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6.5話:ドキドキ中毒
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マリサ「で、家まで私を呼び寄せてどうしたいの?」
マリサは靴を脱いで、リコの家に上がり込む。リコがストーブを起動し、点火するまでの間にリコは深呼吸してマリサのことをじっくり見つめる。お互い棒立ちなのに、心臓が激しく脈打っている。これは恐怖ではなく、むしろ不安によるものだ。
マリサ「……なんで部屋にサンドバッグがあるの?」
リコ「う、ストレス解消と運動のために……」
マリサ「へぇ……変わってるね」
リコの部屋になぜが使い込まれたサンドバッグがある。なんでそんなものがあるんだと、マリサが笑うのを見て、リコは少しだけ気が楽になった。
リコ「……以前さ、クニシゲさんとの世間話でこんな話をしたの。激辛の食べ物ばっかり好む友達がいるって話をしたらね……『そいつはエンドルフィン中毒なんじゃないか?』ってさ。
なんでも、激辛料理を食べると、その強い刺激のおかげで脳内麻薬のエンドルフィンってのが出るんだって……」
マリサ「なーに? 回りくどい言い方だね」
リコ「他にもエンドルフィンが出る行動として、ジェットコースターみたいな絶叫マシーンに乗るとか、ひたすら走るとか、ホラー映画を見るとか、あとはサウナに入るとか、色々とあるんだけれど。私たち草食系の人種なら、肉食動物に迫られることでエンドルフィンが出るんだってさ」
マリサ「へぇ……それはそれは」
リコ「初めてマリサに出会った日。酒に酔ったマリサにべたべた触られたけれど……その時から、私は恐怖で心臓がバクバク鳴り響いて……でもね、なんかこう、気持ちよくて。会うたびに、マリサに絡まれたり、抱き着かれるのがうれしかった。今もね、マリサに……抱き着いてもらいたくて。お店じゃできないくらいに激しく」
マリサ「言えたじゃん。こうすればいいの?」
マリサはリコを抱きしめる。優しい抱きしめ方で、物理的な苦しさはない。
リコ「うん、それでいいの……」
なのに、心臓だけは握りしめられてるように苦しかった。心拍数が加速する……
マリサ「へぇ、じゃあもうちょっと密着しちゃおう」
少しだけ抱きしめる力が強くなった。分厚いコートを隔ててはいるが、それでも彼女の体の形が少しだけわかる。顔が近い。酒臭いにおいに紛れて、肉食動物の危険なにおいが漂ってくるし、ずらりと並んだ牙を見ていると、不安になってくる。
太古の昔、まだ草食人が肉食人の狩猟の対象だった頃から遺伝子に刻まれている恐怖がドキドキを加速している。だけれど、それが心地よくなってしまう。大丈夫、マリサは確かに肉食獣だが、自分と同じ女で、しかも身長は15センチメートルは低い。それなら、いざというときは殴って黙らせられる。私はサンドバッグでパンチもキックも鍛えているんだ。高校生の時から。
リコ「腰が抜けそう……」
マリサ「抜けた方がいいの? 抜けたくないの?」
いたずらっぽいマリサの態度に、酔ってるなぁ……と、リコは思う。けれど、酔ったマリサのその勢いが、今のリコにはありがたい。リコも少し酔っている、このままの雰囲気で突っ走ろうと、リコは後ずさりながらベッドに向かう。マリサは抱きしめながらそれに続き、リコが自主的に倒れるのに合わせてベッドに押し倒した。
マリサ「まさか……リコちゃんがここまで積極的だなんてね……」
ストーブの炎が点火された音。マリサの吐息が降りかかる。なんて危険な香り。
マリサ「大丈夫? 怖くない? それとも、怖いのが好きなのかな?」
リコ「……っ。続けて」
破裂しそうなほどに脈打つ心臓を抱えたリコに、マリサは大口を開ける。首を丸ごと挟めそうな、今まで見たこともない開き具合を近距離で眺めると、膀胱がゆるんでしまいそうだ。呼吸すら震える。
