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クリスマスイブの悪戯
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そして本番のクリスマスイブは粉雪の混じる、都会では珍しいホワイトクリスマスだった。
正午に美結は陸といつもの公園で待ち合わせをし、街に行ってクリスマスランチを食べた。
食事の後に二人はプレゼント交換をし、そのままクリスマスで賑わう街の中を探索するつもりだった。
「人が多いね。俺の家に行かない?親達も出かけてて静かだと思う。」
陸の予定外の誘いに、美結の心臓は高鳴った。
デートすらようやくすることができた二人は手を繋ぐ以上の恋人らしいことをしたことがない。
つい美結はその以上のことを想像して顔を紅らめてしまった。
それは部活漬けで女子の扱いに慣れていない陸も照れてしまい、初々しいカップルのような二人の間にはしばらく沈黙が続いた。
「雪降ってて寒いし冷えるから、陸の家に少し上がろうかな。」
「そうだね。」
一呼吸して、答えを出したのは美結だった。
高鳴る鼓動は収まらないが、陸が相手なら安心して身を預けられるかもしれない。
そもそもその展開は考えすぎだったのかもと、美結は戸惑いを隠せなかった。
そんな二人はお互い緊張しながら手を握り、陸の家へと行った。
陸の家に入ると、陸の言う通り本当に誰もいなかった。
リビングを通り、二階の陸の部屋に招かれた美結はテーブルの前に俯きながら正座した。
陸は荷物を置くと一階のキッチンに降り、焼き菓子と暖かいホットミルクを美結に持ってきてくれた。
「温かい。ありがとうね。」
「うん。あ、なんかテレビでも見ようか?映画とか録画してあるけど、美結なんか見たいやつある?」
陸が映画鑑賞を提案したことで、美結の緊張は少しほぐれ、二人でいることに少し慣れてきた。
「うーん、これ見たかった!」
「俺もまだ見てない、見よう見よう。」
美結が選んだのは、少女漫画が原作になっている学園もののベタな恋愛映画だった。
明らかに女子高生受けを狙ってる映画に付き合ってくれる陸の優しさに美結は感謝し、二人は鑑賞を始めた。
初めは仲違いしていた主人公達が、イベントを重ねて仲を深めていく。
そして壁ドンや押し倒されたりなどキュンキュンするような要素がたくさんあり、美結はだんだん見ているのが恥ずかしくなってきた。
恐る恐る陸の方を見ると、陸も顔が赤くなっており目が合ってしまった。
「なんかすごいベタな恋愛ものでごめんね。」
「いいよ。俺も普段あんまりこういうの見ないから慣れなくて…。ねえ、美結。」
そう辿々しく話した陸だったが、いきなり美結の右頬に手を伸ばして触れた。
「口角にミルクついてる。」
そう小さく呟くと二人の顔は重なった。
唇が触れ合うほど近くなった時、美結は咄嗟に陸の胸を叩いてしまった。
「ごめん。なんか。心の準備が…。」
こうなる展開を想像してきて受け入れようと覚悟していたはずなのに、無意識の行動に美結自身酷く戸惑った。
陸が黙って少し悲しそうに俯いているのに美結は気付いてしまった。
「あ、もう16時なんだね。暗くなりそうだから、ちょっと早めに帰るね。ごめん。」
「…分かった。」
美結は映画もまだ中途半端だというのに、自ら作ってしまった気まずい雰囲気から逃げるように荷物をまとめて陸の部屋を出てしまった。
陸の家を後にしてから美結は走って、すぐ近くにある自宅の前に着いた。
「どうしてあんなことしちゃったんだろう。」
美結は陸を拒絶してしまった事実に打ちのめされ、落ち込んで顔が真っ青だった。
自宅からは家族の笑い声が聞こえてきていたが、今の自分がそこに行けそうにもなかった。
「少し頭冷やしてこよう。」
美結はどこもあてもなく、雪の降る道をただ歩いていた。
そして自然と辿り着いてしまったのは、三年前に辛い思いをした場所だった。
「なんでここなの…。」
そう、三年前に明人から一方的に別れを告げられた公園だ。
三年もの時間が経っているはずなのに、昨日のようにあの日のことのように明人の言動が蘇ってくる。
「辛っ。」
胸が締め付けられるように苦しくなり、美結はベンチに腰掛けた。
陸とは心穏やかにこれまで付き合ってきたつもりだ。
でも心の底ではまだ、明人が存在してるのだろうか、それともクリスマスだからかー。
