17 / 63
クリスマスプレゼントですが、悩みます
しおりを挟む病院の木々がイルミネーションで飾られた頃。
病棟のパソコンでカルテに記入していると、看護師長がやってきた。
「明後日のクリスマス会ですが、大丈夫ですか?」
「手品なら大丈夫よ。新ネタも用意しているし」
「助かります。子どもたちが喜びますので。あ、すみません」
他の看護師に呼ばれ、看護師長が立ち去る。
「クリスマスかぁ」
私の独り言に若い看護師が反応する。こっそり隣に来た。
「ゆずりん先生は、誰と過ごすんですか?」
キラキラ輝く目に、好奇心がこもった声。なにを期待しているの?
「柚鈴先生って呼びなさい。過ごすって?」
「クリスマスです。知っているんですよ?」
「な、なにを知っているの?」
若い看護師がぐいぐいと迫る。
「早く帰ろうとする日。あれ、デートなんでしょう?」
「違うって。そんなんじゃないわ」
「えー。でも、早く帰る日の先生は、とっても嬉しそうですよ?」
早く帰れるだけでも嬉しいのに、漫画の監修で、黒鷺の美味しいご飯が食べられるから……って、そんなの言えない!
「そ、そりゃあ、早く帰れるのは嬉しいもの」
「だから、そうじゃなくて!」
若い看護師がプリプリと怒る。でも、怒り方が可愛らしい。
「もう! じゃあ、プレゼントとかあげないんですか?」
「プレゼント……」
いつもの料理のお礼に、プレゼントの一つぐらいあげてもいいかも。
私は若い看護師を見た。これぐらいの年齢だと、なにが欲しいのだろう……
「あなたなら、どんなプレゼントがほしい?」
「私ですか? 私なら、バックか、靴か……あ、コートもいいな。あれ? 先生、プレゼントをあげる相手は女性です?」
「あ……」
根本的なところを間違えていた。どうしよう……でも、男子大学生の欲しい物なんて知らないし。
考え込む私に若い看護師がニヤリと笑う。
「やっぱり彼氏じゃないですかぁ」
「だから、そういうのじゃないのよ」
「またまたぁ」
私の否定は否定され続けた。くすん。
※
昼食。病院の食堂で蕎麦を食べる。そこにカレーがのったトレイを持った蒼井がやってきた。
「ここ、いいか?」
「どうぞ」
私の前に蒼井が座る。
その顔は心なしか疲れているようで、イケメンが三割減……になることもなく、カッコいい。ため息を吐く姿も、色気と哀愁が漂い、絵になっている。
「お疲れ?」
「あぁ。どこも人手が足りなくて、あっちこっちから呼ばれてさ」
「モテモテじゃない」
「風邪の診察要員で呼ばれても嬉しくない。オレの専門は形成だ」
「あー、外来は人がいないからねぇ」
この忙しさで徐々に風邪をひく職員も増えている。それは医師も例外ではない。
担当医でなくてもいい風邪の診察に引っ張り出される。
「世間はクリスマスだの、正月だので、賑わっているのにな。ま、毎年のことだけど」
「私たちには無縁の行事よ。あ、そういえば、蒼井先生はクリスマスプレゼントに何をもらったら嬉しい?」
「無縁の行事って言っておきながら、その質問かよ?」
呆れた視線が飛んでくる。無縁の行事だけど、今年は関係があるんだから仕方ない。それに、この相談なら、蒼井以上に最適な人を私は知らない。だって……
「蒼井先生は毎年クリスマスに貢がれているでしょ?」
「だから、言葉のチョイス!」
なんか叫んでいるけど、とりあえず無視。
「たくさん貢がれているから、参考になるかなって。嬉しかったものとか、印象に残っているものとか」
「その前に、貢ぐというのをやめないか?」
「なんで? 事実でしょ?」
私が首を傾げると、蒼井が盛大にため息を吐いた。
「ほんと、そういうところだからな。見た目は良いのに、モテないのは。えっと、クリスマスプレゼントの話だったか。貰って嬉しかったのは……好みのものを貰った時だな。で、印象に残っているのは……」
「どうかした?」
蒼井のカレーを食べる手が止まる。先ほどとは違う、ナニかを吐き出すような深いため息。
「食べ物だな……昔、手作り菓子をもらったら、その中に髪の毛が……それ以来、手作りの菓子は食べられなくなった」
「そんなこと、本当にあるの!?」
背筋に悪寒が走る。それは、怖い! トラウマになる! 手作りお菓子が食べられない!
「マジなんだよ……あれには、参った」
「モテる人は大変ね。あ」
外来からの呼び出しコール音。
私は急いで蕎麦を食べ終え、立ち上がった。
「ちなみに、どんな物だったら貰ってもいいと思う?」
「無難なのは、財布とかキーケースとかじゃないか?」
「そう。ありがとう」
「色は赤がいいな」
赤い財布を持った黒鷺の姿が頭に浮かぶ。
「んー、なんかイメージと違うなぁ」
「オレって赤は似合わない?」
「いつから、蒼井先生にあげるクリスマスプレゼントの話に……って、のんびりしてる場合じゃなかったわ」
私は急いで食器を返すと、外来へ走った。
(明日は休みだし、プレゼントを買いに行こうかな)
目の前の休日に気分が上がり……かけて、外来の受付の光景に足が止まる。
(午後一番でこの人数……何時に終わるんだろう……)
「いや、いや、いや。大丈夫! いつものこと!」
私は気合いを入れて診察室に入った。
0
あなたにおすすめの小説
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる