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日常
ありふれた毎日
しおりを挟むお母さんの作ってくれる朝ごはんの匂いで目覚めた。そんなわたしは幸せだなと思う。
居間に行くとお父さんが新聞を広げて読んでいた。
「お父さん、おはよう」
椅子に腰を下ろしながらわたしは朝の挨拶をした。
「おはよう、亜沙美」とお父さんは新聞から顔上げて朝の挨拶を返した。
「おはよう、亜沙美」
お母さんが台所から朝食を運んできた。
「おはよう、お母さん、今日は和食だね。美味しそう」
「うふふ、卵焼きと納豆にお味噌汁よ」
お母さんがわたしの目の前に置いた湯気の立った味噌汁から味噌の良い香りがふわりと立ち上る。
お母さんも椅子に腰を下ろし「いただきます」と手を合わせた。わたしとお父さんも手を合わせ、「いただきます」と言った。
味噌汁を口に運ぶとじゃがいもがほくほくしていて玉ねぎの甘みがそれはもう美味しくて心が温かくなる。
「じゃがいもと玉ねぎのお味噌汁美味しいね」
「うふふ、ありがとう。亜沙美はいつも幸せそうに食べてくれるから作り甲斐があるわ」
お母さんはそう言って柔らかい笑みを浮かべた。
「おいおい、亜沙美だけじゃないぞ。母さん、俺も旨いと思っているぞ」
お父さんは唇を尖らせて言った。
「あらあら、そうなのね。それは嬉しいわ」
お母さんは口元に手を当てて微笑みを浮かべた。
二人を眺めているとこの両親の元に生まれてきて良かったと思った。
昨夜見た夢が恐ろしかったのでよりそう思ったのかもしれない。
朝食を食べ終えわたしは二階の自室に向かう。
わたしは時々恐ろしい夢を見る。
オレンジ色の提灯に明かりがぽつんと灯りオレンジ色の暖簾には『ご飯屋』と書かれた定食屋。そして、包丁から血が……。
血がぽたりぽたりと……。
「ああ、あんな夢なんて思い出したくない」
わたしはぶんぶんと首を振り嫌な恐ろしい気持ちを振り払う。
最近嫌な夢ばかり見る。 ストレスが溜まって疲れているのかもしれない。
きっと、そうだ。考えるのはよそう。わたしはゆっくり深呼吸をした。
「亜沙美、早くしないと遅刻するわよ」
階下からお母さんの声が聞こえてきた。
「は~い」
わたしは明るい声で返事をした。
玄関で靴を履き姿見鏡に全身を映して身だしなみを整える。
わたしは、玄関を開けて外に出る。秋の風が心地よいけれど、夏が終わりなんとなく寂しい季節でもあるなと思う。
なんて考えている場合ではなかった。急がないと遅刻してしまうではないか。
慌てて駅に向かおうとしたその時、スマホがプルプルと震えた。わたしはカバンからスマホを取り出し画面を見る。メールが届いていた。
送信者は松木だった。わたしはその画面を見て「うげ~」と思わず声を上げてしまった。
メールの内容を確認しないでカバンにスマホを仕舞う。松木の送ってきたメールの内容なんて確認したくないんだから。見たくもない。
そして、わたしは急いで駅に向かった。
息を切らし町田駅に着くとショッピングセンターや百貨店などがあり大勢の人で賑わいをみせていた。
わたし、梅沢亜沙美は東京都町田市に住んでいる二十五歳だ。町田駅は、JR横浜線と小田急線が乗り入れる多摩地域における主要駅の一つだ。
わたしは、小田急線で町田駅から電車に乗り新宿駅にあるコールセンターで派遣社員として働いている。新宿で働いていると町田市は何県ですか? なんて聞かれることもある。
その度「東京都ですよ」と答える。町田駅から新宿駅は快速急行だと三十分ちょっとしかかからないのになと溜め息をつく。
だけど、町田駅の南口の半分は神奈川県になっているし町田から東京の都心部へ出るのには必ず神奈川県を通過するという不思議な地理の地域なのだ。
電車の車窓から新宿の高層ビルが見えてきた。今日も流されるように電車から降りる。仕事なんてしたくないなと溜め息つきながら職場へと向かう。
それに昨夜見たあのオレンジ色の提灯が頭から離れなくて憂鬱な気分でビル街を歩く。それに松木からのメールにもげんなりする。
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