美結の頭の中でいろんな思いが錯綜していると、美結の目の前は影で覆われた。
「こんなとこで何してんの?」
「明人…。」
まるで運命の悪戯のようだった。
涼しげな顔で話しかけ隣に座った明人に、美結は顔を合わせず立ち上がった。
「帰るの?なんでここにいたの?」
明人の質問に答えられる心の余裕は美結にはなかった。
そのまま無視して家に帰ろうとした時、美結は右腕を明人に掴まれた。
「俺は三年前のこと思い出して、ここに来ちゃったよ。ちょっと話さない?」
「…千花ちゃんとは今日会ってないの?」
「冬休み前だったかな?別れたんだよ。」
そうさらっと伝えた明人の発言に、美結の心臓は強く打ち付けるように鼓動が早くなった。
明人の言動に困惑して何も言えずに、俯きながらその隣に座った。
「美結こそ、陸とは会ってなかったの?付き合ってるんだろ?」
「…さっきまで会ってたよ。」
「そっか。せっかくまた美結と同じ高校で同じクラスになったのに、ろくに話せてなかったよな。なぁ、これ覚えてる?」
いつもより心なしかゆっくりと穏やかな口調で話す明人は、自分の首からネックレスを外して美結の前に掲げた。
美結はそれを見て、目頭が熱くなるのを感じた。
「どうして、それを明人が持ってるの?」
「ずっと、今でも大切なものだからだよ。」
それは三年前に無くなったはずの、二つのペアリングだった。
明人の言葉は美結を酷く動揺させ、返す言葉が見つからなくなってしまった。
呆然とする美結に対して明人は美結の頭に触れて積もった雪を撫で払い、話を続けた。
「親友の彼女に言うのはダメなことだって思ってる。でも俺やっぱり、ずっと美結のこと忘れられないんだ。今でもめっちゃ好きなんだけど。」
明人の突然の告白に、美結はつい涙が一筋落ちたのを感じた。
今更都合の良い言葉にしか聞こえないし、本気かどうか信じられなかったが、美結の心を揺さぶったのは事実だった。
「私、帰るね。」
「おい、美結待てよ…。」
美結は涙を拭うと、明人の腕を振り払い走って行った。
これ以上美結は明人から何か言われたら自分の何かが壊れそうで怖かった。
堪えていた涙が止まらず、美結は近所の神社の裏に隠れるように腰掛けた。
「なんで、今更そんなこと言うのよ…。」
美結は一人涙が枯れるまで泣き続け、クリスマスイブは幕を閉じた。
正午に美結は陸といつもの公園で待ち合わせをし、街に行ってクリスマスランチを食べた。
食事の後に二人はプレゼント交換をし、そのままクリスマスで賑わう街の中を探索するつもりだった。
「人が多いね。俺の家に行かない?親達も出かけてて静かだと思う。」
陸の予定外の誘いに、美結の心臓は高鳴った。
デートすらようやくすることができた二人は手を繋ぐ以上の恋人らしいことをしたことがない。
つい美結はその以上のことを想像して顔を紅らめてしまった。
それは部活漬けで女子の扱いに慣れていない陸も照れてしまい、初々しいカップルのような二人の間にはしばらく沈黙が続いた。
「雪降ってて寒いし冷えるから、陸の家に少し上がろうかな。」
「そうだね。」
一呼吸して、答えを出したのは美結だった。
高鳴る鼓動は収まらないが、陸が相手なら安心して身を預けられるかもしれない。
そもそもその展開は考えすぎだったのかもと、美結は戸惑いを隠せなかった。
そんな二人はお互い緊張しながら手を握り、陸の家へと行った。
陸の家に入ると、陸の言う通り本当に誰もいなかった。
リビングを通り、二階の陸の部屋に招かれた美結はテーブルの前に俯きながら正座した。
陸は荷物を置くと一階のキッチンに降り、焼き菓子と暖かいホットミルクを美結に持ってきてくれた。
「温かい。ありがとうね。」
「うん。あ、なんかテレビでも見ようか?映画とか録画してあるけど、美結なんか見たいやつある?」
陸が映画鑑賞を提案したことで、美結の緊張は少しほぐれ、二人でいることに少し慣れてきた。
「うーん、これ見たかった!」
「俺もまだ見てない、見よう見よう。」
美結が選んだのは、少女漫画が原作になっている学園もののベタな恋愛映画だった。
明らかに女子高生受けを狙ってる映画に付き合ってくれる陸の優しさに美結は感謝し、二人は鑑賞を始めた。
初めは仲違いしていた主人公達が、イベントを重ねて仲を深めていく。
