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里帰り

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ルーナは落ち込んでいた。

「ルーン。」

離宮を訪れたキースとルーナは目を合わせた瞬間、強い抱擁を交わした。
三月の間にキースはすっかりやつれており、少し痩せたかのようだった。

「キース様、お会いできて嬉しいです。」

ルーナは満面の笑みを浮かべ、キースの右腕に寄り添った。
そして二人はルーナの自室に入ると、ソファー並んで腰掛けた。

「ルーン。離宮で不便はなかったかい?」
「そう…ですね。」

ルーナはセイラの不健全な言動が頭に浮かんだが、兄のキースにはとても言えなかった。

「キース様。もうすぐ私も王城へ戻れますか?」

ルーナはキースの両手を取り、見上げて言った。
キースの端正な顔立ちをルーナはうっとりと見つめた。
しかしキースの表情は暗く、いつもより低い声でルーナに言うのだった。

「そのことだが、ルーン。大事な話があるんだ。」
「キース様?それは前に話そうとしていたことですか?」

キースはルーナの問いに返答はしなかった。
珍しく真剣なキースの表情に、ルーナは速くなる鼓動を感じ、胸を抑えていた。

「ルーン。私と離婚してくれないか?」
「…離婚ですか?」
「あぁ。」
「キース様、離婚の理由を聞いてもいいですか?」

キースの突然の宣告に、ルーナは目の前が真っ暗になるのを感じた。
そしてしばらく沈黙が続いた後、キースは重々しく口を開いて言った。

「…ルーンにはこの国の王妃になって欲しくないんだ。」
「そうですか…。」

キースの言葉にルーナは俯き、目頭が熱くなり涙が落ちそうになるのを必死に堪えた。
ルーナはふと昨日セイラから言われた言葉を思い出し、不安が煽りまた落ち込んだ。

そして近いうちに国王となるキースの発言を覆すことはできないだろうとルーナは思ったが、一か八かの思いでキースに提案をしたのだった。

「キース様。少し実家に帰って、考えさせていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、構わない。ただ…これからのこともあるし、一月で答えを出してもらってもいいかい?」
「…分かりました。」

ルーナが恐る恐る顔を上げるとキースは目を逸らし、窓の向こうを見ていた。
窓の向こうの空は晴天だった。
三月も待ちに待ったこの日に、キースから離婚を持ちかけられるとは、ルーナは夢にも思っていなかった。


ルーナはそのまま身体一つで、実家に里帰りをした。
ルーナの両親は会うなりルーナを強く抱きしめると、キースに対して激しく憤慨していた。

「こんなことになるんだったら、ルーナをキース様の嫁に出すんじゃなかった。」
「ちょっと見直していたのに。結局、碌でもない王子だったわ。」
「もう絶対ルーナをこの家から出さないからな。」
「お父様、お母様落ち着いてください。」

今にも王城に抗議に向かいそうな両親を、ゼロの嫁が必死に止めていた。
ルーナは両親に言葉を返す元気もなく、傷心のまま自室に篭った。

ルーナは一日中ベッドに寝込み、涙を流していた。
家族や馴染みの臣下たちが必死で励ましたが、ルーナはなかなか立ち直ることができなかった。


そしてルーナが里帰りして一週間が経った頃、ルーナはソラの誘いを受けてようやく外に出たのであった。

「ルーナ様、今日は好きだったお店に行きましょう。」

ルーナはソラから故郷の小さな街に連れ出された。
ルーナが故郷にいた頃好きだった飲食店や雑貨屋などに、ソラはルーナを連れて行ったのであった。
ルーナは懐かしい気持ちが溢れ、少しだけ気が紛れていた。

そしてソラはルーナを街外れの花畑に案内した。
花畑では春の花が咲き乱れていたが、ソラはフリージアの花を束にしてルーナに渡すと、地面に片膝を突いて言った。

「ルーナ様、私とこのまま二人で街から出ませんか?」

ルーナは、ソラの想定外の発言に目を丸くした。

「落ち込んだルーナ様の隙を狙ったようで申し訳ありません。しかし、ルーナ様とまた再会できたらもうこの気持ちを我慢しないと決めていたんです。」
「ソラ…?」
「初めて会った時から、ずっとお慕いしていました。ルーナ様のことは私が幸せにします。私の故郷で一緒に暮らしませんか?小さな村ですが村民は優しいですし、私が一生ルーナ様をお守りします。」

そう告白したソラの目は真剣であった。
ルーナはソラの熱い告白に胸が締め付けられたが、もう自分の心は決まっていた。

「…結婚する前の私であれば、迷わずソラの胸に飛びついていたでしょう。でももう私の心はキース様に奪われてしままったわ。」
「…キース様を愛してるんですか?」
「ええ。どうしても、キース様と一緒にいられる方法をずっと考えている自分がいるの。」

ルーナはそう話すと跪き、ソラと目線を合わせて言った。

「ソラ、ごめんなさい。でもとても嬉しかったわ。」

ルーナはとびきりの笑顔でそう言うと、フリージアの花束を胸に抱えその香りに気持ちを馳せた。

ー答えはとっくに決まっていた。素直にキース様と向き合わないと。例えキース様から拒絶されようと、誠実に愛していることを伝えたい。

ソラのおかげで本心に気付けたルーナだったが、ルーナは高熱に苦しむことになってしまう。


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