背中に回されていたマリサの腕は、ベッドに倒れると同時に手首をつかんでいる。上から押さえつけられているので、身長差と体重差があっても、振り払うのは結構きつくなりそうだ。
マリサ「じゃあ、出血大サービスだね」
その状態で、マリサはリコのマズルを包むように嚙みついた。甘噛みで、傷つける意思はない、というのはわかるのだけれど。それでもダイレクトに口臭が伝わってくるこの状況には、もはや声すらも出せない。
涙まで出てくるのに、少し心地よくて。それでも、さすがに耐え切れずにリコが振り払おうと暴れると、以外にもマリサはすぐに手を離した。マリサはリコが嫌がるならばそれ以上のことはしないつもりだったのだが……リコはよっぽど強い恐怖を抱いたのか、リコはマリサが手を放してからも、呆然としながらリコを見上げていた。目からは涙がこぼれている。
マリサ「やりすぎちゃった?」
リコ「ううん、すごくドキドキした……でも、漏らすかと思った」
マリサ「なにそれ、漏らしちゃうだなんておばあちゃんみたいじゃん」
リコ「あはは……それだけ怖いんだよ? 私たちは。あぁ、でも、すごく、なんか、気持ちいいの」
マリサ「それはよかったねぇ……それで、満足した? 後片付けとか、マイちゃんとのお泊りがあるから、あんまり長くはいられないんだけれど……」
リコ「大丈夫。もう満足したよ……ごめんね、こんなことにつき合わせちゃって」
リコが苦笑しつつ、マリサに謝ると、マリサは満足げに微笑んでいる。
マリサ「気にしないで。私も興奮した……って、言っても、食べたいって意味じゃあないよ? 今満腹だし……私が興奮したのはね。リコちゃんの体温、リコちゃんの手首の形……リコちゃんのマズルの感触。貴方の全部が、好きだって自覚できたから」
リコ「えぇ……」
何を言うんだこの女は、とリコは苦笑する。ともあれ一安心と油断していたら、次にマリサはリコの首筋を舐めた。全身に悪寒が走ったリコは拳を握りしめて殴るところだった。マリサにとっては戯れているだけなのだけれど、リコにとっては命の危険が付きまとっている。その危険こそがリコが高揚感を得るためのスパイスなのだが、その副作用の動悸と息切れで、リコは意識を保つので精一杯だ。
その息切れが治まるまでマリサはじっとリコの目を見つめる。リコは目をそらしたいが、目をそらせばその瞬間に食われてしまいそうな気がして、目をそらすことも、瞬きすらもはばかられる。次第に呼吸が落ち着いてきたところで、マリサはリコを凝視するのをやめた。
マリサ「リコちゃん。私のお母さんが、どんな人だかって知ってるよね?」
リコが冷静に会話が出来る状態になったところで、マリサは唐突にそんな話を始める。マリサの微笑む表情からは、もう悪戯っぽい感情は感じない。
リコ「ん……? なんか、男と逃げたって……しかも、店の金を盗んで、借金も残したって話だよね……ハルトさんから聞いたよ」
マリサ「そう、男と逃げたの。どうやら、私は金にだらしないところは受け継がなかったみたいだけれど……でもね、リコちゃん。私、下半身は結構だらしないんだ? お母さんに、似たくないところが似ちゃってさ」
リコ「なんか、驚かないなぁ……マリサのスキンシップの激しさを見てるとそんな感じが似合うもん」
マリサ「えー? 私ビッチに見える? お話の続きだけれど、お母さんとは違うところもあってね……それは、時代のせいって言うのもあるんだろうけれど。男だけじゃない、女にも、そういう気分になっちゃうってことで……」
リコ「私と、寝たいってこと?」
リコはさすがに目を大きくそらした。貞操の危機までは想定していなかった。
マリサ「正解。リコちゃんだけ満足しただなんて、ずるいよ? 私は満足していないんだから、今度はリコちゃんが私を満足させてくれないと……」
リコ「冗談でしょ……?」