そして壁ドンや押し倒されたりなどキュンキュンするような要素がたくさんあり、美結はだんだん見ているのが恥ずかしくなってきた。
恐る恐る陸の方を見ると、陸も顔が赤くなっており目が合ってしまった。
「なんかすごいベタな恋愛ものでごめんね。」
「いいよ。俺も普段あんまりこういうの見ないから慣れなくて…。ねえ、美結。」
そう辿々しく話した陸だったが、いきなり美結の右頬に手を伸ばして触れた。
「口角にミルクついてる。」
そう小さく呟くと二人の顔は重なった。
唇が触れ合うほど近くなった時、美結は咄嗟に陸の胸を叩いてしまった。
「ごめん。なんか。心の準備が…。」
こうなる展開を想像してきて受け入れようと覚悟していたはずなのに、無意識の行動に美結自身酷く戸惑った。
陸が黙って少し悲しそうに俯いているのに美結は気付いてしまった。
「あ、もう16時なんだね。暗くなりそうだから、ちょっと早めに帰るね。ごめん。」
「…分かった。」
美結は映画もまだ中途半端だというのに、自ら作ってしまった気まずい雰囲気から逃げるように荷物をまとめて陸の部屋を出てしまった。
陸の家を後にしてから美結は走って、すぐ近くにある自宅の前に着いた。
「どうしてあんなことしちゃったんだろう。」
美結は陸を拒絶してしまった事実に打ちのめされ、落ち込んで顔が真っ青だった。
自宅からは家族の笑い声が聞こえてきていたが、今の自分がそこに行けそうにもなかった。
「少し頭冷やしてこよう。」
美結はどこもあてもなく、雪の降る道をただ歩いていた。
そして自然と辿り着いてしまったのは、三年前に辛い思いをした場所だった。
「なんでここなの…。」
そう、三年前に明人から一方的に別れを告げられた公園だ。
三年もの時間が経っているはずなのに、昨日のようにあの日のことのように明人の言動が蘇ってくる。
「辛っ。」
胸が締め付けられるように苦しくなり、美結はベンチに腰掛けた。
陸とは心穏やかにこれまで付き合ってきたつもりだ。
でも心の底ではまだ、明人が存在してるのだろうか、それともクリスマスだからかー。
美結の頭の中でいろんな思いが錯綜していると、美結の目の前は影で覆われた。
「こんなとこで何してんの?」
「明人…。」
まるで運命の悪戯のようだった。
涼しげな顔で話しかけ隣に座った明人に、美結は顔を合わせず立ち上がった。
「帰るの?なんでここにいたの?」
明人の質問に答えられる心の余裕は美結にはなかった。
そのまま無視して家に帰ろうとした時、美結は右腕を明人に掴まれた。
「俺は三年前のこと思い出して、ここに来ちゃったよ。ちょっと話さない?」
「…千花ちゃんとは今日会ってないの?」
「冬休み前だったかな?別れたんだよ。」
そうさらっと伝えた明人の発言に、美結の心臓は強く打ち付けるように鼓動が早くなった。
明人の言動に困惑して何も言えずに、俯きながらその隣に座った。
「美結こそ、陸とは会ってなかったの?付き合ってるんだろ?」
「…さっきまで会ってたよ。」
「そっか。せっかくまた美結と同じ高校で同じクラスになったのに、ろくに話せてなかったよな。なぁ、これ覚えてる?」
いつもより心なしかゆっくりと穏やかな口調で話す明人は、自分の首からネックレスを外して美結の前に掲げた。
美結はそれを見て、目頭が熱くなるのを感じた。
「どうして、それを明人が持ってるの?」
「ずっと、今でも大切なものだからだよ。」
それは三年前に無くなったはずの、二つのペアリングだった。
明人の言葉は美結を酷く動揺させ、返す言葉が見つからなくなってしまった。
呆然とする美結に対して明人は美結の頭に触れて積もった雪を撫で払い、話を続けた。
「親友の彼女に言うのはダメなことだって思ってる。でも俺やっぱり、ずっと美結のこと忘れられないんだ。今でもめっちゃ好きなんだけど。」
明人の突然の告白に、美結はつい涙が一筋落ちたのを感じた。
今更都合の良い言葉にしか聞こえないし、本気かどうか信じられなかったが、美結の心を揺さぶったのは事実だった。
「私、帰るね。」
「おい、美結待てよ…。」
美結は涙を拭うと、明人の腕を振り払い走って行った。
これ以上美結は明人から何か言われたら自分の何かが壊れそうで怖かった。
堪えていた涙が止まらず、美結は近所の神社の裏に隠れるように腰掛けた。
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