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救ってくれた人
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離れに追いやられた私たちの生活は、決して静かで穏やかなものではなかった。
狭い居宅の中で、泣き声や悲鳴が響くことがあった。
それはサラから発せれたものだった。
サラは私と全く会うことなく、部屋に一人引きこもっていた。
産まれて1年が経ち、歩けるようになった私は今日もウェルの目を盗んで、サラの部屋の前にいた。
子供ながらにも、精神が壊れてしまったサラのことが心配だったのだ。
しかしサラの部屋からは、怒声と物音が聞こえてきており、とても不穏だった。
私は激しい恐怖を感じ自室に戻ろうとした時、勢いよくドアが開いた。
サラは部屋から出た途端、床にしゃがみ込むと、声を震わせて言った。
「…ルーナ、なの?」
すっかりやつれて痩せ細ったサラは、お腹を抱えていた。
サラのお腹は膨れていた。
「ルーナ。ダメなお母さんで本当にごめんなさい。」
サラはそう言うと床にうなだれ、大粒の涙を流していた。
私がサラの下に駆け寄ろうとした瞬間、サラは部屋から現れた青年に背中を思い切り蹴られていた。
「本当、お前みたいな母親の下で産まれる子供たちは不憫だよな。話は終わってないだろ。逃げるな。早く部屋に入れ。私を煩わせるな、穢れた女が。」
恐ろしい血相でサラを貶した青年は、絵画でしか見たことがないジョセフだった。
ジョセフは私を睨みつけると、サラの長い髪の毛を引っ張って引きずり、二人部屋に戻っていった。
そしてまた家中に怒声が響き渡り始めた。
私は激しい鼓動を感じ、立ち尽くした。
「ルーナ様、ここにいたんですか。早く、部屋に戻りましょう。」
幸いウェルがかけつき、私は抱き上げられると足早に部屋に戻って行った。
そして安堵した私に、ウェルが小声で呟いたのは驚愕の事実だった。
「臨月まもない妊婦に中絶しろとは、酷すぎます。伯爵様が無理矢理奥様を犯したのに。」
最初サラの姿を見た時は、何か悪い病気に罹っているのだと思っていた。
それがまさか妊娠をしていて、しかも兄の子を孕ってるなんて。
最愛の夫を亡くしたばかりのサラを襲った悲劇を思い浮かべ、私の心は張り裂けそうだった。
そして数日後の深夜、サラは産気付いたが、赤子の泣き声は一度も聞こえなかった。
そんな悪夢から、6年が経った。
ウェルはあれからすぐにジョセフから解雇されてしまった。
私はサラと数名のメイドと離れで暮らした。
サラは半年かけて部屋の外に出られるようになった。
しかし今でも夜になると、発狂することがあった。
そして私に執着するようになり、私を離れから一歩も出さず、過干渉に扱った。
時々心が疲弊し、この家からー母から逃げ出したくなる時があった。
そんな私を救ってくれたのは、政略結婚としてジョセフがあてがった婚約者のソラだった。
「ルーナ、会えて嬉しいよ。」
侯爵家の嫡男であるソラは、私より年が10個も離れていた。
学業や家業の手伝いの合間で週に一回は、ソラは私に会いに来てくれた。
ソラは私に会うといつも包み込むように抱きかかえてくれた。
ソラはとても優しい人で、私の不満や鬱憤をいつも最後まで聞いてくれた。
幼すぎる婚約者を大事にしてくれる穏やかなソラの存在は、私のただ一つの希望だった。
結婚するまでの年月が、本当に待ち遠しかった。
そして私は7歳になった頃から、ソラに連れられて社交パーティーに行くことを兄から許された。
社交パーティー自体は貴族同士の騙し合いでつまらないものだったが、馬車に乗って家から出ることは私にとって唯一の気分転換になっていた。
しかし私が外に出るようになってから、サラの体調が明らかに悪くなった。
サラはだんだん、部屋から出てこないことが多くなっていた。
そして夏の終わり、また悪夢が訪れた。
私がソラと交遊会から戻ると、離れは炎に包まれていた。
「お母様、お母様は?」
私が取り乱し燃え盛る炎の中に行こうとするのを、ソラに後ろからしっかりと抱きしめられ止められた。
肉が焼けるような匂いがして、恐怖で気を失いそうだった。
そして顔馴染みのメイドが逃げ助かったようで、近くで話しているのを私は聞いてしまった。
「死ぬかと思いました。奥様が火を付けたんです。」
なんとなく嫌な予感はしていたが、私は目の前が真っ暗になった。
「ルーナ、ルーナ!」
そして、決して忘れられない前世の最期がを思い出した。
私は呼吸が荒くなりその場に倒れ意識を失った。
そして数日後、私が目を覚ました時は本宅にいた。
大好きなソラの姿はなく、独り心細かった。
医者の診察が終わると、私の下にやって来たのはジョセフだった。
「ふっ。命拾いしたな。」
私はこんなに間近でジョセフの顔を見るのが初めてだった。
「サラは死んだよ。お前が巻き添えにならなくて、本当に良かったよ。お前は私の大事な道具なんだから。」
ジョセフはそう言うと、不謹慎にも程がある。
声を出して笑っていた。
私はジョセフを睨みつけると、唇を噛み、拳に力を込めていた。
