3 / 15
会いたかった人
しおりを挟む
明人と別れて、二年半。
美結は忘れられない、辛かった明人との最後の記憶が蘇り、胸はきつく締め付けられていた。
二人が見つめ合いどちらともなく触れ合おうとした瞬間、いきなり自室のドアが勢いよく開いた。
「感動の再会だった?」
「もうお母さん!あきが来てるなら、そう言ってよ!!」
「美結が急いで部屋に行くからじゃない。ママ言おうとしたわよー。」
フリフリのエプロンを着た美結の母は、密室で久しぶりに会った二人を見つめてにやにやしていた。
「あきもなんで私の部屋にいるのよ!」
「ごめん…つい。」
「ほら、感動の再会が終わったらご飯作るの手伝ってよー美結。あっ、あっちゃんは気にせず。ここでゆっくりしててね。」
「いやここ私の部屋だから!あき、着替えるから出てって。」
先程の緊張感漂う甘い雰囲気をすっかり消え去っていた。
美結は明人の背中を押すと母と共に部屋から追い出した。
自室にやっと一人になった美結は、全身の力が抜けてドアの下で足をすくめて床に座った。
ーもう好きじゃない、すっかり吹っ切れたと思っていたはずなのかな。
自室まで、母と明人の楽しそうな笑い声が響いて聞こえてきた。
まだ二人の下に行くのは気が重すぎて、美結はしばらく部屋にこもっていた。
数十分して、美結の携帯にラインの着信音が鳴った。
相手は陸だった。
”今日早く部活終わったから、今から行くね。"
"うん。ねぇ、あきが戻ってくるって陸知ってた?"
"ごめん、知ってた。"
美結と明人が別れて間もなく明人がいきなり転校してから、陸との会話の中で明人の話題が出ることは今日まで一度もなかった。
ー陸は頻繁に連絡を取っていたのかな。ただ私には言わなかっただけで。
美結は自分だけが知らなかったことに、さすがに仕方ないのだけど一人寂しい気持ちになっていた。
そこにまた自室のドアが勢いよく開いて、美結は思わず部屋の角に逃げ込んだ。
「お姉ちゃんー、下来ないの?お母さん怒ってるよ。」
「紗夜。」
それは大きな鞄を背負ってセーラ服に短い丈のスカートを履く、中学三年生の妹ー紗夜だった。
紗夜は先に下で明人に会って母から話を聞いたのか、母のような表情で美結を見ている。
「何よ。」
「…ふっ。別に。明兄かっこよくなってたね。」
「そうだね。」
「私さー、よくお姉と顔似てるって言われるのにな。お姉は選り取りみどりでいいよね。」
「…紗夜!」
ちょうど思春期真っ只中で姉の美結には特に反抗的な紗夜は、美結にそう言い捨てて軽く睨むと部屋から出ていった。
小生意気な妹の一言は、美結の心に追い討ちをかけるようだった。
「もう!なんで今日が誕生日なのよ。」
そして美結はもう悩んでいてもしょうがないと諦め、 大きい足音を立てながらリビングに向かった。
リビングでは母と明人がソファーで並んで座りコーヒーをすすり、仲良く会話をしていた。
小さい頃から人懐っこい明人は母の大のお気に入りであった。
「美結、ママ今あっちゃんと休憩中ね。」
「見れば分かりますーっ。」
美結は少女の心を忘れない年の割には可愛い母をどこか憎めなかった。
作りかけのスポンジケーキに、美結は硬くなっていた生クリームをコーティングした。
美結は他にも黙々と母の途中の料理を仕上げていた。
そしていつの間にか陸が家に来ていて、昔と変わらず明人と楽しく話をしているのを美結は横目で見ていた。
この二年間の明人と陸の関係が美結は気になるところだったが、本人達に聞くのも怖かった。
そして終始何か言いたげの紗夜の視線に美結はひたすら耐えた。
しばらくして会社から早々に帰ってきた父も加わり、紗夜の誕生日パーティーは開催された。
そして極めて余計なことを誰も言わず、穏便に紗夜の誕生日パーティーは幕を閉じた。
「お邪魔しました、ご馳走様でした!」
「明人くんいつでも遊びに来てな。陸くんも気をつけて。」
