わたし沖縄で働くことにしました(沖縄の風や味が忘れられなくて)

なかじまあゆこ

文字の大きさ
2 / 54
沖縄で働きます

沖縄そばを食べましょう

しおりを挟む
 
 以前旅行で訪れた時の沖縄と同様今回も亜熱帯地域独特のむわーっとしながらもカラッとしている空気が気持ちよい。

 「みどりちゃん、歩くの速いね! そんなに急がなくても大丈夫でしょう」

 「バスにも乗らないとならないんだからね。最初が肝心じゃない。早めに行ってきちんとした人をアピールしなきゃ」

 「へぇーくそ真面目だね。わたし国際通りに寄りたい!」

 なんて真理子は言いながら、パンフレットを左手に大量に持ち、右手でスーツケースを転がしながら、頬をぷくっと膨らませぶーたれている。

 「国際通り? 前に旅行で来た時に散々見たからいいんじゃない」

 「やだよ! 見てからにしようよ。まだ時間あるよね?」

 国際通りとは沖縄のお土産屋さんや飲食店などが、ずらーっと並び観光客や地元の人で賑わう華やかな通りである。

 それにしても真理子は同い年なのにこんなにも子供っぽいのだろうかと呆れきる。

 「あ、そうだ! 沖縄そばを食べてから行こうよ~お昼ご飯食べてなかったね」

 「食べる。あ、でも国際通りは?」

  「あとあと。先ずは腹ごしらえよ!」

  わたしは、そう言いながらさっさと歩き出す。

 「ちょっとーみどりちゃん、自分勝手だよ」 

 真理子は激しく抗議をする。

 「真理子はお腹空かないの?」

 「空く」

 「じゃあ、決定! 沖縄そばを食べに行こう!」

 「あーずるいよ~」

 ずるいかもしれないけれど、真理子にはこれくらい強引にしないと、ずっとお土産を見続けるのがオチだもんね。

  お昼ご飯をどこで食べようかという話になり、以前沖縄旅行で訪れた際お気に入りだった『最高にうまい食堂』に行くことに決定した。

 「さあ、レッツゴー」

 「レッツゴーって、みどりちゃん時間がなかったはずなんだけど。まっいっか」

  わたしと真理子は沖縄唯一の電車ゆいレール(モノレール)に乗り目的地へと向かった。

 ゆいレールは、スーツケースを転がした観光客で賑わっていた。みんな観光に来ているんだろうな?

 わたし達みたいにこれから、この沖縄に住んで働こうとしている人は果たしてこの中に何人いるのだろうか。地元の人は別として。

 やっぱり観光客として訪れた方がよかったのかなとも考えてしまうけれど、首を振り自分で決めたことだよね。頑張らないと思い直す。

  ゆいレールを降りて、ずっと真っ直ぐ歩くと、あの懐かしい黄色い看板に黒い文字で『最高にうまい食堂』と書かれている看板が見えてきた。

 一年前の夏わたしと真理子は旅中この食堂に何度も足を運んだ。

 美味しかったな。沖縄そば。ああまた、食べられる幸せを噛みしめる。

 「真理子、懐かしいね」

 「うん、懐かしいね」

 わたしと真理子は顔を見合わせ笑う。

 そして、食堂の扉を開けると、

  「いらっしゃいませ」と元気な威勢のいいおばちゃんの声がお出迎え。

 変わってないな。その元気な声に嬉しくなった。
 先ずは食券を買うシステムになっている。先に席を確保してから並ぶわたし達。

 お昼時で店内は混んでおり長蛇の列ができている。

 「迷わないでよ真理子」

 「まかせといて!」

 何をまかせるんだろうか。怪しいなと笑ってしまう。

 わたしの順番がきた。

 お昼だから沖縄そば単品にするか『沖縄そば定食』にするか少し考えたがやはりせっかくきたのだから『沖縄そば定食』に決めた。よしとボタンを押す。

 メニューは壁一面に『沖縄そば定食』や『豆腐チャンプルー』、『沖縄ちゃんぽん』、『しょうが焼き定食』等々たくさんある。二十品目以上あるのかな。写真や絵はないので分かりづらい。

