完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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8 王弟からの依頼~エヴァウストとルーカスの対談~

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 王城ではエヴァウストが自身の執務室で書類仕事をしながら、頭の中では別のことを考えていた。

(なぜ先代の神官長は聖女の墓が乾いたことを報告しなかったのか。それとも、先代の神官長が亡くなり、現代の神官長に交代する間に墓が乾いたのか? それとも、現代の神官長が嘘を言っているのか……)

 どれだけ考えても出ない問題が頭の中をグルグルと回り続ける。

「はぁ……」

 ため息を吐きつつ書類にサインをする手は止めない。

(聖女の墓がいつから乾いていたのか。それが重要だ)

 まことしやかに囁かれている噂。

 聖女の墓が乾くのは、聖女が生まれ変わり、そこに聖女の魂がなくなったから。精霊が哀しむ必要はなくなり、生まれ変わった聖女のところへ行ったため、とも言われている。

(このことが事実であるなら……)

 書類を読むエヴァウストの青い瞳が鋭く光る。

「生まれ変わった聖女を探し出さなければ」

 そのためには墓が乾いた時期を特定する必要がある。

「まさか、毒殺犯を追っている間にこのようなことが起きていたとは」

 ずっと走らせていたペンを置き、額に手を当てて俯く。

 他に聖女の墓参りへ行った王族がいないか調べたが、誰も参った者はいなかった。そのため、他の方法で調べるしかないのだが……

「そのためには、彼の協力が必要だ」

 そこにノックの音がした。

「大魔導師、ルーカス・ウィル様が登城いたしました」

 扉の外にいる従者の報告にエヴァウストは顔をあげた。

「入れ」

 音もなく開いた扉から魔導師の証である黒い服に身を包んだルーカスが入室する。

 艶やかな漆黒の髪に、社交界では淑女たちから注目を集める眉目秀麗な顔立ち。魔法の研究で有名な魔導師団に所属しているが、体は適度に鍛えられており、騎士としても戦えそうな体躯。
 ただ、王族が相手であろうとも笑顔の一つもなく、むしろ不機嫌な気配を隠さず不遜な態度のまま。
 誰に対してそのようなため、血も涙もない冷血漢と呼ばれ、深紅の瞳は血の赤と揶揄されるほど。

 それは王弟の前でも変わらず。無表情のまま頭を下げることもなく突っ立っている。

 だが、これぐらいは予想範囲内だったエヴァウストは普通にルーカスを迎えた。

「よく来てくれた。そこに座ってくれ」

 人当たりの良い笑みを浮かべて声をかけるが深紅の瞳は入り口に立ったまま睨むようにエヴァウストを見ている。
 その様相に白金髪が困ったように揺れた。

「その目を見ていると、初めて会った頃を思い出すよ。あの頃から、かなり大きくなったが」

 場を和ますように昔話を始めたエヴァウスト。
 シルフィアが聞いていたら『青年の第二王子と少年のルカの出会い!? 年齢差と身分差の恋の始まりの瞬間!? そこの辺りをぜひとも詳しく!』と、涎を垂らしそうな顔で食いついたであろう内容でもルーカスの心には爪の先ほども響かず。眉間にシワが寄り、不機嫌な顔のまま低い声が落ちた。

「用がないなら帰る」

 不敬極まりない言葉使いと態度だが先王が認めているため罪に問うことはできないし、今さらのことでもある。
 それよりも、重要な話があるエヴァウストは、そのまま踵を返しそうなルーカスへ慌てて本題を言った。

「昨日、聖女の墓を参ったら墓石が乾いていたのだ」

 その言葉に黒い髪がピクリと反応する。

「聖女が葬られた時、聖女の墓石は精霊の嘆きで湿っていた。通常であれば数百年は続く現象だ。それが、たった二十年で終わった。聖女を師と仰いでいた貴殿なら興味のある話だろう?」

 少しの沈黙のあと、ルーカスが探るように訊ねた。

「墓が乾いた原因はわかっているのか?」

 黒い髪の下から鋭く光る深紅の瞳にエヴァウストは気圧されながらも答えた。

「正確には分かっていない。だが、考えられることがある」
「なんだ?」
「聖女が生まれ変わっているかもしれない」

 その言葉にルーカスの表情は動かない。

「それを証明するものは?」

 淡々とした問いにエヴァウストがゆっくりと頭を横に振った。

「ない」
「話にならないな」

 スッと踵を返したルーカスに青い瞳が光る。

「神殿が生まれ変わった聖女を探している可能性がある」

 その話に黒い髪が振り返った。

「どういうことだ?」
「聖女の墓を管理している神官長が聖女の墓が乾いていることに気づかない、ということはありえない。そのような変化があれば必ず報告がある。だが、実際には私が気づくまで報告はなかった」
「……つまり、神官長が聖女の墓が乾いたことを隠蔽していた、と?」
「そうだ」
「その目的は?」

