24 / 63
クリスマスですが、思わぬプレゼントをもらいました
しおりを挟む今日は朝から化粧品店と、カフェと、黒鷺とミーアの喧嘩と慌ただしかった。
二人の喧嘩はアレね。オモチャを取り合う姉弟喧嘩。人をオモチャ扱いするのは問題あるけど。
あれから黒鷺は買い物がある、と街の中へ消え、私はミーアに引きずられて強制ランチへ。
そして、夕方。
温もりにあふれた部屋。テーブルにはクリスマス仕様の豪華な料理たち。
目の前にはニコニコと笑顔が絶えないリク。さっき帰宅したけど、すっごく嬉しそう。
「なんとか帰れましたヨ。新幹線に乗り遅れた時は、泣きました」
「間に合わなかったら、父さんの分のケーキも私が食べたのに」
どこか残念そうなミーア。どこまでケーキが好きなの!?
すかさずリクが反論する。
「それはダメ。ワタシもケーキ楽しみです」
「ケーキはご飯を食べないと出さないから」
釘を刺した黒鷺をリクとミーアが揃って睨む。なんか、息ぴったり?
「少しぐらい良いじゃないですカ!?」
「そうよ、少しぐらいいいでしょ!?」
「少しが少しじゃない癖に。いいから、ご飯を先に食べる」
「「はーい」」
二人の声が重なる。親子なんだなぁ、と感心していると、黒鷺が困り顔で話しかけてきた。
「うるさくて、すみません」
「ううん。楽しいよ」
こんなに賑やかなクリスマスは久しぶり。いつもは仕事か、一人…………
記憶を振り払うように首を横に振る。
「どうかしました?」
「なんでもない。日本だとクリスマスイブに、ご馳走を食べるけど、よく考えれば、クリスマスの日に祝うのが正解なんだよね」
私の言葉に、リクが指を横に振った。相変わらず、こういう動作が様になるイケオジだなぁ。
「チッチッチッ。こういうものに正解も不正解もありません。楽しんだ人の勝ちです」
「そうよ。細かいことは気にしない。ゆずりんは何を飲む?」
「ビール!」
「そういうと思いまして」
反射的に手を上げた私の前に、黒鷺がキンキンに冷えたグラスを置いた。
すりガラスで唐草模様が彫られている。持つところが湾曲して、オシャレなデザインのビアグラス。ビールを注ぐと模様が浮き出て見える。
「すごい、きれい」
「あれ? こんなグラス、家にありましたカ?」
「クリスマスプレゼントです」
「え?」
私が顔をあげると、黒鷺が照れたように顔を逸らした。
「マグカップをもらったので、そのお返しです」
「でも、そんな悪い「私には?」
私の言葉に被せて、ミーアが身を乗り出す。黒鷺は淡々と訊ねた。
「姉さんは僕にプレゼントをくれました?」
「私という存在がプレゼント「じゃあ、ご飯を食べましょう」
自信満々なミーアだけど、黒鷺は容赦なく会話を切った。まあ、そうなるよね。
ミーアを除いた三人が合掌する。
「ちょっと!」
「「「いっただっきまーす」」」
「ひどいぃぃぃぃ!」
叫ぶミーアを置いて、私たちは乾杯するためにグラスを持った。ご飯は温かいうちに食べないとね。
※※
冷えたビアグラスに入れたビールは、いつもの三割増しで美味しい。見た目も綺麗で、クリスマス料理にもピッタリ。
目の前には、チキンの丸焼きに温野菜のサラダと、シチュー。どれも美味しそう。
「本当に黒鷺君は料理上手よね。チキンの丸焼きを家で作っちゃうんだから」
「ただの丸焼きじゃないのよ。ほら、天音。切り分けて」
「はい、はい」
黒鷺が鶏肉の腹にナイフを入れる。すると…………
鶏の腹から米と野菜がパラパラと出てきた。
チャーハン!? ピラフ!? どちらにしても、見た目のインパクトと、豪華さの迫力が! どこの国の料理デスカ!?
