未来の魔王は図書館の片隅で愛を育む

涼月

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第9話 王子と散歩

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「フェリス嬢、早く食べよう」

 至極自然に。
 まるでそれが当然というがごとく。
 レオン王子が私の隣に座られた。

 あれ以来、毎日レオン王子様達とサーヤ姫様とそのご友人達と一緒に昼食をとっている。

 ちょっと前までだったのが嘘みたいに、今は華やかな方たちに囲まれて食べているの。

 嬉しい気持ちと戸惑いと。
 ちょっと残念な気持ち。

 どうせなら、アルドール様も一緒だったら良かったのにな。
 ううん、それは駄目。
 私とアルドール様が親しくしていたら、みんなにお昼寝のことがバレちゃうかもしれない。

 アルドール様の安眠は守らなきゃ!

 頭では分かっているのに、何故か視線がアルドール様を追ってしまった。

 隣にはリーズが陣取っている……

 そうよね。
 アルドール様と聖女の婚姻は、ヴァンドール王国とカリスト魔帝国の願いでもあるんだから。
 ちゃんと応援しないと。

 でも、なんでだろう。
 二人が並ぶ姿を見ていると、なんだか悲しくて苦しい……

「あれ? フェリス嬢元気ないみたいだね。何か心配事かな」

 レオン王子が優しい眼差しを向けてくださった。
 恐れ多いことだわ!

「いえ、いたって元気です」

 私はとびきり明るい笑顔を作って見せる。

「そう? じゃあさ、食後の散歩に誘っていいかな」
「えっ、食後のお散歩って」

 食後の散歩は気になる方と……

 そんな暗黙の了解があることは、疎い私でも知っているから、レオン王子の言葉に驚いてしまったの。

「そんなに緊張しないで。軽い気持ちで受けて欲しいんだけどな」
「……あの、私なんかでよろしいんでしょうか? レオン王子様には、他に気になっていらっしゃる方がいらしたと」
「フェリス嬢、今は君を誘っているんだよ」

 とびきりの甘いお顔でそんなことを言われたら……誤解しそうになってしまう。

 もう、イケメンは罪だわ!

「すみません。よろしくお願いします」
 

 ソフィア学園の庭園は、複雑に入り組んだ小路が作られていて、そのどれもが美しい花々に彩られ、腰を下ろせる東屋やベンチが置かれているの。

 つまり、静かに愛を育めるようになっているってこと。
 これだけを見ても、学園が全力で生徒たちの恋を応援していることがわかる。

 みんなでそぞろ歩くのかと思いきや、それはほんの最初だけだったわ。
 みんなそれぞれに散って行かれて、最後は私とレオン王子様が残された。

「あの、護衛は」
「ヴィルヘルムもセドリスも近くには居るはずだから。それに、一応最高のセキュリティシールドが張られているからね。学園内は安全だよ。生徒同士が揉めさえしなければ」

 ああ、そうでした。

 この学園に集うのは、最強魔法の使い手ばかり。
 つまり、一番危ないのは生徒達だったりするのよね。

 私以外は、だけどね。

「フェリス嬢、エスコートさせてくれるかな」

 美しい所作で手を差し出されたレオン王子様。

「はい」

 私もできる限り優雅に、レオン王子様の手に自分の手を重ねた。

「じゃあ、行こう」
「あっ」

 ぐっと引き寄せられてにっこり。
 直ぐ横に並んで歩き出された。

 なんだか緊張して……足がもつれそう。

 大好きな恋愛物語から飛び出してきたみたいに美しい王子様と二人なんて。

 まるで夢の世界にいるみたい!
 はあ~
 素敵!

 レオン王子が連れて行ってくれたのは、蔦に覆われた壁の向こう側。緑の葉をかき分けて、壊れ掛かった鍵をこじ開けて中に入る。
 
 シークレットガーデン!

 美しい花々の真ん中に大きなブランコがあって、レオン王子は真っ直ぐにそこに向かわれたの。
 一緒に腰を下ろして。

「気持ちいいね」

 きらきらと降り注ぐ太陽が温かい。

「はい、とっても気持ちいいです」
「気に入った?」
「はい。すっごく素敵です」
「ここはね、特別なんだ」
「レオン王子様の秘密の庭、ですか?」
「そう、きっとみんなは気づいて無いと思う。僕も偶然みつけたんだけどね」
「そんな秘密の場所に連れてきてくださって、ありがとうございます。でも、よろしいんですか?」

 レオン王子に真っ直ぐに見つめられて、それ以上何も言えなくなる。

 ドキドキしちゃう。

「フェリス嬢なら大丈夫だと思って。口堅そうだし」
「はいっ、お任せください。決して誰にも口外しません」

 はははっ、とレオン王子が朗らかな笑い声をあげられた。

「やっぱり、フェリス嬢はいいね」
「そ、そうですか?」

 何が良かったのかわからないけど。

「ここなら、ないしょ話にうってつけだろ」
「確かにそうですね」
「フェリス嬢は魔力持ちだけど、スキルが無いんだよね」

 うっ、いきなり本題ですね。

「はい。出来損ないですが」
「フェリスちゃん」
「えっ、ちゃん!?」
「フェリスちゃんさ、スキル無いからって、自分のことを出来損ないなんて言わないで欲しいな」
「ご、ごめんなさい」
「いや、僕のほうこそごめん。言い方が悪かったね。この学園ってさ、エリート意識の塊のような人もいるからさ、きっと辛い思いもいっぱいしてると思うんだけど」

 ああ、心配してくださったのね。

「ありがとうございます、レオン王子様。でも大丈夫です。私、こう見えて結構図太い神経の持ち主ですし」
「……それなら良かった」
「助けてくださる優しい方もいらっしゃいますし」
「ほう、それは誰かな?」

 ああ、失敗!

 アルドール様のことは言えないわ。
 えーっと、どうしよう。

「僕、とか?」
「!」

 えっ、あれ。
 そ、そうね。そうだわ。

「はい、レオン王子様に、こんな風に気にかけていただけて」
「何かあったら、遠慮せずに言うんだよ」
「はいっ、ありがとうございます」

 なんとか誤魔化せたかしら。
 ううん、違うわね。

 本当に、レオン王子様にも色々気にかけていただけて、恐れ多いことだわ。

「レオン王子様、本当にありがとうございます」

 心を込めてお礼申し上げたの。

「……いや、まいったな」

 レオン王子様が口元を覆われて、困惑したように目を逸らされた。

「ヤバい。ミイラ取りがミイラになる」

 えっ、どういうことかしら?

 
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