マリサ「冗談じゃないよ。でも、ね……マイちゃんを家に泊めたら、欲求不満が大変なことになるんじゃないかとか思っていたんだ。小さな女の子と一緒の部屋で眠るだなんて、耐えられるかなって。けれど……今度はリコちゃん。貴方がもう一度遊んでくれるなら……我慢できるかも。逆に、リコちゃんが遊んでくれないって言ったら、マイちゃんに悪いことを教えちゃうかもなー」
リコ「えー……それ、私断れない奴じゃん」
マリサ「そうだよー? だから今度はさ、お店の外で会おうよ。さすがに甘草だと知り合いに見られちゃうかもだし、二人で油島あたりのホテルに行ってさ……それとも、真宿とか活袋のほうがいい?」
リコ「そ、それは……」
マリサ「ダメかな? きっと楽しませてあげられると思うけれど……リコちゃんの事、好きだし、夢中にさせるよ」
リコ「うぅ……気持ちは有り難いけれど……」
マウントポジションを取られ、見下ろされながらの求愛。半ば脅しのような状況ではあるのだが、ドキドキしながら見上げるマリサの顔は、今まで見たどんな男よりも魅力的に見えた。もしかしたらそれは。吊り橋効果とかって呼ばれるものなのかもしれない。
リコは言葉で返事をする代わりに、マリサの頬を手で包み、無言でマリサに口づけをした。手が震えるだけじゃない、気を失いそうになって、焦点まで合わなくなってきた。肉食系女子が相手だからなのか、それとも初めてだからなのか、リコはもうドキドキとかそんな次元じゃなく、溶けそうな気分になりながらその口づけを終える。
リコ「私もマリサちゃんのことは好き……だけれど、そういうのは、男の人とやるものだと思ってた……」
マリサ「いいじゃん、練習だと思ってさ」
リコ「練習になるのかな?」
息も絶え絶えになりながら、リコは強がって笑って見せる。
マリサ「どうかなぁ……でも、楽しませることは約束する……あー……時間があったら、このままリコちゃんの服を脱がせちゃうんだけれどなぁ。ストーブもいい感じだし」
リコ「やめてよ、ここは一応社員寮だし、壁薄いし、今下着がボロボロだから」
本当は、少し漏らしたからだ。あんまりにもマリサの行為に恐怖を覚えたせいで、膀胱が緩んでしまった。店を出る前にトイレに行っていなかったら、ベッドまで濡らしていたかもしれない。
マリサ「ふーん。まぁいいや、次に会うときは心の準備は済ませておいてね、リコちゃん」
リコ「うん……」
マリサに微笑まれるとともに、彼女の口の先から唾液が一滴、滴り落ちる。リコはそれを躊躇いがちに舐めとった。当然のことながら美味しくはなかったけれど、不思議と心はとても満たされた。
ドキドキの余韻も醒めやまぬ中、マリサはリコから体を起こして立ち上がる。
マリサ「それじゃ、家族とマイちゃんが待ってるから、私帰るね……あー、リコちゃんの匂い、べったりついちゃったなぁ。ハルトになんて言われちゃうかなー? ふふふ」
マリサは嬉しそうに言いながら、尻尾をぶんぶんと振って玄関へと歩いていく。
リコ「あの、マリサちゃん……」
マリサ「うん、なにかな?」
ベッドルームのドアを閉めようとしていたマリサはリコの方を振りかえる。
リコ「やるからには……わからないなりに、初心者なりに楽しむからね。マリサちゃんに期待してるからね。がっかりさせないでよ」
マリサ「任せといて。うーん、どんなホテル行こうかなー」
自分の中に生まれた感情に戸惑いながらも、リコは帰っていくマリサを追いかけて外まで見送り、手を振ってから家のカギを閉める。白い息を何度も吐きながら、リコは先ほどまで行われた出来事を反芻する。家にマリサを呼んで、しかも激しいスキンシップを望んだりして。ドン引きされるんじゃないかって怖かったけれど、そしてそれ以上に怖い目にあったけれど、でも告白してよかった。マリサが受け入れてくれて本当に良かった。
リコ「……シャワー浴びて寝よ」
独り言ちてから目を閉じ、鼓動を確かめる。徐々に落ち着いていく心臓の余韻に浸りながら、リコはふらふらとシャワーを浴びて寝床についた。
