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第九章 玉英王動く
第76話 ミザロへ
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次の日から、飛翔は聖杜国の事を積極的にみんなに話し始めた。
その姿は、できる限りの知識を、ドルトムント達に伝え残そうとしているようだった。
ドルトムントは嬉しそうに、書き記していく。
そのメモは、膨大な量に膨れ上がっていった。
エストレア文字についてはわかりやすい表を作って教えると、ハダルやジオと一緒に、ラメルも面白がって学んでくれた。
シエルやロメリア達も一緒に飛翔の話を熱心に聞いてくれたので、話す飛翔も自然と力が入った。
そして飛翔がもう一度ミザロに戻って、泉に行きたいと言った時、誰も反対せず、一緒に行くと言ってくれたのだった。
とは言っても、バハル達家族にとってバンドスへ戻ることは安全とは言えない。
彼らは飛翔達をルシア国の海岸まで送り届けてくれた後は、マルレを探しながら再度イリス島へ向かうことになった。
アドラス一人なら、バンドスの家族の元へ帰っても大丈夫だろうと言うことで、イリス島からの貨物船に乗せてもらえることになったのだった。
「二人とも、またターバン姿になっちゃうね」
フィオナが残念そうに言う。
「まあ、しかたないな」
ジオと二人で笑いながら、また布の鎖を身にまとった。
それぞれの旅立ちの日、シエルは旅先で使えるようにと薬を分けてくれた。
そして、飛翔の顔を見つめながら決意を語った。
「ルカの教えの一つに、薬で儲けようとしてはいけないと言う言葉があります。怪我や病気で苦しんでいる人に、出来る限りのことをするのは当たり前のこと。過剰な対価を求めることは、弱い者いじめと同じだからしてはいけないと。でも、薬を作るためには、薬の材料となる種を守り、草花を育てる人々の労力無くしてはできない。だから、薬を作る人々が健やかに生活していかれるだけのお金を支払うこともまた必要なことだと言っています。それは、持ちつ持たれつの関係であり、助け合う心でもあると。常に、お互いのことを尊重して、お互いの生活を支え合うように生きていくようにと、島の人々に伝えていたようです。私達はこれからも、その心を伝えながら、この薬処を守っていきますね」
流花の言葉が脈々と息づいていることを感じて、飛翔は嬉しさでいっぱいになった。
『知識を伝える』とは、こういう事をいうのだろうなと思い、熱い思いが沸き上がってくる。
感謝の気持ちを込めて、シエルに深く頭を下げたのだった。
イリス島からルシア国までは、十二日ほどの船旅。
バルバドス達が護衛してくれるお陰で、大きなトラブルに見舞われること無く進むことができた。
バルバドス達は、単に武力を振りかざして海賊をやっているわけでは無かった。
略奪や占領行為をしそうな船を見つけて先に先制攻撃を仕掛けているだけで、普段は島々の警戒をしたり、座礁しそうな水域の水先案内をしたりして、海の安全を守っているのだった。
そんな彼らには信頼も多く寄せられていて、どの島に行っても歓迎されていた。
自然、同行者のドルトムント一行も、温かい歓迎を受けた。
ルシア国の海岸線は、断崖がせり出していて、大きな港の建設には不向きな土地柄であった。だがそのお陰で、ドルトムント一行は、岩肌を縫うような細い道筋を伝って、なんとかルシア国に入国することができたのだった。
世話になったバハル達、バルバドス達に感謝を伝える。
飛翔はバハルに、近いうちにきっと灯台の家へ帰れるようになると伝え、バルバドスにはいつか必ず安心して島で暮らせる日が来るはずだと話した。
二人は不思議そうな顔をして、そんな夢のような話が本当になるのは難しいだろうなと思ったが、
「そうだな、やっぱりわが家が一番いいな」
「おお、そんな日を楽しみにしているぞ」
笑顔で飛翔へ答えたのだった。
間も無くドルトムント一行は、ルシア国の王都、ハーネスに辿り着いた。
色とりどりの美しい模様が描かれた陶器で飾られた、エキゾチックな街並み。
家々の窓辺には、ルシア織の暖簾が掛けられている。
行きかう男性の頭には、ターバンが。
「どうだ! ここでは俺達の方が普通。ドルトムントもハダルもターバン巻いたらいいと思うぜ」
ジオがドヤ顔で言いいながら、闊歩している。
女性の多くは黒いベールで体と顔を隠しているので、街並みのカラフルさと対照的で、神秘的な雰囲気さえ漂っていた。
「素敵な雰囲気! 私もあの黒い布欲しいな」
フィオナの言葉に、ジオがすかさず反応する。
「フィオナは歩き方が雑だから、きっと裾踏んでコケると思うぜ」
フィオナの拳骨が飛んだが、身軽なジオは当然逃げ切ってセーフ。
危うく奥を歩いていたドルトムントの頭に直撃するところだった。
気を取り直したようにフィオナが言った。
「ねえ、折角ルシア国に来たんだから、ルシア織の工房に行こう!」
「ルシア織の工房?」
「そう!」
ルシア国は国の産業として、ルシア織を保護し運営していた。
隊商路としての役割と共に、ルシア国の経済を支える大切な物だったからだ。
工房はいくつかあったが、フィオナの目論見は一番伝統のある工房を見つけること。
ハダルを通訳に引っ張って行くと道行く人に尋ねて、あっと言う間に探しあてた。
「いーい! これから私達は、商人よ。ルシア織を買い求めにミザロから来ているロドリゴさんの使いの者ってことで行きましょう」
いきなり見知らぬ旅人が訪ねてくれば、工房の人達は警戒する。
しかも国をあげて技術を保護しているのだから、やたらに工房見学などさせてくれるわけがない。
商売に長けたハダルを前に押し出しながら、フィオナが合図する。
やれやれと言う顔で、ハダルが流暢なルシア語で工房の人に声を掛けた。
「すみません。こちらシャキール工房ですか? ミザロのロドリゴ商会から来た者ですが、こちらのルシア織の取引を、今後増やしたいと思いまして交渉に参りました」
もちろん、デタラメである。
だが、美丈夫が笑顔でルシア語を話し、商売の流儀をわきまえた交渉をしてくれば、工房の責任者も信じてしまうようである。
一気に警戒が解けて、みんなを工房の中へ招き入れてくれた。
「これは見事な工房ですね。一日にどれくらいの量を織り上げることができるのですか?」
「私のところでは、一日に五百ルガード(約三百メートル)くらいですね。でも、機織機の台数が増える予定なので、増産できます」
「それは良かった」
ハダルはさも安心したかのように頷いた。
フィオナが後ろから突いている。早く聞いて欲しいことがあるからだ。
「ところで、こちらにはルシア織発祥を担った古い機織機があると伺っているのですが、今も現役で使われているのですか?」
「いや、流石に現場には置いていないです。でも奥に置いてありますよ。大切にね」
主人のナージフは自慢げに言った。
「よろしかったら見せていただけないでしょうか?」
「ご興味がおありですか! いいですよ」
案内された奥の部屋に、大切に保存されていた機織機。
今現役で使われているものよりもサイズの大きい機織機には、鉄製の綜絖板が取り付けられている。
リフィアの機織機!
「どうです! 千年前の物とは思えないほど綺麗に保存されているでしょう!」
「これは素晴らしいですね。ルシア織に携わるみなさんの誇りが伝わってくるようです。もう少し近くで拝見させていただいてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
主人はハダルに誉められて、嬉しそうに顔を綻ばせた。
ほとんどの商人は、損得勘定の話が先で、職人の気持ちを理解しようとはしてくれない。誇り高き職人魂を感じ取って貰えたことが、とても嬉しかったようだ。
尋ねてもいないのに、色々説明まで付けてくれた。
フィオナに前に押し出されて、飛翔は間近でリフィアの機織機を見ることができた。
大切に磨きあげられて保存されているそこに、リフィアが座っている光景が目に浮かぶ。
カタンカタンと織る音まで響いてくるようだ。
食い入るように見つめた後、飛翔はみんなに気づかれないように目頭を押さえた。
仮契約をして、ハダル達商人もどきは早々に退散した。
工房の主人はとても嬉しそうだったので、多分本契約の日を心待ちにしていることだろう。
一抹の罪悪感を感じながら工房を後にした。
でも、飛翔はフィオナに、ハダルに、みんなに感謝した。
「フィオナ、ありがとう」
「私が見たかったの。私は裁縫が好きだから、使う布についても興味あるんだからね」
フィオナはそう言って笑った。
「ハダル、みんな、嘘をつかせてしまってすまない」
深く頭を下げると、
「本当になるように、ちょっとロドリゴの旦那に頼んでみよう。そうしたら問題無いだろう」
ドルトムントがそう言って悪戯っ子のような顔になった。
ルシア国からミザロへ向かう隊商にお願いをして、同行させてもらう。
砂漠の旅と言っても、ここからミザロへは、一日ごとに滞在できる小さな宿場があり、水も食べ物も十分得ることができる。シャクラ砂漠への旅と比べたら、全然苦にならず、むしろ砂漠の風景を楽しみながら旅することができた。
ルシア国から壮国への城門を通る時だけは、流石に緊張した。
いくら壮国の通行証を持っているとは言っても、玉英王からの捕縛の指示がでているかもしれない。
だが、特に誰何されることも、入国を止められることも無く、無事旅を続けることが出来た。
そして、ようやくミザロに辿り着いた。
一行は、思わず、ほーっと息を吐く。
無事帰って来れた!
フィオナが嬉しそうに、
「私市場で買い物してくる! ミランダ姉さんへも挨拶したいし」
と言って飛び出していく。
慌てたハダルが後を追った。
「じゃあ、私達は先に帰っているかな」
ドルトムントがそう言った時、不意に後ろに人の気配を感じた。
「ドルトムント、お帰り。大変な旅だったな。でも、たくさん収穫があったみたいだな」
振り向くとそこには、屈強な男が三人。
鍛え上げられた体には、傷跡がたくさんある。
「ランボルト、君も砂漠から引っ越したのか?」
ドルトムントは特に驚く様子もなく声をかけた。
そこには、ランボルトとオルカとイデオの姿。
オルカの肩には、茶褐色の鳥が止まっている。
「悪いな、玉英王がお前さん達に話を聞きたいらしい。一緒に来てくれないかな」
「話なら、俺に聞きたいはずです」
飛翔がランボルトの前に立ちはだかった。
「俺が行けばすむと思うので、みんなは家へ帰してあげてください」
「飛翔君、君一人で行かせるつもりは無いよ。私も一緒に行くよ」
「俺も、一緒にいくぜ」
ドルトムントとジオがすかさず言った。
「でも……」
飛翔は戸惑ったような表情になる。
「飛翔、お前だけじゃなくて、みんなを連れて来いとの命令なんでな。悪く思わんでくれよ」
「あ、フィオナに言っておかないと……」
「いや、フィオナのところにもお迎えが行っているから、心配せんでも向こうで会えるさ」
ランボルトはそう言ってひょいと背を向けると、そのまま散歩にでも行くような気軽な雰囲気で歩き始めた。
「じゃあ、行くか」
その姿は、できる限りの知識を、ドルトムント達に伝え残そうとしているようだった。
ドルトムントは嬉しそうに、書き記していく。
そのメモは、膨大な量に膨れ上がっていった。
エストレア文字についてはわかりやすい表を作って教えると、ハダルやジオと一緒に、ラメルも面白がって学んでくれた。
シエルやロメリア達も一緒に飛翔の話を熱心に聞いてくれたので、話す飛翔も自然と力が入った。
そして飛翔がもう一度ミザロに戻って、泉に行きたいと言った時、誰も反対せず、一緒に行くと言ってくれたのだった。
とは言っても、バハル達家族にとってバンドスへ戻ることは安全とは言えない。
彼らは飛翔達をルシア国の海岸まで送り届けてくれた後は、マルレを探しながら再度イリス島へ向かうことになった。
アドラス一人なら、バンドスの家族の元へ帰っても大丈夫だろうと言うことで、イリス島からの貨物船に乗せてもらえることになったのだった。
「二人とも、またターバン姿になっちゃうね」
フィオナが残念そうに言う。
「まあ、しかたないな」
ジオと二人で笑いながら、また布の鎖を身にまとった。
それぞれの旅立ちの日、シエルは旅先で使えるようにと薬を分けてくれた。
そして、飛翔の顔を見つめながら決意を語った。
「ルカの教えの一つに、薬で儲けようとしてはいけないと言う言葉があります。怪我や病気で苦しんでいる人に、出来る限りのことをするのは当たり前のこと。過剰な対価を求めることは、弱い者いじめと同じだからしてはいけないと。でも、薬を作るためには、薬の材料となる種を守り、草花を育てる人々の労力無くしてはできない。だから、薬を作る人々が健やかに生活していかれるだけのお金を支払うこともまた必要なことだと言っています。それは、持ちつ持たれつの関係であり、助け合う心でもあると。常に、お互いのことを尊重して、お互いの生活を支え合うように生きていくようにと、島の人々に伝えていたようです。私達はこれからも、その心を伝えながら、この薬処を守っていきますね」
流花の言葉が脈々と息づいていることを感じて、飛翔は嬉しさでいっぱいになった。
『知識を伝える』とは、こういう事をいうのだろうなと思い、熱い思いが沸き上がってくる。
感謝の気持ちを込めて、シエルに深く頭を下げたのだった。
イリス島からルシア国までは、十二日ほどの船旅。
バルバドス達が護衛してくれるお陰で、大きなトラブルに見舞われること無く進むことができた。
バルバドス達は、単に武力を振りかざして海賊をやっているわけでは無かった。
略奪や占領行為をしそうな船を見つけて先に先制攻撃を仕掛けているだけで、普段は島々の警戒をしたり、座礁しそうな水域の水先案内をしたりして、海の安全を守っているのだった。
そんな彼らには信頼も多く寄せられていて、どの島に行っても歓迎されていた。
自然、同行者のドルトムント一行も、温かい歓迎を受けた。
ルシア国の海岸線は、断崖がせり出していて、大きな港の建設には不向きな土地柄であった。だがそのお陰で、ドルトムント一行は、岩肌を縫うような細い道筋を伝って、なんとかルシア国に入国することができたのだった。
世話になったバハル達、バルバドス達に感謝を伝える。
飛翔はバハルに、近いうちにきっと灯台の家へ帰れるようになると伝え、バルバドスにはいつか必ず安心して島で暮らせる日が来るはずだと話した。
二人は不思議そうな顔をして、そんな夢のような話が本当になるのは難しいだろうなと思ったが、
「そうだな、やっぱりわが家が一番いいな」
「おお、そんな日を楽しみにしているぞ」
笑顔で飛翔へ答えたのだった。
間も無くドルトムント一行は、ルシア国の王都、ハーネスに辿り着いた。
色とりどりの美しい模様が描かれた陶器で飾られた、エキゾチックな街並み。
家々の窓辺には、ルシア織の暖簾が掛けられている。
行きかう男性の頭には、ターバンが。
「どうだ! ここでは俺達の方が普通。ドルトムントもハダルもターバン巻いたらいいと思うぜ」
ジオがドヤ顔で言いいながら、闊歩している。
女性の多くは黒いベールで体と顔を隠しているので、街並みのカラフルさと対照的で、神秘的な雰囲気さえ漂っていた。
「素敵な雰囲気! 私もあの黒い布欲しいな」
フィオナの言葉に、ジオがすかさず反応する。
「フィオナは歩き方が雑だから、きっと裾踏んでコケると思うぜ」
フィオナの拳骨が飛んだが、身軽なジオは当然逃げ切ってセーフ。
危うく奥を歩いていたドルトムントの頭に直撃するところだった。
気を取り直したようにフィオナが言った。
「ねえ、折角ルシア国に来たんだから、ルシア織の工房に行こう!」
「ルシア織の工房?」
「そう!」
ルシア国は国の産業として、ルシア織を保護し運営していた。
隊商路としての役割と共に、ルシア国の経済を支える大切な物だったからだ。
工房はいくつかあったが、フィオナの目論見は一番伝統のある工房を見つけること。
ハダルを通訳に引っ張って行くと道行く人に尋ねて、あっと言う間に探しあてた。
「いーい! これから私達は、商人よ。ルシア織を買い求めにミザロから来ているロドリゴさんの使いの者ってことで行きましょう」
いきなり見知らぬ旅人が訪ねてくれば、工房の人達は警戒する。
しかも国をあげて技術を保護しているのだから、やたらに工房見学などさせてくれるわけがない。
商売に長けたハダルを前に押し出しながら、フィオナが合図する。
やれやれと言う顔で、ハダルが流暢なルシア語で工房の人に声を掛けた。
「すみません。こちらシャキール工房ですか? ミザロのロドリゴ商会から来た者ですが、こちらのルシア織の取引を、今後増やしたいと思いまして交渉に参りました」
もちろん、デタラメである。
だが、美丈夫が笑顔でルシア語を話し、商売の流儀をわきまえた交渉をしてくれば、工房の責任者も信じてしまうようである。
一気に警戒が解けて、みんなを工房の中へ招き入れてくれた。
「これは見事な工房ですね。一日にどれくらいの量を織り上げることができるのですか?」
「私のところでは、一日に五百ルガード(約三百メートル)くらいですね。でも、機織機の台数が増える予定なので、増産できます」
「それは良かった」
ハダルはさも安心したかのように頷いた。
フィオナが後ろから突いている。早く聞いて欲しいことがあるからだ。
「ところで、こちらにはルシア織発祥を担った古い機織機があると伺っているのですが、今も現役で使われているのですか?」
「いや、流石に現場には置いていないです。でも奥に置いてありますよ。大切にね」
主人のナージフは自慢げに言った。
「よろしかったら見せていただけないでしょうか?」
「ご興味がおありですか! いいですよ」
案内された奥の部屋に、大切に保存されていた機織機。
今現役で使われているものよりもサイズの大きい機織機には、鉄製の綜絖板が取り付けられている。
リフィアの機織機!
「どうです! 千年前の物とは思えないほど綺麗に保存されているでしょう!」
「これは素晴らしいですね。ルシア織に携わるみなさんの誇りが伝わってくるようです。もう少し近くで拝見させていただいてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
主人はハダルに誉められて、嬉しそうに顔を綻ばせた。
ほとんどの商人は、損得勘定の話が先で、職人の気持ちを理解しようとはしてくれない。誇り高き職人魂を感じ取って貰えたことが、とても嬉しかったようだ。
尋ねてもいないのに、色々説明まで付けてくれた。
フィオナに前に押し出されて、飛翔は間近でリフィアの機織機を見ることができた。
大切に磨きあげられて保存されているそこに、リフィアが座っている光景が目に浮かぶ。
カタンカタンと織る音まで響いてくるようだ。
食い入るように見つめた後、飛翔はみんなに気づかれないように目頭を押さえた。
仮契約をして、ハダル達商人もどきは早々に退散した。
工房の主人はとても嬉しそうだったので、多分本契約の日を心待ちにしていることだろう。
一抹の罪悪感を感じながら工房を後にした。
でも、飛翔はフィオナに、ハダルに、みんなに感謝した。
「フィオナ、ありがとう」
「私が見たかったの。私は裁縫が好きだから、使う布についても興味あるんだからね」
フィオナはそう言って笑った。
「ハダル、みんな、嘘をつかせてしまってすまない」
深く頭を下げると、
「本当になるように、ちょっとロドリゴの旦那に頼んでみよう。そうしたら問題無いだろう」
ドルトムントがそう言って悪戯っ子のような顔になった。
ルシア国からミザロへ向かう隊商にお願いをして、同行させてもらう。
砂漠の旅と言っても、ここからミザロへは、一日ごとに滞在できる小さな宿場があり、水も食べ物も十分得ることができる。シャクラ砂漠への旅と比べたら、全然苦にならず、むしろ砂漠の風景を楽しみながら旅することができた。
ルシア国から壮国への城門を通る時だけは、流石に緊張した。
いくら壮国の通行証を持っているとは言っても、玉英王からの捕縛の指示がでているかもしれない。
だが、特に誰何されることも、入国を止められることも無く、無事旅を続けることが出来た。
そして、ようやくミザロに辿り着いた。
一行は、思わず、ほーっと息を吐く。
無事帰って来れた!
フィオナが嬉しそうに、
「私市場で買い物してくる! ミランダ姉さんへも挨拶したいし」
と言って飛び出していく。
慌てたハダルが後を追った。
「じゃあ、私達は先に帰っているかな」
ドルトムントがそう言った時、不意に後ろに人の気配を感じた。
「ドルトムント、お帰り。大変な旅だったな。でも、たくさん収穫があったみたいだな」
振り向くとそこには、屈強な男が三人。
鍛え上げられた体には、傷跡がたくさんある。
「ランボルト、君も砂漠から引っ越したのか?」
ドルトムントは特に驚く様子もなく声をかけた。
そこには、ランボルトとオルカとイデオの姿。
オルカの肩には、茶褐色の鳥が止まっている。
「悪いな、玉英王がお前さん達に話を聞きたいらしい。一緒に来てくれないかな」
「話なら、俺に聞きたいはずです」
飛翔がランボルトの前に立ちはだかった。
「俺が行けばすむと思うので、みんなは家へ帰してあげてください」
「飛翔君、君一人で行かせるつもりは無いよ。私も一緒に行くよ」
「俺も、一緒にいくぜ」
ドルトムントとジオがすかさず言った。
「でも……」
飛翔は戸惑ったような表情になる。
「飛翔、お前だけじゃなくて、みんなを連れて来いとの命令なんでな。悪く思わんでくれよ」
「あ、フィオナに言っておかないと……」
「いや、フィオナのところにもお迎えが行っているから、心配せんでも向こうで会えるさ」
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「じゃあ、行くか」
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