完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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7 朝食時の師匠と弟子の攻防戦・後編

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「私の代わりにこのカフスをつけて行ってもらえませんか?」

 箱の中にはチェーン式のカフスが入っていた。
 シルバーに丸い翡翠が輝く。実は装着者の魔力をこっそりと吸収する魔道具なのだが、そこはシルフィアのお手製。どこからどう見ても普通のカフスにしか見えない作りになっている。

 通常なら突然のプレゼントに怪しむところだが、ルーカスはそれよりもシルフィアからのプレゼントという衝撃の展開にテンションが天元突破をしていた。

(し、師匠からの贈り物!? 永久魔法をかけて厳重に保管をしなければ! まずは、世界一頑丈な金庫を作るためにオルハリコンとアダマンタイトとミスリルの採掘に行かねば! あと融和材としてキングスライムと……)

 光の速さで金庫の設計図と組み込む魔法ができあがっていく。

 だが、ルーカスがそんなことを考えているなんて知る由もないシルフィアは軽く首を傾げたまま脳内会議が始まった。

 円卓を囲んだままチビシルフィアたちがワタワタと焦る。

『どうしましょう!? ルーカスが受け取りませんわ!』
『まさか、魔道具とバレました?』
『それはないと思いますわ』
『デザインが気に入らなかったのでしょうか?』

 その言葉に一人のチビシルフィアが叫んだ。

『……デザイン……そうですわ! 騎士団長の髪の色の赤か、瞳の色の黄色の宝石を使うべきでした!』

 他のシルフィアたち全員がしまった、という顔になる。

『私としたことが失念しておりました!』
『好いた相手の髪や瞳の色を身に着けるのは腐の世界では常識ですのに!』

 もちろん、そのような常識はない。
 だが、腐に対する妄想は進んで行く。

『自分の色以外を身に着けた大魔導師。その姿を見た騎士団長は……』

 その内容にチビシルフィアたちが揃って恍惚の表情を浮かべた。

『大魔導師の手首を掴み、誰の色だと詰め寄る騎士団長……』
『もしくは、人通りの少ない王城の端で壁ドンをして詰め寄るのも素敵ですわ』
『いえ、無言でカフスを引きちぎり、そのまま立ち去るのも捨てがたいですわ! その背中を慌てて追いかける大魔導師! そこから始まる、誤解とすれ違い!』
『そこから深まる愛憎劇! 素晴らしいですわ!』

 さまざまな妄想に翡翠の瞳がうっとりとなる。
 それからチビシルフィアたちがお互いに顔を見合わせて一斉に頷いた。

『では、カフスの宝石の色はこのままで!』

 脳内で意見が全会一致したところでシルフィアがルーカスへ訊ねた。

「デザインが気に入りませんでした? 形なら今すぐに魔法で作り変えられますけど」

 その問いに世界最強の金庫の構想を練っていた深紅の瞳が現実に戻る。

「い、いえ! このままで問題ありません!」
「では、これを付けて王城へ行ってください」
「え?」

 笑顔でカフスが入った箱を渡そうとするシルフィアに対してルーカスが固まる。
 その様子にシルフィアの心の中でうんうんと頷く。

(やはり、騎士団長の髪と目以外の色を身に付けたくないのですね! その気持ちはよく分かります! ですが、ここで身に着けてもらわないと計画が……)

 悩みながらカフスを見つめた後、シルフィアは素直にルーカスに訊ねた。

「カフスのデザインなどで気に入らないところがありますか? 魔法で直せるところなら直しますが」

 沈んだ声に黒い髪が慌てて横に揺れる。

「いえ、気に入らないところなんてありません! このままが良いです!」
「では、どうして付けないのですか?」

 その問いに深紅の瞳が気まずそうに逸れた。

「そ、それは、その……せっかく師匠からいただいたので、落として失くしたりしたら……い、いえ! 失くすつもりは毛頭もありません! ですが、万が一ということもありますし厳重に金庫にしまっておきたいのです」

 必死に言い訳をする姿にシルフィアが微笑む。

(やはり騎士団長以外の色を身に着けることに抵抗がありますのね。その尊い気持ちは素晴らしいのですが、目的がありますので、ここは情けをかけられません!)

 己の目的のためにシルフィアは頷きながら説明をした。

「それは大丈夫ですわ。どこで落としても自動追尾の魔法をかけておりますから、勝手にルーカスの手に戻りますから」

 それは憎む相手を呪う魔法で、捨てても捨てても呪った相手のところへ術具が戻り、不運や不幸を招く。普通なら呪いのアイテムとして、相手を絶望へ突き落す代物。
 だが、シルフィアは不幸や不運の部分を切り取って改良した。

 ちなみにこんな改良は通常の魔導師が数十年、頭を悩ませて完成かせるレベルのモノなので、普通の魔導師が聞いたら発狂モノの発明でもある。
 だが、この天才師匠と天才弟子はそんなことに気づくわけもなく軽く流した。

「ですが、壊れたりしたら……」
「世界一固くて鋭いと言われているドラゴンの牙でも傷一つ付けられない仕様になっておりますし、同レベルで装着者の身も護るようになっておりますわ」

 ある意味、最強の防具になっているのだが製作者のシルフィアはそんなつもりはなく、安定してルーカスの魔力を吸収できる方法を追及した結果だった。

 しかし、ルーカスは案の定、自分の都合が良い方向へ勘違いをした。

(師匠がオレの身を案じて最強の防具を……しかも、これなら防具には見えないし、ただのカフスにしか見えない。そこまで考えて……)

 ジーンと感動しながらカフスを見つめる。
 そして、決意したように手を出した。

「わかりました。ありがたくいただきます」
「では、私が付けますね」

 シルフィアがルーカスの袖にカフスをパチンとつける。同時に魔道具として発動させる。

「ちょっと外し方が特殊ですので、外す時も私がしますので帰ったら声をかけてくださいね(下手に触られて魔道具と見破られたら困りますから)」
「わかりました(師匠にカフスを付け外ししてもらえるとは……まるで本当の夫婦のようではないか!)」

 お互いに本心を見せずに笑い合う。
 そこに開いたドアの前に立っていたマギーの特大のため息が落ちた。

「終わりましたでしょうか? そろそろ、朝食を食べ終えていただきたいのですが?」

 その言葉に二人は顔を見合わせた後、わたわたと食堂へ戻っていった。


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