 エヴァウストが目を伏せて軽く首を横に振った。

「わからない」

 その答えに初めてルーカスの声に苛立ちが混じる。

「なぜ、わからない? 神官長を尋問すればいいだけだろ」
「その神官長が亡くなったからだ」
「どういうことだ?」

 その反応にエヴァウストが思わず苦笑する。

「最近、神官長が亡くなり、代替わりしたのだ」
「ならば、新しい神官長を尋問すればいいだろ」
「新しい神官長は自分が就任した時には墓は乾いていたの一点張りで、いつから乾いていたのかは知らないという。相手は神官長という立場ゆえ、罪状などがない現段階ではこれ以上、問い詰めることができない」

 その話にルーカスが頷いた。

「わかった。で、そこから何故、神殿が生まれ変わった聖女を探しているとなる?」
「聖女が神殿の象徴であった時、多額の寄付金が集まった。あれだけの奇跡を起こした聖女だ。その生まれ変わりが現れ、その者を神殿が保護すれば、再び神殿に多額の寄付金が集まるだろう」
「つまり、金目的ということか」

 単純だが、説得力がある。

「それだけではない。これまで貴族限定で行っていた魔力判定の儀をある時期から範囲を広げていることが分かった」
「範囲を広げて?」
「そうだ。平民でも魔力がありそうな者には内密で魔力測定を行っている。判定の儀には希少な水晶と浄化の魔力が必要になるため、容易にはできない。だが、それでも判定の義を広範囲で行っているということは、聖女を探している可能性が高い」

 その説明に深紅の瞳がエヴァウストを静かに見つめる。

「それで、オレにどうしろと?」
「聖女を探す協力をしてほしい。貴殿なら聖女の魔力を読み取れるだろう?」

 聖女を師と仰ぎ、誰よりも近くでその魔力を感じてきたルーカス。
 だからこそ、シルフィアと出会った時、一目で聖女の生まれ変わりと見抜いたのだが。

「……他にこのことを知っているのは誰だ?」
「最初に魔導師団へ聖女探しと神殿の調査を依頼したが、聖女探しは却下された。神殿については魔導師団のカゲが探っている」

 ルーカスの眉がピクリと動く。

「魔導師団が聖女探しを却下した理由は?」
「神殿が勝手な行動をしているなら、その証拠を探すほうが先だという魔導師団長の判断だそうだ」

 魔導師団長の団長については最高機密であり、現王と王弟も魔導師団長が誰なのか知らない。そのため、存在自体を怪しむ声がある。

(これが、魔導師団に依頼した内容か。団長は中立、もしくは様子見という判断をしたな)

 ルーカスは魔導師団長の正体が先王であることを知っている。
 そして、先王はシルフィアが聖女の生まれ変わりであることに気づいている。その情報を実の子である王弟に提供せず、協力もしなかった、ということは何か考えがあるのだろうが、その考えがどういうものかは分からない。

(策士で有名な団長だが、その裏に何があるのか……まあいい)

 ここまで考察したルーカスは表情を変えずに訊ねた。

「で、魔導師団長が却下した依頼をオレにするのか?」

 その指摘にエヴァウストが苦笑する。

「これは私の個人的な頼みだ。貴殿も尊敬していた師の生まれ変わりが神殿に囚われるのは本意ではないだろう?」

 聖女の婚約者だったからか、それとも王弟という身分からか、エヴァウストはルーカスが聖女に師弟以上の感情を抱いていたことに微塵も気づいていない。そして、自分が優位な立場であるということも疑っていない。

(あれだけ師匠を戦場で戦わせ、土地を潤させ、都合よく使い倒した上に、婚約者にしたあげく最期は毒殺という失態を許したにも関わらず、まだ師匠を求めるのか。しかも、その協力をオレに求めるとは……)

 ルーカスは口の端を微かにあげた。

「……わかった。新たな情報が入ったら教えろ」

 この回答を賛同と受け取ったエヴァウストが大きく頷く。

「もちろんだ。協力に感謝する」

 王弟の執務室を後にしたルーカスはまっすぐ魔導師団の建物へ移動した。



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