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14話
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シュルバート王国との戦争が終わり一週間ほど経っただろうか。
ホロンの判断により、ギルバート公爵家を謀反人に仕立て上げたローズ男爵やそれに関わった王族は処刑台行きになった。
シュルツ王子やローズ男爵令嬢は、辺境送りにされた。
そこでは、誰も彼らを助けてくれない。一人で生き抜いていく必要がある。
生まれてからずっと贅沢をし尽くしてきた彼らが、辺境の地での過酷な生活に根を上げるのは目に見えていることだが、どうでもいい。勝手に野たれ死んでいろ、とハルトは思った。
ちなみにシュルバート王国は、竜国の属国扱いとなった。
そんなことよりも、今自分に優しく微笑みかける花嫁が可愛くて可愛くてたまらない。
「ハルト、カッコいいですわ」
ハルトのタキシード姿にエレナの頬が赤く染まる。
黒を基調としており、赤いマントを身につけ、漆黒の髪を軽く後ろに流していた。一方のエレナは、純白のドレスに身を包み、胸元にはハルトから貰ったネックレスが光かる。
「エレナも綺麗だ」
ハルトの指がエレナの顎を捉え、そっと持ち上げた。そのまま流れる動作で、エレナの唇に自分のそれを重ねる。
「ゴッホン! 竜王様にエレナ様、そろそろ式が始まりますので、お楽しみは後ほどに」
ホロンが咳払いをし、ハルトとエレナにそう告げた。
「ちっ、邪魔者が入りやがった……」
「ふふ」
悔しそうに舌打ちをするハルトに思わず笑みが浮かぶ。
「ん? どうしたのだ、エレナ?」
「なんでもありません。では、行きましょう」
エレナはそう言って、ハルトの腕に自分の腕を絡ませ、そのまま式場に足を踏み入れた。
◇◆◇◆◇◆◇
式場は大勢の人で溢れかえっていた。
あまりの人の熱気に目眩を覚えていると、ハルトがエレナの腰に手を回し、優しくエスコートしてくれる。
「エレナ、大丈夫か?」
「ごめんなさい。こんなに人がいるなんて思ってもいなくて……少し緊張してしまったの」
エレナがそう言うと、ハルトは優しく笑みを浮かべ、エレナの額に口付けを落とす。まだバージンロードを歩いている最中だというのに、そんなことお構い無しに自分達の世界に入り込む主役二人。
「ゴッホン! 新郎新婦は前にお進み下さい」
すかさずホロンの声が飛ぶ。
「……後であいつをしめてやる」
物騒なことを呟くハルトに、エレナはハルトの耳元で囁く。
「ホロンさんをいじめたら私が許しません。もしいじめでもしたら、一日中口をきいてあげませんから……」
「ッ……わ、分かった」
エレナの黒い笑みにハルトもたじたじである。
そのまま大人しくバージンロードを進み、神父さんの前で止まる。
「あなたはこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
神父さんがハルトに問いかけた。
「誓います」
「あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
次に神父さんはエレナに問う。
「はい、誓います」
そして最後にハルトとエレナに問いかける。
「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか」
「「捧げます」」
「では、指輪の交換を」
神父さんにそう促され、ダイヤモンドの指輪を交換する。
指輪は丸くて終わりがないことから永遠の愛を意味し 貴金属でできていることは永遠に価値のあるものを意味する。また、ダイヤモンドはその硬さから『固い絆を結ぶ』という意味が込められ、『永遠の絆』の象徴とされ、永遠に美しく輝くことから、「輝くような美と金運に恵まれ、愛に満ちた家庭を築ける」という意味が秘められている。
「では最後に、神に祈りましょう。二人の愛が永遠に続きますように」
神父さんがそう言い、神に祈りを捧げた瞬間、眩い光が式場を包み込んだ。
『我からも祝福をしよう。そしてこれは我からの贈り物だ』
真っ白な美しい毛並みを持った狼が現れる。
「神狼?」
「え?」
戸惑っているエレナの前に二つの光が出現し、光がおさまるとそこにはギルバート公爵と公爵夫人が立っていた。
「お、お父様に、お母様……どうして……」
突然のことに頭がついていけず、エレナは狼に説明を求める。
『この二人は我がずっと保護していたのだ。傷がかなり深くてのう、回復するのに時間がかかってしまった』
「……神狼様、あ、ありがとう、ございます」
エレナの頬を涙が伝う。
「ダメよ、エレナ。花嫁が泣いては……」
公爵夫人がエレナの頬が流れる涙を拭った。
「綺麗だよ、エレナ。流石私の娘だ」
ギルバート公爵がエレナをそっと抱きしめる。流石のハルトも親子の再会を邪魔するような真似はしない。姉弟の再会は邪魔したけれど……。
『竜王よ、我が眷属を頼むぞ。幸せにしてやってくれ』
「言われなくてもそうするつもりだ」
ハルトはそう言い、ギルバート公爵と公爵夫人からエレナを奪い取る。
「エレナ、まだ誓いのキスがまだだったな」
「ふふ、そうですわね」
多くの人と一匹が祝福する中、ハルトとエレナの口付けが行われた。
ーーーーーーーーー
取り敢えずこれで完結となります。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
次は悪役令嬢の前世を持つ少女の話なんかを考えていたりします。
ホロンの判断により、ギルバート公爵家を謀反人に仕立て上げたローズ男爵やそれに関わった王族は処刑台行きになった。
シュルツ王子やローズ男爵令嬢は、辺境送りにされた。
そこでは、誰も彼らを助けてくれない。一人で生き抜いていく必要がある。
生まれてからずっと贅沢をし尽くしてきた彼らが、辺境の地での過酷な生活に根を上げるのは目に見えていることだが、どうでもいい。勝手に野たれ死んでいろ、とハルトは思った。
ちなみにシュルバート王国は、竜国の属国扱いとなった。
そんなことよりも、今自分に優しく微笑みかける花嫁が可愛くて可愛くてたまらない。
「ハルト、カッコいいですわ」
ハルトのタキシード姿にエレナの頬が赤く染まる。
黒を基調としており、赤いマントを身につけ、漆黒の髪を軽く後ろに流していた。一方のエレナは、純白のドレスに身を包み、胸元にはハルトから貰ったネックレスが光かる。
「エレナも綺麗だ」
ハルトの指がエレナの顎を捉え、そっと持ち上げた。そのまま流れる動作で、エレナの唇に自分のそれを重ねる。
「ゴッホン! 竜王様にエレナ様、そろそろ式が始まりますので、お楽しみは後ほどに」
ホロンが咳払いをし、ハルトとエレナにそう告げた。
「ちっ、邪魔者が入りやがった……」
「ふふ」
悔しそうに舌打ちをするハルトに思わず笑みが浮かぶ。
「ん? どうしたのだ、エレナ?」
「なんでもありません。では、行きましょう」
エレナはそう言って、ハルトの腕に自分の腕を絡ませ、そのまま式場に足を踏み入れた。
◇◆◇◆◇◆◇
式場は大勢の人で溢れかえっていた。
あまりの人の熱気に目眩を覚えていると、ハルトがエレナの腰に手を回し、優しくエスコートしてくれる。
「エレナ、大丈夫か?」
「ごめんなさい。こんなに人がいるなんて思ってもいなくて……少し緊張してしまったの」
エレナがそう言うと、ハルトは優しく笑みを浮かべ、エレナの額に口付けを落とす。まだバージンロードを歩いている最中だというのに、そんなことお構い無しに自分達の世界に入り込む主役二人。
「ゴッホン! 新郎新婦は前にお進み下さい」
すかさずホロンの声が飛ぶ。
「……後であいつをしめてやる」
物騒なことを呟くハルトに、エレナはハルトの耳元で囁く。
「ホロンさんをいじめたら私が許しません。もしいじめでもしたら、一日中口をきいてあげませんから……」
「ッ……わ、分かった」
エレナの黒い笑みにハルトもたじたじである。
そのまま大人しくバージンロードを進み、神父さんの前で止まる。
「あなたはこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
神父さんがハルトに問いかけた。
「誓います」
「あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
次に神父さんはエレナに問う。
「はい、誓います」
そして最後にハルトとエレナに問いかける。
「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか」
「「捧げます」」
「では、指輪の交換を」
神父さんにそう促され、ダイヤモンドの指輪を交換する。
指輪は丸くて終わりがないことから永遠の愛を意味し 貴金属でできていることは永遠に価値のあるものを意味する。また、ダイヤモンドはその硬さから『固い絆を結ぶ』という意味が込められ、『永遠の絆』の象徴とされ、永遠に美しく輝くことから、「輝くような美と金運に恵まれ、愛に満ちた家庭を築ける」という意味が秘められている。
「では最後に、神に祈りましょう。二人の愛が永遠に続きますように」
神父さんがそう言い、神に祈りを捧げた瞬間、眩い光が式場を包み込んだ。
『我からも祝福をしよう。そしてこれは我からの贈り物だ』
真っ白な美しい毛並みを持った狼が現れる。
「神狼?」
「え?」
戸惑っているエレナの前に二つの光が出現し、光がおさまるとそこにはギルバート公爵と公爵夫人が立っていた。
「お、お父様に、お母様……どうして……」
突然のことに頭がついていけず、エレナは狼に説明を求める。
『この二人は我がずっと保護していたのだ。傷がかなり深くてのう、回復するのに時間がかかってしまった』
「……神狼様、あ、ありがとう、ございます」
エレナの頬を涙が伝う。
「ダメよ、エレナ。花嫁が泣いては……」
公爵夫人がエレナの頬が流れる涙を拭った。
「綺麗だよ、エレナ。流石私の娘だ」
ギルバート公爵がエレナをそっと抱きしめる。流石のハルトも親子の再会を邪魔するような真似はしない。姉弟の再会は邪魔したけれど……。
『竜王よ、我が眷属を頼むぞ。幸せにしてやってくれ』
「言われなくてもそうするつもりだ」
ハルトはそう言い、ギルバート公爵と公爵夫人からエレナを奪い取る。
「エレナ、まだ誓いのキスがまだだったな」
「ふふ、そうですわね」
多くの人と一匹が祝福する中、ハルトとエレナの口付けが行われた。
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取り敢えずこれで完結となります。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
次は悪役令嬢の前世を持つ少女の話なんかを考えていたりします。
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