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Step6 胡蝶蘭男子と約束しました
スズメノエンドウ③
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扉の向こうに立っていたのは、美しい女性。
目元が……怜さんにそっくり。
この方が、怜さんの実のお母さんなんだ。
「お袋?」
怜さんの目に、驚きと憎悪と、思慕の色がない交ぜになる。
社長に促されて部屋へと入ってきた女性。ソファに腰を下ろしてから、ようやく意を決したように怜さんに視線を向けた。
「怜……ごめんなさい」
「……」
思いが溢れてしまうのを恐れるかのように、怜さんは唇をぎゅっと噛みしめている。
「真美さんは、お前のお母さんは、今もずっと、アメリカで資金調達の仕事を手伝ってもらっているんだ。その資金を使って、明香里の父親の銀行の株を買い戻すためにな」
「義理の母の銀行の株って……どういうことだよ」
「お前の結婚に反対して、探偵を雇ったりマスコミを使ったりしていたのは明香里なんだ。明香里にとってお前は、憎い女の子どもであり、心血注いだ自分の最高傑作品でもあったんだろう。だから、真美と同じような立場の女性との結婚なんて、許せなかったんだと思う」
「一体どういうことなんだよ。最初からちゃんと説明してくれよ」
怜さんが困惑したように叫んだ。
社長は隣に座る真美さんに、同意を求める。真美さんが悲しそうに頷いた。
「私と真美は、結婚の約束をしていたんだ。でも……その頃会社の業績はあまり芳しくなくて、融資の有無をちらつかせながら明香里との縁談話が持ち込まれたんだ。もちろん私は即座に断ろうとした。だが、この融資が上手くいかなければ会社は倒産の危機に陥ってしまう。多くの社員を路頭に迷わせるわけにはいかなかった。だから、私と真美は話し合って別れたんだ。真美のお腹にお前が宿っていることも知らずに」
それまで黙っていた真美さんが、震えながら話し出した。
「私はどうしてもあなたを生みたかったの。大好きな裕さんの子。大切に、一緒に過ごしたかった。でも……あなたには、タカナシグループの血が流れていて、望めばその地位に立てることに、後から気づいたの」
「明香里は私と結婚して、私の子を産んでタカナシグループを再興することを楽しみにしていたんだ。でも、彼女は子どもを望めない体だとわかった。その時彼女が言ったんだ。あなたの血を継ぐ者がいるなら、誰の子でもかまわないと。ただし、自分が育てること、それが条件だと。その時、欲が出てしまったんだ。お前を跡継ぎにしたいという欲が」
「それが、あなたにとって一番幸せなことだと、裕さんも私も信じていたのよ」
そこまで聞いた時、怜さんが再び怒りの色を濃くした。
「そんな勝手なこと! 子どもの将来を勝手に決めるなよ。俺には迷惑でしかなかったよ!」
目元が……怜さんにそっくり。
この方が、怜さんの実のお母さんなんだ。
「お袋?」
怜さんの目に、驚きと憎悪と、思慕の色がない交ぜになる。
社長に促されて部屋へと入ってきた女性。ソファに腰を下ろしてから、ようやく意を決したように怜さんに視線を向けた。
「怜……ごめんなさい」
「……」
思いが溢れてしまうのを恐れるかのように、怜さんは唇をぎゅっと噛みしめている。
「真美さんは、お前のお母さんは、今もずっと、アメリカで資金調達の仕事を手伝ってもらっているんだ。その資金を使って、明香里の父親の銀行の株を買い戻すためにな」
「義理の母の銀行の株って……どういうことだよ」
「お前の結婚に反対して、探偵を雇ったりマスコミを使ったりしていたのは明香里なんだ。明香里にとってお前は、憎い女の子どもであり、心血注いだ自分の最高傑作品でもあったんだろう。だから、真美と同じような立場の女性との結婚なんて、許せなかったんだと思う」
「一体どういうことなんだよ。最初からちゃんと説明してくれよ」
怜さんが困惑したように叫んだ。
社長は隣に座る真美さんに、同意を求める。真美さんが悲しそうに頷いた。
「私と真美は、結婚の約束をしていたんだ。でも……その頃会社の業績はあまり芳しくなくて、融資の有無をちらつかせながら明香里との縁談話が持ち込まれたんだ。もちろん私は即座に断ろうとした。だが、この融資が上手くいかなければ会社は倒産の危機に陥ってしまう。多くの社員を路頭に迷わせるわけにはいかなかった。だから、私と真美は話し合って別れたんだ。真美のお腹にお前が宿っていることも知らずに」
それまで黙っていた真美さんが、震えながら話し出した。
「私はどうしてもあなたを生みたかったの。大好きな裕さんの子。大切に、一緒に過ごしたかった。でも……あなたには、タカナシグループの血が流れていて、望めばその地位に立てることに、後から気づいたの」
「明香里は私と結婚して、私の子を産んでタカナシグループを再興することを楽しみにしていたんだ。でも、彼女は子どもを望めない体だとわかった。その時彼女が言ったんだ。あなたの血を継ぐ者がいるなら、誰の子でもかまわないと。ただし、自分が育てること、それが条件だと。その時、欲が出てしまったんだ。お前を跡継ぎにしたいという欲が」
「それが、あなたにとって一番幸せなことだと、裕さんも私も信じていたのよ」
そこまで聞いた時、怜さんが再び怒りの色を濃くした。
「そんな勝手なこと! 子どもの将来を勝手に決めるなよ。俺には迷惑でしかなかったよ!」
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