「はい。美結、また明日ね。」
「陸ありがとう。二人とも気をつけてね」
美結は安堵しており、終始笑顔で陸と明人に手を振り見送った。
そして二人の姿が見えなくなった時、小走りにバスルームに直行し長風呂をした。
美結は幸運にも家族の質問攻めからは回避できた。
帰り道、陸は自転車を引きながら明人と歩いていた。
陸は明人と連絡を取っていたが、隣県に引っ越した明人と遊ぶ機会もなく、数ヶ月に一回近況を報告する仲であった。
明人は懐かしい故郷の風景に興奮しており、三人で行った場所を見ては思い出話をしていた。
「よく、あの駄菓子屋に三人で行ったよな。みゆ、くじ運悪くてさ、アイスでもなんでもいつもハズレ。俺らがアタリを当ててみゆにやっても、負けず嫌いだから受け取ってくれなかったよな。」
「そうだったねー、でも今はもう駄菓子屋のばあちゃん施設に入っちゃってさ。あそこもう誰もやってないんだよ。」
「そっか。たった二年ちょっとなのに、故郷が変わらないことなんてないんだな。」
懐かしい故郷の風景にはしゃいでいた明人だったが、少し悲観的になり声のトーンを落として言った。
「なぁ、みゆの後ろのの奴。たしか山本って奴、陸は知ってる?」
「山本工のこと?」
「そう。みゆとあいつ仲良いの?」
「あー、美結の元彼だよ。」
陸は明人に、二人の近況報告でも美結のことを話すことはなかった。
しかし美結と工のことは校内で知っている人が多くいつか明人も知る事実であろうと、陸は隠しはしなかった。
「は?いつの?」
「確か、中学三年の夏?」
明人は驚いて動揺しており、声を上げた。
しかし明人は教室で遠目で見た二人の様子では、美結が工に心を開いてるのを感じていた。
まるで無邪気にじゃれ合っているかの二人が、以前付き合っていたとしてもおかしくはなかった。
「ふーん、みゆ今彼氏はいるの?」
「いないよ。」
「へー。いそうだけどな、普通に!」
明人は軽い口調でまるで全く気にしていないと装うような態度で、すぐに話題を変えた。
陸は明人が今も美結をどう思っているのかー、いまいち掴めなかった。
陸は幼い頃からずっと、美結が好きだった。
高校に入ってから別に二人の間に特別な何かがあったわけでもないが、毎朝の二人だけの他愛ない時間が積もり積もって、幼なじみから少しずつ距離が縮まってきていると感じていた。
これから二人の関係に明人はどう影響を与えてくるのかー、陸は一抹の心配を覚えて警戒したのだった。
美結は忘れられない、辛かった明人との最後の記憶が蘇り、胸はきつく締め付けられていた。
二人が見つめ合いどちらともなく触れ合おうとした瞬間、いきなり自室のドアが勢いよく開いた。
「感動の再会だった?」
「もうお母さん!あきが来てるなら、そう言ってよ!!」
「美結が急いで部屋に行くからじゃない。ママ言おうとしたわよー。」
フリフリのエプロンを着た美結の母は、密室で久しぶりに会った二人を見つめてにやにやしていた。
「あきもなんで私の部屋にいるのよ!」
「ごめん…つい。」
「ほら、感動の再会が終わったらご飯作るの手伝ってよー美結。あっ、あっちゃんは気にせず。ここでゆっくりしててね。」
「いやここ私の部屋だから!あき、着替えるから出てって。」
先程の緊張感漂う甘い雰囲気をすっかり消え去っていた。
美結は明人の背中を押すと母と共に部屋から追い出した。
自室にやっと一人になった美結は、全身の力が抜けてドアの下で足をすくめて床に座った。
ーもう好きじゃない、すっかり吹っ切れたと思っていたはずなのかな。
自室まで、母と明人の楽しそうな笑い声が響いて聞こえてきた。
まだ二人の下に行くのは気が重すぎて、美結はしばらく部屋にこもっていた。
数十分して、美結の携帯にラインの着信音が鳴った。
相手は陸だった。
”今日早く部活終わったから、今から行くね。"
"うん。ねぇ、あきが戻ってくるって陸知ってた?"
