オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしの笑顔と恐怖

なかじまあゆこ

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帰れない

電車が動かない

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「お腹空いたね」

  わたしは笑顔を浮かべて佐和の顔を見た。やっぱり佐和のその顔はまつ毛がくるっとカールされていて可愛らしい。怖くなんてない。怖くなんてないのだ。

「やっと全員集まったよ」

  美奈がリビングからひょっこりと顔を出した。ツインテールの長い髪がゆらゆらと揺れている。

「早くお昼ごはんにしようぜ」と久野君が言った。

  わたし達はいつもの席に腰を下ろした。

  テーブルにはカレー、サラダ、スープにパンが並べられていた。

「わっ、美味しそうだね」

  スパイシーなカレーの香りに鼻腔がくすぐられる。お昼ごはんを食べて元気になろう。カレーの匂いでなんだか元気が湧いてくる。

「オーナーの真下さんが雨で大変ですねって料理を持ってきてくれたんだよ」

  美奈がツインテールを揺らし湯気の立った紅茶を並べながら言った。

「へぇ~真下さん優しいんだね」

「うん、サービスですって。雨でどうやら電車が動かないらしいよ。だから作ってくれたみたいなんだよ」

「……美奈ちゃん、今電車が動かないと言った?」

「うん、電車は今日一日運休の予定らしいよ」

  美奈のその言葉でわたしの元気になった心が萎んでしまいそうになった。


「さあ、食べようよ。亜沙美ちゃんそんなに落ち込んだ顔しないでよ。仕事のシフトとかあるかもしれないけど、こうなったら人生楽しんだもの勝ちだよ」

  美奈はそう言って席に着いた。

  確かに美奈の言う通りだけど、今回はオレンジ色の提灯キーホルダーのことがあるので楽しめないのだ。

「みんな~食べよう。いただきます」と美奈が手を合わせた。わたし達も「いただきます」と言って昼食の時間が始まった。

  わたしはカレーをスプーンで掬って食べた。大きめな人参やじゃがいもに玉ねぎなどがごろごろ入っていてスパイシーで美味しかった。じゃがいものホクホク感はこれはもう最高だ。お母さんの作ってくれるカレーにも似た味だ。

  シーザーサラダもレタス、キュウリ、トマトなどの野菜が爽やかで美味しかった。

  わたしはいつの間にか幸せな気持ちになり食事の時間を過ごしていた。

  パンもスープも全部食べてごちそうさまでした。

「美味しかったね。雨で一日同窓会の日程が増えたけどいいじゃない。みんなと久しぶりに会ったんだから楽しもうよ」

  美奈がそう言ってにっこりと微笑みを浮かべた。

「そうだ。楽しもうぜ」と言って久野君は笑った。

「うん、楽しもう~」

  真由香も笑顔を浮かべている。そういえば真由香と久野君は高校時代から明るかったな。

  わたしはみんなの顔をぐるりと見回した。高校時代の仲間達が今この場に集まっているんだなと思いなんだか不思議な気持ちになった。

  その時、リビングの電話がプルプルーと鳴った。


「はい、そうですか。分かりました。はい、ではもう一泊お願いします」

  電話に出た美奈がやり取りしているのはこのコテージのオーナーである真下さんだと思われる。話の内容からすると電車の運休が決まったようだ。

  そして、電話を切った美奈は思った通り「今日の運転見合わせは決定したみたいだよ」と言った。

  わたしは仕方がないなと溜め息をついた。

「亜沙美ゆっくりしようぜ」

  松木は紅茶を一口飲みぽんとわたしの肩を叩いた。

「うん、そうだね」とわたしは答えティーカップに手を伸ばし口に運ぶ。冷めた紅茶のティーカップに入っている輪切りのレモンが苦かった。

「みんなゆっくり紅茶でも飲もうよ」

  美奈が新しい紅茶を淹れてくれた。紅茶を飲むと心も体もぽかぽかじわりと温まりほっとする。

  オレンジ色の提灯キーホルダーのことなんて考えるのはよそう。わたしはもう一口紅茶を飲み心を落ち着かせた。

  そうだ、お母さんに今日は家に帰れなくなってしまったと電話をしよう。
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