偏屈

なゆか

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ヒビ

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入学式から、かれこれ1ヶ月が経過した。

二宮双子の悪い噂も風化し、
普通に高校生活を送っていた。

鞠「…なんで僕がこんな事」

作野「まぁまぁ」

菊乃ちゃんは、中学で出来なかった
部活動に打ち込むと
まさかの超体育会系の柔道部に入った。

由香里は、ヤクを気に入ってるらしく
楽しくサッカー部のマネージャー。

りんは、女テニで新人選優勝するぞと
意気込んでいる。

ヤクは、今まで気にしてなかったが
モテるみたいで、
女子から黄色い声援を受けているのを
よく見るようになった。

それぞれ、学校生活を謳歌しているのだが
私と鞠君に関しては進捗は無しである。

元々、私の事嫌がってたしなと鞠君は
嫌々私と行動を共にしているが、
たまに照れるのか顔を赤らめるのが
面白かった。

そして、今は学級委員の仕事という名の
先生の雑務の手伝いをやらされている。

鞠君は、学級委員ではないのに
私の彼氏という事で私の手伝いをしてくれている。

作野「そういや、鞠君って部活入んなかったの?」

鞠「必要ない」

作野「中学の時、帰宅部だったんでしょ?
菊乃ちゃんも柔道部入ってるし、鞠君もどこかに」

鞠「時間の無駄。
菊乃と一緒にいる時間が減る」

作野「と言いつつも、柔道部には入んないんだね」

鞠君はムッとしたまま、
私の隣でホチキス留めをしている。

作野「おし、コレでラスト」

鞠「こんな事1人でやればいいのに」

作野「鞠君が手伝ってくれたから、
早く終わったよ!
お礼にジュースでも奢らせてよ」

鞠「いらない」

作野「相変わらず揺るぎないな」

鞠君は私から受け取った書類をホチキス留めし、
箱に入れ、今日の雑務はこれにて終了である。

作野「帰る?
それとも菊乃ちゃん待ってる?」

鞠「菊乃を待たないわけないだろ」

作野「確かに、
とりまこれ先生に渡して来ちゃうね!
手伝いありがとう」

私は箱を持ち、教室を後にした。



書類を届けた後、教室に入る直前
中から話し声が聞こえて来た。

「お前、姉とズコバコやってんだって?
近親相姦とか、どんな神経してんだよ」

あの噂は風化したと思ってたのに…

教室を覗くと鞠君が2人組の
上級生に胸ぐらを掴まれていた。

「あれ?彼女だか、いんだっけ?」

「近親相姦しながら、
他の女ともセックスしてんのか」

民度の低い上級生だなと、
男子2人に力で敵うわけないと
何かされる前に先生呼びに戻るかと
私は一旦この場を離れようと…

鞠「彼女なんて居ない、
僕には菊乃しか居ない」

「あ?なら、いつも隣に歩いてるブスは?」

鞠「僕が不細工なんかと付き合う訳がない、
気色悪い事言うな」

不細工かー…確かに鞠君はイケメンで、
菊乃ちゃんも美人だ。

そんな2人と不釣り合いなのは
並んでいて分かるし、
周りからもそんな空気が漂ってくる。

鞠「アイツが付き纏ってくるだけ」

鞠君はそんな事思ってたんだなと、
少しでも距離が縮んだかなって思ってた
私が馬鹿だった。

そもそも、嫌われてるもんな…

「あっそ」

上級生達は飽きたのか、
教室から出て来た。

「聞いてたのかよ、
お前、可哀想な奴だな」

作野「そうですね」

そう言われ、去って行った。

作野「…」

ヤバい…泣きそうになって来た。

ガラッ

鞠「何してるの、ずっとここに?」

作野「…あーそうだね」

鞠「話し聞いてただろ」

作野「うん、鞠君が私の事嫌いなのは
痛い程分かったよ」

鞠「当たり前でしょ」

作野「うんうん…分かったから…」

私は鞠君の横を通り過ぎ、
自分の鞄を持つ。

鞠「ずっと嫌いって言ってたし、
菊乃が無理矢理
恋人になれってしつこいから」

作野「分かったってば…」

鞠「それをしつこくするから」

作野「分かったって言ってんじゃんッ」