  そして、真理子の順番がやってきた。思った通り食券機の前で迷う真理子。

 後ろに並んでいる人が早くしてくれよと痺れをきらしているはずだ。いつもこれなんだから懲りない真理子。

 「あーん。どうしよう。迷うよー」

 早くしろ。

 迷いに迷い真理子も結局『沖縄そば定食』に決めた。

 食券をお店のおばちゃんに渡して、食券札に変えてもらい札に書
かれている番号を呼ばれるのを待つシステムだ。

 「番号札何番さーん」と
おばちゃんが大きな威勢のいい声で呼ぶ。

  わたしと真理子は、おばちゃんから五番と六番の札を受け取った。

 「真理子、また、迷ってまったくもう」

 「だって~あれも食べたいしこれも食べたいって思うじゃない」

 えへへと笑う真理子の頭をわたしはベシバシと軽く叩いておいた。

 「あ~ん。酷いな、みどりちゃん!」

 好きなだけ泣いときな。

 そして、席に着き待つこと十分位で、

 「番号札、五番さん、六番さん~」とおばちゃんの大きな威勢のいい声で呼ばれて、わたし達は『沖縄そば定食』を受け取った。

 うわーこれが待ちに待った沖縄そばだよ。もう食べる前から美味しいとわかる。懐かしさがじわじわと込み上げてくる。


  席に運び、さっそく食べよう。

 沖縄そば定食は、沖縄そばに、卵焼き、ウインナー、漬物、お味噌汁にそして大盛ご飯。

 沖縄の飲食店ではご飯を大盛にするお店が多い。わたしは、大食いだから食べきれるけれど少食の女性にとってはかなり厳しい量だと思われる。

 アメリカンサイズなのかな。

 さあ、沖縄そばに大量に島唐辛子を入れて食べよう。

 「みどりちゃん、美味しそうだね!」

 「ねっ。真理子!」

 食べる前に写真を撮っておこう。

 スマホを鞄から取り出して、パチリと『沖縄そば定食』の写真を撮った。


  それにしてもこれでは、観光気分だよね。

 でも、まずは腹ごしらえをしないと戦は始まらないというじゃない。

 なんて自分に言い訳をして目の前の沖縄そばに箸を伸ばし食べる。やっぱり美味しい。大量に入れた島唐辛子の味が効いていて、もう美味しすぎる。

 「真理子、やっぱり沖縄と言えば沖縄そばだよね」

 「そうだね。みどりちゃん! 美味しいね。それにしても、みどりちゃん島唐辛子入れすぎじゃない?」

  真理子は、じーっとわたしの沖縄そばの器を見ている。

 「いっぱい入れるから、より美味しいのよ。真理子もどばっと入れちゃいな」

 わたしは真理子に島唐辛子の瓶を差し出した。

 「嫌だよー」

 真理子は首を左右にぶんぶん振る。

 「ふ~ん。入れないんだ」

 
  「ねえ、旅行でここに来た時にわたしの豆腐チャンプルーとみどりちゃんの沖縄そばを食い逃げされたじゃない。思い出すねー」

 「今では笑い話だけどあの時はびっくりしたよね」

 そうなのだ。昨年の夏この『最高にうまい食堂』でわたし達は食い逃げ事件にあったのだ。

 その時わたしは『沖縄そば定食』を真理子は『豆腐チャンプルー定食』を注文したのだけど、テーブルの上に置いたままトイレに行き戻って来たら、『沖縄そば定食』も『豆腐チャンプルー定食』も空っぽになっていたんだから、もうびっくりした。

  食い逃げされたんだ。

 詳しくはまた後々に。

 「懐かしいね」

 「そうだね!」

 思い出に浸りながら、わたしは大盛ご飯も全て完食した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...