氷の侯爵はおっさん騎士を溺愛したい〜枯れおじの呪いを解くには恋が必要らしいです~

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プロローグ

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 少年は幼い頃より物事への興味や執着がなかった。
 常に淡々としていて、勉強も運動も魔法も少し習っただけで人の倍以上できる。その度に大人たちから驚かれ、天才だともてはやされ、生きることに飽きていた。

 それが、魔獣モンスターの襲来で一変した。

 親の仕事で一緒に隣国へ行っていたその帰り。あと少しで自国の王都へ着くというところで、魔獣に襲われた。

 巨大な蛇のような姿だが、三つの目とコウモリのような翼を持つ。口には鋭い牙が覗き、足がないのに動きは素早い。

 命の危機に馬車はがむしゃらに走ったが魔獣の尻尾に呆気なく弾かれて横転。
 馬車に乗っていた少年は家族とともに外へと投げ出され、そのまま魔獣の餌食になる……ところだった。

 そこに見回りをしていた騎士隊が助けにきて、森の中は一瞬で激戦地となった。

 激しい戦闘音と騎士たちの怒声が響く中、両親とはぐれた少年は一人で木の影に隠れていた。
 そこに心配する母親の声が響く。

「ルイ!? どこなの!?」
「母様!?」

 隠れていた木から顔を出して親の姿を探す。
 その瞬間、魔獣が苦し紛れに放った魔法が飛んできた。

「しまっ!?」

 体を小さくして目を閉じると同時に血が混じったスモーキーな香りに包まれた。

「坊主、無事か?」

 柔らかな声に少年が恐る恐る目をあける。すると、そこには赤茶の髪から滴り落ちる血と、破れた騎士服から覗く厚い胸板には蔦のように広がる模様があった。

 魔獣が放った魔法。
 それを目の前の青年騎士が身を挺して受け止め、少年を守った結果だった。

「……おじさん」

 少年の微かに震えた声に、琥珀の瞳が安心させるように細くなる。

「おにいさんと呼べ。俺はまだおっさんって年じゃねぇよ」

 痛みを堪え、口角をあげて安心させるように笑う青年騎士。騎士服はボロ布ように破け、空気にさらされた肌は傷だらけ。
 それでも、腕の中にいる少年を安心させようとしている。

 その気遣いを感じ取った少年が言い直して訊ねた。

「おにいさん、名前は?」
「は?」

 少年からの問いに騎士の琥珀の瞳が丸くなり、男らしい精悍な顔がコテンと首を傾げた。
 逞しい体の背後では他の騎士たちが魔獣にとどめを刺したらしく空を割るような断末魔が響く。

 命の恩人とはいえ名前を聞く状況ではない。それでも、少年は聞かずにはいられなかった。

「名前、教えて」

 キョトンと見つめる琥珀の瞳に、少年は生まれて初めて心からの渇望を覚えた。


 これが二人の出会いであり現在、少年は青年へと成長し、青年騎士はおっさん騎士になっていた。
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