そしてジョセフは信じられない言葉を吐いて、部屋から出て行った。
「お前の母親は、二度も私の子を殺した罪深い女だ。そんな女から生まれたお前も幸せになれると思うなよ?」
狭い居宅の中で、泣き声や悲鳴が響くことがあった。
それはサラから発せれたものだった。
サラは私と全く会うことなく、部屋に一人引きこもっていた。
産まれて1年が経ち、歩けるようになった私は今日もウェルの目を盗んで、サラの部屋の前にいた。
子供ながらにも、精神が壊れてしまったサラのことが心配だったのだ。
しかしサラの部屋からは、怒声と物音が聞こえてきており、とても不穏だった。
私は激しい恐怖を感じ自室に戻ろうとした時、勢いよくドアが開いた。
サラは部屋から出た途端、床にしゃがみ込むと、声を震わせて言った。
「…ルーナ、なの?」
すっかりやつれて痩せ細ったサラは、お腹を抱えていた。
サラのお腹は膨れていた。
「ルーナ。ダメなお母さんで本当にごめんなさい。」
サラはそう言うと床にうなだれ、大粒の涙を流していた。
私がサラの下に駆け寄ろうとした瞬間、サラは部屋から現れた青年に背中を思い切り蹴られていた。
「本当、お前みたいな母親の下で産まれる子供たちは不憫だよな。話は終わってないだろ。逃げるな。早く部屋に入れ。私を煩わせるな、穢れた女が。」
恐ろしい血相でサラを貶した青年は、絵画でしか見たことがないジョセフだった。
ジョセフは私を睨みつけると、サラの長い髪の毛を引っ張って引きずり、二人部屋に戻っていった。
そしてまた家中に怒声が響き渡り始めた。
私は激しい鼓動を感じ、立ち尽くした。
「ルーナ様、ここにいたんですか。早く、部屋に戻りましょう。」
幸いウェルがかけつき、私は抱き上げられると足早に部屋に戻って行った。
そして安堵した私に、ウェルが小声で呟いたのは驚愕の事実だった。
「臨月まもない妊婦に中絶しろとは、酷すぎます。伯爵様が無理矢理奥様を犯したのに。」
最初サラの姿を見た時は、何か悪い病気に罹っているのだと思っていた。
それがまさか妊娠をしていて、しかも兄の子を孕ってるなんて。
最愛の夫を亡くしたばかりのサラを襲った悲劇を思い浮かべ、私の心は張り裂けそうだった。
そして数日後の深夜、サラは産気付いたが、赤子の泣き声は一度も聞こえなかった。
そんな悪夢から、6年が経った。
ウェルはあれからすぐにジョセフから解雇されてしまった。
私はサラと数名のメイドと離れで暮らした。
サラは半年かけて部屋の外に出られるようになった。
しかし今でも夜になると、発狂することがあった。
そして私に執着するようになり、私を離れから一歩も出さず、過干渉に扱った。
時々心が疲弊し、この家からー母から逃げ出したくなる時があった。
そんな私を救ってくれたのは、政略結婚としてジョセフがあてがった婚約者のソラだった。
「ルーナ、会えて嬉しいよ。」
侯爵家の嫡男であるソラは、私より年が10個も離れていた。
学業や家業の手伝いの合間で週に一回は、ソラは私に会いに来てくれた。
ソラは私に会うといつも包み込むように抱きかかえてくれた。
ソラはとても優しい人で、私の不満や鬱憤をいつも最後まで聞いてくれた。
幼すぎる婚約者を大事にしてくれる穏やかなソラの存在は、私のただ一つの希望だった。
結婚するまでの年月が、本当に待ち遠しかった。
そして私は7歳になった頃から、ソラに連れられて社交パーティーに行くことを兄から許された。
社交パーティー自体は貴族同士の騙し合いでつまらないものだったが、馬車に乗って家から出ることは私にとって唯一の気分転換になっていた。
しかし私が外に出るようになってから、サラの体調が明らかに悪くなった。
サラはだんだん、部屋から出てこないことが多くなっていた。
そして夏の終わり、また悪夢が訪れた。
私がソラと交遊会から戻ると、離れは炎に包まれていた。
「お母様、お母様は?」
私が取り乱し燃え盛る炎の中に行こうとするのを、ソラに後ろからしっかりと抱きしめられ止められた。
肉が焼けるような匂いがして、恐怖で気を失いそうだった。
そして顔馴染みのメイドが逃げ助かったようで、近くで話しているのを私は聞いてしまった。
「死ぬかと思いました。奥様が火を付けたんです。」
なんとなく嫌な予感はしていたが、私は目の前が真っ暗になった。
「ルーナ、ルーナ!」
そして、決して忘れられない前世の最期がを思い出した。
私は呼吸が荒くなりその場に倒れ意識を失った。
そして数日後、私が目を覚ました時は本宅にいた。
大好きなソラの姿はなく、独り心細かった。
医者の診察が終わると、私の下にやって来たのはジョセフだった。
「ふっ。命拾いしたな。」
私はこんなに間近でジョセフの顔を見るのが初めてだった。
「サラは死んだよ。お前が巻き添えにならなくて、本当に良かったよ。お前は私の大事な道具なんだから。」
ジョセフはそう言うと、不謹慎にも程がある。
声を出して笑っていた。
私はジョセフを睨みつけると、唇を噛み、拳に力を込めていた。
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