完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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15 騎士団長の座をかけた決闘へ~後編~

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 頑丈な石壁に囲まれた円形の広場。芝生などの草はなく乾燥した土が敷き詰められている。

「ここで騎士の方々が日々の訓練を……」

 シルフィアがまるで絢爛豪華に飾られた舞踏会場を前にしたように翡翠の瞳を輝かせながら殺風景な訓練場を見つめる。

(ここで殿方たちが訓練を……剣を握り、振るたびに滾る筋肉。全身から飛び散り煌めく汗。一心不乱に訓練を行う騎士の方々。それを睨むように見つめる一人の騎士。その熱い視線は想いを寄せる方のみに注がれ、その心は騎士精神と欲情の狭間で葛藤していて……)

 訓練場には誰もいないのだが、シルフィアの中で妄想が爆発したように広がり、亜麻色の髪もウネウネと動く。

(そして、その視線の先にいる相手も実は密かに想いを寄せており……ですが、二人は騎士であるがゆえに、お互いに気持ちは隠したまま。そんな二人が訓練のために剣の手合わせをする、この時間だけは相手の瞳を独り占めできる瞬間。相手の瞳に己を映し、自分の瞳に相手を映す。まるで舞踏会で踊っているかのように剣を交え、見つめ合う二人。あぁ、なんて尊い関係なのでしょう)

 うっとりと訓練場を見つめる翡翠の瞳。
 そんなシルフィアをサラは別の意味で心配していた。

(魔法を禁じられているとはいえ、ルーカス様は本気で騎士団長様を倒そうとされている……小説でしたら、お互いの気持ちから致命傷まではなさらないでしょうが、現実ではどうなるか……)

 物語は物語、現実は現実、と区別をしているサラはルーカスがシルフィアへむけている感情にしっかりと気づいていた。だからこそ、この手合わせが小説の中のようなハッピーエンドで終わらないと確信している。

(いざというときは私が……)

 サラが胸に手を置いて覚悟を決める。
 そこにアンドレイの疲れきったような声が訓練場に落ちた。

「剣は刃を潰した模擬剣を使用。魔法の使用は禁止。剣から手が離れるか、参ったと言ったら終了。ルールはこれでいいか?」
「あぁ」

 ルーカスが返事をした後、アンドレイが訓練場の奥から持ってきた模擬剣を投げた。
 それを黒い手袋をした手が器用に空中で掴む。そして、そのまま軽くクルッと手首を回して、剣の重さ、重心、柄の握り具合などを一瞬で確認する。

「もう一度、言っておくが、魔法は一切なしだからな。身体強化系の魔法も使うなよ」
「わかっている」

 そう言いながらルーカスが平然と訓練場の真ん中に立つ。

「……ったく、なんでこんなことに」

 ぶつぶつと文句を呟きながらその反対側に立つアンドレイ。
 二人とも剣をかまえることはなく、自然体で立っている。少しアンドレイの方が背が高く、筋肉の厚みがあるぐらいで、体格としてはほぼ同等。
 美丈夫同士が無言のまま睨み合う光景をシルフィアがうっとりと見つめる。

(あぁ、幾度となく読んだ場面を実際にこの目にすることができるなんて……お互いに全力でぶつかりあい、その中で深め合う関係。なんて尊い行為。それを目の前で……)

 体から飛び出しそうになる意識を必死に捕まえて集中する。

(これから、どうなるのでしょう……本では騎士団長が勝つパターンと、大魔導師が勝つパターンと、引き分けというパターンがありましたが……どのパターンでも、その後は二人の仲が深まり、美味しい状況になっておりましたし、この場合はどうなるのか……)

 ドキドキと見守るシルフィアの亜麻色の髪を強風が巻き上げた。
 訓練場の砂がブワリと舞い、中央で睨み合う男たちの視界を奪う。

 その瞬間――――――

 自然体で立っていた二人が同時に動いた。

 一瞬で頭上へあげた剣を振り下ろすアンドレイに対してルーカスが下から剣を振り上げる。ガンッ! という重く鈍い音が訓練場を震わせた。
 打ちつけ合った二つの剣はすぐに離れ、間を置かずに角度を変えてぶつかり合う。

 腰の捻りに合わせて襟足から伸びた黒髪がなびき、勢いを増した剣が赤髪のかかる首を狙う。その動きを読んでいたアンドレイは左足をさげて躱すと、がら空きになったルーカスの脇腹へ剣を突き刺した。
 しかし、切先が当たる前に黒い体は消え、赤髪に影がかかる。琥珀の瞳が上を向くと、そこには体重をのせて剣を振り下ろすルーカスがいた。

「クッ!」

 頭上に掲げた剣で攻撃を受け止めたアンドレイが剣を斜めにして力を逃がす。
 滑り落ちるように剣がさがり、バランスを崩したルーカスがすぐに体勢を立て直すため後ろへ飛んだ。だが、すぐにアンドレイの剣が追いかけ、剣の打ち合いが続く。

 会話もできないほどの重い打撃音の連続。どちらも一歩も引かず、剣撃を受ける度にジリッと足裏が地面を滑る。その力はすさまじく、刃を潰しているとはいえ、まともに当たれば打撲どころか骨折は確実な威力。

 その光景をシルフィアは目を輝かせ、サラはハラハラと胸の前で手を握って見つめている。

 しばらく剣の打ち合いが続いていたが、ルーカスが突然、動きを変えた。倒れるように体を傾け、これまでずっと打ち合い続けていたアンドレイの剣を避けたのだ。

「っ!?」

 驚きつつも空を切ったアンドレイの剣が漆黒の髪を追う。
 しかし、黒アゲハ蝶が舞うようにヒラリヒラリと鈍色の刃を躱していくルーカス。それを燃えるように逆立った赤髪が猛追していく。

 その光景にサラがポツリとこぼした。

「やはり剣の腕となりますと、騎士団長様の方がお強いのですね」
「そうとは限りませんよ?」
「どういうことですか?」

 キラキラと目を輝かせて二人の戦いから目を離さずにシルフィアが答える。

「これまでの打ち合いでルカは騎士団長の動きと癖を把握しました。あとは隙ができるように誘導するだけです」
「え?」

 腐を見守る翡翠の瞳が鋭く光る。

(さすが、ルカです。己の腕と体力を見極め、その中で相手の弱点を引き出し、誘導する。それだけの技術を会得するには並大抵の努力ではなかったはず。そして、その技術を教えた者は……これだけの実力を持つといえば、人民の心理を利用して裏から誘導することに長けた魔導師団長か副団長レベルになるでしょう)

 ここでシルフィアがうっとりとため息をつき、亜麻色の毛先がウキウキと踊るようにうねった。

(青年へと成長する前の少年。細く長い手足としなやかな体躯と、教えたことを一つ残さず吸収していく優秀な頭脳。そこに、己が持つ技を手取り足取り教えていく兄弟子と、それを見守る師。弟子が自分を超えるかもしれないという期待と、脅威に揺れる心情。あぁ、このような師弟の本がないか探さなければ!)

 シルフィアが脳内で新しい腐を咲かせていると、一際激しい音が響いた。

 ガンッ!

 死角からの攻撃を何とか剣で受け止めたアンドレイの体がよろめき、地面に膝をついた。剣は手から離れていないが、体勢が崩れているため次に攻撃をされたら対応できそうにない。
 そこにルーカスがアンドレイの顔面へ真っ直ぐ剣を突き出した。

 刃を潰した模擬剣とはいえ、この勢いと力で当たれば顔は無残に潰れるだろう。

「いけません!」

 小さな足がスカートを翻し、高い声とともに砂を蹴っていた。


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