完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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14 騎士団長の座をかけた決闘へ~前編~

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 訓練場の前にある中庭。
 ルーカスが放つ物騒な気配に木々に止まっていた鳥たちが声をあげて一斉に飛び立った。

 漆黒の髪の下にある深紅の瞳がゆらりと覗く。いまにも殺人光線を放ちそうなほどの激重殺気と嫉妬を含んだ視線がジロリと三人を射抜く。
 アンドレイが女性たちを庇うように前に出て、前触れなく現れたルーカスへ声をかけた。

「おまえ、どうしてここに? って言うか、その前にその殺気を引っ込めろ。何があった?」
「何があった、はこっちのセリフだ。師匠が騎士団へ行ったと聞いて、急いで駆けつけてみれば……誰が、脱ぐのですか?」

 抑揚のない冷めた言葉にアンドレイの喉からゴクリと息を呑む音が響く。

 煉獄の炎のように燃える深紅の瞳。今にも超高位魔法を放ちそうな只ならぬ気配と魔力の増幅に敵襲かと他の騎士たちも集まる。

 一触即発のような危うい空気の中、シルフィアが不思議そうに首を傾げながら平然とルーカスへ声をかけた。

「どうして、ルカが騎士団に? 王城での用事は終わりましたの?」

 その問いに黒い体がフッと消える。

「どこだ!?」
「魔法で転移したか!?」

 集まった騎士たちがざわつく。
 そんな中、シルフィアの隣へ移動したルーカスは逞しい腕を細い腰に絡めて引き寄せた。

「はい。それはすぐに終わらせましたので。で、師匠。誰が脱ぐのですか?」

 蕩けるような甘い笑みを浮かべながらも声はまったく甘くない。むしろ脅しを含んだような地に響く低い声。
 普通なら恐怖で動けなくなるが、シルフィアにはまったく効果なく。いつもの様子のまま不思議そうにルーカスへ訊ねた。

「もしかして、ルカは一肌脱ぐという言葉を知らないのですか?」

 キョトンと丸くなった翡翠の瞳に釣られるように深紅の瞳が丸くなる。

「え? あ、いえ。その言葉は知ってます」
「でしたら、意味も知っていますよね?」
「は、はい。たしか、労力を惜しまず手助けをする、という意味ですよね?」

 唖然とした様子で答えた弟子に亜麻色の髪が楽しそうに揺らしながら黒い髪を撫でた。

「正解、よく覚えていました。ですから、本当に服を脱ぐわけではありませんよ。ルカはせっかちさんですね」

 そう言ってコロコロと鈴を転がすように笑うシルフィア。

 その雰囲気に極寒のごとく凍っていた空気が緩み、春の陽射しが差し込んだように穏やかになった。激しい落差にアンドレイはポカンとしているが、サラは慣れた様子で黙ったまま己の存在を空気にして控える。

 そして、集まっていた騎士たちはこの急速な変化についていけず、中にはその寒暖差で鼻をすすり、くしゃみをする者までいる始末。

「ヘックシュン! なんなんだ、これ?」
「茶番か?」
「おれたちは、何を見せられているんだ?」

 ヒソヒソと囁き合う騎士たち。
 その様子に意識が現実に戻ったアンドレイが慌てて咳払いをした。

「おまえら全員、仕事に戻れ。用があるなら、後で聞く」
「「「「「ハッ!」」」」」

 騎士団長の命令に集まっていた騎士たちが素早く散っていく。

 その様子をシルフィアは目を輝かせながら見つめていた。

(あぁ! 統率がとれた動きの中に見え隠れする、お互いを想い合う動き! 相棒の隣は決して譲らないとばかりに、息を揃えて走る姿! あぁ、やはり騎士団も腐の宝庫ですのね! こうなりましたら、騎士団の城の壁となり騎士の方々の腐を見守るという選択肢も……)

 シルフィアが悩んでいる前でルーカスがアンドレイに詰め寄った。

「勝手に人の婚約者を屋敷から連れ出すとは、どういうことだ? しかも、こんな男だらけの騎士団に連れてくるとは」

 威圧がこもった低い声。いつも不機嫌だが、それに輪をかけて不機嫌となっている。
 その言葉にアンドレイが腰に手をあてて肩を落とした。

「おまえ、婚約者だからって屋敷に閉じ込めていいわけじゃないぞ? たまには気晴らしで外へ連れて行ったりしているか?」
「おまえには関係ない」
「だが、屋敷でおまえの婚約者と話をしたら、おまえが外に連れて行かないと嘆いていたぞ」

 その言葉にルーカスがバッと振り返り、シルフィアに視線を向けた。

「師匠、本当ですか!?」

 その問いに翡翠の瞳が記憶を辿るように斜め上を見上げる。

「……そういえば、外(王城)へ行きたいのですが、ルカが連れて行ってくれなくて、という話をしましたね」
「なっ!?」
「それで、好きなところへ連れて行ってくださるとお話をいただきましたので、騎士団を見学したいとお願いしました」

 シルフィアの回答に、ガクッとルーカスが膝から崩れ落ちた。

「まさか、そんな……」

 両手を地面につき、項垂れたままプルプルと小さく震えながら呟く。
 他の男の視線にシルフィアの姿をさらしたくない、と屋敷から出なくてもいい生活をしていた。だが、それが逆にこんなことになるとは。

