完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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9 魔導師団副団長の登場

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 広い王城の中でも外れにある円型の高い塔。そこでは、国内中から厳選された魔導師が集まり魔法について研究をしている。中には裏から情報を集める諜報活動を行っている者もいるが、それに使用する魔道具はここで作られている。

 そんな機密の集合体であるため塔へ入るのは容易なことではなく、手前にある通路で魔力照合や生体照合など、すべてをパスしなければならない。

 そんな面倒な作業を終えて塔に入ったルーカスを迎えたのは短めの鳶色の髪に糸のように細い目をした魔導師副団長であった。

「やあ、やっと来たね」
「聞きたいことがある」

 開口一番の言葉に副団長が苦笑を漏らす。

「はい、はい。じゃあ、こっちへおいで」

 ルーカスの横柄な態度も慣れた様子であしらう。その手慣れた感じは年の離れた兄のような雰囲気にも見える。

 案内された先は副団長の執務室だった。
 壁一面の本棚に古今東西の魔法書がズラリと詰まっている。だが、よく見ればそれ以外にも人体の解剖図から植物辞典、生物辞典など、魔法関係以外の本も多くある。

 その本棚を眺めながらルーカスは考えた。

(これだけ本があるが師匠が持っている本と同じものはないな。やはり師匠が持っている本は騎士関係のものなのか?)

 シルフィアは本棚に結界の魔法をかけており、自分以外(正確には自分と同士以外)は本に触れられないようにしている。
 そのため、ルーカスは本棚に並ぶ本の背表紙を見ることはできるが、触れることができない。
 シルフィアが持っている本の背表紙には本の題名が書かれていないものも多く、代わりに記号のような模様が描かれている。それは、どの攻めとどの受けの本なのかが決められた記号によって一目で分かるように書かれた腐の本なのだが、ルーカスが知る由もなく。

「ほら、そこに座って」

 ソファーをすすめられたルーカスがおとなしく腰を落とす。

「さて、何を聞きたいのかな」
「神殿と王弟の動きについてと、聖女の情報について」

 率直な言葉に糸目が穏やかに弧を描く。

「その情報と引き換えに何をくれるかな?」

 軽く首を傾げてルーカスを見つめる副団長。
 その姿に大きくため息を吐いた。

「……わかった。魔法研究の協力と魔力の提供を約束する」

 あっさりと出てきた言葉に副団長が意外そうな顔になる。

「もっとゴネるかと思ったのに。どうしたんだい?」
「時間が惜しい。早く屋敷に戻りたい」
「そんなに婚約者が大事なのかい? まあ、神殿と王弟が動いているとなると、そうなるか」

 うんうんと頷く鳶色の髪にルーカスが詰め寄る。

「無駄話はいい。どういう状況だ?」
「焦らなくても、ちゃんと教えるよ。そうだね、まず神殿についてはノーマークすぎて、急いで情報を集めている途中だ」
「なぜ、そんなに放っていた?」

 副団長が肩をすくめる。

「聖女が毒殺されてからは、あれだけ強大な魔力を持つ人は現れていないし、神殿は癒しの場ではあるけれど国政に影響を与えるほどの力はないからね。変わった動きがないか軽く把握するだけで良かったんだ」
「それなのに、聖女が生まれ変わったことを示す兆候を隠蔽していた、と?」
「そう、そこが不思議でね。先代の神官長の性格を考えるとすぐに王へ報告しそうなのに、なぜ報告をしなかったのかが分からない」
「何か企んでいた可能性は?」

 鳶色の髪が横に揺れる。

「いや、先代の神官長はひたすら神の教えに添う愚直な性格でもあったからね。隠蔽は神の教えに背く行為だからしないはずなんだ」
「ならば、他の者が関わっている可能性があるのか?」
「そういうことだ。今のところ怪しいのは新しい神官長だけどね。先代の神官長からの信頼を利用して、裏でかなり自由に動いていた」
「その神官長の情報は?」
「今、集めているところだから、情報が揃ったら教えるよ。で、王弟については、聖女の生まれ変わりが君の婚約者だとは気づいていない」

 その言葉にルーカスが分からないとばかりに軽く頭を横に振りながら息を吐く。

「そうだとは思った。だが、あれだけ間近で師匠の魔法を見ていて、なぜ気づかないんだ?」

 聖女を毒殺した真犯人を捕まえる時、シルフィアは高度な魔法を連続で使った。魔法の知識がある者ならシルフィアの存在に疑いを持つし、聖女を知る者なら繋がりを考えてもおかしくない。

 そんなルーカスの疑問に、副団長がフッと軽く笑った。

「君こそ気づいていないのかい?」
「なにをだ?」
「元聖女は薄い認識阻害の魔法をかけているんだよ」
「薄い認識阻害の魔法?」

 聞き慣れない言葉に深紅の瞳が糸目を睨む。

「そうだ。たぶん、君に一発で生まれ変わりだと見抜かれたからだろうね。魔力が少ない者や魔法の耐性がない者は己と聖女が結びつかないように認識を阻害する魔法をかけている。ただ、一度見抜いた者には効果がないようだけど。そんな魔法をずっとかけ続けていられるなんて、さすが元聖女だね。普通の魔導師ならとっくに魔力切れを起こしているか、繊細な魔力操作ができなくて魔法が暴発しているところだよ」
「師匠だからな」

 ルーカスがフッと得意げに胸の前で腕を組む。

「だから、簡単には見抜かれないだろうけど油断はできないよ」
「わかっている。王弟がどこまでの情報を得ているか把握していく」

 副団長が肩をすくめる。

「珍しく王弟に協力すると思ったら、王弟が握っている情報を知ることが目的だったんだね」
「当然だ。どの程度の情報を持っているのか、把握することは必須だ。場合によっては偽の情報を渡してかく乱させる」
「でも、その方法だといつかはバレるよ?」
「それまでに神官長の目的が知れればいい。あとは、神殿と王弟で潰し合いをさせる」
「で、君はそれまでに両者が元聖女に手出しをできない状況にする、と?」

 深紅の瞳が満足そうに細くなる。

「よくわかってるじゃないか」
「何年の付き合いだと思っているんだい?」

 その問いには答えずにルーカスが立ち上がった。

「じゃあ、あとは任せる」
「魔法研究の協力と魔力の提供は?」

 襟足から伸びた黒い髪を背中で揺らしながら答える。

「魔法研究については意見がほしいやつの資料を送れ。魔力の提供は、今回のことが落ち着いたらやる」
「まったく。団長のお気に入りじゃなかったら、苦情の嵐だよ」
「それだけのことをしてきた。文句は言うな」

 聖女が毒殺された後、魔導師団長の右腕として様々な任務をこなし功績を残し、国の立て直しに貢献してきた。それは魔導師団にいる者、全員が知っている。だからこそ、多少の我が儘は大目に見られているのもある。

 と、このまま立ち去る様相だったルーカスが思い出したように振り返った。

「もう一つ、聞きたいことがあった」

 このことは副団長も予想外だったようで不思議そうに顔をあげた。

「何かな?」
「騎士団長になるには、どうすればいい?」
「普通は騎士団に入団して功績をあげていくしかないだろうけど……誰か騎士団長になりたいって言っている人がいるのかい?」
「オレだ。やはり騎士団長になるには、騎士団に入るしかないか。ならば、このまま騎士団に寄って、あいつと話をしてくるか」

 ぶつぶつと今後の予定を考えるルーカスとは反対に、まったくの想定外の質問に糸目が少しだけ見開き……

「はぁぁぁあ?」

 素っ頓狂な声が魔導師団の塔に落ちた。

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