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5 執事の思惑
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思わぬ提案をした老齢の執事が新しい菓子をのせた皿を差し出す。
そこに並んでいたのは、これまでより明らかに手が込んだ菓子だった。芸術作品のような華の形の飴細工と、カラフルなクッキーに、キラキラと輝くチョコが宝石のように並べられ、食べるのを躊躇うほど。
ティリアの食べっぷりを聞いた料理長が本気で菓子を作り始めたのだが、それよりもイーラスは別のことで慌てていた。
「いや、それは……こんなオジサンと買い物なんて行きたくないでしょ?」
「そこはご本人に確認いたしませんと」
「確認するまでもないよね?」
平然と話を進めようとする執事に対して、救いを求めるようにイーラスがティリアへ視線を向ける。すると、そこには期待を含ませて大きな紫の瞳をキラキラと輝かせた美少女の顔があり……
「くっ……」
その眩しさにイーラスが反射的に目を細めた。
一方のティリアはハッと何かに気づいたように白銀の髪で顔を隠して謝る。
「す、すみません。イーラス様にもご用事がありますでしょうし、街には私一人で参ります」
無表情と無感情な声なのだが膝の上に置かれた手が微かに震えている。
嫌がらせの連続の学園生活から解放されると同時に婚約破棄。これまでの努力を否定され、精神的にも肉体的にもボロボロだろうが、その様子を少しも表に出さない。
我慢することが当たり前の生活を耐え抜いた少女をここで突き放すわけにはいかない。
そう判断したイーラスは念のためにもう一度確認をした。
「えっと……こんなオジサンと一緒に街へ行ってもいいのかい? 恥ずかしくない?」
「イーラス様と一緒が良いんです!」
食いつくように断言した後、ティリアは恥ずかしそうに顔を背けた。
「すみません。でも、その、一緒に行っていただけると、嬉しい……です」
どこか恥ずかしそうに、それでも精一杯の気持ちを口にしたティリアの姿に、枯れていたはずの心の奥底がツンと刺激される。
(これ以上の深入りは良くない、が……)
イーラスは参ったとばかりに額に手を置いて俯いた。
「……わかった。一緒に行こう」
なるべく平静を装った渋い声に紫の瞳が再び輝く。
「ありがとうございます」
相変わらずティリアの表情は乏しいが、その声音には喜びの感情がしっかりと含まれており、主の隣で成り行きを見守っていた老齢の執事がにっこりと微笑んだ。
~~
応接室での会話を終えてティリアのことをメイドに任せたイーラスは書斎に入ると息を吐きながら椅子に座った。
「学園と辺境伯と第三王子の周辺について至急、調べて」
主人の命令に老齢の執事が慇懃に頭をさげる。
「すでに動いております」
「あの子たちも動かしてる?」
その言葉に執事の片眉がピクリと動いた。
「……かしこまりました。至急、動かします」
「そうして。さすがに、今回のは看過できない。場合によっては実家が……いや、姉上が喜んで出てくる。そうなったら、かなり面倒だから、それより早く情報を集めて」
「はい」
重みを含んだ執事の返事にイーラスが頷く。
「しばらくはこの件に専念するから重要案件以外の仕事は全部後回しにして」
「かしこまりました」
ここでイーラスはようやく背もたれに体を預けた。
ギシリと椅子が軋む音に耳を傾けながらぼやく。
「まさか、こんなことになっているなんてねぇ。あれだけ口酸っぱく言っていたはずなんだけど、この国の王族ってバカなのかな? それとも、第三王子だけがバカなの?」
「旦那様」
主のストレートな物言いを執事が諫める。
だが、イーラスは気にする様子なく話を続けた。
「ま、そんな頭が回らない第三王子だから、見た目がこんなオジサンな私にティリアを押し付けたんだろうけど」
その言葉に執事がにっこりと微笑む。
「外見についてご自覚があるのはよろしいことで」
裏を含んだ声音に不揃いに伸びた赤茶の髪がピクリと跳ねる。
「……何が言いたいの?」
「明日ですが、今のままではティリア様に恥をかかせてしまいます」
「いや、街に行くだけだし問題ないでしょ?」
慌てるイーラスに対して老齢の執事は無言でにっこりと微笑んだまま。しかも、どこから出したのかその手にはハサミが握られている。
その意図を察したイーラスが慌てて体を起こした。
「そこまでする必要ないと思うんだけど!?」
「そうはまいりません。予定外とはいえ婚約者とともに暮らす以上、それ相応の身なりをしていただかなくては」
「いや、婚約者と言っても仮だし、どちらかというと保護しているだけだから。私に結婚をする気はないよ」
穏やかな口調のまま必死に否定するイーラスに執事がじわりと距離を詰める。
「ですが、ティリア様が未来の奥方様になる可能性はゼロではありません。幸いなことに、今は好意的なようですし、このままご成婚していただくのもアリかと」
「ナシだ!」
イーラスの即答に執事がニッコリと微笑む。
「では、その話は保留といたしましょう。ですが、明日は一緒に外出をされると約束されましたので、その時にティリア様に恥をかかせるのはいかがなものかと」
年配者からの正論にイーラスがクッと唸る。
「最低限の身だしなみは整えさせていただきます」