リコ「いやこれ、寝れるかな……」
こんな興奮した状態で眠れるかどうか、明日の仕事に響かないことを祈るばかりだ。
マリサは靴を脱いで、リコの家に上がり込む。リコがストーブを起動し、点火するまでの間にリコは深呼吸してマリサのことをじっくり見つめる。お互い棒立ちなのに、心臓が激しく脈打っている。これは恐怖ではなく、むしろ不安によるものだ。
マリサ「……なんで部屋にサンドバッグがあるの?」
リコ「う、ストレス解消と運動のために……」
マリサ「へぇ……変わってるね」
リコの部屋になぜが使い込まれたサンドバッグがある。なんでそんなものがあるんだと、マリサが笑うのを見て、リコは少しだけ気が楽になった。
リコ「……以前さ、クニシゲさんとの世間話でこんな話をしたの。激辛の食べ物ばっかり好む友達がいるって話をしたらね……『そいつはエンドルフィン中毒なんじゃないか?』ってさ。
なんでも、激辛料理を食べると、その強い刺激のおかげで脳内麻薬のエンドルフィンってのが出るんだって……」
マリサ「なーに? 回りくどい言い方だね」
リコ「他にもエンドルフィンが出る行動として、ジェットコースターみたいな絶叫マシーンに乗るとか、ひたすら走るとか、ホラー映画を見るとか、あとはサウナに入るとか、色々とあるんだけれど。私たち草食系の人種なら、肉食動物に迫られることでエンドルフィンが出るんだってさ」
マリサ「へぇ……それはそれは」
リコ「初めてマリサに出会った日。酒に酔ったマリサにべたべた触られたけれど……その時から、私は恐怖で心臓がバクバク鳴り響いて……でもね、なんかこう、気持ちよくて。会うたびに、マリサに絡まれたり、抱き着かれるのがうれしかった。今もね、マリサに……抱き着いてもらいたくて。お店じゃできないくらいに激しく」
マリサ「言えたじゃん。こうすればいいの?」
マリサはリコを抱きしめる。優しい抱きしめ方で、物理的な苦しさはない。
リコ「うん、それでいいの……」
なのに、心臓だけは握りしめられてるように苦しかった。心拍数が加速する……
マリサ「へぇ、じゃあもうちょっと密着しちゃおう」
少しだけ抱きしめる力が強くなった。分厚いコートを隔ててはいるが、それでも彼女の体の形が少しだけわかる。顔が近い。酒臭いにおいに紛れて、肉食動物の危険なにおいが漂ってくるし、ずらりと並んだ牙を見ていると、不安になってくる。
太古の昔、まだ草食人が肉食人の狩猟の対象だった頃から遺伝子に刻まれている恐怖がドキドキを加速している。だけれど、それが心地よくなってしまう。大丈夫、マリサは確かに肉食獣だが、自分と同じ女で、しかも身長は15センチメートルは低い。それなら、いざというときは殴って黙らせられる。私はサンドバッグでパンチもキックも鍛えているんだ。高校生の時から。
リコ「腰が抜けそう……」
マリサ「抜けた方がいいの? 抜けたくないの?」
いたずらっぽいマリサの態度に、酔ってるなぁ……と、リコは思う。けれど、酔ったマリサのその勢いが、今のリコにはありがたい。リコも少し酔っている、このままの雰囲気で突っ走ろうと、リコは後ずさりながらベッドに向かう。マリサは抱きしめながらそれに続き、リコが自主的に倒れるのに合わせてベッドに押し倒した。
マリサ「まさか……リコちゃんがここまで積極的だなんてね……」
ストーブの炎が点火された音。マリサの吐息が降りかかる。なんて危険な香り。
マリサ「大丈夫? 怖くない? それとも、怖いのが好きなのかな?」
リコ「……っ。続けて」
破裂しそうなほどに脈打つ心臓を抱えたリコに、マリサは大口を開ける。首を丸ごと挟めそうな、今まで見たこともない開き具合を近距離で眺めると、膀胱がゆるんでしまいそうだ。呼吸すら震える。
背中に回されていたマリサの腕は、ベッドに倒れると同時に手首をつかんでいる。上から押さえつけられているので、身長差と体重差があっても、振り払うのは結構きつくなりそうだ。
