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みたらし団子で国人を釣る話
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~勝瑞城~
「薦田大和守を総大将に命じる」
「はっ! ありがたき幸せ。必ずや無傷にて川之江を落としてみせまする!」
「うむ。刻を見て、堺より織田は完全に駆逐致す。そのための力を溜める戦だ。
副将は篠原左近将監。先陣を預けるは香西治兵衛尉。その武勇に期待している。
軍監は岩成友通。軍監は現場には出ぬが、後備えの兵や兵糧を堺より手配する手筈となっている。
その与力大将は安岐浦右馬允。兵と兵糧の輸送を頼む」
「輸送だけじゃなく、手前の武働きもご照覧あれ」
「うむ。皆に期待している。てこずるなよ? 川之江なぞ一捻りで奪い取れ。
毛利から書状も届いておる。尼子何某と決戦中故に黙認致すとな。ただ、周布より西に入れば容赦はしないと書いている」
「殿! そんな難しい事は言わず、いつものように三好の戦をすれば良いのです!」
「ふっ。大和守は勇ましいな。相分かった。敢えてワシは何も言うまい。
それと長宗我部からも文が届いた。一条家を倒すため力は温存致す。三好家に叛意はないとな。
四州の奥で長宗我部何某は満足だと。誠、田舎侍の考え方よのう」
「ハッハッハッ! 誠、そのように野心がないとは、長宗我部家とは面白味に欠けますな!」
「まったくだ。だが、毛利家は刺激させたくない。あの爺はやる。息子達も中々に才ある者だと、ワシは思っている」
「殿が他家を褒めるとは珍しいですな!」
「ふん。準備を急げ」
「はっ。如月には攻めまする。いやなに。敵の兵糧が乏しい冬に大軍勢で囲み、一当てした後に、城主に安堵と報せて開城させまする。
その後、戦勝の饗宴にて毒を盛り、殺せば被害も少ないでしょう」
「さすが大和守よ。川之江などという田舎なぞ欲しくもないが、ここを抑えると、讃岐の香川、香西等、三好に従わぬ国人衆も従う事になるよのう?
そうは思わぬか、左近将監よ」
「……はっ」
「頼りない返事よのう。まぁ良い。下がってよい」
◆
~川之江城浦~
「弾込め急げ! 力一杯、押し込むように! 射撃手は姿勢を崩さず、そのまま!」
「下分村の長兵衛、終わりました!」
「同じく、川三郎、終わりました!」
「長兵衛!川三郎は合格!褒美の飴玉を静樹から貰ってくれ!」
「終わった!余木村のアカネも終わったよ!」
「おっ!さすがだ!女で一番乗りだ!同じく褒美を貰ってくれ!」
季節は本格的に冬になった。弾込めをする者、射撃する者と完璧に分担した運用を採用した。
信長が有名な三段撃ちを考案したと言われているが、オレは少し変えた運用をする。
信長は各々が撃った順に後方に下がり、弾込め、撃つ、という動き方だろう。
オレは弾込めは弾込め、煤取りは煤取り、射撃手は射撃手という寸法だ。
射撃に関してはやはり腕の差があるからな。
後は、下川村という、讃岐・阿波の国境ギリギリにある川之江城支配内の村で猟師をしている、滝次郎という男を臨時ではなく正式に仕官させた。観測手だ。
元から火縄を扱っていて、腕が良い。何でも三好軍で働いた事があると言っていた。
だが、何の褒美もなく二度と三好では働きたくないと思い、その時に軍内にあった弾と火薬と火縄を借りパクしたそうな。
中々ファンキーな人だ。
後は色々な村から集まり、オレに仕官したい人達だ。立て札で身分を問わず登用する。最低でも一人扶持、少しの給金と書いた訳だが、集まる集まる。
男は「侍になれる!」と意気込み、女に関しては内職を望む人も居るが、男と混じり兵になる事を夢見る人も居る。
オレは差別せず、区別せず、同じ様に雇う。後は何かある度にオレは相手の名前をちゃんと呼び、皆と同じように握り飯を食べたり、男なら立ち小便をしながら身分差をつけずに仲良くしている。
その光景が皆には珍しいようで、気さくで格好いい武家という評判が立ってきている。
擦り傷一つでも、オレは必ず自らの手で消毒をし、堺で買った上質な布で傷を覆ってやったりとしている。
