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23 王城にて~ルーカスの暴走・前編~
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王城では朝から大騒ぎとなっていた。
「お、お待ちください! 大魔導師といえど、いきなり王弟と謁見はできません!」
王弟の執務室へ続く廊下を歩くルーカスを王弟の臣下が必死に止める。
だが、それぐらいでルーカスの足が止まるわけはなく。
「ならば、会いたくなる情報を持ってきたと伝えろ」
「ヴッ!」
尋常ではない怒りに満ちた気配を向けられた臣下が泡を吹いて気絶する。
この状況に駆けつけた近衛騎士たちがいつでも抜刀できるように腰を落としてルーカスを囲んだ。
「城内での魔法の使用は禁止である!」
その忠告に黒髪がぶわりと逆立ち、深紅の瞳が鋭く睨む。
「魔法は使っていない」
「クッ!」
視線をむけられただけで騎士たちがたじろぐ。
魔法は使っていないが、体を押さえつけられているかのような重圧と、首元に刃を突き付けられているかのような感覚が迫る。
ジリジリとにらみ合いが続く中、聞き覚えがある怒鳴り声が響いた。
「ルーカス! 王城で何をやってる!?」
赤髪を揺らして騎士団長であるアンドレイが走ってくる。
その姿に近衛騎士たちは緊張感を残したまま、少しだけホッとした。一方のルーカスは不機嫌顔のまま駆けて来たアンドレイを睨む。
「貴様こそ、何をしている?」
言葉とともに威圧が飛ぶが騎士団長はそれを軽く弾き飛ばして答えた。
「俺は早番で王城の警備確認をしていたんだ。まったく、朝から騒動を起こすな」
肩をすくめて何でもないような空気を作ると、アンドレイは近衛騎士たちに指示を出した。
「ほら、おまえらは持ち場に戻れ。あ、この気絶しているヤツは治療室に運んでくれ」
「ハッ!」
近衛騎士たちが素早く動く。
その様子を確認しながら呆れ混りの琥珀の瞳がルーカスの方を向いた。
「で、おまえはどうしたんだ?」
「貴様には関係ない」
背を向けて歩き出したルーカスをアンドレイが早足で追いかける。
「関係なくはないな。朝っぱらからこれだけの騒ぎを起こして、何事もなく王弟と謁見できると思っているのか?」
「向こうが会いたくなる情報を持ってきたから問題ない」
襟足から長く伸びた黒髪をなびかせて、カッカッと大きな足音をたてて廊下を進む。
こうなったルーカスは他人の話は聞かないことを知っているアンドレイはその背中を黙って観察した。知り合った頃から我が道を進むルーカスだったが、ここまで怒りに満ちた姿は初めて見る。
この状況にアンドレイが大事になりそうなら俺が止めるかと腹を括り、本日の午前の仕事を諦めて頭を切り替えたところで、王弟の従者が現れた。
従者が怒りを振りまくルーカスの前で静かに頭をさげる。
「現在、エヴァウスト様は身支度の最中でございます。準備が終わり次第参りますので、執務室の隣にある控室でお待ちいただくようお願いいたします」
その申し出に黒い眉がピクリと動く。
「身支度に時間がかかるなら寝室に行くが?」
淡々としながらも本気混じりの声音。
ここにシルフィアがいたら「ルーカスが王弟の寝室に!? 寝間着を脱ぎかけた王弟がいる寝室に!? すぐそこにベッドがある寝室に!? 寝室に突撃ですか!? この場合は王弟×大魔導師でしょうか!? それとも、大魔導師×王弟ですか!? この年齢差なら、どちらでも美味しいですわ!」と喜びで発狂するような発言だが、幸か不幸かシルフィアは不在。
そもそも王弟の寝室を従者や使用人以外が訪れるなどありえず、不敬に等しい行為なのだが。
「おい、さすがにそれはやり過ぎだぞ」
さすがの事態にアンドレイが止める。
だが、ルーカスは不機嫌な顔のまま従者を睨んだ。
「どうなんだ?」