マリサ「じゃあ、出血大サービスだね」
その状態で、マリサはリコのマズルを包むように嚙みついた。甘噛みで、傷つける意思はない、というのはわかるのだけれど。それでもダイレクトに口臭が伝わってくるこの状況には、もはや声すらも出せない。
涙まで出てくるのに、少し心地よくて。それでも、さすがに耐え切れずにリコが振り払おうと暴れると、以外にもマリサはすぐに手を離した。マリサはリコが嫌がるならばそれ以上のことはしないつもりだったのだが……リコはよっぽど強い恐怖を抱いたのか、リコはマリサが手を放してからも、呆然としながらリコを見上げていた。目からは涙がこぼれている。
マリサ「やりすぎちゃった?」
リコ「ううん、すごくドキドキした……でも、漏らすかと思った」
マリサ「なにそれ、漏らしちゃうだなんておばあちゃんみたいじゃん」
リコ「あはは……それだけ怖いんだよ? 私たちは。あぁ、でも、すごく、なんか、気持ちいいの」
マリサ「それはよかったねぇ……それで、満足した? 後片付けとか、マイちゃんとのお泊りがあるから、あんまり長くはいられないんだけれど……」
リコ「大丈夫。もう満足したよ……ごめんね、こんなことにつき合わせちゃって」
リコが苦笑しつつ、マリサに謝ると、マリサは満足げに微笑んでいる。
マリサ「気にしないで。私も興奮した……って、言っても、食べたいって意味じゃあないよ? 今満腹だし……私が興奮したのはね。リコちゃんの体温、リコちゃんの手首の形……リコちゃんのマズルの感触。貴方の全部が、好きだって自覚できたから」
リコ「えぇ……」
何を言うんだこの女は、とリコは苦笑する。ともあれ一安心と油断していたら、次にマリサはリコの首筋を舐めた。全身に悪寒が走ったリコは拳を握りしめて殴るところだった。マリサにとっては戯れているだけなのだけれど、リコにとっては命の危険が付きまとっている。その危険こそがリコが高揚感を得るためのスパイスなのだが、その副作用の動悸と息切れで、リコは意識を保つので精一杯だ。
その息切れが治まるまでマリサはじっとリコの目を見つめる。リコは目をそらしたいが、目をそらせばその瞬間に食われてしまいそうな気がして、目をそらすことも、瞬きすらもはばかられる。次第に呼吸が落ち着いてきたところで、マリサはリコを凝視するのをやめた。
マリサ「リコちゃん。私のお母さんが、どんな人だかって知ってるよね?」
リコが冷静に会話が出来る状態になったところで、マリサは唐突にそんな話を始める。マリサの微笑む表情からは、もう悪戯っぽい感情は感じない。
リコ「ん……? なんか、男と逃げたって……しかも、店の金を盗んで、借金も残したって話だよね……ハルトさんから聞いたよ」
マリサ「そう、男と逃げたの。どうやら、私は金にだらしないところは受け継がなかったみたいだけれど……でもね、リコちゃん。私、下半身は結構だらしないんだ? お母さんに、似たくないところが似ちゃってさ」
リコ「なんか、驚かないなぁ……マリサのスキンシップの激しさを見てるとそんな感じが似合うもん」
マリサ「えー? 私ビッチに見える? お話の続きだけれど、お母さんとは違うところもあってね……それは、時代のせいって言うのもあるんだろうけれど。男だけじゃない、女にも、そういう気分になっちゃうってことで……」
リコ「私と、寝たいってこと?」
リコはさすがに目を大きくそらした。貞操の危機までは想定していなかった。
マリサ「正解。リコちゃんだけ満足しただなんて、ずるいよ? 私は満足していないんだから、今度はリコちゃんが私を満足させてくれないと……」
リコ「冗談でしょ……?」
マリサ「冗談じゃないよ。でも、ね……マイちゃんを家に泊めたら、欲求不満が大変なことになるんじゃないかとか思っていたんだ。小さな女の子と一緒の部屋で眠るだなんて、耐えられるかなって。けれど……今度はリコちゃん。貴方がもう一度遊んでくれるなら……我慢できるかも。逆に、リコちゃんが遊んでくれないって言ったら、マイちゃんに悪いことを教えちゃうかもなー」
