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長身の美女ですが、再び会いました
しおりを挟む暗闇で姿が見えなかったから、驚いた。いつから、いたのだろう。
私が質問をする前に、蒼井が黒鷺に声をかけた。
「どうした、坊や? 子どもが外出する時間じゃないぞ」
「失礼なオジサンですね。それとも、目が悪いんですか? 成人している初対面の人に坊やなんて」
初めて顔を合わせたはずなのに、なぜか睨み合い。しかも、火花が飛んでません?
「どうしたの? 二人とも」
首を傾げる私に黒鷺が一言。
「メール」
「…………あ!?」
あのまま内容を読まずに放置していた。しかも忙しくて、あれからスマホを操作していない。
私は慌てて鞄からスマホを出した。スイッチを入れるが、ウンともスンとも言わない。
「あ、あれ?」
「電話をしても、電源が入っていないか、電波が届かないところに……のアナウンスが流れるばっかりで、連絡が取れないから、こうして直接来たんですよ」
「えっ!? 来たって、いつから待ってたの!?」
「……」
黒鷺が無言で背を向ける。これは相当待っていたやつだ。
「ごめん。そんな大事な用だと思わなくて。なんのメールだったの?」
「いや、もういいです」
黒鷺が歩き出す。私は黒鷺を追いかけようとして、蒼井の存在を思い出した。
「私、途中で買い物するから、このまま帰るわ」
蒼井が諦めたように手を振る。
「はい、はい。お疲れ様」
「お疲れ様」
私は軽く手を振ると、急いで黒鷺の後を追った。
黒鷺が駐輪場でバイクのヘルメットを被ろうとしている。このまま黙って帰るつもりだろうけど、そうはさせない!
私は黒鷺に飛び付いた。
「待って!」
「……なんですか?」
「いや、なんですか? は、私の台詞よ。メールの内容を教えて」
「メールを見たらいいじゃないですか」
「だから! スマホの電池が切れてて、見れないの!」
無言でヘルメットを被ろうとする黒鷺の手を掴む。このままだと気になって夜も眠れ…………いや、疲れてるから寝れるわ。
と、とにかく! 用件が気になる!
「ここで言えない内容なの?」
「そういうわけでは……」
「じゃあ、教えてよ」
黒鷺が観念したように、ため息を吐いた。顔を逸らして、ボソボソと話す。
「……父さんが『我が家で一緒にクリスマスを過ごさないか?』と言っているけど、どうしますか? ってメールしたんです」
「……それだけ?」
「それだけです」
表情は見えないが、黒鷺の耳は赤い。
(もしかしてメールの返事がないから、確認するために来たの? しかも、この寒空の下でずっと待って?)
そのために、この寒い中で待たせて、申し訳ない。
それなのに、ちょっと嬉しい。なんだろう、この気持ち。
私の中に居座っていた、もやもやした気持ちが、すべて吹っ飛ぶ。
「もちろん参加させていただくわ。明日はちょうど休みなの。そうだ! 家まで送って。黒鷺君に渡したいものがあるから」
「渡したいもの? なんですか?」
「それは、あとのお楽しみ。ほら、ヘルメット貸して」
私が両手を出すと、黒鷺がやれやれと後部座席にぶら下げていたヘルメットを渡してくれた。
(よし、私の粘り勝ち!)
私はヘルメットを被り、バイクの後ろに跨った。
黒鷺の腰に手をまわす。冬服だから夏と違って布の厚みがある。それでも、なんとなく黒鷺の温もりを感じた。
※※
アパートに着いた私は黒鷺を外に待たせたまま、急いで部屋に戻った。
「えっと……どこに置いたっけ?」
あの日、買い物から帰って放置した紙袋を探す。
「あー、もう。適当に置くんじゃなかっ……あったぁぁぁ!」
積み本の影に隠れていた紙袋を掴み、黒鷺のところへ走った。
「はいっ、これ!」
息を切らしながら黒鷺に紙袋を差し出す。
「え?」
白い息が視界を隠す。黒鷺の顔は見えないけど、それより、息が!
