true love

hina

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複雑な感情

陸の宣戦布告から間もない日のホームルームでのこと。
美結のクラスにもたった一人、球技大会に情熱をかけ燃える女がいた。

「今年こそは絶対バレー優勝するわよ。男女ともに。」

そう言って拳を上げて叫んだのは、球技大会の実行委員の海だった。
隣にいるもう一人の実行委員、隼人でさえも止められない位海は燃えていた。

「…クラス替えしてるけど大丈夫かな?」
「美結。」

クラスメイトの誰もが感じていた戸惑いを声に表してしまった美結は海に勢いよく睨まれた。
球技大会は学年問わず、トーナメント戦で行われていた。

海は中学までバレー部所属で全国大会に行った。
しかし中学三年の引退後に交通事故で大怪我をしてしまい、後遺症が残ってしまい一戦から退いていた。

しかしそれでも実力は確かで、昨年は一年生クラスチーム史上初のバレー競技準優勝を果たしていた。

「海、さすがにこれはきつくないか…。」
「黙ってて、隼人。」

そしてクラスメイト全員に海の手によって配られたハードスケジュールは驚愕のものだった。
そしてそのまま海が組んだ血反吐を吐くような練習が始まった。

しかし一人、海に抗う強者が出現した。

「ねぇ。どうして、練習に来ないわけ?」
「私…補欠でしょう?」

授業の休憩中に仁王立ちして怒鳴る海を前に、視線すら合わせずサラリと返したのは千花だった。
このやり取りは、今日まで何十回と行われたか分からない。

「優勝するためには補欠でも濵田さんがいないとダメなのよ!」
「はいはい。」

教科書をまとめ移動教室のため立ち上がった千花は、やはり海を全く相手にしていない。

「私にも大切なオーケストラの大会があるの。」

そう、千花は千花で今月末に行われる選抜オーケストラの練習に明け暮れているようだった。

どちらとも悪いとは言えないため、クラスメイトの誰もが二人の仲介はせず解決しない言い合いだった。

「…千花。今日の委員会の後さ、一緒に練習行こうぜ。練習終わったらパフェでも食べよう。」

しかし二人の仁義なき戦いに首を突っ込んだ、男子が登場した。

「…うん、分かった。一緒に行く。パフェ食べたいし。」
「じゃあ今日も委員会よろしくな!」

淡々と海に反発していた千花をまるで子犬のようにしたのは、明人だった。
そして颯爽と出ていった明人を見つめ、千花は顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。

「…なんなのあいつ。」

海は色恋で練習に参加する気になった千花に全く納得せず、仲良しグループの中で文句を言った。
そんな海を隼人は必死に宥めていたが、美結は千花の姿を見て痛む胸を抑えていた。
そんな美結の様子に気づいていたのはやはり、美結を好きな工だけだった。


「大丈夫?美結。」
「…もうダメダメ。」

放課後、工は美結を呼び出し裏庭に連れて行った。
そして工に心配された美結は顔色が悪く、頭を抱えたままベンチに座り込んだ。

美結はやっと胸の内を誰かに吐露できることにホッとし、深く溜息をついた。
美結の今にも泣きそうだった。

「何があった?」
「あのね、噂を聞いたの。」
「なんの噂?」
「明人のこと。転校してからたくさん遊んでたんだって…。彼女も取っ替え引っ替えで。だからたぶん明人はもう千花とも…。」

美結が話した噂の内容は、工でも知っていた。
噂はモテ男につきものの信憑性がないもので、漠然としていた。

それがカッコいいと思う女子も多かったが、幼なじみで初めての彼女である美結の心境は複雑だった。
そして千花とのやり取りが美結に追い討ちをかけたのだ。

「明人は、今はただのクラスメイトなのに…。」

美結はそう呟きながら、溢れていた涙が頬を伝った。
しかし工は美結を慰めるつもりはないようで、珍しく美結に対して怒っていた。

「明人はただのクラスメイトじゃなくて、元彼だろ?だったら傷付くの当たり前だよ!美結もさ、俺みたいにもっと堂々としてろよ!」
「工…。」

工の言葉にハッと我に返った美結の涙は止まった。
しかし工ほど堂々とできないから、困っているのであった。

「美結、ウジウジするなよ…。まあそこもすごく可愛いんだけどさ。」
「…そう?」
「と、とりあえず元気出せよ!ミルクティー買ってくる!すぐ戻るから待ってて。」

工はつい言い過ぎだと顔を真っ赤にしてそう言うと、美結の好きなドリンクを買いに購買部へと去っていった。
美結は呆気に取られたが、工の後ろ姿を見つめながら笑みが溢れた。

そして数分で美結の下に戻った工は、日が暮れるまで二人で他愛のない話で盛り上がり、一緒に帰宅した。

美結は明人に対する複雑な感情に、まだ名前はつけられなかった。
しかし悩んでいる気持ちを受け入れてくれる工がいることに、深く安堵した。
工にいつまでその役をやらせるのか、少し申し訳ない気持ちもあったが、美結は工の優しさにまだ甘えていたかった。


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