【完結】女医ですが、論文と引きかえに漫画の監修をしたら、年下大学生に胃袋をつかまれていました

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買い物ですが、バスでドキドキしました

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 様々な店が並ぶ大通りを福袋を持った人々が歩く。神社とは、また違った賑やかさ。

 私は隣を歩く黒鷺に声をかけた。


「正月ならではの光景ね」

「福袋と称して、売れ残りをまとめて売りさばく。日本人の商売方法には脱帽します」

「コラ、口が悪いぞ。福袋に売れ残りばっかり入れていたら、お客さんが来なくなるから、普通の商品も入っているのよ。しかも、福袋が高額になればなるほど、良い商品が入ってるの。その方が好印象になるし、また買いに来てくれるからね」

「そういうことですか」


 素直に納得する黒鷺を、私は下から覗き込んだ。黒鷺が少し頬を赤くして顔を背ける。


「どうかしましたか?」

「ううん。いつもの黒鷺君だなって思って」


 初詣で会ってから、なんか様子がおかしかった。朝は普通だったのに。でも、今はいつもの黒鷺に戻ってる。

 黒鷺が軽く咳払いをして、少し前にある店を指さした。


(あれ? なんか、見覚えがあるような?)


「あそこです。あのお店でビアグラスを買いました」

「あ!」

「どうしました?」

「私も、そこでマグカップを買ったわ」

「……僕にプレゼントしてくれた、あのマグカップですか?」

「そのマグカップ。ショーウィンドウに置いてあって、一目惚れしたの」

「僕もショーウィンドウに飾ってあったビアグラスを見て、プレゼントにぴったりだと思って」


 足を止め、お互いに顔を合わせた。

 薄い茶色の瞳がキョトンと大きくなり、私を見つめる。まさか、こんなところで息が合うなんて。


「「………………」」


 奇妙な沈黙の後、どちらともなく吹き出した。


「商売上手なお店ね」

「そうですね。入りましょうか」

「えぇ」


 店内を歩いて、目的の物を探す。


「あ、あった」


 陶器やスチールなど、様々な素材で作られたコップが並ぶ。


「やっぱりガラス製がいいなぁ」


 壊れたのと同じビアグラスはない。そうなると、どのビアグラスにするか悩む。

 私は黒鷺に訊ねた。


「どれが良いと思う? こっちのはシュッとしてカッコいいし、このグラスは取っ手があって持ちやすそう。あ、これは柄が綺麗。うーん、迷うなぁ」

「そうですね」


 黒鷺が屈んで同じ棚を見る。

 真横にイケメンの顔。しかもドアップ。反射的に胸が跳ねて顔に血がのぼる。肩が! 肩が体に触れる。ち、近い! 近い!

 私が一歩下がろうとしたところで、手が伸びてきた。


「これなんて、どうです?」

「え?」


 目の前にはくびれがあるオシャレな形のビアグラス。割れたビアグラスと形が似ているが、違うのは……


「猫ちゃん!」

「可愛いと思いまして」


 黒鷺にプレゼントしたマグカップに付いていた猫。その猫と同じ絵が描かれている。なんか、お揃いみたいな感じだけど…………いいのかな?

 チラリと黒鷺を覗くと、どこか不安そうな顔。


「気に入りませんでした?」


 あ、これ選んだのを気に入ってもらえるか、普通に心配しているだけだわ。そうよね。お揃いとかペアとか、気にする間柄じゃないし。


「ううん。これにするわ」

「じゃあ、買ってきますね」

「え、これぐらい自分で買うから」

「それだとプレゼントになりません。ちょっと待っててください」


 黒鷺が私の手からさり気なくビアグラスを取ってレジに移動する。


(イケメンな上に行動がカッコいい! さすが、リク医師の息子!)


 叫びたい衝動を必死に押さえる。

 レジに並ぶ黒鷺に、店内の女子たちの視線が集まる。

 どこか日本人離れした整った顔立ち。特徴的な薄い茶色の瞳に、まっすぐ通った鼻立ち。形が良い薄い唇に、モデルのような小さい顔。

 しかも、体格が良く、服装もカッコいい。

 ゆったりめのグレーのフードコートに、長い足を強調する黒のストレートパンツ。しかも背が高いから、余計に目立つ。

 これで注目を浴びないほうが無理よね。

 で、そのイケメンが会計を済ませて、こっちにやってくる。自然と視線も私に集まってくる。
 羨望やら嫉妬やら、なんかよく分からん視線が!なんか、ちょっと怖いぞ!