(そういえば、師匠は様々な土地へ自分で馬に乗って駆ける活動的な人だった……)

 昔の記憶を思い出してますます沈んでいく黒髪。
 これまで見たことがないほど衝撃を受けているルーカスの姿にアンドレイが思わず手を差しだした。

「お、おい。大丈夫か?」

 だが、その手が触れる前に、黒髪がバッと立ち上がった。
 そのまま深紅の瞳がキッとアンドレイを睨む。

「勝負だ!」

 突然の発言に琥珀の瞳が丸くなる。

「は?」
「オレが勝ったら騎士団長の座はもらう!」

 続いた爆弾発言にアンドレイが焦る。

「ま、待て! 何がどうなって、そうなる!? おまえは魔導師団に所属している、大魔導師だろうが! それが、なんで騎士団長なんだ!?」

 その言葉にルーカスがフッと蔑むように笑う。

「オレに負けるのが怖いのか」
「そんな、見え透いた安い挑発をするな!」

 どこまでも冷静なアンドレイに深紅の瞳が真剣に頷く。

「安心しろ。オレは魔法を使わない。剣だけだ」
「だから、そういう問題じゃない!」
「やはり、オレに負けるのが怖いのか」
「だから! その安い挑発をやめろ! そうじゃなくて、騎士団長は強ければなれるもんじゃない!」

 その言葉にルーカスの勢いが止まる。

「なら、どうすれば騎士団長になれる?」
「まずは騎士団に入団して……」

 そこでルーカスが懐から一枚の紙を出した。

「これが入団書類だ」
「なんで、あるんだ!? いや、それだけじゃない。そこから配属された騎士隊の隊長になって……」

 再びルーカスが書類を出す。

「これが騎士隊長への任命書だ」
「待て! これは俺のサインがいる書類だろ! 勝手にサインしたのは、どこのどいつだ!?」
「で、次に必要なものはなんだ?」

 淡々と話を話していくルーカスに、アンドレイはヤケになって赤い髪をかきむしった。

「あー、もう! とにかく、隊長になって功績をあげて、騎士団長が退任する時に推薦と任命をされないと騎士団長にはなれない!」

 その説明に黒髪が軽く頷く。

「わかった。勝負するぞ」

 セリフが最初に戻ったことにアンドレイが怒鳴る。

「なーんも、わかってねぇよな!!!!!」

 怒り任せの言葉に対して、ルーカスはニヤリと口角をあげた。

「いや、わかった。ここで勝負をして、おまえを退任させればいいってことだろ?」

 その結論に赤髪が燃え上がる。

「力技すぎるだろ! そもそも、俺が退任しても次の騎士団長は副団長の予定だ!」
「なら、そいつを退任させるだけだ」

 平然と言い放ったルーカスにアンドレイの顔がサーと青くなる。

「……まさか、自分に騎士団長の座がまわってくるまで倒し続けるつもりなのか?」

 当然とばかりに黒髪が頷く。

「そうだ」
「こんの、魔力バカが! そんなことをできるわけな……いや、おまえならやりきりそうで逆に怖いわ!」

 ここまで全力で叫んだ後、アンドレイははぁとクソデカため息を落とした。

「……わかった。後任たちが被害にあう前に俺がここで食い止める」

 思わぬ展開に、ここまで見守っていたシルフィアが両手を胸の前で重ね、目を輝かせる。

(これが『わからせ』ですのね! 力でわからせるのですね! いくつか本で読みましたわ! その『わからせ』を目の前で見ることができるなんて! なんていう僥倖! 素晴らしいですわ!)

 そこにずっと黙って控えていたサラが小声で声をかけた。

「お嬢様、よろしいのですか?」
「なにがですの?」
「このままでは、お二人ともお怪我……いえ、大怪我をされるかもしれません」

 心配そうに眉尻をさげる侍女にシルフィアがにっこりと微笑む。

「実力を持つ者同士、そこは大丈夫でしょう。ちゃんと引き際をわきまえておりますわ」
「ですが……」

 なおも心配そうなサラに翡翠の瞳が意味あり気に細くなる。

「それに、これまでは本の中だけでした騎士団長と大魔導師が拳を交える姿を実際に目の当たりにすることができますのよ? このような機会は二度とないかもしれまん。ぜひとも、この目に焼き付けなければ」

 落ち着いた声と表情。だが、その内にある腐への希望と欲望が今にも噴き出しそうになっている。
 その気配を察知したサラは静かにさがった。

「お嬢様がそう言われるのでしたら……」

 こうなったシルフィアを止めることはできない。同士だからこそ理解できる心情。女主人シルフィアの決定に従い、戸惑い含んだ目を伏せる侍女サラ
 一方で、そんな二人のやり取りを知らないアンドレイがルーカスに声をかけた。

「訓練場の中で手合わせをするぞ。ルールは剣術のみ。剣を離した方が負け。それでいいか?」
「あぁ」

 自信満々に黒髪が揺れる。

「はぁ……じゃあ、ついて来い」

 こうして一行はアンドレイの案内で訓練場の中へと入っていった。



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