リコ「えー……それ、私断れない奴じゃん」
マリサ「そうだよー? だから今度はさ、お店の外で会おうよ。さすがに甘草だと知り合いに見られちゃうかもだし、二人で油島あたりのホテルに行ってさ……それとも、真宿とか活袋のほうがいい?」
リコ「そ、それは……」
マリサ「ダメかな? きっと楽しませてあげられると思うけれど……リコちゃんの事、好きだし、夢中にさせるよ」
リコ「うぅ……気持ちは有り難いけれど……」
マウントポジションを取られ、見下ろされながらの求愛。半ば脅しのような状況ではあるのだが、ドキドキしながら見上げるマリサの顔は、今まで見たどんな男よりも魅力的に見えた。もしかしたらそれは。吊り橋効果とかって呼ばれるものなのかもしれない。
リコは言葉で返事をする代わりに、マリサの頬を手で包み、無言でマリサに口づけをした。手が震えるだけじゃない、気を失いそうになって、焦点まで合わなくなってきた。肉食系女子が相手だからなのか、それとも初めてだからなのか、リコはもうドキドキとかそんな次元じゃなく、溶けそうな気分になりながらその口づけを終える。
リコ「私もマリサちゃんのことは好き……だけれど、そういうのは、男の人とやるものだと思ってた……」
マリサ「いいじゃん、練習だと思ってさ」
リコ「練習になるのかな?」
息も絶え絶えになりながら、リコは強がって笑って見せる。
マリサ「どうかなぁ……でも、楽しませることは約束する……あー……時間があったら、このままリコちゃんの服を脱がせちゃうんだけれどなぁ。ストーブもいい感じだし」
リコ「やめてよ、ここは一応社員寮だし、壁薄いし、今下着がボロボロだから」
本当は、少し漏らしたからだ。あんまりにもマリサの行為に恐怖を覚えたせいで、膀胱が緩んでしまった。店を出る前にトイレに行っていなかったら、ベッドまで濡らしていたかもしれない。
マリサ「ふーん。まぁいいや、次に会うときは心の準備は済ませておいてね、リコちゃん」
リコ「うん……」
マリサに微笑まれるとともに、彼女の口の先から唾液が一滴、滴り落ちる。リコはそれを躊躇いがちに舐めとった。当然のことながら美味しくはなかったけれど、不思議と心はとても満たされた。
ドキドキの余韻も醒めやまぬ中、マリサはリコから体を起こして立ち上がる。
マリサ「それじゃ、家族とマイちゃんが待ってるから、私帰るね……あー、リコちゃんの匂い、べったりついちゃったなぁ。ハルトになんて言われちゃうかなー? ふふふ」
マリサは嬉しそうに言いながら、尻尾をぶんぶんと振って玄関へと歩いていく。
リコ「あの、マリサちゃん……」
マリサ「うん、なにかな?」
ベッドルームのドアを閉めようとしていたマリサはリコの方を振りかえる。
リコ「やるからには……わからないなりに、初心者なりに楽しむからね。マリサちゃんに期待してるからね。がっかりさせないでよ」
マリサ「任せといて。うーん、どんなホテル行こうかなー」
自分の中に生まれた感情に戸惑いながらも、リコは帰っていくマリサを追いかけて外まで見送り、手を振ってから家のカギを閉める。白い息を何度も吐きながら、リコは先ほどまで行われた出来事を反芻する。家にマリサを呼んで、しかも激しいスキンシップを望んだりして。ドン引きされるんじゃないかって怖かったけれど、そしてそれ以上に怖い目にあったけれど、でも告白してよかった。マリサが受け入れてくれて本当に良かった。
リコ「……シャワー浴びて寝よ」
独り言ちてから目を閉じ、鼓動を確かめる。徐々に落ち着いていく心臓の余韻に浸りながら、リコはふらふらとシャワーを浴びて寝床についた。
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