく、女性向けの内装。ルドはクリスの前に座り、ランチを注文した。
女性に人気の店のため、客は女性が多く、男であるルドは浮いていた。しかも着ている服は魔法騎士団の騎士服。で、外見は美形の好青年。嫌でも注目が集まる。
だが、当の本人は気にすることなく、ひたすら笑顔でクリスを見つめている。
あまりにもニコニコしているルドをクリスが訝しんだ。
「どうした? 私の顔になにか付いているか?」
「いえ。師匠が魔宝石のピアスを付けてくれていることが嬉しくて」
髪を上げているため、左耳に付けている魔宝石のピアスが一際輝く。上機嫌のルドが右手を伸ばし、クリスの左耳に触れる。クリスは自分のモノだという証。
満足そうなルドからクリスが視線を逸らす。
「お、おまえが付けろと、しつこいから……」
「そうですね。ありがとうございます」
自分のせいでも、なんでもいい。ようやく耳に付けてくれた。それだけで十分だ。
「その髪型も、よく似合っています」
「こ、これは、ラミラが……着替える時間がないなら、これぐらいはしろと、無理やりだな……」
「月の精霊かと思ってしまいましたよ」
クリスが顔を真っ赤にする。
「そういう世辞はいらないと……」
「世辞なんかじゃないですよ。本当にそう思いました」
「だから、そういう恥ずかしいことを言うな」
ニコニコと嬉しそうなルドをクリスが顔を赤くしたまま上目遣いで睨む。
デザートの甘い香りが漂う店内が、この二人によってますます甘くなる。店内で食事をしていた他の人達がこぞって砂糖抜きの紅茶を注文した。
食事を終え、デザートを食べながら雑談をする。少し前までは、共に食事して、なに気ないことを話すことが普通だった。なのに、今はそれさえ難しい。
あの日々がどれだけ貴重だったか。ルドが悔やむ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、別れの時間になった。クリスも忙しい身の上。仕事に戻らないといけない。
迎えの馬車を前が来た。乗り込む前にクリスがルドの服を摘まむ。なにか言おうとして言葉にならなかったのか俯いた。顔は悲しげで、深緑の目が揺れる。
そんなクリスにルドの中で何かがキレた。クリスの肩を勢いよく掴む。
「待っててください。次の休養日には、必ず家に帰ります」
「へ?」
十日に一日、休養日という休日がある。だが、クリスとルドは仕事が多過ぎて、休養日に書類仕事を片付けていた。
「師匠は自分の実家にいますよね?」
「あ、あぁ」
帝都で仕事をすることになった時、小さめの屋敷を買い、そこで生活をしようとした。だが、ルドの母エルネスタによって阻止され、そのままルドの実家に住んでいる。
「次の休養日には、絶対に帰りますから。だから、待っていてください」
「では、私も次の休養日には休みが取れるように仕事を終わらせよう」
嬉しそうなクリスをルドが抱き締める。
「絶対に帰りますから」
「あぁ。待ってる」
ルドはクリスを乗せた馬車を見送った。
翌日。
「なんだこりゃ!?」
倍に増えた仕事量を前にルドが固まる。だが、ここで止まっていては次の休養日までに仕事が終わらない。
「セルの嫌がらせか? だが、思い通りにはいかない!」
ルドが昨日のクリスを思い出す。
「絶対に終わらす!」
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