18 / 63
プレゼントですが、買ったら思わぬ光景に遭遇しました
しおりを挟む「つか……れた」
自宅に戻った私はベッドに倒れ込んだ。結局、最終バスには乗れずタクシーで帰宅。
日付が変わる前に帰ってこれたが、疲労はピーク。
「お風呂……お風呂だけは……」
今、体調を崩すわけにはいかない。そのためには根性で風呂と食と睡眠は死守する。
私は風呂を入れて、湯に浸かった。あまり広くないので手足は伸ばせないけど、しっかり温まる。寒さで固まった体がほぐれていく。
「ふぅ~」
吐いた息とともに記憶が甦る。
『冬の間ぐらいは住んでもいいですよ』
こうなったら冬の間だけ黒鷺の家に……毎日じゃなくても、これぐらい遅くなる日は近いほうが……
「そうじゃなくって!」
こんな遅い時間にお邪魔するって迷惑だし、そもそも他人だ。距離感が近くなりすぎて麻痺してる。
でも、ご飯は美味しいし、気を使うことがない。話していると、いつの間にか笑っていて、安心するというか、自然な姿で……
あれ?
「マズイ……なんかマズイ気がする……」
私はブクブクと湯船に沈んだ。
※※
翌日。
私は疲労と眠気が残る中、根性で起きた。時間は朝というより、お昼前。
「もう、昼ご飯でいいよね」
私は近くのカフェで優雅にランチセットを食べ、今日の目的を遂行するために歩き出した。
「財布か、キーケース……」
私は目についた皮製品の鞄店に入った……が。
「良いのがなかった……」
クリスマス限定品などもあったが、黒鷺のイメージに合わなかった。カッコいいデザインのキーケースもあったし、似合わないわけではない。
ただ、しっくりこない。
しかも店員には、なぜか弟へのプレゼントって決めつけられた。
私は、大学生に人気のキーケースありませんか? って聞いただけなのに。
どうせ、年下の彼氏がいるようには見えないんでしょうけど……って、彼氏とか、そんなのじゃないし! 大学生なんて、子どもだし! 弟だし!
ひたすら自分に言い聞かせながら歩く。
そこで、ショーウィンドウに飾られたある物が目に入った。
「これ、いいかも」
吸い込まれるように雑貨店へ。
すぐに商品を見つけ、手に取った。両手に収まる丁度いい大きさと形。これなら実用的だし、邪魔にもならないはず。
「これが良いわ」
直感に任せて購入。そのまま、プレゼント用にラッピングしてもらった。
さっきまで悩んでいたのが嘘のように気分が軽い。
「あ、これに合わせて、アレも買おう」
次の目的地が浮かんだ私は、ウキウキと足を運んだ。
こんな気分になるのは、何年ぶりだろう? そもそも、プレゼントを買うことが数年ぶり。
普段の相手の言動から好みを推測して、喜ばれそうなものを選んでいく。すっかり忘れていた感覚。
次の店で無事に目的の物を購入。私はプレゼントを一つの袋にまとめ、腕に抱えて歩いた。
「よし、これで大丈夫ね。あ、久しぶりにクレープを食べちゃおうかな」
なんか学生の頃に戻った気分。そこに、前から歩いてきた二人組の女の子の話し声が耳に入った。
「すっごいカップルだったね」
「美男美女って感じ?」
「そう、そう。背が高くて、モデルみたいだった」
「モデルなんじゃない?」
「そうかも」
キャッキャと明るい声。私にも、あんな時代があったなぁ。って、それより今はクレープ、クレープ。たしか、この道の先に店があったはず。
「あった、あっ……た?」
思わぬ光景に足が止まる。
周囲の雑踏が耳から消えた。痛いほどの静寂。視界が狭くなる。目の前の光景しか目に入らない。
呆然としている私の足に冷たい風が絡みつく。巻き上げられた黒髪の先。
苦笑いをしながらクレープを食べる黒鷺。その隣には、長身の美女。
「……だれ?」
呟きが地面を転がる。
美女は、柔らかそうな長い茶色の髪をポニーテールにまとめ、風に遊ばせていた。
色素が薄い茶色の目は、こぼれんばかりに大きく、長い睫毛が上を向いている。ぷっくりとした魅惑的な唇に、小さな顔。
浅黒い肌に、ダウンジャケット越しでも分かる、大きな胸と引き締まった細い腰。あと、スキニーが似合う長い足。
黒鷺が美女と笑い合いながら、お互いのクレープを交換して食べ比べしている。
その光景はモデル雑誌そのもので、仲が良いカップルそのもの。
男女問わず、羨望の眼差しが集まっている。
「あぁいう子が好みだったのね」
腕に抱えているプレゼントが、急に重くなる。食欲が波のように引いていく。
「……帰ろう」
私はクレープ屋に背を向け、逃げるように足を動かした。
0
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる