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第二章 使命を探す旅
第26話 メルカート(市場)
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ミザロの町の中ほどに、小さな店がひしめく市場はあった。
その店の数、百は優に越している。
生成りの大きな生地で覆いが作られているので、商品や買い物客が日差しに照り付けられることなく買い物ができるようになっていた。
幾通りにも分かれていて、通りごとに、食料品、衣料品、宝飾品などに分かれているようだ。
フィオナはまず、衣料品の通りに入って行った。
楽しそうに周りを見回しながら進む。眺めているだけで嬉しそうである。
中ほどまで進んだところで、板に巻かれた布地が所狭しと並べられた一件の店の前で立ち止まった。
店番をしている中年のご婦人に声をかける。
鞄の中から一通の手紙を出して差し出すと、少し小太りのご婦人は、満面の笑みを浮かべて受け取った。
一体なんだろうと飛翔が遠くから覗いていると、ご婦人はそれを胸に押し当てている。
手紙の表書きには、天花文字で名前のようなものが書かれていた。
ご婦人はそれを大切そうにしまうと、フィオナに端切れのようなものが沢山入った袋を渡してきた。今度はフィオナがそれを大切そうに受け取る。
「パメラ! 頑張ってね!」
フィオナが応援の声をかけると、
「ありがとう、フィオナ! これで想いが伝えられるわ。また端切れ用意しておくから、いつでも取りに来てね」
パメラと呼ばれた女性は、嬉しそうに頬を赤らめた。
店を離れたところで、端切れの袋を受け取ると、飛翔は不思議に思ってフィオナに尋ねた。
「今のは、その……」
「パメラは市場を管理している地方省のお役人さんの息子さんが好きなのよ。だから、ファンレターを送りたいんですって。でも、天花語がわからないから、ハダルに代筆を頼んできたの。でも、そのお陰で端切れをいーっぱいもらえたから、ラッキー!」
「それは、実る恋なのか?」
思わず聞いた飛翔の言葉に、フィオナは微妙な顔をした。
「まあ、難しいでしょうね。でも、実るとか実らないとかは関係ないのよ。ただ、想いを伝えたいだけなの。それが女心ってやつよ」
女心を語るにはまだまだ早いフィオナの口から聞くと、信憑性が薄れてしまうが、飛翔はそんなものなのかと素直に納得した。
「フィオナちゃん!」
今度は突然横から現れた女性が、いきなりフィオナに抱きついてきた。
思わず身構えた飛翔の元に、甘い香水の香りが押し寄せてきて、眩暈のような感覚に襲われる。
「ミランダ姉さん!」
フィオナも嬉しそうに抱きつき返している。その様子に、飛翔はほっと警戒を解いた。
ミランダと呼ばれた女性は、年の頃ハダルと同じくらいか。
フィオナとひとしきり抱きしめ合った後、飛翔を値踏みするように視線を向けた。
そして形の良い唇をキュッとあげて、波打つ金髪を揺らしながら、誘うような金色の眼差しを飛翔に投げかけてくる。
鮮やかで体に添った服装は、豊かな胸元を強調するような切込みが入っており、飛翔は目のやり場に困って、思わず下を向いた。
「あらあら、またまたイケメンがフィオナの家に転がり込んだの? いいなぁ~」
「もう、ミランダ姉さんったら! 違いますよ。飛翔はお父さんの発掘のお手伝いに来ているんです」
フィオナはそう言って、飛翔のことを紹介してくれた。
「そうなんだ~。飛翔君って言うのね。どうかしら。今晩私のところに遊びに来ない?」
ミランダは艶やかな笑みを見せて、飛翔の顔に自分の顔を近づけてきた。
細い指先が飛翔の顎をとらえるように伸ばされ、甘い吐息が耳元をくすぐる。飛翔はビクンとして、後退った。
「いや、俺は単なる荷物持ちで今一緒に来ただけだから……」
「ふぅ~ん、つまらないの。でも、合格!」
「へ?」
冷や汗を流している飛翔は、ミランダの雰囲気の変化に肩の力が抜けた。
「君なら、私の大事なフィオナちゃんの護衛を任せてもオッケーだわ」
ミランダが安心したようにそう言うと、フィオナが感激したようにミランダにすり寄る。
「もう、心配症なんだから。大丈夫、飛翔は危険な人物では無いわよ。でも、ミランダ姉さんいつもありがとう」
飛翔はようやくほっと胸をなでおろした。
汗で張り付いた背中が気持ち悪かったが、ミランダは純粋にフィオナの心配をしていただけらしい。まるで本当の姉妹のように仲良く語り合う二人を見ていると、なんとなく温かい気持ちが湧いてきた。
母親のいないフィオナにとって、こんなふうに相談できる女性がいることは、良い事なのだろうなとふと思った。
「ミランダ姉さんは、腕の良いビーズ職人なの。見て見て! この靴! すっごく綺麗でしょ。私の憧れなんだ。いつか私もこんなの作れるようになりたいな」
そう言って見せられたビーズの靴には、絵画のように美しい模様が、細かなビーズ一つ一つを縫い付けることによって描き出されていた。
とても根気のいる作業が想像される。目の前のド派手な女性がこれを作っていると思うと、少しギャップを感じたが、仕上がった物は、芸術作品と呼べるほどの素晴らしい物だった。
「うふふ。今、私が作っているなんて想像できなーいって思ったでしょう。あなた、顔に全部出てて、面白い!」
飛翔は恥ずかしくなって顔を赤らめた。
そんなに自分は思っていることが表情にでてしまうのだろうか。
ちょっと情けない気分になった。
「フィオナちゃん、またね」
「ミランダ姉さん、またね~」
そう言って店先から手を振るミランダに手を振り返しながら、フィオナはようやく本日の買い物のメイン、食料品の通りへと移動した。
飛翔は、ほーっと息を吐くと、ようやく顔をあげて周りの商品を物珍しそうに眺め始めた。
ドルトムントの言っていた通り、市場には、見たことも無い食品が沢山並んでいた。温かい地域で取れる果物や野菜、ナッツに香辛料など、話で聞いたことしかない物を実際に見てみるとワクワクする。
市場を訪れる人々の姿も様々だった。
飛翔と同じように頭にターバンを巻いた人もたくさん来ていたので、飛翔の存在が目立つようなことも無い。
白い衣服に身を包んだ人、黒一色に覆われた人、鮮やかな色でキラキラと輝く飾りをふんだんに付けた服を着ている人、目しか見えて無い人もいれば、袖の無い服を着て二の腕が丸見えの人もいる。
髪の色も瞳の色も様々。
飛び交う言語も色々で、バルト語と天花語がわかる飛翔でも、聞き取れない言葉もたくさんあった。
ミザロがいかに国際色豊かな町であるかを感じることが出来た。
だが、飛翔と同じ青い髪の人に会うことは、やはり無かった。
その店の数、百は優に越している。
生成りの大きな生地で覆いが作られているので、商品や買い物客が日差しに照り付けられることなく買い物ができるようになっていた。
幾通りにも分かれていて、通りごとに、食料品、衣料品、宝飾品などに分かれているようだ。
フィオナはまず、衣料品の通りに入って行った。
楽しそうに周りを見回しながら進む。眺めているだけで嬉しそうである。
中ほどまで進んだところで、板に巻かれた布地が所狭しと並べられた一件の店の前で立ち止まった。
店番をしている中年のご婦人に声をかける。
鞄の中から一通の手紙を出して差し出すと、少し小太りのご婦人は、満面の笑みを浮かべて受け取った。
一体なんだろうと飛翔が遠くから覗いていると、ご婦人はそれを胸に押し当てている。
手紙の表書きには、天花文字で名前のようなものが書かれていた。
ご婦人はそれを大切そうにしまうと、フィオナに端切れのようなものが沢山入った袋を渡してきた。今度はフィオナがそれを大切そうに受け取る。
「パメラ! 頑張ってね!」
フィオナが応援の声をかけると、
「ありがとう、フィオナ! これで想いが伝えられるわ。また端切れ用意しておくから、いつでも取りに来てね」
パメラと呼ばれた女性は、嬉しそうに頬を赤らめた。
店を離れたところで、端切れの袋を受け取ると、飛翔は不思議に思ってフィオナに尋ねた。
「今のは、その……」
「パメラは市場を管理している地方省のお役人さんの息子さんが好きなのよ。だから、ファンレターを送りたいんですって。でも、天花語がわからないから、ハダルに代筆を頼んできたの。でも、そのお陰で端切れをいーっぱいもらえたから、ラッキー!」
「それは、実る恋なのか?」
思わず聞いた飛翔の言葉に、フィオナは微妙な顔をした。
「まあ、難しいでしょうね。でも、実るとか実らないとかは関係ないのよ。ただ、想いを伝えたいだけなの。それが女心ってやつよ」