打算的ではあるが、オレの正式な兵隊だからな。専業になるにはまだまだ無理だが、それでも強い兵になってくれるだろう。
何より素晴らしいのが、妻鳥様だ。
ズドンッ
「命中! 真ん中に命中しております!」
「ふっ。たまたまだ」
そう。妻鳥様の射撃精度が段違いに高い。
百メートル離れた小舟に向かい、偏差撃ちでも平気で当てるのだ。
これには簗田も驚いていた。
あっ、後、和紙弾に関しては織田軍にも教えた。
簡単なこの作業とコーニングを施し、輝安鉱を混ぜた火薬、和紙弾での射撃に舌を巻いていた。
近江国友銃の最新型で試したらしいのだが、甲冑二枚でも貫通したという。
何より、とにかく真っ直ぐ飛ぶと。
もう少し技術改新すれば、今度こそ真円にし、ライフリング加工なんかも出来ればとは思う。
まぁ中々難しいだろうけど。
◆
ここは宇摩郡内だが、土佐にも近く、現在も高知県の県境である新宮村だ。
だが、実際の郡代は喜多郡の有力者、宇都宮何某が治めている地なのだとか。
ただ、山の中の山。故にその宇都宮何某の支配も届かず、ひっそりした村だ。
ここに、静樹と助六と来ている。何をしに来たのかって?ここは既に長宗我部の手が届く場所だ。
現に、村人によっては長宗我部が殿様だとか、宇都宮様だとか、河野様だとか、色々とバラバラな、複雑な地域である。
そこで養蚕をしているという情報をキャッチしたのだ。
話の出所は、ここよりもう少し内陸側にある中曽根村という村で、そこの村人から、
『たまに絹糸と米を交換するんです』
と聞き、わざわざ山登りをしたわけだ。
信長に啖呵を切ってリュックサックをプレゼントするんじゃなかったと思う、今日この頃。
「ここを治めている者は誰だ?」
「アッシが村を統括しております。新宮行房と申します」
「その恰幅や良し。見るに、中々贅沢な暮らしをしているのじゃないのか?」
「いえいえ。そのような事はございません」
「ほぅ? 川之江城、川之江浦郡代、山岡尊だ。
ちなみに忖度なく答えろ。手打ちなどにはせん。
お前の殿は誰だ?」
「……」
「答えにくいか。ならオレから言ってやる。
オレの大殿は名目上は河野何某だ。名前は正直知らん。
だが河野家の家臣に先日なった。
だが、オレが護るべき人は妻鳥友春様という方だ。
お前も答えろ。長宗我部か?
オレがお前の立場なら、同じ様になっているかもな」
「そんな滅相もございま……」
「眠たい事を言うな。
何も今からオレがここを治め、税を取り立てるなどとは言わん。
ただ、お前達が行っている養蚕に興味がある。
よくこんな山奥で知っていたな」
「我が新宮氏は紀伊の出でして。熊野三山を崇拝しております。
これは先祖から伝えられた技にございます」
「そうか。野生のクワコから良い個体だけを選び、交配させ、今に至るだろう?」
「な、何故それを!?」
「そのくらいは知っている。少しは信用しろ。その技を教えろなどとは言わない。取り引きがしたいだけだ。お前は中曽根村に、その絹糸を卸しているだろう?中曽根村は明確に川之江城の支配内だ。別にそれが駄目だとは言わん。お前達も食わなければ生きていけないだろう?」
「な、なら何を……」
「簡単な事だ。お前の独立はオレが独断で一任してやる。オレの殿にも手出しはさせん。長宗我部にも売っているだろう?
話した感じ、お前には強かさがある。別にそこも咎めん。そうでもしなければ、ここで暮らすのはしんどいだろう。
領主を自認するならば、それくらいでなければならない」
「……で、何をさせるおつもりで?」
「その絹糸を内陸にも売りたくないか?オレが買ってやる。長宗我部の倍は出してやる」
「額をお伝えしていませんが?」
新宮は黙ったまま、こちらの顔ではなく、荷車と静樹の手元を見ていた。
「ふん。舐めるなよ。オレは長宗我部のようなケチくさい男じゃない。オレ一人で、長宗我部家全ての銭より持っている」
ここでオレの《覇圧》が点滅する。
「……ぬっ」
「すまんな。脅すつもりではない。お前が吹っ掛けるなら、吹っ掛けてきても良い。
オレが長宗我部にいくらで売っているかなど、調べようがないからな。
で、いくらだ?