私は涙が溢れる前に教室から出ようとするが、
腕を掴まれる。

鞠「どこ行くつもり?
いつもみたいに一緒に帰らないと菊乃が」

鞠君にとって、菊乃ちゃんが最優先。

そんなの当たり前で…

作野「…やめた」

鞠「何」

作野「…やめにしよう」

鞠「何を?」

作野「菊乃ちゃんには…私の方から説明する」

鞠「だから、何の事?」

作野「この付き合ってるフリすんの
やめよって話し」

そう言うと鞠君は私の腕を放した。

鞠「ちゃんと、東守の口から
菊乃を説得してくれるなら」

作野「言うから…」

あっさりとしている鞠君の態度に、
今でのまじなんだったんだよと
私は涙が溢れないように顔を逸らし、
教室を後にした。



次の日の朝

いつも二宮双子は私を迎えに来るのだが、
今日は来なかった。

登校中、菊乃ちゃんと鞠君の
後ろ姿を見つけたが、
声を掛けずに離れて歩いていると
私に気付いた菊乃ちゃんが駆け寄って来た。

菊乃「鞠の何処が嫌だったんですか?
直させるので、交際を止めないで下さい」

作野「あーえと、鞠君の方が嫌そうだし
恋人のフリするのは、
そろそろいいんじゃないかな」

菊乃「フリって、私は本気で鞠と東守ちゃんが
恋人になればいいって応援してたんですよ」

作野「周りから強要される事じゃないし」

昨日、菊乃ちゃんを説得するって
言っちゃったしな…

作野「…別に好きな人が出来たんだよね」

こんな嘘は通じるだろうか…

菊乃「…す…好きな人?」

作野「そうそう、好きな人出来た心情で
恋人のフリする程、私器用じゃないからねー、
それに私なんかじゃなくて、
鞠君にはもっとお似合いな子居るから」

菊乃「…」

そう言うと菊乃ちゃんは黙ってしまい、
鞠君はこっちを全然見ていない。

作野「とりま、遅刻するから」

このまま、この2人と登校するのもなと、
私はお先と学校に向かった。



私が1人で登校してくるのを見てたのか、
イキった3人組に絡まれる。

「なんで1人?」

「別れた的な?」

作野「確かに別れたよ」

「まじで?」

「交際1ヶ月とかウケんだけど」

作野「面白いかー?」

「そもそも、釣り合ってなかったし
どんまいじゃね」

「どーんまい」

腹立つなコイツらと、
イキリ達に同情され
私は席に着いた。

「本当に別れたの?」

話しを聞いてたっぽい、
他のクラスメイトにも声を掛けられる。

作野「別れた別れた」

「どうして?」

作野「えー方向性の違い?」

「あのね、隣のクラスに
弟君が気になるって子が居るんだけど、
別れた事言ってもいい?」

作野「いや、私の許可とか要らないでしょ」

「分かった」

あの噂が無ければ鞠君はイケメンだしな、
そもそも私が恋人のフリしてたのが
奇跡的な事だったんだろう。

私は恋人のフリをしても
お互い好きじゃなかったら
時間の無駄になると
今回の事で学習が出来た。



立石「あー別れちゃったのか」

国井「ざーんねん」

作野「その話はもういいでしょ、
とりま、ノート写させてよ」

国井「午前授業、傷心モードで泣いてんのかと
思ってたけど、爆睡してたんかい」

作野「もうぐっすりよ」

立石「凄い跡ついてる」

私が居るせいで、近づいて来ない
菊乃ちゃんとチラチラ目が合う。

作野「顔洗ってくるわ」

今、女子4人グループだしな…

私は一旦抜け、廊下に出ると
鞠君は既に
朝クラスの子が言っていた子と
手を繋いで歩いていた。

私に気付いた隣を歩く女子はドヤ顔をし、
近付いてきた。

「あっれ~1人?」

甲高い声が廊下に響き、
周りに居た生徒にチラチラ見られる、

「ねぇ、作野さん?」

引っ張られて来た鞠君は、
何も言わない。

「あたしぃ、
さっき鞠君と付き合う事になったの」

作野「へえ、水道行くから退いてくんない」

「負け惜しみ?」

作野「いや、そんな態度とった覚えないんだけど
とりま、道塞ぐの止めて」

「そもそも、
作野さんと鞠君は釣り合ってなかったし」

作野「面倒くさいな」

私は別の水道に向かおうと、