女心を語るにはまだまだ早いフィオナの口から聞くと、信憑性が薄れてしまうが、飛翔はそんなものなのかと素直に納得した。
「フィオナちゃん!」
今度は突然横から現れた女性が、いきなりフィオナに抱きついてきた。
思わず身構えた飛翔の元に、甘い香水の香りが押し寄せてきて、眩暈のような感覚に襲われる。
「ミランダ姉さん!」
フィオナも嬉しそうに抱きつき返している。その様子に、飛翔はほっと警戒を解いた。
ミランダと呼ばれた女性は、年の頃ハダルと同じくらいか。
フィオナとひとしきり抱きしめ合った後、飛翔を値踏みするように視線を向けた。
そして形の良い唇をキュッとあげて、波打つ金髪を揺らしながら、誘うような金色の眼差しを飛翔に投げかけてくる。
鮮やかで体に添った服装は、豊かな胸元を強調するような切込みが入っており、飛翔は目のやり場に困って、思わず下を向いた。
「あらあら、またまたイケメンがフィオナの家に転がり込んだの? いいなぁ~」
「もう、ミランダ姉さんったら! 違いますよ。飛翔はお父さんの発掘のお手伝いに来ているんです」
フィオナはそう言って、飛翔のことを紹介してくれた。
「そうなんだ~。飛翔君って言うのね。どうかしら。今晩私のところに遊びに来ない?」
ミランダは艶やかな笑みを見せて、飛翔の顔に自分の顔を近づけてきた。
細い指先が飛翔の顎をとらえるように伸ばされ、甘い吐息が耳元をくすぐる。飛翔はビクンとして、後退った。
「いや、俺は単なる荷物持ちで今一緒に来ただけだから……」
「ふぅ~ん、つまらないの。でも、合格!」
「へ?」
冷や汗を流している飛翔は、ミランダの雰囲気の変化に肩の力が抜けた。
「君なら、私の大事なフィオナちゃんの護衛を任せてもオッケーだわ」
ミランダが安心したようにそう言うと、フィオナが感激したようにミランダにすり寄る。
「もう、心配症なんだから。大丈夫、飛翔は危険な人物では無いわよ。でも、ミランダ姉さんいつもありがとう」
飛翔はようやくほっと胸をなでおろした。
汗で張り付いた背中が気持ち悪かったが、ミランダは純粋にフィオナの心配をしていただけらしい。まるで本当の姉妹のように仲良く語り合う二人を見ていると、なんとなく温かい気持ちが湧いてきた。
母親のいないフィオナにとって、こんなふうに相談できる女性がいることは、良い事なのだろうなとふと思った。
「ミランダ姉さんは、腕の良いビーズ職人なの。見て見て! この靴! すっごく綺麗でしょ。私の憧れなんだ。いつか私もこんなの作れるようになりたいな」
そう言って見せられたビーズの靴には、絵画のように美しい模様が、細かなビーズ一つ一つを縫い付けることによって描き出されていた。
とても根気のいる作業が想像される。目の前のド派手な女性がこれを作っていると思うと、少しギャップを感じたが、仕上がった物は、芸術作品と呼べるほどの素晴らしい物だった。
「うふふ。今、私が作っているなんて想像できなーいって思ったでしょう。あなた、顔に全部出てて、面白い!」
飛翔は恥ずかしくなって顔を赤らめた。
そんなに自分は思っていることが表情にでてしまうのだろうか。
ちょっと情けない気分になった。
「フィオナちゃん、またね」
「ミランダ姉さん、またね~」
そう言って店先から手を振るミランダに手を振り返しながら、フィオナはようやく本日の買い物のメイン、食料品の通りへと移動した。
飛翔は、ほーっと息を吐くと、ようやく顔をあげて周りの商品を物珍しそうに眺め始めた。
ドルトムントの言っていた通り、市場には、見たことも無い食品が沢山並んでいた。温かい地域で取れる果物や野菜、ナッツに香辛料など、話で聞いたことしかない物を実際に見てみるとワクワクする。
市場を訪れる人々の姿も様々だった。
飛翔と同じように頭にターバンを巻いた人もたくさん来ていたので、飛翔の存在が目立つようなことも無い。
白い衣服に身を包んだ人、黒一色に覆われた人、鮮やかな色でキラキラと輝く飾りをふんだんに付けた服を着ている人、目しか見えて無い人もいれば、袖の無い服を着て二の腕が丸見えの人もいる。
髪の色も瞳の色も様々。
飛び交う言語も色々で、バルト語と天花語がわかる飛翔でも、聞き取れない言葉もたくさんあった。
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