その威圧がこもった問いに従者が頭をさげたまま平然と答える。
「すぐに参りますので、もう少しお待ちください。あと、差し支えなければご用件をお聞きしたいのですが……」
「そっちが欲しがっている情報を持ってきた、と伝えれば分かる」
「かりこまりました」
従者が音もなく立ち去っていく。
その仕草にルーカスの目が鋭くなった。
(オレの威圧に耐えた上に、そつのない動き。魔導師の中のカゲの一人か。王弟の従者として仕えることで王弟の情報を直接収集するとは……身内であろうとも容赦がないな、魔導師団長は。そういえば、あいつから直接、情報を聞いた方が早そうだが……どこにいるか不明だからな。探す手間を考えたら、王弟を動かしたほうが早いか)
黙ったまま考え込むルーカスに危機感を覚えたアンドレイが声をかける。
「おい、あの従者を亡き者にしようとか考えていないだろうな?」
「何故そんな手間をかけないといけないんだ?」
現実に意識を戻したルーカスが王弟の応接室へと歩き出す。
その後ろをアンドレイが慌てて追いかけた。
「おまえの顔と殺気が物騒すぎるんだよ!」
「別にいつも通りだ」
「それが通常なら、とっくに王城から出禁をくらってるわ!」
背後で喚く声を聞きながらルーカスが王弟の執務室の隣にある控室へ入った。
壁を埋め尽くす絵画にニ~三人掛けのソファーとローテーブルが置かれた部屋。天井近くまである大きな窓からは緑に溢れた庭が一望できる。
ルーカスが近くにあった絢爛豪華なソファーへドガッと腰をおろす。
「まったく、本当に何があった? そこまで苛立つなんて普通じゃないぞ」
アンドレイの言葉に深紅の瞳がジロリと睨む。
「貴様には関係ないと言っているだろ。さっさと仕事に戻れ」
「いいや。殺気を振りまいているおまえを放置する方が危険だ。王弟殿下の護衛をかねて、ここにいる」
チッと舌打ちをしてルーカスが視線を窓の外へむけた。
ギスギスとした雰囲気の控室とは真逆の穏やかな空気が流れる庭。
何かあった時にすぐに動けるようにドアの近くに立ったままのアンドレイにルーカスが顔を背けたまま訊ねる。
「最近、王都にある神殿へ行ったか?」
「……数日前に王都内の見回りの時に立ち寄ったが、何かあったか?」
「神官長には会ったか?」
その問いにアンドレイが何かを察したように肩の力を抜き、口の端をフッとあげた。
「あぁ、あの美人の神官長か。王都でも有名で、男女問わずに信者が増えたって話だな。もしかして、婚約者が神官長に目を奪われたとかで怒っているのか? それぐらいで嫉妬するなんて、狭量すぎるだろ」
茶化すような口調に対して、黙らすように深紅の瞳が睨む。
「そうじゃない。問題は神殿で救国の聖女が奉られていることだ」
「救国の聖女が奉られている? どういうことだ?」
赤髪が不思議そうに揺れる。
平和ボケしているような雰囲気に苛立ったルーカスが立ち上がり、全身で迫った。
「神殿の奥の壁に救国の聖女の旗が飾られていただろ?」
その勢いに一歩下がりつつもアンドレイが首を捻りながら答える。
「いや、そんな旗はなかったぞ」
「祭壇の奥の壁にあっただろ!?」
今にも掴みかかりそうな勢いにアンドレイが敵意はないとばかりに両手をあげた。
「救国の聖女の旗って、真っ赤な布に百合と水晶の紋章で遠くから見ても分かるようにド派手な刺繍がされているヤツだろ? それなら壁に飾ってあれば一目で気づくはずだ」
たしかに激しい戦場でも敵の戦意を削ぐため、一目で救国の聖女の旗で分かるように深紅の布地に金や銀などの派手な色の糸で刺繍が施されており、どの騎士団の旗よりも派手だった。
そんな旗が祭壇の上にあれば、誰であろうとも目に入るだろう。それなのに、騎士団長が気づかなかったというのはおかしい。
ルーカスがアンドレイの正面に立ったまま呟く。
「……どういうことだ?」
「いや、それは俺の方が聞きたいんだが……一体、何があった?」
