完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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2 続くすれ違い

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 涼やかな目元に筋の通った高すぎない鼻。形のよい薄い唇と滑らかな肌という整った顔立ち。くわえて太い首に服の上からでも分かる厚い胸板と適度に鍛えられた体躯。

 まさしく眉目秀麗という表現がピッタリの容姿であり、それ故に数多の腐の本に活用されている大魔導師本人。

 その実態はシルフィア一筋で、シルフィア命で、シルフィアへ激重感情を抱く、救国の聖女の元弟子。シルフィアの前世であった聖女が毒殺された後、紆余曲折の末、先王の妹の養子となり、魔法の能力を開花させ大魔導師となった。

 襟足から長く伸びた黒髪が風に乗ってなびき、シルフィアの頬を撫でる。

「新しい本ですか?」

 元弟子であり、現在は婚約者(シルフィアは偽装だと思っている)であるルーカスの質問に亜麻色の髪が軽く揺れる。

「はい。サラが新しい本を持って来てくれましたので。自室に戻って読もうと思いまして」
「庭ではダメなのですか?」
「集中して読みたいので」
「そうですか。ですが、食事の時間にはちゃんと顔を出してくださいね。師匠は集中すると平気で二~三日ぐらい飲まず食わずで過ごしますから」

 その指摘に小さな肩がピクリと跳ねる。それから、翡翠の瞳がわかりやすくそっぽを向いた。

「う、生まれ変わってからは、そのようなことはしておりませんから」
「本当ですか?」

 深紅の瞳が優しくも疑わしげに覗き込む。

「だ、大丈夫です。それより、新しい本を読まなくては」

 そそくさと歩き出したシルフィア。その後ろをルーカスがゆったりとした足取りで追いかける。

「そういえば、師匠はどのような本を嗜まれているのですか? 昔は魔法関係の本ばかりでしたが、今は違うようですし」

 その質問にシルフィアの足の動きが鈍くなった。
 それから軽やかにクルリと振り返り、にっこりと上品な淑女の笑みを見せた。

「貴族の方々の関係や、騎士団でのお話など、さまざまな人間関係のことについて書かれた物語の本です」

 貴族の方々の関係→身分違いの恋愛について。
 騎士団でのお話→騎士たちの恋愛について。
 すべては腐に絡んだ恋愛の本なのだが、そこはあえて伏せる。

 読む人が読めば、誰をモデルにして書かれた本か一目瞭然。中には王族をモデルに書いた本もあるため、このことがバレたら処罰どころか、すべての本が焼かれてしまう。

 そうならないためにも、腐の本に関しては隠し通す必要がある。

 これ以上の追及を許さないという美しくも迫力がこもった笑みにルーカスが黒い眉尻をさげた。

「私も一冊、読んでみたいと思ったのですが……」

 その申し出にシルフィアの脳内で素早く会議が始まる。
 円卓を囲んだ数人の二頭身シルフィアがそれぞれ意見を出し合う。

『ルーカスが興味を持つなんて、想定外ですわ!』

 口火を切ったチビシルフィアに他のチビシルフィアも賛同する。

『その通りですわ。ですが、どうしましょう』
『ここで本を貸さないのは不自然だと思います』
『問題はどの本を貸すか、です』

 全身が胸の前で腕を組んでうーんと唸る。
 すると、一人が名案をばかりに円卓を両手で叩きながら椅子から立ち上がって提案をした。

『思い切って騎士団長×大魔導師の本を貸すのは、どうでしょう? そこから、騎士団長を意識していくルカの様子を間近で見ていくことができますわ!』
『それは、それで美味しいですが、一歩間違えば処罰どころか、すべての腐関係の本を焼かれる可能性があります』
『そうですわ。処罰も私だけならいいですが、他の同士たちにも処罰が及びかねません』

 それらの意見に、始めに提案をしたチビシルフィアがしょぼんと椅子に腰をおろした。
 次に他のチビシルフィアが提案をする。

『ここは無難にいきましょう。騎士道精神について書かれた物語がありましたでしょう?』

 その言葉に他のチビシルフィアたちが一気に盛り上がる。

『あれは、素晴らしい一冊ですわ!』
『自己を犠牲にしても仲間を守り戦い抜く! 表面には書かれていない、裏にある腐を読み解く最高の一冊ですね!』
『その本でしたら普通に市井に出回っておりますし、問題ありませんわ』

 脳内のチビシルフィアたちの意見が一致した。

『腐を愛する者なら、その本の真意を理解できます。もし、ルカがその真意を読み取った時は……』

 全員が一斉に立ち上がり声を揃える。

『『『『その時は、騎士団長×大魔導師の本を貸しましょう!』』』』

 という会議が瞬きの間におこなわれ、終了していた。

 シルフィアがにっこりと微笑んだまま答える。

「では、あとでお貸しする本を執務室へ持っていきますね」

 その言葉に不愛想、鉄仮面、無神経が代名詞となっているルーカスが嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
 まるで飼い犬が散歩に誘われたように、ブンブンと尻尾が千切れんばかりに左右に振る幻影が見えるほどで、普段の大魔導師としての姿を知っている者が見たら卒倒するような落差。

 だが、この姿を見なれているシルフィアは微笑ましそうに見守るのみ。

「ありがとうございます。楽しみにしています」

 ルーカスとしてはシルフィアがどんな本を読んでいるのか、どんなも本が好きなのか、愛する人のことをもっと知りたいという気持ちからの行動だったのだが、二人の間にはまだすれ違いが続いていた。

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