"ごめん、知ってた。"
美結と明人が別れて間もなく明人がいきなり転校してから、陸との会話の中で明人の話題が出ることは今日まで一度もなかった。
ー陸は頻繁に連絡を取っていたのかな。ただ私には言わなかっただけで。
美結は自分だけが知らなかったことに、さすがに仕方ないのだけど一人寂しい気持ちになっていた。
そこにまた自室のドアが勢いよく開いて、美結は思わず部屋の角に逃げ込んだ。
「お姉ちゃんー、下来ないの?お母さん怒ってるよ。」
「紗夜。」
それは大きな鞄を背負ってセーラ服に短い丈のスカートを履く、中学三年生の妹ー紗夜だった。
紗夜は先に下で明人に会って母から話を聞いたのか、母のような表情で美結を見ている。
「何よ。」
「…ふっ。別に。明兄かっこよくなってたね。」
「そうだね。」
「私さー、よくお姉と顔似てるって言われるのにな。お姉は選り取りみどりでいいよね。」
「…紗夜!」
ちょうど思春期真っ只中で姉の美結には特に反抗的な紗夜は、美結にそう言い捨てて軽く睨むと部屋から出ていった。
小生意気な妹の一言は、美結の心に追い討ちをかけるようだった。
「もう!なんで今日が誕生日なのよ。」
そして美結はもう悩んでいてもしょうがないと諦め、 大きい足音を立てながらリビングに向かった。
リビングでは母と明人がソファーで並んで座りコーヒーをすすり、仲良く会話をしていた。
小さい頃から人懐っこい明人は母の大のお気に入りであった。
「美結、ママ今あっちゃんと休憩中ね。」
「見れば分かりますーっ。」
美結は少女の心を忘れない年の割には可愛い母をどこか憎めなかった。
作りかけのスポンジケーキに、美結は硬くなっていた生クリームをコーティングした。
美結は他にも黙々と母の途中の料理を仕上げていた。
そしていつの間にか陸が家に来ていて、昔と変わらず明人と楽しく話をしているのを美結は横目で見ていた。
この二年間の明人と陸の関係が美結は気になるところだったが、本人達に聞くのも怖かった。
そして終始何か言いたげの紗夜の視線に美結はひたすら耐えた。
しばらくして会社から早々に帰ってきた父も加わり、紗夜の誕生日パーティーは開催された。
そして極めて余計なことを誰も言わず、穏便に紗夜の誕生日パーティーは幕を閉じた。
「お邪魔しました、ご馳走様でした!」
「明人くんいつでも遊びに来てな。陸くんも気をつけて。」
「はい。美結、また明日ね。」
「陸ありがとう。二人とも気をつけてね」
美結は安堵しており、終始笑顔で陸と明人に手を振り見送った。
そして二人の姿が見えなくなった時、小走りにバスルームに直行し長風呂をした。
美結は幸運にも家族の質問攻めからは回避できた。
帰り道、陸は自転車を引きながら明人と歩いていた。
陸は明人と連絡を取っていたが、隣県に引っ越した明人と遊ぶ機会もなく、数ヶ月に一回近況を報告する仲であった。
明人は懐かしい故郷の風景に興奮しており、三人で行った場所を見ては思い出話をしていた。
「よく、あの駄菓子屋に三人で行ったよな。みゆ、くじ運悪くてさ、アイスでもなんでもいつもハズレ。俺らがアタリを当ててみゆにやっても、負けず嫌いだから受け取ってくれなかったよな。」
「そうだったねー、でも今はもう駄菓子屋のばあちゃん施設に入っちゃってさ。あそこもう誰もやってないんだよ。」
「そっか。たった二年ちょっとなのに、故郷が変わらないことなんてないんだな。」
懐かしい故郷の風景にはしゃいでいた明人だったが、少し悲観的になり声のトーンを落として言った。
「なぁ、みゆの後ろのの奴。たしか山本って奴、陸は知ってる?」
「山本工のこと?」
「そう。みゆとあいつ仲良いの?」
「あー、美結の元彼だよ。」
陸は明人に、二人の近況報告でも美結のことを話すことはなかった。
しかし美結と工のことは校内で知っている人が多くいつか明人も知る事実であろうと、陸は隠しはしなかった。
「は?いつの?」
「確か、中学三年の夏?」
明人は驚いて動揺しており、声を上げた。
しかし明人は教室で遠目で見た二人の様子では、美結が工に心を開いてるのを感じていた。
まるで無邪気にじゃれ合っているかの二人が、以前付き合っていたとしてもおかしくはなかった。
「ふーん、みゆ今彼氏はいるの?」
「いないよ。」
「へー。いそうだけどな、普通に!」
明人は軽い口調でまるで全く気にしていないと装うような態度で、すぐに話題を変えた。
陸は明人が今も美結をどう思っているのかー、いまいち掴めなかった。
陸は幼い頃からずっと、美結が好きだった。
高校に入ってから別に二人の間に特別な何かがあったわけでもないが、毎朝の二人だけの他愛ない時間が積もり積もって、幼なじみから少しずつ距離が縮まってきていると感じていた。
これから二人の関係に明人はどう影響を与えてくるのかー、陸は一抹の心配を覚えて警戒したのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる