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真実とは恐ろしいもの
ねえ、お兄ちゃん
しおりを挟む和室に入り仏壇の前に座る。いつものように、鈴棒で、お鈴をチーンチーンと鳴らしわたしは、手を合わせた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、わたしね、お兄ちゃんの日記を読んだの。ねえ、お兄ちゃんがわたしや友君の変わりに犠牲になるって、どうしてそんなことを言ったの?」
わたしは、お兄ちゃんに問いかけるけれど、もちろん返事は返ってこない。
床の間にあるお兄ちゃんの遺影も見た。
遺影のお兄ちゃんの表情も変わらない。
わたしのドキンドキンと波のように打つ鼓動は、お兄ちゃんの遺影写真をみると少しだけ和らいだ。
わたしは、じっとお兄ちゃんの遺影写真を眺めた。だけど、やっぱり何かが……。
「史砂ちゃん、早く学校に行きなさい。遅刻しちゃうわよ」
お母さんの声が聞こえてきた。
学校になんて行きたくないよ。
「史砂ちゃ~ん」
お母さんが、わたしを呼ぶので仕方なく、お兄ちゃん行って来ますと言って和室を出た。
自室に戻り学校に行く準備をする。その時も背筋からゾワゾワゾクゾクと込み上げてくる恐怖。
お兄ちゃんの日記帳をわたしは、チラリと見る。日記帳が、薄い灰色に包まれたように見えた。
わたしは、気になるけど、日記帳を机の上に置いたまま部屋を出た。
だけど、やっぱり気になるので踵を返して、日記帳を取りに戻り学校鞄の中に詰め込んだ。
今日もいつものように、ゆかりと真由と一緒に神社の前で待ち合わせをして学校に向かった。
お兄ちゃんのあんなにも悲痛な叫び声を読んだというのにわたしは、普通に学校に通っているなんて信じられない。
だけど、言い訳になるけれど、部屋の中でうずくまっているのも恐ろしい。
わたしは、自分のことしか考えていないのかもしれない。
秋の真っ赤な紅葉から木々たちも冬支度をはじめ寂しげな色になってきた。
落葉を踏みしめる音は気持ちいいけれど、わたしの心は、どんよりと曇っている。
風が、ひゅーと吹いた。
その風に乗り、お兄ちゃんの声が聞こえてきたような気がした。
「お兄ちゃん?」
わたしは、お兄ちゃんと声に出してしまった。
史砂とわたしに囁きかけるお兄ちゃんの声が聞こえてきたような気がした。
「お兄ちゃん」
わたしの声に、
「史砂、どうしたの?」とゆかりが言った。
「お兄ちゃんって?」と真由も不思議そうな声を出している。
わたしは、二人に振り返り、「ごめんね、ちょっと忘れ物しちゃった先に学校に行ってて~」と言って、学校とは逆方向に歩き出した。
「え~史砂、どうしたの?」
二人の声が聞こえて来るけれど、わたしは振り向かないで歩いた。
「お兄ちゃん、居るんでしょ? お兄ちゃん」
わたしは、お兄ちゃんを探した。
間違いない、お兄ちゃんは何処かにいるはずだ。わたしは、キョロキョロ辺りを見渡した。
お兄ちゃんが、わたしのことを心配してる。お兄ちゃんは、妹のわたしや友達の友君を大切にする心の優しい人なんだから。
『史砂、史砂……』
この声は、お兄ちゃんの声だ。
お兄ちゃんが、わたしのことを呼んでいる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん~」
神社の方から声が聞こえてきたようだ。
わたしは、神社へと続く階段を全速力で駆け上る。下から見上げると長く続いている階段だ。
お兄ちゃんは、この階段の上に居るのかな?
わたしは、息を切らして、階段のてっぺんまで辿り着いた。
あまりにも速く走ったので、ぜえぜえはあはあと息が切れる。
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