「すっごぉーい」
「ねぇ。豪華でしょ?」
「こんな料理、お店でしか食べられないと思ってた」
私が顔を上げると、黒鷺が顔を背けた。ちょっと口元が緩んでいるのを、見逃さなかったぞ。
「レシピを知っていれば、作れますよ」
「レシピを知っていても、こんなに美味しそうに作れるかは別よ。私はレシピ通りに作っても、完成品は写真と別物になるもの」
「そこは慣れだと思います」
「そうかしら? あ、ありがとう」
切り分けられた鶏肉と米がのった皿を受け取る。ほかほかの湯気だけで美味しいのが分かる。
フォークに鶏肉と米をのせて一口。塩と胡椒のシンプルな味付け。でも、しっかり染み込んだ鶏肉のうまみと、香草の香りで、いくらでも食べられる。
「はぁ……美味しいわぁ。黒鷺君、お店できちゃうよ」
「はい、はい」
黒鷺が素っ気なく返事をしながら、切り分けた鶏肉をリクやミーアにも配る。
私はうん、うん、と頷きならがら、他の料理も食べた。温野菜は和風ドレッシングであっさりと。シチューは鮭とチーズの濃厚な味。
もう、美味しすぎて幸せ。
「鶏肉は腹に材料を入れて、オーブンで焼くだけですから、ゆずりん先生でも作れると思いますよ」
「だから、柚鈴だって。で、そこを失敗するのが、私なの」
「どんな自信ですか?」
黒鷺が肩をすくめる。
呆れられても、かまわない。だって事実だもん。料理は作るより、食べるほうがいいです。
「ゆずりんは、どんな料理でも美味しそうに食べるわね」
「ん? だって本当に美味しいんだもん」
ご飯で口いっぱいだから上手く話せない。
「でも、ケーキの分はお腹空けといてね。あの板チョコとサンタクロースがのったケーキは、今しか食べられないんだから!」
私は口の中にあったご飯を飲み込んだ。
「でも、クリスマスケーキって、昨日で売り切れてるよね?」
「父さんの知り合いが、毎年特別に作ってくれるんです」
リクがワインを飲みながら上機嫌で説明する。
「イタリア人で、日本のケーキに惚れて移住した友人ですネ。今はパティシエで自分のお店を持ってます。ワタシが日本にいる時は、その年のクリスマスケーキをプレゼントしてくれます」
「ちゃんと届いています。あとで、出しますから」
「それは、楽しみ!」
この時の私は現実を知らなかった。まさか、この二人があんなに食べるなんて……
※※
食事を食べ終えたところで、ミーアが黒鷺に声をかけた。
「ねぇ、もういいでしょ? ケーキだして」
「はい、はい」
食器を片付けた黒鷺が冷蔵庫から箱をだしてきた。って、三箱!?
驚く私の前に黒鷺がホールケーキを並べる。
一つ目は、プレゼントの袋を持ったサンタクロースがのった生クリームとイチゴのケーキ。メリークリスマスと書かれた板チョコもある。
次は、レアチーズケーキ。こちらはプレゼントを持ったサンタクロースと、トナカイがいる。
最後に、丸太の形をしたブッシュドノエル。チョコでできた家と、赤いベリーの真ん中で、サンタクロースがダンスを踊っている。
これを四人で食べるの? 分量、間違えていません?
呆然とする私に黒鷺が軽く笑う。
「ゆずりん先生がいてくれて助かりました。一人でワンホール食べるのは辛いので」
「だがら、柚鈴だって。もしかして、ケーキの消費要員として、私を呼んだ?」
すかさずミーアが否定する。
「そんなことないわ! 天音が食べきれなかった分は私が食べるから!」
「そ、そう。でも、これ、どういう配分になるの?」
「切り分けますが、量的には姉さんと父さんがワンホールずつ食べます。そして、残りを二人で分けます」
つまりワンホールの半分を食べるということか。ケーキは好きだから問題ないかな。それより気になるのは……
「リク医師もワンホール食べるの!?」
「日本のケーキはあっさりしているので、いくらでも食べられますヨ」
ケーキがあっさりという感覚がよく分からない。ケーキってあっさりと、こってりがあるんだっけ? ケーキって。ラーメンだっけ!?
私の疑問をよそに黒鷺がケーキを切り分けて、それぞれの前に置いた。
ミーアの前にはケーキ以外に、ケーキの上にのっていたサンタクロースや板チョコがすべて揃っている。それを、ミーアがキラキラした瞳で見つめる。
「食べるわよ?」
「どうぞ」
黒鷺の許可と同時に、ミーアがサンタクロースを摘まんで口の中へ。まるで巨人が小人を食べているみたい……
私は幸せそうなミーアを横目に、フォークを持った。
まずは、イチゴがのった生クリームのケーキから。
生クリームは軽い甘さで、まったく後をひかない。スポンジはふんわりしていながら、しっとり。あいだに挟まったイチゴの甘酸っぱさに、このクリームとスポンジの組み合わせは、いくらでも食べられる。
次にレアチーズケーキ。
チーズが濃厚だけど、レモンの酸っぱさと、上にのったブルーベリーであっさりと食べられる。生クリームのケーキの甘さの後だからか、ケーキなのにさっぱりとした味わい。
最後はブッシュドノエル。クリームもスポンジも、味はほんのりチョコ味。
チョコ好きには物足りないかもしれないけど、さすがにケーキ三個目になると、これぐらいがいい。
私は一切れずつ食べたけど、満足感たっぷりだった。しばらくケーキは遠慮します。
満腹になっている私の前で、ミーアとリクが軽々とワンホール分のケーキを食べきった。
夕食もあれだけ食べたのに、その体型ってズルくないですか? お二人さん。
こうして私の予想外で、とても楽しいクリスマスは過ぎた。
0
あなたにおすすめの小説
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる