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Step6 胡蝶蘭男子と約束しました
スズメノエンドウ②
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「大丈夫よ。怜さん。私何にも持っていないけれど、やましいことは何一つないから」
その言葉に、怜さんが申し訳ないと謝ってくる。
「なるほど。なかなか度胸の据わったお嬢さんのようだ。怜、お前の目が節穴で無かったことは喜ばしいことだな。大企業の社長夫人にとって、一番必要な要素だ。だが、企業にとってコネクションは更に大切なこと。天秤にかけるなら有益なコネクションの維持に軍配が上がるのは当然のことだろう?」
「父さん、今まではそういうふうにやってきたかもしれません。でも、これからは……少なくとも、俺はそんな会社を継ぎたいとは思っていないんです。パワーバランスにばかり気を使って、誰かの犠牲の上にしか成り立たないような会社じゃ無くて、もっと一人一人に優しい会社、働きやすくて支え合える会社にしたい」
「立派な心掛けだが、会社は慈善事業じゃない。多くのしがらみの中で、他社と競争して利益を得ていかなければならない。綺麗ごとだけではやっていけないのだよ」
「そう言って、父さんはお袋を捨てたんですね」
「……怜……」
社長が一瞬苦しそうに顔を歪めた。
「そうだな。私が一番悪い。その通りだ」
「だったら! 同じ過ちはもうしないでください」
その言葉に、何かに耐えるように目を瞑った社長。眉間に皺を寄せた姿は、苦しそうだったあの時の怜さんと同じだわ。
私は何か言ってあげたくて、でも何を言ってあげればいいのかわからなくて、繋いでいる怜さんの手を強く握りしめることしかできなかったの。
社長を真っ直ぐに見つめながら、怜さんもしっかりと握り返してきた。
「怜、お前はいつも賢明だった。黙って、じっと耐えて。どうすればいいのかばかりを考えて、わがままを言ったことも無かったな。だから私は自分の過ちになかなか気づけなかった。お前がどれだけ母親を恋い慕っていたのかを。本当は何不自由ない生活よりも、温かな家庭を望んでいたことを」
「父さん……そうだよ。俺はこんな立場はいらなかった。父さんとお袋と三人で暮らせたら、それだけで良かったのに。でも、結局お袋も俺を捨てたんだからな。父さんがあの人を愛しつづけることができなかったのは、ある意味正解だったってことさ」
「怜! それは違うんだ!」
思わぬ大声に、怜さんも、社長自身も驚いたように固まった。
「違う?」
いぶかし気な怜さんの問いかけに、社長がカックリと肩を落とす。
「お前の母さんはお前を置いて出て行った訳では無いんだ。私たちが養子縁組できるように身を引いただけだ。そして今も、お前の幸せのために協力してくれている」
「……どういうことだよ」
「それは……本人の口から聞く方がいい」
そう言って社長は、隣室の扉を開けたの。
その言葉に、怜さんが申し訳ないと謝ってくる。
「なるほど。なかなか度胸の据わったお嬢さんのようだ。怜、お前の目が節穴で無かったことは喜ばしいことだな。大企業の社長夫人にとって、一番必要な要素だ。だが、企業にとってコネクションは更に大切なこと。天秤にかけるなら有益なコネクションの維持に軍配が上がるのは当然のことだろう?」
「父さん、今まではそういうふうにやってきたかもしれません。でも、これからは……少なくとも、俺はそんな会社を継ぎたいとは思っていないんです。パワーバランスにばかり気を使って、誰かの犠牲の上にしか成り立たないような会社じゃ無くて、もっと一人一人に優しい会社、働きやすくて支え合える会社にしたい」
「立派な心掛けだが、会社は慈善事業じゃない。多くのしがらみの中で、他社と競争して利益を得ていかなければならない。綺麗ごとだけではやっていけないのだよ」
「そう言って、父さんはお袋を捨てたんですね」
「……怜……」
社長が一瞬苦しそうに顔を歪めた。
「そうだな。私が一番悪い。その通りだ」
「だったら! 同じ過ちはもうしないでください」
その言葉に、何かに耐えるように目を瞑った社長。眉間に皺を寄せた姿は、苦しそうだったあの時の怜さんと同じだわ。
私は何か言ってあげたくて、でも何を言ってあげればいいのかわからなくて、繋いでいる怜さんの手を強く握りしめることしかできなかったの。
社長を真っ直ぐに見つめながら、怜さんもしっかりと握り返してきた。
「怜、お前はいつも賢明だった。黙って、じっと耐えて。どうすればいいのかばかりを考えて、わがままを言ったことも無かったな。だから私は自分の過ちになかなか気づけなかった。お前がどれだけ母親を恋い慕っていたのかを。本当は何不自由ない生活よりも、温かな家庭を望んでいたことを」
「父さん……そうだよ。俺はこんな立場はいらなかった。父さんとお袋と三人で暮らせたら、それだけで良かったのに。でも、結局お袋も俺を捨てたんだからな。父さんがあの人を愛しつづけることができなかったのは、ある意味正解だったってことさ」
「怜! それは違うんだ!」
思わぬ大声に、怜さんも、社長自身も驚いたように固まった。
「違う?」
いぶかし気な怜さんの問いかけに、社長がカックリと肩を落とす。
「お前の母さんはお前を置いて出て行った訳では無いんだ。私たちが養子縁組できるように身を引いただけだ。そして今も、お前の幸せのために協力してくれている」
「……どういうことだよ」
「それは……本人の口から聞く方がいい」
そう言って社長は、隣室の扉を開けたの。
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