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〜10. 一途な鍾愛〜
優しい朝
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すべての話が終わったとき、殿下の部屋の窓から眩しい朝の光が差し込んでいた。
「泣くな、ロザリア」
そう微笑みながら、殿下が私の頬を伝う涙を指で拭う。だけど、完全に涙腺が崩壊してしまった私はポロポロと溢れる涙を止められなかった。
「す…、すみ…ません…」
「はは。泣きすぎだ」
そう笑いながら、殿下が私を抱き寄せる。そのまま逞しい腕にギュウ…と抱き締められて、殿下の胸の中に顔を埋める。
幼い頃に命を狙われ、国を追われた殿下。何よりも、生きていてくださって良かった。そして、殿下が絶望の淵にいた時、その傍らに父上がいただなんて、思ってもみなかった。
「あの時、貴方の父親がいなかったら、僕は生きることを諦めていたかもしれない」
殿下の言葉に小さく頷く。したたかで、時に強引な手段も使う父上。正直、そんなに出来た人間だったろうかと思わないこともないけれど、父上が助けなければ、まだ幼かった殿下はどうなっていたかわからない。
「今の僕があるのは、クレディア公爵のおかげだ。感謝してもしたりない」
きっと、それだけじゃない。絶望を乗り越え、数え切れないほどの努力を重ねて、今の殿下がここにいる。私は殿下から身体を離すと、膝立ちになり、自分の胸の中に殿下を抱き締めた。
「ロザリア…?」
「殿下の御母上の代わりです。きっとこうして、抱き締めたかったはずだから…」
そう言うと、私は抱き締める腕に力を込める。幼い殿下を残して炎の中で命を奪われた御母上は、どれほど無念だったことだろう。
「懐かしいな…」
そう呟いて、殿下が私の胸元に頭を預ける。こんなにも逞しく成長した殿下を、御母上は空の上から見てくださっているだろうか。
◇
「貴女が僕のもとへ来ることが決まったとき、夢を見ているようだった」
穏やかな表情で殿下が話し始める。
「クレディア公爵は、僕が貴女に恋い焦がれていたことを、分かっていたんだろうな」
「─…っ!」
そうだった。ずっと殿下はリディア様のことを好きなのだと思っていた。でも、話を聞く限り、殿下が想いを寄せていたのは…
「あの…、殿下はずっと…私のことだけを…好きでいてくれたのですか…?」
おずおずと尋ねた私に、殿下が優しく笑う。
「あぁ。話した通りだ。自分でも呆れるぐらい、僕は貴女しか見ていない」
そう言うと、殿下は抱き締めていた私の手を解き、甲に接吻を落とす。始まりは、私がこの国へ嫁ぐよりずっと前。果たしてどれだけの長い年月、殿下は私を想ってくれていたのだろう。
「白い結婚になど、できなかった」
「─…っ!」
「貴女を抱くことを、僕はずっと夢見てきたのだから」
私の頬を包んで、殿下がそう微笑む。優しい朝の光が殿下を照らし、瞳が愛しそうに私を見つめている。殿下と私は小さく笑い合うと、そのまま静かに唇を重ねた。
「泣くな、ロザリア」
そう微笑みながら、殿下が私の頬を伝う涙を指で拭う。だけど、完全に涙腺が崩壊してしまった私はポロポロと溢れる涙を止められなかった。
「す…、すみ…ません…」
「はは。泣きすぎだ」
そう笑いながら、殿下が私を抱き寄せる。そのまま逞しい腕にギュウ…と抱き締められて、殿下の胸の中に顔を埋める。
幼い頃に命を狙われ、国を追われた殿下。何よりも、生きていてくださって良かった。そして、殿下が絶望の淵にいた時、その傍らに父上がいただなんて、思ってもみなかった。
「あの時、貴方の父親がいなかったら、僕は生きることを諦めていたかもしれない」
殿下の言葉に小さく頷く。したたかで、時に強引な手段も使う父上。正直、そんなに出来た人間だったろうかと思わないこともないけれど、父上が助けなければ、まだ幼かった殿下はどうなっていたかわからない。
「今の僕があるのは、クレディア公爵のおかげだ。感謝してもしたりない」
きっと、それだけじゃない。絶望を乗り越え、数え切れないほどの努力を重ねて、今の殿下がここにいる。私は殿下から身体を離すと、膝立ちになり、自分の胸の中に殿下を抱き締めた。
「ロザリア…?」
「殿下の御母上の代わりです。きっとこうして、抱き締めたかったはずだから…」
そう言うと、私は抱き締める腕に力を込める。幼い殿下を残して炎の中で命を奪われた御母上は、どれほど無念だったことだろう。
「懐かしいな…」
そう呟いて、殿下が私の胸元に頭を預ける。こんなにも逞しく成長した殿下を、御母上は空の上から見てくださっているだろうか。
◇
「貴女が僕のもとへ来ることが決まったとき、夢を見ているようだった」
穏やかな表情で殿下が話し始める。
「クレディア公爵は、僕が貴女に恋い焦がれていたことを、分かっていたんだろうな」
「─…っ!」
そうだった。ずっと殿下はリディア様のことを好きなのだと思っていた。でも、話を聞く限り、殿下が想いを寄せていたのは…
「あの…、殿下はずっと…私のことだけを…好きでいてくれたのですか…?」
おずおずと尋ねた私に、殿下が優しく笑う。
「あぁ。話した通りだ。自分でも呆れるぐらい、僕は貴女しか見ていない」
そう言うと、殿下は抱き締めていた私の手を解き、甲に接吻を落とす。始まりは、私がこの国へ嫁ぐよりずっと前。果たしてどれだけの長い年月、殿下は私を想ってくれていたのだろう。
「白い結婚になど、できなかった」
「─…っ!」
「貴女を抱くことを、僕はずっと夢見てきたのだから」
私の頬を包んで、殿下がそう微笑む。優しい朝の光が殿下を照らし、瞳が愛しそうに私を見つめている。殿下と私は小さく笑い合うと、そのまま静かに唇を重ねた。
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