「……最低限だからな」
往生際の悪い声とともに、シャキンとハサミの鋭い音が書斎に響いた。
そこに並んでいたのは、これまでより明らかに手が込んだ菓子だった。芸術作品のような華の形の飴細工と、カラフルなクッキーに、キラキラと輝くチョコが宝石のように並べられ、食べるのを躊躇うほど。
ティリアの食べっぷりを聞いた料理長が本気で菓子を作り始めたのだが、それよりもイーラスは別のことで慌てていた。
「いや、それは……こんなオジサンと買い物なんて行きたくないでしょ?」
「そこはご本人に確認いたしませんと」
「確認するまでもないよね?」
平然と話を進めようとする執事に対して、救いを求めるようにイーラスがティリアへ視線を向ける。すると、そこには期待を含ませて大きな紫の瞳をキラキラと輝かせた美少女の顔があり……
「くっ……」
その眩しさにイーラスが反射的に目を細めた。
一方のティリアはハッと何かに気づいたように白銀の髪で顔を隠して謝る。
「す、すみません。イーラス様にもご用事がありますでしょうし、街には私一人で参ります」
無表情と無感情な声なのだが膝の上に置かれた手が微かに震えている。
嫌がらせの連続の学園生活から解放されると同時に婚約破棄。これまでの努力を否定され、精神的にも肉体的にもボロボロだろうが、その様子を少しも表に出さない。
我慢することが当たり前の生活を耐え抜いた少女をここで突き放すわけにはいかない。
そう判断したイーラスは念のためにもう一度確認をした。
「えっと……こんなオジサンと一緒に街へ行ってもいいのかい? 恥ずかしくない?」
「イーラス様と一緒が良いんです!」
食いつくように断言した後、ティリアは恥ずかしそうに顔を背けた。
「すみません。でも、その、一緒に行っていただけると、嬉しい……です」
どこか恥ずかしそうに、それでも精一杯の気持ちを口にしたティリアの姿に、枯れていたはずの心の奥底がツンと刺激される。
(これ以上の深入りは良くない、が……)
イーラスは参ったとばかりに額に手を置いて俯いた。
「……わかった。一緒に行こう」
なるべく平静を装った渋い声に紫の瞳が再び輝く。
「ありがとうございます」
相変わらずティリアの表情は乏しいが、その声音には喜びの感情がしっかりと含まれており、主の隣で成り行きを見守っていた老齢の執事がにっこりと微笑んだ。
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応接室での会話を終えてティリアのことをメイドに任せたイーラスは書斎に入ると息を吐きながら椅子に座った。
「学園と辺境伯と第三王子の周辺について至急、調べて」
主人の命令に老齢の執事が慇懃に頭をさげる。
「すでに動いております」
「あの子たちも動かしてる?」
その言葉に執事の片眉がピクリと動いた。
「……かしこまりました。至急、動かします」
「そうして。さすがに、今回のは看過できない。場合によっては実家が……いや、姉上が喜んで出てくる。そうなったら、かなり面倒だから、それより早く情報を集めて」
「はい」
重みを含んだ執事の返事にイーラスが頷く。
「しばらくはこの件に専念するから重要案件以外の仕事は全部後回しにして」
「かしこまりました」
ここでイーラスはようやく背もたれに体を預けた。
ギシリと椅子が軋む音に耳を傾けながらぼやく。
「まさか、こんなことになっているなんてねぇ。あれだけ口酸っぱく言っていたはずなんだけど、この国の王族ってバカなのかな? それとも、第三王子だけがバカなの?」
「旦那様」
主のストレートな物言いを執事が諫める。
だが、イーラスは気にする様子なく話を続けた。
「ま、そんな頭が回らない第三王子だから、見た目がこんなオジサンな私にティリアを押し付けたんだろうけど」
その言葉に執事がにっこりと微笑む。
「外見についてご自覚があるのはよろしいことで」
裏を含んだ声音に不揃いに伸びた赤茶の髪がピクリと跳ねる。
「……何が言いたいの?」
「明日ですが、今のままではティリア様に恥をかかせてしまいます」
「いや、街に行くだけだし問題ないでしょ?」
慌てるイーラスに対して老齢の執事は無言でにっこりと微笑んだまま。しかも、どこから出したのかその手にはハサミが握られている。
その意図を察したイーラスが慌てて体を起こした。
「そこまでする必要ないと思うんだけど!?」
「そうはまいりません。予定外とはいえ婚約者とともに暮らす以上、それ相応の身なりをしていただかなくては」
「いや、婚約者と言っても仮だし、どちらかというと保護しているだけだから。私に結婚をする気はないよ」
穏やかな口調のまま必死に否定するイーラスに執事がじわりと距離を詰める。
「ですが、ティリア様が未来の奥方様になる可能性はゼロではありません。幸いなことに、今は好意的なようですし、このままご成婚していただくのもアリかと」
「ナシだ!」
イーラスの即答に執事がニッコリと微笑む。
「では、その話は保留といたしましょう。ですが、明日は一緒に外出をされると約束されましたので、その時にティリア様に恥をかかせるのはいかがなものかと」
年配者からの正論にイーラスがクッと唸る。
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