手持ちの銭は少ないが、ここに、米俵を――」
オレが偉そうに言いながら後方を見る。
助六に荷車を引かせていたわけだが――
「きゃっ! 助六様ったら! も~う!」
「お、おぅ……御婦人! 暫し待たれよ!今は殿のお付きで……」
馬鹿助六は村の女とキャッキャしてやがる。
何であんな奴がモテるのか!
羨ま……けしからん!
「助六ッッッ!!!なーにをそこで遊んでいるのだ!米は! 荷車はどこだ!!!
それと何をして、遊んでいたのか、後で事細かく教えろッ!!!」
「と、殿! 違うのです!こ、米はここに!」
「チッ。覚えておけ。
おぅ、新宮殿。すまんな。配下が遊んでいたようだ。
ここに米が、とりあえず三俵と、オレの支配領内で最近流行りつつある、みたらし団子だ。
それと塩漬け乾燥肉。それから、これはプリンという甘味だ。
この甘味に関しては、今日中に食べてくれ。日持ちしない。
ちなみに、これらは挨拶代わりだ。受け取れ。
後日、オレの配下達に演習を兼ねて、ここに銭を持って来よう。どうだ?」
「な、な、何ですかこれは!? 見た事がありません!」
「だろうな。オレが作った。正確には、妻の静樹がだがな」
「えぇ。私が作りました。新宮様。
夫である尊様は、口こそ強いですが、根は優しく、味方になる方には最後まで面倒を見る方ですよ?
どうか一考、お願い致しますね?」
「我が新宮家の先祖は、かつて朝廷に絹糸で作った服を献上し、時の帝も気に入っていたと伝えられている!
紆余曲折あり、今は私は伊予国に居りますが、この技を腐らせたくない!
長宗我部は銭は払うが、たった半々結しか渡さない!
足元を見やがる!」
「そうか。なら下界に来るか?
オレの領内で、新宮村の者が交代で商いする許可を出してやるぞ?
オレの領内では、その者が好きな物を、好きな値で売る事が出来る。
それで売れなければそれまでだが、少なからずオレは、形こそまだ見ていないが、寝着に絹糸の服を着てみたいと思うぞ。
二結。ここに置いておく。
お前の心意気を、次に来た時に配下に聞かせろ」
オレは渋い顔のまま、そう言っているが、内心では息切れを我慢しているだけだ。
新宮が勝手に何を思ったかは知らないが、結果オーライとなった。
「薦田大和守を総大将に命じる」
「はっ! ありがたき幸せ。必ずや無傷にて川之江を落としてみせまする!」
「うむ。刻を見て、堺より織田は完全に駆逐致す。そのための力を溜める戦だ。
副将は篠原左近将監。先陣を預けるは香西治兵衛尉。その武勇に期待している。
軍監は岩成友通。軍監は現場には出ぬが、後備えの兵や兵糧を堺より手配する手筈となっている。
その与力大将は安岐浦右馬允。兵と兵糧の輸送を頼む」
「輸送だけじゃなく、手前の武働きもご照覧あれ」
「うむ。皆に期待している。てこずるなよ? 川之江なぞ一捻りで奪い取れ。
毛利から書状も届いておる。尼子何某と決戦中故に黙認致すとな。ただ、周布より西に入れば容赦はしないと書いている」
「殿! そんな難しい事は言わず、いつものように三好の戦をすれば良いのです!」
「ふっ。大和守は勇ましいな。相分かった。敢えてワシは何も言うまい。
それと長宗我部からも文が届いた。一条家を倒すため力は温存致す。三好家に叛意はないとな。
四州の奥で長宗我部何某は満足だと。誠、田舎侍の考え方よのう」
「ハッハッハッ! 誠、そのように野心がないとは、長宗我部家とは面白味に欠けますな!」
「まったくだ。だが、毛利家は刺激させたくない。あの爺はやる。息子達も中々に才ある者だと、ワシは思っている」
「殿が他家を褒めるとは珍しいですな!」
「ふん。準備を急げ」
「はっ。如月には攻めまする。いやなに。敵の兵糧が乏しい冬に大軍勢で囲み、一当てした後に、城主に安堵と報せて開城させまする。
その後、戦勝の饗宴にて毒を盛り、殺せば被害も少ないでしょう」
「さすが大和守よ。川之江などという田舎なぞ欲しくもないが、ここを抑えると、讃岐の香川、香西等、三好に従わぬ国人衆も従う事になるよのう?
