【完結】ろくでもない初恋を捨てて ※番外編更新中

緑野 蜜柑

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優しい嘘②

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カチャ…

突然、フロアのドアが開く音がしてビクッと驚く。音がした方を見ると、そこにいたのは西野さんだった。

「え…っ、栗原さん…!?な、なに泣いてるんですか…!」
「西野さん…、なんでこんな遅くに…」
「イギリスの支社とのオンラインの会議が長引いて…、って、泣いてるとか、意味わかんないんですけど」

その通りだ。この前からどうしてこの人とはタイミングが悪いのか。

「ごめんなさ…、仕事、終わらなくて…」
「宿題終わらない小学生じゃないんですから」
「で、ですよね…、すみません…。これ終わらないと、明日の夜、彼氏と会えないなって思ってしまって…」

そこまで言いかけたところで慌てて口を押さえる。こんなことで職場で泣くとか、公私混同もいいところだ。

「ご、ごめんなさい…!あたし、遅くまで仕事して疲れてどうかしてるみたいです。気にしなくて大丈夫なので…!」
「いま、何の業務してるんでしたっけ?」

そう言いながら西野さんがあたしの横に来てパソコンの画面を覗き込む。

「あ…、えっと…、夕方、課長に急に頼まれたこの案件で…」
「あぁ、急ぎなのにやれる奴がいないって慌ててたあれですね。いいですよ、僕に半分まわしてもらって」
「え…っ?」
「明日は僕ちょっと余裕あるので。二人で手分けすれば、終わりますよね」
「お、終わりますけど、そんな迷惑かける訳には…」
「じゃあ、帰りにラーメン奢ってください。お腹空いたんで、あとは明日にして帰りましょ」

そう言いながら、タイミングよく西野さんのお腹が鳴る。恥ずかしそうにお腹を撫でる西野さんに、あたしにも思わず笑ってしまった。



「西野さんって、英語喋れるんですね。さっきイギリスの支社と会議って」

ラーメンを啜りながら、そう尋ねる。

「僕、帰国子女なんですよ。でも8歳で日本に帰って来ちゃったんで、普通に勉強も必要なんですけど…」
「え…っ、すごいです…!あたし、ディス イズ ア ペンとかしか言えません…」
「学校で習いますけど、いつ使うんすかね、それ」
「ふふ、確かに、そうですね」

そう言って二人で笑う。不思議だ。少し前まで何の接点もなかった西野さんと、こんなふうにラーメンを啜っているなんて。

寡黙で表情が読めない人だとずっと近寄り難く思っていたけど、こうして接してみると西野さんは意外と話しやすい。

そして、実は優しい人だということも、知らなかった。さっきも呆れたりせずに、それどころか仕事を半分引き受けてくれた。

他にもまだ知らない一面があるのだろうか。そんな思いが心の隅に少しだけ霞めて、あたしは慌てて否定した。
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