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二度目の生の始まり
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窓からの朝日が眩しい。
重たい瞼を開けると、私はぼやける視界の中で、天竺のついた豪勢なベッドに横たわっていると分かった。
『あれ、私死んだんじゃ…。』
あれは夢なはずがない。
最後に見た風景は、身体中が炎に包まれていた。
剣で右胸を刺された一撃で、私は絶命したはずだった。
『…指が小さい。身体がうまく動かせない。私、赤ちゃんになっている?もしかして、生まれ変わったの?』
自分の姿が赤子だと気付いても、意外と心は落ち着いていた。
しかし頭の中は、しっかりと覚えていた。
急所を刺傷された激しい痛みと遠のく意識、そして愛する人に裏切られた苦しみを。
「ふぇっ。ふぇぇん。えーん。」
しばらくして心が堪えきれず、声を出して泣いた。
するとすぐに足音が聞こえて、二人の女性が私の前に現れた。
「あら。さっきミルクをあげたばかりなのに。どうしたのかしら。」
「奥様、寂しくなったのかもしれませんね。抱っこしますね。」
私はおくるみに包まれると、乳母と思われる中年の女性に慣れた手つきで抱き上げられた。
優しく暖かい温もりを感じ、私が泣き止み、二人の姿を見つめた。
乳母の隣にいたまだ少女と言える年頃の母親だろう女性は、私の頭を優しく撫でて囁いた。
「あぁ、可愛いルーナ。もう、大丈夫だからね。」
愛くるしい母親の声はやけに心地よくて、私はゆっくりと目を瞑った。
ー心が癒える間もなく、また新しい生に産まれてしまった。
第二の生に気付いた時はまだ、生きることに絶望はしてなかった。
一度目の人生は、敵国の王子と恋に落ちて裏切られて21才で絶命する以外は、恵まれていたと思う。
大陸の小さな国ーアルザスの王家の一人娘として産まれた前世の私は、手厚く大切に育てられた。
そして18才になると、病弱な父王の代わりに女王になった。
小さい国だけれども、有能で信頼できる重臣と共に、国民のために謙虚に国を築いていた。
私の一回目の人生の落ち度は、敵国の王子と恋に落ちたことだっただろえ。
隣の大国ゼウスから、不可侵条約の人質として王城に囚われた第二王子がいた。
王城に囚われてるとはいえども、城内での自由を許されたアランと私は年が近く、まるで兄弟のように育った。
いつしか私たちが互いに恋慕の情を抱くようになった頃、ゼウスは領地を広げようとアルザスへ攻撃を始めた。
戦争が始まって間も無く、私は両親を流行病で相次ぎ亡くした。
いつしか1番側にいてくれるアランだけが、心の拠り所になっていた。
人質のアランを匿い恋に溺れた女王の姿を見た重臣からは信頼も離れ、国民からの人気も途絶えていった。
アルザスは元々軍事力が弱かった。
国内の統率の乱れた中での戦争は長くは続かなかった。
敗戦間近になり、私は死を覚悟して籠城しようとしていた。
しかしアランから一緒に、ゼウスに逃亡することを持ちかけられた。
私は迷ったが、国を捨てることを決意した。
そして城外の街で、私を待っていたのはアランではなくゼウスの軍だった。
生まれ変わってからだんだん心が落ち着いてきた私は、一度目の人生を冷静に振り返っていた。
『アランはあれからどうなったのか?本当に裏切りだったのか?』
しかし不思議と、アランへの憎しみや復讐の気持ちは湧いてこなかった。
禁じられていた恋だとしても、私はアランを本当に愛していた。
アランへの募る想いは、生まれ変わっても消えることはなかった。
私ははようやく絶命してから100年後のゼウスの国に生まれ落ちていた。
しかも貴族、伯爵家の長女として。
そもそもなぜ前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまったのだろう。
過去に浸って憶測をしようとも、穏やかな毎日は続かなかった。
二度目の生を受けて、一月ほど経った時だろうか。
その日の城内は、私でも気付くくらい騒がしかった。
そしてお腹が空いて泣く私の下に、乳母ウェルと母親のサラが現れた。
私を抱えるウェルの隣で私を見つめるサラの顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうだった。
私を見つめるサラの目は涙が溢れていて、震える声でサラは言った。
「あのね。ルーナ、貴方のお父様が死んでしまったの。」
レスト伯爵は多忙ながらも時々、サラと共に私の顔を見に来てはあやしに来てくれた。
レスト伯爵は愛情が溢れて、温厚な人物だった。
いつも仲良さそうにサラと寄り添っており、夫婦仲は良好だったのだろう。
サラの悲しみは計りきれなかった。
それからサラは落ち込んでいるのか、私の下に来ることは減っていった。
レスト伯爵の死因について不穏な噂が乳母の周りにも広がり、私は必然にも知ることとなった。
レスト伯爵は暗殺されていたのであった。
伯爵家は、私と15才離れた兄のジョセフが継ぐことになった。
私はジョセフの顔を一度も見たことがなかった。
ジョセフが爵位を継いでから城内の雰囲気は大きく変わった。
私やサラの住まいは、離れに移ることとなった。
ジョセフは冷酷で容赦ない人物だとの噂が私にも聞こえて来た。
