完結•義母に家を追い出されましたが、プリンがあるので幸せです~助けたモフモフは幸運の聖獣でした~

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美味しいデザートで幸せです

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「おや、まぁ。おじいさんを助けてくれて、ありがとうね。私はマリーだよ」

 家に招かれた私はコボルトさんの妻のマリーさんに迎えられた。

「助けていただいたのは私の方です。あのままだったら、今晩寝る場所もありませんでしたから」
「まぁ、まぁ。たいしたものはないけど、屋根とベッドはあるからね。埃をかぶっているから掃除をしないといけないけど」

 その言葉の通り、離れの家はだいぶん埃を被っていた。
 でも、テーブルや椅子、棚など必要な家具は揃っている。私は掃除道具を借りて部屋を掃除した。

 数時間後。
 離れを訪れたマリーさんが驚いた顔になる。

「おや、まぁ。この短時間でえらい綺麗になったね」
「そ、そうですか?」

 久しぶりに褒められた私は嬉しくも恥ずかしくなって目を伏せた。
 義母から毎日、家の掃除をさせられていた。しかも、少しでも埃が残っていたら叱咤叱責の嵐。ここの離れは隅々まで綺麗になったとは言えない。それなのに褒められてしまった。

 くすぐったい気持ちに戸惑っていると、肩にのっているモフが私の頬に顔をこすりつけてきた。

「もう、モフったら」

 じゃれるモフをマリーさんが覗き込む。

「おや、珍しい。幸運のモフじゃないか」
「幸運のモフ?」
「そうだよ。額についた宝石がその証さ。懐いた人に幸運をもたらす動物って言われているんだ」
「へぇ。知らずにモフって名前を付けたけど、合ってたんだ」

 喜ぶ私をモフが睨む。私はワザと気づいていないフリをしていると、マリーさんが言った。

「でも、あまり他の人には見られないようにした方がいいよ。モフを奪おうとする悪いヤツもいるからね」
「え?」

 思わずモフを抱きしめる。キュェと苦しそうな声があがった。

「あ、ごめん! ごめん!」

 腕を緩めるとペシペシと叩かれた。痛くないけど。
 私たちの様子をマリーさんが苦笑いとともに見つめる。

「モフは懐いた人には幸運をもたらすけど、無理やり手に入れようとした人には不幸をもたらすって言われているから、手を出す人はそうそういないとは思うけどね。気を付けることに越したこたことはないよ。特にここは港町だから、いろんな人が出入りするし」
「……気を付けます」

 ちゃんと気を付けているつもりだったのに――――

 コボルトさんから離れを借り、港町で仕入れられる薬草を使って簡単な薬を作って売るようになった。よく効く薬と噂になり徐々に客が増え、私はそこそこ忙しい生活をしていた。

 そんな、ある日。

「砂糖と牛乳と卵は買ったし……あと星屑の実を買うだけね。これがないと、あのデザートは作れないから」
「きゅ!」

 私の胸でモフが手をあげて返事をする。
 ここは港町だけあって、様々な文化が行き交う。その中には私が知らなかった美味しい料理も。特に最近、ハマったのはマリーさんに作り方を教えてもらったデザートで。

「モフも好きだもんね。帰ったらマリーさんの家にある保冷庫を借りて作ろうね」
「きゅぅ!」

 話しをしながら裏通りに入り、顔なじみになった店に入ろうとした瞬間。

「んぅ!?」

 背後から布で口を覆われ、甘い香りとともに意識を失った。



「ちょっと、起きなさいよ」

 癇癪混りの高い、久しく聞いていなかった義妹の声だ。
 促されて目を開けると後ろ手に縛られて固い床に転がされていた。レンガ造りの倉庫のような場所。港の近くに多くある。
 木箱をバックに義妹が仁王立ちのまま私を見下ろし、屈強な男たちが私たちを囲んでいた。

「……なにか用?」

 義妹が忌々しそうに私を睨む。

「薬の調合レシピ。どこにあるのか言いなさい」
「調合室の本棚に全部あるわ」
「嘘おっしゃい!」

 義妹が手を振る。男の一人が私を乱暴に持ち上げた。

「レシピ通りに作っても薬の効き目が薄いのよ。レシピの一部を盗んだんでしょ!?」

 薬はレシピ通りに作ればできる。ただ、口頭で伝わっているレシピもあり、それと合わせなければ本来の効力は発揮されない。私は父から教わり、義妹も同じように教わっていた。
 ただ義妹は真面目に聞いているようで聞いていなかったため覚えていないのだろう。

「……」

 無言でいる私に義妹が近づく。

「言わないなら、言いたくなるようにするまでよ」

 パシッ!

