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美衣佐の家
背後に
しおりを挟む学校からの帰り道。わたしは、パン屋に寄りチョココロネと明太子パンを買った。
昨日は美衣佐の家に遊びに行って楽しかったなと思い出し笑いをしてしまう。ニコニコしながらわたしはパン屋さんのロゴ入りの袋を振り回し歩く。
チョコレートがたっぷりで甘くてとろとろなチョココロネ、あのくるくる巻いたパン生地の食感も最高だな。早く家に帰って食べたいな。
そんなことを考えながらオレンジ色に染まった美しい秋の夕焼けに包まれ歩く。
その時、誰かの気配を感じた。
「当近さん」
背後から突然声をかけられたのでわたしはビクッとして振り返る。
立っていたのはお兄さんだった。そうなのだ、美衣佐のお兄さんが制服姿でニコニコと笑って立っていたのだった。
「あ、お兄さん!」
「当近さん、学校からの帰りですか?」
「はい、そうです。お兄さんもですか? って言うか高校生だったんですね!」
「そうですよ」
お兄さんはそう答え首を横に傾げた。
「大学生くらいかなと思っていました」
「俺は高校三年生ですよ。あはは、老けてますか?」
「あ、違いますよ。大人っぽいので。ごめんなさい」
「いえいえ、よく大学生や社会人と間違えられるので気にしないでくださいね」
お兄さんは柔らかい笑みを浮かべわたしの顔を見た。その整った顔に少しドキドキしてしまった。
「あの、学校この辺じゃないですよね?」
わたしは、お兄さんの制服をチラッと見ながら尋ねた。ネイビー色のブレザーに赤色のネクタイ、この制服は確か龍川《たつかわ》高校の制服だ。
「この駅前でアルバイトをしているんですよ」
「えっ! そうだったんですね」
「そこのパン屋さんの隣のカフェなんですよ。今から出勤です」
お兄さんは、わたしがパンを買ったパン屋の隣にあるカフェを指差し言った。
「へぇ、そうだったんですね。そのカフェはかなり前に数回しか行ったことなかったです」
「良かったら今度来てくださいね。こっそりサービスしますよ」
お兄さんはいたずらっ子ぽく笑った。その顔はちょっと可愛らしくて高校生らしく見えた。
「はい、行きます」
「絶対にですよ。では、また」とお兄さんは手を振る。 わたしも手を振った。
「あのこの前は送ってくれてありがとうございました」
「いや、コンビニへ行くついでだけだったので、あ、気をつけて帰ってくださいね」
振り返ったお兄さんは前に向き直り歩き出した。
アルバイト先であるカフェへ向かうお兄さんの後ろ姿をわたしはぼんやりと眺めた。
美衣佐のお兄さんに会うなんてびっくりした。カフェにお兄さんが消えるとわたしは、家に向かって歩き出した。
パン屋のロゴ入りの袋がカサカサと音を鳴らす。
高校三年生か。わたしのお姉ちゃんと同じ学年だよね。うちのお姉ちゃんの方がずっと幼く見えるな。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いているうちに家の前に着いていた。
そして、二階建ての一軒家を見上げる。この家はわたしが当たり前のように住んでいる家だ。
改めて見るとなんだか不思議な気持ちになる。
生まれた時からずっとわたしはこの家で過ごしている。楽しいことも辛いことも嬉しいことも色々あった。わたしのそして、家族との思い出がたくさん詰まっている家。
どんなに嫌なことがあってもこの十五年間この家にわたしは帰って来ている。
なぜだかそんなことを家を見上げながら考えた。美衣佐の家を見たからなのかわからないけれど、感情がぶわーっと溢れ出てくる。
わたしはしばらくの間家を眺め続けた。
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