ティアル・ナ・エストレア ―青髪の双子の王子―

涼月

文字の大きさ
25 / 91
第二章 使命を探す旅

第24話 石碑

しおりを挟む
「飛翔君、人間と動物の違いは何だと思う?」

 突然のドルトムントの問いかけに、飛翔は面食らって答えられずに黙っていた。

 次の日、何か自分にもできることは無いかとウロウロしていた飛翔を、嬉しそうに捕まえたドルトムントは、フィオナの目を盗みながら、歴史の講義を始めた。

「私はね、人間と動物の違いは、想像力だと思っているんだよ」
「想像力?」
「動物は、今を生き残るのに精いっぱいだろう? 危険を避けて、食べ物を確保して、子供を産んで育てて子孫を残す。そのための知恵や本能は持っているけれど、未来を考えてどうしたらいいか考えることは、しないと思うんだよ。あ! もちろん、食料を巣穴に隠したりはしているけれど、もっと漠然とした、未来はどんな世界になっているかなぁーとか、もし自分がお金持ちだったらとか、目の前に無いことや、目の前に差し迫った危険とは違うことを想像する力って、人間だけが持っている能力なんじゃないかと思ってね。これって凄いことじゃないかな!」

「そうですね……。確かに木に留まっている鳥が、世界のことや未来のことを考えているとは、ちょっと考えられないですよね」
 思わず口から出た言葉は、ちょっと皮肉っぽく聞こえなくも無いが、当の飛翔は真面目な顔で言っている。

 言われたドルトムントも素直に嬉しそうである。
「だから、人間は リオンライオンのような牙も、ビッシュカモシカのようなスピードも持っていないのに、今こうやって世の中を生き残ってこれたんだよ。未来の世界を考えて、工夫したり、努力したりできる。目の前に無い出来事や気持ちを想像して、それに備えて準備してきたから、こうやって発展することが出来たんだ」
 ニコニコしながら自説を披露してくる。

「じゃあ、それを可能にしたのは、何だと思うかな?」
「?」
「それは~」

 重大発表でもするかのように、大げさにためを作る。

「文字だよ!」
「文字?」

「そうさ、人間は文字を作った。これも動物と違うところさ。文字を作ることで、複雑な会話も成り立つようになったし、それを残すことも可能になったんだ。もともと文字は、物々交換から商売に発展して、商人が生まれて、色々な決め事をお互いに確認したり、証拠として残すために生まれたと言われているんだよ。だから、重さや数を決める数字や単位といった記号的な物から発展してきたんだと思う」

 ドルトムントは一旦言葉を切ると、石板を出して例を示しながら説明した。

「例えば、共通語のバルト語は、古代海洋国家のバルディア文字がそのまま使われているんだが、一つの文字は一つの読み方しか無くて、単語は、その文字の組み合わせで出来上がっている。決まりごとが少なくてシンプルだから、初めての人でも覚えやすいから、共通語として生き残ってきたんだろうね」

 続けてバルト語の文章を書こうとして止めた。
 飛翔がバルト語を知っていることを思い出したらしい。

「うぉほん! それとは別に チャン語は、 天空国チェンコンの 天花チェンファ語がそのまま生き残ってきたもの。天花文字は一つ一つに意味があって、 チェンという文字には宇宙の意味が、 ファという文字には野に咲くかわいらしい花々の意味がある。物の形から文字が作られて、そのまま意味が残ったんだ。文字自体に意味があるから、文字を見ただけで、だいたいの意味の想像がつくところは良いところだな。読み方は基本的には一つだから、バルディア文字と似ているんだけれど、発音が独特でね。ちょっと発音し辛いんだよ。バルト語に無い音が多いからかもしれないね。だからいくら壮国が大国になって、各地域にこの言葉を広めようとしてもなかなか受け入れられないんだ。結局、王都、華陀に近い地域でしか使われていないんだよね。まあ、出世したい貴族やお役人たちは、壮語がわからないと採用されないから、みんな必死で勉強しているけれどね」

 ドルトムントは息をつく間もなく続けた。

「飛翔君は昨日、天花語を読めると言っていたよね。名前も天花文字で書いていたし。でも、君の名前は読みかたが違うね。天花語で『飛』はフェイと読むし、『翔』はシャンと読む。天花語で言えば、君の名前は『フェイシャン』だ。でも『ヒショウ』と読むんだろう。君の出身国は、壮国の親戚筋にあたる国だけれど、独自の文化も持っている国って感じだね」

 飛翔は心の中でつぶやいた。
 俺の名前が天花文字を使っているのは、泉を守るためだったからな。読み方が違うのは、隣国青海国セイカイに合わせたため。
 でも、『天空始成紀』には青海国セイカイの記述が無い。
 だからドルトムントは青海国の存在を知らないと言うことか。
 
 実は天花文字は、元々青海国で生まれた文字であった。
 その読み方や文法が変化した後の形が、天空国の天花語であり、今の壮語となっているのだ。
 その証が、 宝燐山ホウリンザンと言う呼び名に残されていることに、まだドルトムントも飛翔も気づいていない。

 千年後のミザロの住人であるドルトムントが、あの山の事を何の疑いも無く、『宝燐山ホウリンザン』と呼び続けていることこそが、この名称が古い言語に基づいてつけられた山の名前であることを物語っていた。

「どうだい! 文字一つにも、歴史と世の中のつながりを紐解く鍵が見つかるだろう!」

 考えこんでいる飛翔の様子には関係無く、ドルトムントは目を輝かせながら言った。

「でも、この石碑はどこの国の文字か、私にもさっぱりわからないんだ」

 急にテンションが低くなったドルトムントは、昨日磨いていた石碑を撫でながら、心底残念そうにため息をつく。

 ドルトムントが急に文字の話を始めたのは、これを言いたかったからなのだと飛翔は理解した。

 ドルトムントは本当に一生懸命歴史に向き合っているんだな。

「飛翔君、見てくれたまえ! まるで花の模様のような、美しい文字だろう! こんな美しい文字見たことないぞ! ということは、歴史学者の私でさえ知らない文字ということだ。世界各国時代を問わず色んな文字を勉強してきた、この私にも読めないということなんだぞ! ああ……読みたい!」

 飛翔には、もちろんその文字が何なのかわかっている。
 目の前のドルトムントの落胆を見れば、直ぐにでも教えてあげたい気持ちに駆られた。

 けれど、『泉を守る者』としての用心深さが、それを留めた。

 これこそが、エストレア語、エストレア文字。

 俺たち古の民が、代々泉を守るためだけに使っていた言葉。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...