 頬に鈍い痛みが走った。義妹が手の中で鞭をポンポンと軽く遊ばせる。

 ここで声を出せば五月蠅いとますます叩かれる。

 私は黙ったまま視線を床にむけた。

「強情なのは変わらずのようね。でも、これならどうかしら?」

 少しだけ視線をあげると、男が気絶したモフの首根っこを持ってぶら下げていた。

「やめて!」

 義妹が楽しそうに口の端を緩め、鞭をモフに近づける。

「わかった! 全部、教えるから! 父から教わったレシピを全部、教えるからモフには手を出さないで!」

 私の叫びに義妹が満足そうに目を細める。

「最初っからそう言えばいいのよ。余計な手間をかけさせないでちょうだい」

 ここで義妹の動きが止まる。

「あら。この獣、高そうな宝石なんて付けてるじゃない。生意気ね」

 ゆっくりと手がモフの額に伸びる。宝石はモフに引っ付いていて簡単に取れるものではない。無理に取ろうとすればモフが傷つく。

「ダメ! 取らないで!」
「なに言っているの。こんな獣にあるより私が身に着けたほうが宝石も輝くわよ」

 長い爪がモフの額の宝石に触れた瞬間――――

「なに!?」

 白い閃光が世界を消す。強すぎる光に視界を奪われ、何も見えなくなった。次に聞こえたのは小さなうめき声。でも、何が起きているか分からない。
 そこに縛っていた縄が解かれた。

「え……?」

 自由になった手を前にもってくる。やっと視界に色が戻ってきた。

 囲んでいた男たちと義妹が苦悶の表情とともに足元に転がっている。

「なにが起きたの?」

 驚く私を柔らかな毛が包み込んだ。この触り心地は……

「モフ!?」

 振り返ると見たことがないほど端正な顔立ちの青年がいた。
 ふわふわとした白銀の長髪。真っ青な瞳の涼やかな目。高すぎない鼻に薄い唇。美麗ながらも、しっかりとした肩幅に厚い胸板。逞しい腕が私を包み込むように抱きしめる。

「クロエ……よかった」

 爽やかなジャスミンの香り。

「……モフ、なの?」

 私の問いに端正な顔がとろけるように笑う。

「そうだよ」
「え? えぇ!? でも、なんっ!? 人!?」

 慌てる私の耳にモフが囁く。

「まだ、魔力が足りなくて人の姿を維持するのが難しいんだ。でも、もう少しすれば……だから、それまで待ってて」
「待つ? 何を待つの?」

 顔をあげた私にモフがふわりと微笑む。

 ポンッ!

 軽い音とともにモフがいつものモフになった。

「……モフ?」
「きゅ!」

 モフが元気よく片手をあげて応えた。



 あれから義妹はどうなったか分からない。ただ、風の噂で私の実家は不運が続き、薬師としての営業ができなくなったとか。

「そう言えば、マリーさんが幸運のモフを無理やり手に入れようとしたら不運になるって言ってたけど…………何かしたの?」
「きゅぅ~?」

 ワザとらしく小首を傾げるモフ。待ってて、という言葉の意味も気になるけど、今は自分の生活が一番!
 私は最近の楽しみであるデザートタイムを堪能するために保冷庫を開けた。

「保冷庫を買うために頑張って仕事したもんね。これでいつでも作って食べられるよ」
「きゅ!」

 皿の上にのった黄色のプルプルふるえる楕円形のデザート。上には茶色のカラメルソース。

「いっただっきま~す!」
「きゅきゅ~」

 テーブルに座った私たちは揃って冷たく柔らかいデザートを口に入れた。

「ん~! 幸せ!」

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