「じゃあ、帰りましょうか」

ビアグラスそれ持つわ」


 私が手を出すと笑顔が返ってきた。


「家に帰ったらプレゼントしますから。それまでは、僕が持ちます」

「そ、そう。ありがとう」


 さまざまな視線で居心地が悪くなっていた私は、さっさと店から出た。黒鷺と一緒に買い物をするのは、控えたほうがいいかも。

 私が苦悶していると、黒鷺が楽しそうに言った。


「ゆずりん先生って、意外と可愛いものが好きですよね」

「だから、柚鈴ゆりだって。それに意外とって、どういうこと?」

「そういうイメージがなかったので。どちらかというと、クールっぽいような?」

「だって可愛いものが好きでも、買う時間がないし。服とかはシンプルなデザインのほうが合わせやすいから、自然とそうなっただけよ」

「そうですか」


 私は隣を歩く黒鷺に視線だけ向けた。足が長いし、普段ならもっと早く歩くのだろう。だけど、今は私の歩調に合わせてゆっくり歩いている。

 こうした気づかいもできるし、モテそうなのに、なんで彼女がいないんだろ? いや、もしかして私が気づいてないだけで、実はいるとか?

 私の視線に気づいた黒鷺が首を傾げる。


「どうかしましたか?」

「あ、えっと、その、黒鷺君の好きなものって何かな? と思って」

「僕が好きなもの?」

「そ、そう。食べ物は何でも食べるし、なにかコレクションしているわけでもないし」


 黒鷺君に彼女がいない理由について考えてました、なんて言えない。少し前の私なら、遠慮なく彼女がいるか、いないか、とか根掘り葉掘り聞いていたのに。


(でも、今はなんか聞きづらい。どうしてだろう……)


 俯いて考える私とは反対に、黒鷺は空を見上げて答えた。


「あー、そうですね。まあ、強いて言うなら料理……ぐらいですかね」


 私は両手をパンと叩いた。


「とっても良いことじゃない」

「良いこと?」

「料理って生きるために必要なことでしょ? それが好きって良いことよ。そのおかげで、私は美味しいご飯が食べられるし。おせちも楽しみ」
 

 これから食べるおせちの期待を膨らませる。しかし、黒鷺からの返事がない。隣を見ると、ポカンとした顔があった。


「どうかした?」

「いえ、そういう考え方もあるのかと思いまして。あ、バスが来ましたよ」


 バス停に到着すると同時にバスが来た。初詣や買い物帰りの人たちで車内は混雑している。行きのバスは、こんなに混んでいなかったのに。

 どうにか乗り込めたが、何も持つものがない場所に立つしかなかった。


「やっぱり混んでるね」

「仕方ないですよ」

「あっ」


 バスが出発した揺れに合わせて体がよろめく。近くにつり革も手すりもない。こうなったら踏ん張って耐えなければ。

 私が足に力を入れようとしたら、黒鷺に肩を抱かれた。


「え?」

「危ないので、僕に掴まってください」

「ふぇ!?」


 説明とともに抱き寄せられる。いや、人が多いから押されたりするけど、これは密着しすぎでは!?

 半分パニックになっている頭で顔を上げる。すると、黒鷺は長身を活かして、天井の近くにある棒を掴んでいた。顔を見る角度がいつもと違うせいか、男の子というより男の人……って感じが?

 黒鷺と目が合う。なぜか恥ずかしくなった私は、慌てて話題を振った。


「せ、背が高いって便利ね」

「日本だと頭をぶつけそうになることがあるので、不便なことのほうが多いです」

「あ、それは大変……キャッ」


 バスがカーブを曲がり、その反動で体を押される。黒鷺の胸に思いっきり顔を埋めてしまった。

 いや、顔だけでなく全身だ。なんか、スッポリはまってる感じ? え、この柔らかいのは、筋肉!?
 私が寄りかかったぐらいではビクともしない。


「あの、ご、ごめん」

「大丈夫です。こけたらいけないので、このまま掴まっていてください」

「う、うん。ありがとう」


 私は恥ずかしくて、俯いたまま黒鷺の腕を握った。


(なんか、すごい頼りになるっていうか……黒鷺君の顔が見れない! しかも、心臓がドキドキばくばく!? もしかして、また不整脈!?)


 今度、ホルダー心電図の検査をしよう。


 バスに揺られながら、そう心に決めた。

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