背を向ける。

「逃げるんだ?
鞠君の彼女の
あたしの事疎ましく思ってるんだ」

とんでもない子と付き合う事にしたんだなと、
廊下の空気は悪く、
後ろから聞こえる罵りを無視して、
その場を立ち去った。

「負け犬!」



5時限目
グループ行動の時間

嫌でも顔合わせる事になんだよなと、
私は平常心を保ちながら
机を移動させる。

箭久野「サク」

作野「ん?」

箭久野「お前、平気なの?
鞠と別れたんだろ?
しかも、菊乃とも今日1日
話してねーみたいだし、
3分の2気まずいグループじゃん」

ヤクにボソッと言われ、手を止める。

作野「そもそも、好き同士じゃなかったし
こうなるのは目に見えてたでしょ?
何年腐れ縁してんだ」

箭久野「いや、恋愛どうこうは分かんねーし」

作野「ヤクこそ、モテるみたいだけど
彼女出来た?」

箭久野「いや、今は彼女とか要らねーし」

作野「勿体ないな」

箭久野「今のサクから言われると、
僻みにしか聞こえねーよ」

作野「はいはい、ブスでごめんなさいね」

箭久野「別にブスって言ってねーじゃん」

作野「まぁいいや、ほら課題課題」



菊乃「…」

鞠「…」

二宮双子は黙ったまま、机を移動させ
このクソ空気の中、課題を進める事にした。

作野「菊乃ちゃん、そこの資料取って」

菊乃「え…あ…どうぞ」

ぎこちないが無視まではしない菊乃ちゃん。

作野「ありがと」

菊乃ちゃんから資料を受け取ろうと手を伸ばすと、
鞠君に手を叩かれた。

作野「何すんの?」

鞠「目障り」

作野「1年終わるまで我慢してよ、
嫌でもこのグループのままなんだからさ」

鞠「最悪」

作野「お互い様だわ」

ギスギスした会話に菊乃ちゃんが立ち上がった。

菊乃「せっかく順調だったのに、
何で2人は別れたりするの!」

怒ってるのか、声が大きい菊乃ちゃん。

箭久野「まぁまぁ、それは俺も気になるけど
今、授業だから静かにしよーな」

ヤクが菊乃ちゃんを宥め、座らせた。

菊乃「お似合いの恋人同士だったのに…どうして」

菊乃ちゃんは泣き出したが、返答はこれしかない。

作野「いや、お似合いじゃなかったよ」

菊乃「…え」

作野「いや、驚く事じゃないでしょ?
普通に不釣り合いだったよ、
勿論、私個人の意見じゃなくて
周りも思ってる事だからね」

菊乃「そんな事ありません」

作野「いやいや、まじの話よ」

私はポケットからハンカチを出して、
泣いてる菊乃ちゃんに差し出す。

作野「今まで見られてたのは、
そういう事なんだって自覚したら、
恥ずかしいったらないね」

菊乃「鞠が東守ちゃんに
不釣り合いだなんて」

作野「違う違う、
私が鞠君に不釣り合いなの」

菊乃「何言ってるんですか」

作野「菊乃ちゃんも鞠君も
大層な顔立ちしてんだよね。
そんなイケメンな鞠君と
私みたいなブスが
恋人のフリしてた自体
間違ってたんだよッ」

箭久野「おいおい、
サクもヒートアップすんなって」

箭久野に宥められ、
私は息を吐く。

菊乃「鞠…東守ちゃんに何か言ったの?」

鞠「僕は、最初から東守なんて嫌いだから」

菊乃「何でそんな事言うの」

鞠「僕には、菊乃だけが居ればいい」

菊乃「矛盾してる…そう言うなら、
どうして別の子と付き合い出したの?」

鞠「何となく」

菊乃「何となくで…東守ちゃんと別れて、
別の子と…」

菊乃ちゃんが滅茶苦茶怒っているのが
伝わってくる…

でも、私からは何も言えない
勿論気まずそうな顔してる
ヤクも同じである。

作野「さてさて、もういいでしょ。
課題やらないと赤点になるからやろう」

箭久野「こんな状態で出来ねーだろ、
滅茶苦茶空気やべーよ」

作野「私情で赤点取る方が今後やべーでしょ」

箭久野「お前なー」

最悪の空気のまま、チャイムが鳴り
授業が終わった。

流石に由香里もりんも気遣ってなのか近付いて来ず、
私は机を元の位置に戻した。

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