45 / 64
特別な気持ち②
しおりを挟む
「杏奈先輩、最近、モテ期ですねぇ」
給湯室に逃げ込んでコーヒーを入れていると、後ろから芽衣ちゃんがそう声を掛けてきた。
「芽衣ちゃん…」
「なに浮かない顔してるんですか。せっかくモテてるのに」
悠真と別れて3ヵ月。さっきの橋田さんみたいなことは実は初めてではなく、あたしはなぜか急に男性から声を掛けられるようになった。
…当然、戸惑っている。今まで男性に誘われることなんて皆無だった訳だから、当たり前と言えば当たり前だ。
「橋田さんって、女性社員から結構人気あるんですよ」
「へ、へぇ…」
あまりよく知らないけど、橋田さんはリーダーシップがあって目立つタイプ。外見も整っているし、女性に人気があるのも理解できる。そんな人が何が良くてあたしなんかに声を掛けてくるのだろう。
「結局、男の人って、結婚とか考え始めたら、杏奈先輩みたいな人がいいんですよ」
「……?」
「家庭的で優しくて、癒してくれそうな人っていうか」
…あたしが男の人だったら、芽衣ちゃんみたいに可愛い子とか、美月さんみたいな美人な方が絶対いいけど。
「その顔は信じてませんね? 杏奈先輩、自己評価低いからなぁ…」
そう言って芽衣ちゃんが笑った。
「橋田さん格好良いのに、なんで断っちゃったんですか? 食事ぐらい行ってくればいいのに」
「な、なんでって…、仕事中にあんなこと言われても…」
「じゃあ、仕事中じゃなかったら、OKしてました?」
「いや…、それは…」
芽衣ちゃんの言葉に口籠る。今どき、男の人に誘われたら試しに食事に行くぐらいは何ともないことなのかもしれないけど、あたしにとってはハードルが高い。
だって、これであたしが橋田さんと食事に行ったら、少なからず期待させてしまうってことじゃないんだろうか。格好良くて素敵な人なのだろうけど、あたしは橋田さんと付き合う未来は想像できない。
「やっぱり付き合う気もないのに、食事には行けないよ…」
「でも杏奈先輩、西野さんとは定期的に食事に行ってるくせに」
「え…っ、に、西野さんは…、その…」
突然西野さんの名前を出してきた芽衣ちゃんに慌てる。芽衣ちゃんの言う通り、あれ以降、西野さんとは2週間に1回ぐらいのペースで食事に行っている。
でも、それとこれとは事情が違うというか…。いや、違うこともないような気も最近はするのだけど…
そんなあたしを芽衣ちゃんがニヤニヤと見ているのに気付いて、あたしは急に恥ずかしくなった。
「も、もう終わり…! ほら、仕事戻るよ…!」
「えぇー…? まだ話は終わってないですよぉ」
「いいの! コーヒーも淹れ終わったんだから…!」
そう言って強制的に会話を終えて、あたしたちは給湯室を出た。
給湯室に逃げ込んでコーヒーを入れていると、後ろから芽衣ちゃんがそう声を掛けてきた。
「芽衣ちゃん…」
「なに浮かない顔してるんですか。せっかくモテてるのに」
悠真と別れて3ヵ月。さっきの橋田さんみたいなことは実は初めてではなく、あたしはなぜか急に男性から声を掛けられるようになった。
…当然、戸惑っている。今まで男性に誘われることなんて皆無だった訳だから、当たり前と言えば当たり前だ。
「橋田さんって、女性社員から結構人気あるんですよ」
「へ、へぇ…」
あまりよく知らないけど、橋田さんはリーダーシップがあって目立つタイプ。外見も整っているし、女性に人気があるのも理解できる。そんな人が何が良くてあたしなんかに声を掛けてくるのだろう。
「結局、男の人って、結婚とか考え始めたら、杏奈先輩みたいな人がいいんですよ」
「……?」
「家庭的で優しくて、癒してくれそうな人っていうか」
…あたしが男の人だったら、芽衣ちゃんみたいに可愛い子とか、美月さんみたいな美人な方が絶対いいけど。
「その顔は信じてませんね? 杏奈先輩、自己評価低いからなぁ…」
そう言って芽衣ちゃんが笑った。
「橋田さん格好良いのに、なんで断っちゃったんですか? 食事ぐらい行ってくればいいのに」
「な、なんでって…、仕事中にあんなこと言われても…」
「じゃあ、仕事中じゃなかったら、OKしてました?」
「いや…、それは…」
芽衣ちゃんの言葉に口籠る。今どき、男の人に誘われたら試しに食事に行くぐらいは何ともないことなのかもしれないけど、あたしにとってはハードルが高い。
だって、これであたしが橋田さんと食事に行ったら、少なからず期待させてしまうってことじゃないんだろうか。格好良くて素敵な人なのだろうけど、あたしは橋田さんと付き合う未来は想像できない。
「やっぱり付き合う気もないのに、食事には行けないよ…」
「でも杏奈先輩、西野さんとは定期的に食事に行ってるくせに」
「え…っ、に、西野さんは…、その…」
突然西野さんの名前を出してきた芽衣ちゃんに慌てる。芽衣ちゃんの言う通り、あれ以降、西野さんとは2週間に1回ぐらいのペースで食事に行っている。
でも、それとこれとは事情が違うというか…。いや、違うこともないような気も最近はするのだけど…
そんなあたしを芽衣ちゃんがニヤニヤと見ているのに気付いて、あたしは急に恥ずかしくなった。
「も、もう終わり…! ほら、仕事戻るよ…!」
「えぇー…? まだ話は終わってないですよぉ」
「いいの! コーヒーも淹れ終わったんだから…!」
そう言って強制的に会話を終えて、あたしたちは給湯室を出た。
2
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる