完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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22 再び神殿へ

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 予想していたとはいえ、素直過ぎるシルフィアの態度になんとか気を取り直しつつサラが説明を続けた。

「そういうことです。大魔導師様にとっても、亡き聖女を奉られることは、そのような感覚だったのかもしれません」
「それなら神殿には行きたくないですね。とてもよくわかりました」

 腐の本⋗⋗⋗⋗⋗ルーカスの図式を感じ取ったサラは、この屋敷の主に同情しながら話を進めていく。

「ですので、神殿には私一人で行きます」
「え?」
「大魔導師様は神殿を良く思っておられないようですから。そんなところへお嬢様が行かれるのはお嫌でしょう」
「ですが、ルカはルカ。私は私、ですよね? 関係ないと思いますが」

 その言葉にサラは再び額を押さえ、眉間のシワを深くして先程より大きなため息を落とした。
 あれだけルーカスからクソデカ激重感情を向けられても爪の先ほども気づいていないシルフィア。いや、たとえ気づいたとしても、いろいろ感情の鈍いシルフィアが理解するにはかなり時間がかかるかもしれない。
 そう悟ったサラは説明を諦めた。

「とにかく、お嬢様は屋敷に居てください。明日、私が代わりに見てきますので」
「そんな……」

 それでは神殿の壁を調べることができない、と言いかけたが、それはサラにも秘密にしていることなので、グッと言葉を呑み込み、他の理由を探す。
 しかし、その間に廊下からサラを呼ぶ声が響いた。

「呼ばれたので失礼いたします。外出される時はルーカス様に相談をされて、一人で勝手に動かないようにしてください」

 メイドの顔に戻ったサラが念を押すように忠告をして部屋から出て行く。
 普通であれば貴族の令嬢が一人で外出するなど考えられない。しかし、シルフィアには常識が通用しない。そのことを理解しているサラだからこその忠告だったのだが……

「一人では動かないように……そうですわ。ルカにも気づかれないように、こっそり出かければいいのですね。部屋にこもって読書をすると言えば……あとは、誰か来ても自動で返事をする仕掛けを作りまして、部屋には簡単に入れないようにしまして」

 無表情のままベッドから立ち上がり、部屋の構造の確認をしていく。その亜麻色の髪はウキウキと揺れ、今にも小躍りしそうなほど。
 壁やドア、窓を調べながら、シルフィアはふとその手を止めた。

「……綿密に探知系の魔法を仕掛けておりますわね。ここまで魔法を繊細に操れるほど成長したことは喜ばしいのですが、もう少し詳しく調べなければ」

 元弟子の成長を知った喜びもあるが、その成長のせいで自分が不利になっていることに複雑な心境となる。

 しかも、外部からの侵入者対策に重点を置いて探知系の魔法を屋敷全体に仕掛けている。大魔導師という立場上、命を狙われる危険を考慮してのことだろうが、それでも気になることが……

「……もしかして、私がどこにいるかすぐに把握できるように探知系の魔法を改造しているのでしょうか? あ、だから、私が庭で読書をしていてもルカは迷わずに来ていたのですね」

 屋敷内どころか、庭のどこにいてもルーカスはあっさりとシルフィアを見つけて現れていた。
 そのことに疑問を感じることもなかったのだが、その仕掛けを知って納得する。

「ルカは寂しがりなところもありましたから、私にすぐに会えるようにしておきたかったのでしょうね」

 実際はシルフィアのすべて把握しておきたいというルーカスの激重感情からの結果なのだが、そこも親目線で気づかない。
 それどころか、昔を思い出して、ほのぼのとしながらシルフィアはルーカスの魔法を解析していった。

「……この敷地の要所要所に魔法陣を描いて外部からの侵入者と私の位置を把握するようにしているのですね。それなら、逆にその構造を利用して……あ、ここに隙間がありますね」

 普通の魔導師なら『完全無欠の魔法陣だ!』と絶賛する魔法陣の綻びをあっさりと見つけ、シルフィアはそこにこっそりと自分の魔力を流して自分の都合が良いように魔法陣の一部を描き変えた。

「これでルカが屋敷に居ない時なら、私がこっそり出かけても分からないようにできましたわ。できれば、ルカが屋敷に居る時に出かけても気づかれないようにしたかったのですが、さすがにそこまでは無理でした」

