【完結】ろくでもない初恋を捨てて ※番外編更新中

緑野 蜜柑

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特別な気持ち①

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──2カ月後。

「栗原さん。この会計システムの使い方、ちょっと聞いてもいい?」

自分のデスクで仕事をしていると、隣の部署の男性がノートパソコンを片手にそう声を掛けてきた。確か名前は、橋田さん…だったろうか。あたしより少し歳上で、リーダータイプの目立つ人だ。

「いいですよ。どれでしょう?」
「これなんだけど、領収書どこに貼るかわかんなくて…」

数ヶ月前に新しくなったそのシステムは、あまりの使いづらさから "改悪した" と社内で嫌われている。営業部の中で一番使い慣れているあたしは、こんな風に質問を受けることが増えた。

「領収書の添付欄は、確かそこの右上のタブ開くと出てくると思います」
「あ、出てきた! なるほど…。いや、これ気付かねーな…」
「ですよね、あたしもそう思います」

深く同意しながらそう答える。今みたいに重要な欄がタブで隠れていたり、ボタンが分かりづらい場所にあったり、どうにも使いにくいシステムなのだ。

「助かったよ。さすが栗原さん」
「良かったです。困ったら、またいつでも聞いてください」

そう言って自分の仕事に戻ろうとすると、橋田さんはまだ何か言いたそうにあたしを見た。

「まだ、何か…?」
「あー…っ、えっと…」
「……?」
「今日、メシ行かない?」
「え…?」
「もちろん、二人で」
「ふた…っ!?」

急な誘いに固まるあたしに、橋田さんがニコッと笑う。今は勤務時間で、ここはオフィス。周りには普通に営業部のみんなもいるのに、こんなに堂々と誘って来る人がいるなんて。

「ご、ごめんなさい。 今日は予定が…」
「あ、じゃあ、今日じゃなくてもいいよ。いつなら空いてる?」

そう食い下がってくる彼にたじろぐ。どういうつもりなのか…

「いえ、あの、二人で食事は、ちょっと…」

そう答えると、困っているあたしを察したのか、橋田さんは「まぁ、そうか…」と呟いてそれ以上の誘いを止めた。

「じゃあ、今度うちと営業部の親睦会でも開くよ。それなら来てくれる?」
「あ、はい…、それなら…」

あたしの返事に彼は微笑んで、軽く手を振りながら自分の部署へ戻っていった。

その後ろ姿をホッとしながら見送ると、周りの席のメンバーの視線がこちらを向いていることに気付く。あたしは急に恥ずかしくなって、慌てて自分の席を立った。
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