そうは思わぬか、左近将監よ」
「……はっ」
「頼りない返事よのう。まぁ良い。下がってよい」
◆
~川之江城浦~
「弾込め急げ! 力一杯、押し込むように! 射撃手は姿勢を崩さず、そのまま!」
「下分村の長兵衛、終わりました!」
「同じく、川三郎、終わりました!」
「長兵衛!川三郎は合格!褒美の飴玉を静樹から貰ってくれ!」
「終わった!余木村のアカネも終わったよ!」
「おっ!さすがだ!女で一番乗りだ!同じく褒美を貰ってくれ!」
季節は本格的に冬になった。弾込めをする者、射撃する者と完璧に分担した運用を採用した。
信長が有名な三段撃ちを考案したと言われているが、オレは少し変えた運用をする。
信長は各々が撃った順に後方に下がり、弾込め、撃つ、という動き方だろう。
オレは弾込めは弾込め、煤取りは煤取り、射撃手は射撃手という寸法だ。
射撃に関してはやはり腕の差があるからな。
後は、下川村という、讃岐・阿波の国境ギリギリにある川之江城支配内の村で猟師をしている、滝次郎という男を臨時ではなく正式に仕官させた。観測手だ。
元から火縄を扱っていて、腕が良い。何でも三好軍で働いた事があると言っていた。
だが、何の褒美もなく二度と三好では働きたくないと思い、その時に軍内にあった弾と火薬と火縄を借りパクしたそうな。
中々ファンキーな人だ。
後は色々な村から集まり、オレに仕官したい人達だ。立て札で身分を問わず登用する。最低でも一人扶持、少しの給金と書いた訳だが、集まる集まる。
男は「侍になれる!」と意気込み、女に関しては内職を望む人も居るが、男と混じり兵になる事を夢見る人も居る。
オレは差別せず、区別せず、同じ様に雇う。後は何かある度にオレは相手の名前をちゃんと呼び、皆と同じように握り飯を食べたり、男なら立ち小便をしながら身分差をつけずに仲良くしている。
その光景が皆には珍しいようで、気さくで格好いい武家という評判が立ってきている。
擦り傷一つでも、オレは必ず自らの手で消毒をし、堺で買った上質な布で傷を覆ってやったりとしている。
打算的ではあるが、オレの正式な兵隊だからな。専業になるにはまだまだ無理だが、それでも強い兵になってくれるだろう。
何より素晴らしいのが、妻鳥様だ。
ズドンッ
「命中! 真ん中に命中しております!」
「ふっ。たまたまだ」
そう。妻鳥様の射撃精度が段違いに高い。
百メートル離れた小舟に向かい、偏差撃ちでも平気で当てるのだ。
これには簗田も驚いていた。
あっ、後、和紙弾に関しては織田軍にも教えた。
簡単なこの作業とコーニングを施し、輝安鉱を混ぜた火薬、和紙弾での射撃に舌を巻いていた。
近江国友銃の最新型で試したらしいのだが、甲冑二枚でも貫通したという。
何より、とにかく真っ直ぐ飛ぶと。
もう少し技術改新すれば、今度こそ真円にし、ライフリング加工なんかも出来ればとは思う。
まぁ中々難しいだろうけど。
◆
ここは宇摩郡内だが、土佐にも近く、現在も高知県の県境である新宮村だ。
だが、実際の郡代は喜多郡の有力者、宇都宮何某が治めている地なのだとか。
ただ、山の中の山。故にその宇都宮何某の支配も届かず、ひっそりした村だ。
ここに、静樹と助六と来ている。何をしに来たのかって?ここは既に長宗我部の手が届く場所だ。
現に、村人によっては長宗我部が殿様だとか、宇都宮様だとか、河野様だとか、色々とバラバラな、複雑な地域である。
そこで養蚕をしているという情報をキャッチしたのだ。
話の出所は、ここよりもう少し内陸側にある中曽根村という村で、そこの村人から、
『たまに絹糸と米を交換するんです』
と聞き、わざわざ山登りをしたわけだ。
信長に啖呵を切ってリュックサックをプレゼントするんじゃなかったと思う、今日この頃。
「ここを治めている者は誰だ?」
「アッシが村を統括しております。新宮行房と申します」
「その恰幅や良し。見るに、中々贅沢な暮らしをしているのじゃないのか?」
「いえいえ。そのような事はございません」
「ほぅ? 川之江城、川之江浦郡代、山岡尊だ。
ちなみに忖度なく答えろ。手打ちなどにはせん。
お前の殿は誰だ?」
「……」
「答えにくいか。ならオレから言ってやる。
オレの大殿は名目上は河野何某だ。名前は正直知らん。
だが河野家の家臣に先日なった。
だが、オレが護るべき人は妻鳥友春様という方だ。
お前も答えろ。長宗我部か?