 弟子の成長に喜びつつ、残念というように眉尻をさげる。

「あとは、ルカが出かけることがあればいいのですが」

 そんなシルフィアの願いはすぐに叶うことになる。

~~

 翌日。
 朝食をとるために食堂へ移動したシルフィアは椅子に座りながら声をだした。

「え? ルカが王城へ?」
「はい、至急の用件ということで朝一で登城されました」

 朝食を前にメイド長のマギーからの報告にシルフィアは亜麻色の髪を少しだけ揺らした。

「至急の用件ができたのでしょうか……」

 いままでにないルーカスの行動に無意識に首を捻る。
 疑問を含んだ声を聞きながらマギーがカップに紅茶を注いだ。

「大魔導師という役職ゆえ、様々なことがありますでしょう。お嬢様はその奥方になられるのですから、それ相応の教養と作法を身につけていただき、ゆくゆくは……」

 くどくどと続く小言を聞き流しながらシルフィアは朝食へ視線を落とした。ふわりと漂う紅茶の香りと、美味しそうに焼けた丸いパン。あとは、柔らかく煮込まれたスープと、カゴに入った果物。

 その中で、シルフィアは焼きたてのパンを手にした。じんわりと手のひらから伝わる温かさに心が少しだけ揺れる。

 実家にいた頃の朝食は冷めた固いパンだけ。
 それでもシルフィアは何とも思わなかった。前世で経験した戦場では食べ物があるだけマシという状況もあり、食の大切さは生まれ変わった後も身に染みている。

(こうして毎朝、食事がいただけるというだけでも感謝すべきなのに……)

 顔をあげると誰もいない椅子。
 この屋敷に来てからは二人で食事をすることが当たり前になっていた。

『師匠、こちらのパンをどうぞ。ちょうどいい焼き加減ですよ』

 そう言って、ルーカスは必ず美味しそうなパンをシルフィアへ渡していた。
 その嬉しそうに細くなった深紅の瞳を前に断ることができず、差し出されるパンを食べることが日課に。

(……食事の時間はこんなに静かだったでしょうか)

 一通りの小言を言い終えたマギーがさがり、静寂が食堂を包む。

『庭のバラが満開になっているので、一緒に見ませんか? そういえば、ブルーベリーの実もだいぶん大きくなっていましたよ』

 食事の時はルーカスがいろいろと話していた。
 その姿にシルフィアは、よく話すネタが尽きないなと感心していたほど。そして、聖女が死んでからルカに寂しい思いをさせてしまったせいだ、と考えて黙って聞いていた。

(……それだけ、二人で食事をすることが当たり前になっていたのですね)

 慣れてきたはずの食堂が少しだけ広く感じ、カチャリと食器が触れ合う音がやけに大きく耳に響く。
 一人での食事も、一人でいることも、慣れているはずだった。前世でも、戦果をあげて救国の聖女と呼ばれるようになっても、どれだけ人が集まってきても、独りだった。
 ルカを拾うまでは。

「……ルカは何をしているのでしょう」

 ふとこぼれた言葉に驚きながらブンブンと盛大に亜麻色の髪を横に振る。

(そもそも、私がここにいるのは騎士団長と大魔導師の隠された恋を助けるため! 世間を欺くための偽装婚約! そのことを忘れてはなりません! それに……!)

 シルフィアは準備されていた朝食を一気に食べ終えた。

(私には腐を見守り、伝えるという使命があります! 本日は神殿の壁を調べて、神官の方々の秘密の愛を同士に伝えなければ!)

 改めて決意をしたシルフィアが椅子から勢いよく立ち上がり、控えていたマギーへ言った。

「今日は集中して読書をしますので、夕食まで部屋に入らないでください」

 シルフィアの申し出にマギーがまたか、という様子で肩を落とす。

「昼食はどうされますか?」
「この果物で十分です」

 そう言ってカゴに入っていたリンゴとブドウを手にする。
 実家にいた頃も寝食を忘れて本に没頭していたことがあったため、食べると言っているだけ良しと判断したマギーが渋々頷く。

「わかりました。夕食はちゃんと食べてくださいよ?」
「はい、わかりましたわ」

 こうしてシルフィアは果物を持って自室に戻っていった。
 それから、しばらくして……

 実家にいた頃に着ていたメイド服を魔法でアレンジして町娘仕様にした服を着たシルフィアが部屋の真ん中で最終確認をしていた。

「準備は上々。これで夕方までは大丈夫ですわ」

 ドアには簡単に入れないように魔法をかけ、誰かが声をかけてきたら自動で返事をする魔道具を机にセットする。

「あとは、私の身代わりに私の魔力を込めた道具を置いて」

 椅子に魔力を込めた魔石を置いて完成。これで、ルーカスが遠隔でシルフィアの居場所を確認しても部屋にいると思うだろう。

「では、いざ神殿へ!」

 屋敷に仕掛けてある魔力探知系の魔法に引っかからないように極力魔力を抑えたシルフィアは亜麻色の髪をなびかせて窓から身を躍らせた。

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