「クリスマス、プレゼント」
「僕に?」
「そう。美味しい、ご飯の、お礼」
やっと息が整ってきた。でも、黒鷺が動く様子はない。
私は黒鷺に紙袋を押し付けた。
「とりあえず、受け取りなさい!」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
黒鷺が押し付けられた紙袋を持つ。よし、よし。
満足している私に黒鷺が訊ねた。
「開けても、いいですか?」
「うん、開けてみて」
紙袋の中から箱を取りだす。丁寧にラッピングを外し、出てきたのは……
「マグカップ?」
「そう。しかも、マグカップの上に珈琲フィルターが置ける、猫ちゃんマスコット付き。それと、珈琲豆。某有名カフェ店のね」
黒鷺の薄い茶色の目が丸くなる。
「漫画を描く時に、よく珈琲を飲んでいますけど言ったことありましたっけ?」
「ふふん。私の観察眼をなめないことね」
以前、黒鷺が風邪をひいた時、机の上にマグカップがあった。しかも、内側が茶渋で茶色くなっていた。
そこから珈琲をよく飲むのだろうと予測して、このマグカップと珈琲をプレゼントすることにした。
どうやら私の読みは当たったらしい。黒鷺の顔が綻んでいる。
満足した私に木枯らしが吹きつける。頭が冷え、現実に戻る。
「あー。夕食、買い忘れた……」
いや、もう夜食の時間だけど。この近辺にコンビニはない。だから、職場の周辺にあるコンビニで買って帰ろうと考えていたのに。
「失敗したぁ」
頭を抱える私にプレゼントを紙袋に収めた黒鷺が提案する。
「ウチに来ます? 簡単なものでしたら、作れますよ」
「でも、この時間にお邪魔するのは悪いし……」
「どうせ明日来るつもりだったのなら、今日来て泊まっても同じじゃないですか?」
「そこは違うでしょ」
さすがに、それはねぇ……と考えていたが、次の一言ですべてが覆った。
「ビールを飲んで、そのまま寝れますよ?」
「行くわ!」
私は速攻で部屋に戻ると、必要なものをまとめて黒鷺の家へ移動した。
※※
バイクであっという間に到着。クリスマスイブだからか洋館がいつもより華やかに見える。
「ぉじゃましまぁーすぅ」
「なんで小声ですか?」
「え? 夜遅いし、迷惑にならないように」
小声でコソコソと廊下を歩く私に黒鷺が肩をすくめる。
「なら、声を出さなければいいじゃないですか」
「それは、それで嫌なの」
「変なこだわりですね。とりあえず、風呂に入ってください。その間に、ご飯の準備をしておきますから」
「あ、夜遅いから、量は少なめでお願いします」
黒鷺が少し考える。
「ビールに合う、おつまみ系ならどうですか?」
「さすが黒鷺様! わかってらっしゃる!」
「はい、はい。お風呂はここです。タオルはこれを使ってください」
「ありがとう」
お風呂の使い方の説明を一通り聞いた私は湯船に浸かった。
「足が伸ばせるお風呂最高!」
私のアパートのお風呂は少し足を曲げないといけない。けど、ここのお風呂は広い。
「なんか、こんなことになっちゃったけど……リク医師もいるし、黒鷺君と二人っきりじゃないから、いいよね」
体の真から温まった私は、髪を拭きながら風呂から出た。
「いい湯だったわ。ありがと……」
リビングのドアを開けて私は固まった。
温まったはずの体が一気に冷える。吐いた息とともに言葉がこぼれた。
「なんで、ここに……」
薄い茶色の大きな瞳がこちらを睨む。
柔らかそうな茶色の髪が、無造作に背中に流れている。浅黒い肌に、分厚い艶やかな唇。豊満な胸に引き締まった腰からの長い足。
クレープ屋の前で黒鷺と一緒にいた長身の美女が目の前に。
「どうして……」
そこまで言って、私は自分の口を手で塞いだ。黒鷺の彼女なら、クリスマスを一緒に家で過ごすのも普通。少し考えれば分かること。
私は胸をえぐられたような苦しさを覚えた。
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