オレがお前の立場なら、同じ様になっているかもな」
「そんな滅相もございま……」
「眠たい事を言うな。
何も今からオレがここを治め、税を取り立てるなどとは言わん。
ただ、お前達が行っている養蚕に興味がある。
よくこんな山奥で知っていたな」
「我が新宮氏は紀伊の出でして。熊野三山を崇拝しております。
これは先祖から伝えられた技にございます」
「そうか。野生のクワコから良い個体だけを選び、交配させ、今に至るだろう?」
「な、何故それを!?」
「そのくらいは知っている。少しは信用しろ。その技を教えろなどとは言わない。取り引きがしたいだけだ。お前は中曽根村に、その絹糸を卸しているだろう?中曽根村は明確に川之江城の支配内だ。別にそれが駄目だとは言わん。お前達も食わなければ生きていけないだろう?」
「な、なら何を……」
「簡単な事だ。お前の独立はオレが独断で一任してやる。オレの殿にも手出しはさせん。長宗我部にも売っているだろう?
話した感じ、お前には強かさがある。別にそこも咎めん。そうでもしなければ、ここで暮らすのはしんどいだろう。
領主を自認するならば、それくらいでなければならない」
「……で、何をさせるおつもりで?」
「その絹糸を内陸にも売りたくないか?オレが買ってやる。長宗我部の倍は出してやる」
「額をお伝えしていませんが?」
新宮は黙ったまま、こちらの顔ではなく、荷車と静樹の手元を見ていた。
「ふん。舐めるなよ。オレは長宗我部のようなケチくさい男じゃない。オレ一人で、長宗我部家全ての銭より持っている」
ここでオレの《覇圧》が点滅する。
「……ぬっ」
「すまんな。脅すつもりではない。お前が吹っ掛けるなら、吹っ掛けてきても良い。
オレが長宗我部にいくらで売っているかなど、調べようがないからな。
で、いくらだ?
手持ちの銭は少ないが、ここに、米俵を――」
オレが偉そうに言いながら後方を見る。
助六に荷車を引かせていたわけだが――
「きゃっ! 助六様ったら! も~う!」
「お、おぅ……御婦人! 暫し待たれよ!今は殿のお付きで……」
馬鹿助六は村の女とキャッキャしてやがる。
何であんな奴がモテるのか!
羨ま……けしからん!
「助六ッッッ!!!なーにをそこで遊んでいるのだ!米は! 荷車はどこだ!!!
それと何をして、遊んでいたのか、後で事細かく教えろッ!!!」
「と、殿! 違うのです!こ、米はここに!」
「チッ。覚えておけ。
おぅ、新宮殿。すまんな。配下が遊んでいたようだ。
ここに米が、とりあえず三俵と、オレの支配領内で最近流行りつつある、みたらし団子だ。
それと塩漬け乾燥肉。それから、これはプリンという甘味だ。
この甘味に関しては、今日中に食べてくれ。日持ちしない。
ちなみに、これらは挨拶代わりだ。受け取れ。
後日、オレの配下達に演習を兼ねて、ここに銭を持って来よう。どうだ?」
「な、な、何ですかこれは!? 見た事がありません!」
「だろうな。オレが作った。正確には、妻の静樹がだがな」
「えぇ。私が作りました。新宮様。
夫である尊様は、口こそ強いですが、根は優しく、味方になる方には最後まで面倒を見る方ですよ?
どうか一考、お願い致しますね?」
「我が新宮家の先祖は、かつて朝廷に絹糸で作った服を献上し、時の帝も気に入っていたと伝えられている!
紆余曲折あり、今は私は伊予国に居りますが、この技を腐らせたくない!
長宗我部は銭は払うが、たった半々結しか渡さない!
足元を見やがる!」
「そうか。なら下界に来るか?
オレの領内で、新宮村の者が交代で商いする許可を出してやるぞ?
オレの領内では、その者が好きな物を、好きな値で売る事が出来る。
それで売れなければそれまでだが、少なからずオレは、形こそまだ見ていないが、寝着に絹糸の服を着てみたいと思うぞ。
二結。ここに置いておく。
お前の心意気を、次に来た時に配下に聞かせろ」
オレは渋い顔のまま、そう言っているが、内心では息切れを我慢しているだけだ。
新宮が勝手に何を思ったかは知らないが、結果オーライとなった。
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