そこに控室の奥にあるドアが開いた。
「お、お待ちください! 大魔導師といえど、いきなり王弟と謁見はできません!」
王弟の執務室へ続く廊下を歩くルーカスを王弟の臣下が必死に止める。
だが、それぐらいでルーカスの足が止まるわけはなく。
「ならば、会いたくなる情報を持ってきたと伝えろ」
「ヴッ!」
尋常ではない怒りに満ちた気配を向けられた臣下が泡を吹いて気絶する。
この状況に駆けつけた近衛騎士たちがいつでも抜刀できるように腰を落としてルーカスを囲んだ。
「城内での魔法の使用は禁止である!」
その忠告に黒髪がぶわりと逆立ち、深紅の瞳が鋭く睨む。
「魔法は使っていない」
「クッ!」
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魔法は使っていないが、体を押さえつけられているかのような重圧と、首元に刃を突き付けられているかのような感覚が迫る。
ジリジリとにらみ合いが続く中、聞き覚えがある怒鳴り声が響いた。
「ルーカス! 王城で何をやってる!?」
赤髪を揺らして騎士団長であるアンドレイが走ってくる。
その姿に近衛騎士たちは緊張感を残したまま、少しだけホッとした。一方のルーカスは不機嫌顔のまま駆けて来たアンドレイを睨む。
「貴様こそ、何をしている?」
言葉とともに威圧が飛ぶが騎士団長はそれを軽く弾き飛ばして答えた。
「俺は早番で王城の警備確認をしていたんだ。まったく、朝から騒動を起こすな」
肩をすくめて何でもないような空気を作ると、アンドレイは近衛騎士たちに指示を出した。
「ほら、おまえらは持ち場に戻れ。あ、この気絶しているヤツは治療室に運んでくれ」
「ハッ!」
近衛騎士たちが素早く動く。
その様子を確認しながら呆れ混りの琥珀の瞳がルーカスの方を向いた。
「で、おまえはどうしたんだ?」
「貴様には関係ない」
背を向けて歩き出したルーカスをアンドレイが早足で追いかける。
「関係なくはないな。朝っぱらからこれだけの騒ぎを起こして、何事もなく王弟と謁見できると思っているのか?」
「向こうが会いたくなる情報を持ってきたから問題ない」
襟足から長く伸びた黒髪をなびかせて、カッカッと大きな足音をたてて廊下を進む。
こうなったルーカスは他人の話は聞かないことを知っているアンドレイはその背中を黙って観察した。知り合った頃から我が道を進むルーカスだったが、ここまで怒りに満ちた姿は初めて見る。
この状況にアンドレイが大事になりそうなら俺が止めるかと腹を括り、本日の午前の仕事を諦めて頭を切り替えたところで、王弟の従者が現れた。
従者が怒りを振りまくルーカスの前で静かに頭をさげる。
「現在、エヴァウスト様は身支度の最中でございます。準備が終わり次第参りますので、執務室の隣にある控室でお待ちいただくようお願いいたします」
その申し出に黒い眉がピクリと動く。
「身支度に時間がかかるなら寝室に行くが?」
淡々としながらも本気混じりの声音。
ここにシルフィアがいたら「ルーカスが王弟の寝室に!? 寝間着を脱ぎかけた王弟がいる寝室に!? すぐそこにベッドがある寝室に!? 寝室に突撃ですか!? この場合は王弟×大魔導師でしょうか!? それとも、大魔導師×王弟ですか!? この年齢差なら、どちらでも美味しいですわ!」と喜びで発狂するような発言だが、幸か不幸かシルフィアは不在。
そもそも王弟の寝室を従者や使用人以外が訪れるなどありえず、不敬に等しい行為なのだが。
「おい、さすがにそれはやり過ぎだぞ」
さすがの事態にアンドレイが止める。
だが、ルーカスは不機嫌な顔のまま従者を睨んだ。
「どうなんだ?」
その威圧がこもった問いに従者が頭をさげたまま平然と答える。
「すぐに参りますので、もう少しお待ちください。あと、差し支えなければご用件をお聞きしたいのですが……」