レスト伯爵の死は、悲しみの連鎖の始まりだった。
重たい瞼を開けると、私はぼやける視界の中で、天竺のついた豪勢なベッドに横たわっていると分かった。
『あれ、私死んだんじゃ…。』
あれは夢なはずがない。
最後に見た風景は、身体中が炎に包まれていた。
剣で右胸を刺された一撃で、私は絶命したはずだった。
『…指が小さい。身体がうまく動かせない。私、赤ちゃんになっている?もしかして、生まれ変わったの?』
自分の姿が赤子だと気付いても、意外と心は落ち着いていた。
しかし頭の中は、しっかりと覚えていた。
急所を刺傷された激しい痛みと遠のく意識、そして愛する人に裏切られた苦しみを。
「ふぇっ。ふぇぇん。えーん。」
しばらくして心が堪えきれず、声を出して泣いた。
するとすぐに足音が聞こえて、二人の女性が私の前に現れた。
「あら。さっきミルクをあげたばかりなのに。どうしたのかしら。」
「奥様、寂しくなったのかもしれませんね。抱っこしますね。」
私はおくるみに包まれると、乳母と思われる中年の女性に慣れた手つきで抱き上げられた。
優しく暖かい温もりを感じ、私が泣き止み、二人の姿を見つめた。
乳母の隣にいたまだ少女と言える年頃の母親だろう女性は、私の頭を優しく撫でて囁いた。
「あぁ、可愛いルーナ。もう、大丈夫だからね。」
愛くるしい母親の声はやけに心地よくて、私はゆっくりと目を瞑った。
ー心が癒える間もなく、また新しい生に産まれてしまった。
第二の生に気付いた時はまだ、生きることに絶望はしてなかった。
一度目の人生は、敵国の王子と恋に落ちて裏切られて21才で絶命する以外は、恵まれていたと思う。
大陸の小さな国ーアルザスの王家の一人娘として産まれた前世の私は、手厚く大切に育てられた。
そして18才になると、病弱な父王の代わりに女王になった。
小さい国だけれども、有能で信頼できる重臣と共に、国民のために謙虚に国を築いていた。
私の一回目の人生の落ち度は、敵国の王子と恋に落ちたことだっただろえ。
隣の大国ゼウスから、不可侵条約の人質として王城に囚われた第二王子がいた。
王城に囚われてるとはいえども、城内での自由を許されたアランと私は年が近く、まるで兄弟のように育った。
いつしか私たちが互いに恋慕の情を抱くようになった頃、ゼウスは領地を広げようとアルザスへ攻撃を始めた。
戦争が始まって間も無く、私は両親を流行病で相次ぎ亡くした。
いつしか1番側にいてくれるアランだけが、心の拠り所になっていた。
人質のアランを匿い恋に溺れた女王の姿を見た重臣からは信頼も離れ、国民からの人気も途絶えていった。
アルザスは元々軍事力が弱かった。
国内の統率の乱れた中での戦争は長くは続かなかった。
敗戦間近になり、私は死を覚悟して籠城しようとしていた。
しかしアランから一緒に、ゼウスに逃亡することを持ちかけられた。
私は迷ったが、国を捨てることを決意した。
そして城外の街で、私を待っていたのはアランではなくゼウスの軍だった。
生まれ変わってからだんだん心が落ち着いてきた私は、一度目の人生を冷静に振り返っていた。
『アランはあれからどうなったのか?本当に裏切りだったのか?』
しかし不思議と、アランへの憎しみや復讐の気持ちは湧いてこなかった。
禁じられていた恋だとしても、私はアランを本当に愛していた。
アランへの募る想いは、生まれ変わっても消えることはなかった。
私ははようやく絶命してから100年後のゼウスの国に生まれ落ちていた。
しかも貴族、伯爵家の長女として。
そもそもなぜ前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまったのだろう。
過去に浸って憶測をしようとも、穏やかな毎日は続かなかった。
二度目の生を受けて、一月ほど経った時だろうか。
その日の城内は、私でも気付くくらい騒がしかった。
そしてお腹が空いて泣く私の下に、乳母ウェルと母親のサラが現れた。
私を抱えるウェルの隣で私を見つめるサラの顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうだった。
私を見つめるサラの目は涙が溢れていて、震える声でサラは言った。
「あのね。ルーナ、貴方のお父様が死んでしまったの。」
レスト伯爵は多忙ながらも時々、サラと共に私の顔を見に来てはあやしに来てくれた。
レスト伯爵は愛情が溢れて、温厚な人物だった。
いつも仲良さそうにサラと寄り添っており、夫婦仲は良好だったのだろう。
サラの悲しみは計りきれなかった。
それからサラは落ち込んでいるのか、私の下に来ることは減っていった。
レスト伯爵の死因について不穏な噂が乳母の周りにも広がり、私は必然にも知ることとなった。
レスト伯爵は暗殺されていたのであった。
伯爵家は、私と15才離れた兄のジョセフが継ぐことになった。
私はジョセフの顔を一度も見たことがなかった。
ジョセフが爵位を継いでから城内の雰囲気は大きく変わった。
私やサラの住まいは、離れに移ることとなった。
ジョセフは冷酷で容赦ない人物だとの噂が私にも聞こえて来た。
レスト伯爵の死は、悲しみの連鎖の始まりだった。
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