「そっちが欲しがっている情報を持ってきた、と伝えれば分かる」
「かりこまりました」
従者が音もなく立ち去っていく。
その仕草にルーカスの目が鋭くなった。
(オレの威圧に耐えた上に、そつのない動き。魔導師の中のカゲの一人か。王弟の従者として仕えることで王弟の情報を直接収集するとは……身内であろうとも容赦がないな、魔導師団長は。そういえば、あいつから直接、情報を聞いた方が早そうだが……どこにいるか不明だからな。探す手間を考えたら、王弟を動かしたほうが早いか)
黙ったまま考え込むルーカスに危機感を覚えたアンドレイが声をかける。
「おい、あの従者を亡き者にしようとか考えていないだろうな?」
「何故そんな手間をかけないといけないんだ?」
現実に意識を戻したルーカスが王弟の応接室へと歩き出す。
その後ろをアンドレイが慌てて追いかけた。
「おまえの顔と殺気が物騒すぎるんだよ!」
「別にいつも通りだ」
「それが通常なら、とっくに王城から出禁をくらってるわ!」
背後で喚く声を聞きながらルーカスが王弟の執務室の隣にある控室へ入った。
壁を埋め尽くす絵画にニ~三人掛けのソファーとローテーブルが置かれた部屋。天井近くまである大きな窓からは緑に溢れた庭が一望できる。
ルーカスが近くにあった絢爛豪華なソファーへドガッと腰をおろす。
「まったく、本当に何があった? そこまで苛立つなんて普通じゃないぞ」
アンドレイの言葉に深紅の瞳がジロリと睨む。
「貴様には関係ないと言っているだろ。さっさと仕事に戻れ」
「いいや。殺気を振りまいているおまえを放置する方が危険だ。王弟殿下の護衛をかねて、ここにいる」
チッと舌打ちをしてルーカスが視線を窓の外へむけた。
ギスギスとした雰囲気の控室とは真逆の穏やかな空気が流れる庭。
何かあった時にすぐに動けるようにドアの近くに立ったままのアンドレイにルーカスが顔を背けたまま訊ねる。
「最近、王都にある神殿へ行ったか?」
「……数日前に王都内の見回りの時に立ち寄ったが、何かあったか?」
「神官長には会ったか?」
その問いにアンドレイが何かを察したように肩の力を抜き、口の端をフッとあげた。
「あぁ、あの美人の神官長か。王都でも有名で、男女問わずに信者が増えたって話だな。もしかして、婚約者が神官長に目を奪われたとかで怒っているのか? それぐらいで嫉妬するなんて、狭量すぎるだろ」
茶化すような口調に対して、黙らすように深紅の瞳が睨む。
「そうじゃない。問題は神殿で救国の聖女が奉られていることだ」
「救国の聖女が奉られている? どういうことだ?」
赤髪が不思議そうに揺れる。
平和ボケしているような雰囲気に苛立ったルーカスが立ち上がり、全身で迫った。
「神殿の奥の壁に救国の聖女の旗が飾られていただろ?」
その勢いに一歩下がりつつもアンドレイが首を捻りながら答える。
「いや、そんな旗はなかったぞ」
「祭壇の奥の壁にあっただろ!?」
今にも掴みかかりそうな勢いにアンドレイが敵意はないとばかりに両手をあげた。
「救国の聖女の旗って、真っ赤な布に百合と水晶の紋章で遠くから見ても分かるようにド派手な刺繍がされているヤツだろ? それなら壁に飾ってあれば一目で気づくはずだ」
たしかに激しい戦場でも敵の戦意を削ぐため、一目で救国の聖女の旗で分かるように深紅の布地に金や銀などの派手な色の糸で刺繍が施されており、どの騎士団の旗よりも派手だった。
そんな旗が祭壇の上にあれば、誰であろうとも目に入るだろう。それなのに、騎士団長が気づかなかったというのはおかしい。
ルーカスがアンドレイの正面に立ったまま呟く。
「……どういうことだ?」
「いや、それは俺の方が聞きたいんだが……一体、何があった?」
そこに控室の奥にあるドアが開いた。
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