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〜11. エピローグ〜
特別な来客
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一週間後──
「ねぇ、レイラ、ちょっと張り切り過ぎではなくて…?」
朝から慌ただしく使用人たちが私の部屋を出入りするなか、髪を結ってくれているレイラに、私は鏡越しにそう声を掛けた。
「そんなことありませんわ…! 今日は大切な御客様がお越しになる日ですもの…!」
レイラの気合いの入りように戸惑う。先ほど着付けられたドレスは私が事前に指示していたものよりも豪華だし、髪の結い方もいつもより手が込んでいる。
「大切な御客様って…、それほどの人では…」
「あぁ、ほら、動かないでじっとしてて下さい…!」
そう言って、レイラが真剣な表情で私の髪に大きな白い花飾りを付ける。殿下がいつも私にくださる薔薇、ロゼ・ブランシュによく似ている。
「この花飾りは…?」
「今日のためにサイラス殿下から贈られたものですわ。いつもの薔薇はもう花の時期が過ぎてしまったからと、職人に特注で作らせたそうですよ」
レイラの言葉に、殿下まで関わっていることに気付く。もちろん、このドレスを着付けられた段階で、それは薄々感じてはいたけれど。
薄桃がかった白色を基調にしたドレス。レースが幾重にも重なった裾は薔薇の花びらのように広がり、このドレス自体がまるでロゼ・ブランシュのようだ。
「このドレスも、殿下の仕業ね…?」
「ふふ。はい。よくお似合いですわ」
「たかが一人の来客にドレスまで特注するなんて…」
「婚儀にお越しになれなかったロザリア妃殿下の御父上様に、今日は最高に美しい姿を見せるのだと、殿下も張り切っていましたわ」
嬉々としてそう答えたレイラに苦笑する。そう。今日は父上がこの城に来ることになっているのだ。
◇
「ロザリア…!」
全ての支度を終えて部屋を出ると、殿下がちょうど迎えに来てくれたところだった。
「殿下…」
正装に身を包んだ殿下の姿にドキッとする。落ち着いた光沢感のある銀色の装いが殿下の雰囲気に良く似合っている。
胸元に金糸で施されたレリック公国の荘厳な紋章。それは殿下がこの国の王子である証。一度は失ったその地位を、血の滲む努力で取り戻し、こうして今、殿下はここにいる。
「よく似合っている、ロザリア…」
大きな手が頬に触れた瞬間、それまで殿下に見惚れていた私は我に返った。
「あの、やりすぎですわ、殿下…」
「何がだ…?」
「たかが一人の来客に私のドレスまで特注するなんて…」
「あぁ、そのことか。貴女の父上が来るのだ。やり過ぎということはない。それに…」
そう言いながら、殿下が私の手を取り、甲に優しく口吻をする。
「ロゼ・ブランシュのドレスに身を包む愛しい妻を、何よりも僕が見たかったのだ」
「─…っ!」
嬉しそうに微笑む殿下に、私はカァ…っと頬を熱くする。想いが通じ合ったあの夜以降、殿下は自分の気持ちを真っ直ぐに伝えてくれるようになった。そんな殿下を嬉しく思いながらも、私はまだ慣れずにいる。
「レ、レイラもいるのですから、控えてくださいませ…!」
「いや、しかし…」
「ふふ。大丈夫ですわ、ロザリア妃殿下。サイラス殿下は以前から大して変わっておりませんから」
そう言ってレイラが笑う。実は、殿下の想いに気付いていなかったのは私だけで、周りにいる使用人や殿下の側近の者たちは、とうの昔に気付いていたらしい。彼らは、殿下と私の様子を見るたびに、嬉しそうに笑っていた。
「ねぇ、レイラ、ちょっと張り切り過ぎではなくて…?」
朝から慌ただしく使用人たちが私の部屋を出入りするなか、髪を結ってくれているレイラに、私は鏡越しにそう声を掛けた。
「そんなことありませんわ…! 今日は大切な御客様がお越しになる日ですもの…!」
レイラの気合いの入りように戸惑う。先ほど着付けられたドレスは私が事前に指示していたものよりも豪華だし、髪の結い方もいつもより手が込んでいる。
「大切な御客様って…、それほどの人では…」
「あぁ、ほら、動かないでじっとしてて下さい…!」
そう言って、レイラが真剣な表情で私の髪に大きな白い花飾りを付ける。殿下がいつも私にくださる薔薇、ロゼ・ブランシュによく似ている。
「この花飾りは…?」
「今日のためにサイラス殿下から贈られたものですわ。いつもの薔薇はもう花の時期が過ぎてしまったからと、職人に特注で作らせたそうですよ」
レイラの言葉に、殿下まで関わっていることに気付く。もちろん、このドレスを着付けられた段階で、それは薄々感じてはいたけれど。
薄桃がかった白色を基調にしたドレス。レースが幾重にも重なった裾は薔薇の花びらのように広がり、このドレス自体がまるでロゼ・ブランシュのようだ。
「このドレスも、殿下の仕業ね…?」
「ふふ。はい。よくお似合いですわ」
「たかが一人の来客にドレスまで特注するなんて…」
「婚儀にお越しになれなかったロザリア妃殿下の御父上様に、今日は最高に美しい姿を見せるのだと、殿下も張り切っていましたわ」
嬉々としてそう答えたレイラに苦笑する。そう。今日は父上がこの城に来ることになっているのだ。
◇
「ロザリア…!」
全ての支度を終えて部屋を出ると、殿下がちょうど迎えに来てくれたところだった。
「殿下…」
正装に身を包んだ殿下の姿にドキッとする。落ち着いた光沢感のある銀色の装いが殿下の雰囲気に良く似合っている。
胸元に金糸で施されたレリック公国の荘厳な紋章。それは殿下がこの国の王子である証。一度は失ったその地位を、血の滲む努力で取り戻し、こうして今、殿下はここにいる。
「よく似合っている、ロザリア…」
大きな手が頬に触れた瞬間、それまで殿下に見惚れていた私は我に返った。
「あの、やりすぎですわ、殿下…」
「何がだ…?」
「たかが一人の来客に私のドレスまで特注するなんて…」
「あぁ、そのことか。貴女の父上が来るのだ。やり過ぎということはない。それに…」
そう言いながら、殿下が私の手を取り、甲に優しく口吻をする。
「ロゼ・ブランシュのドレスに身を包む愛しい妻を、何よりも僕が見たかったのだ」
「─…っ!」
嬉しそうに微笑む殿下に、私はカァ…っと頬を熱くする。想いが通じ合ったあの夜以降、殿下は自分の気持ちを真っ直ぐに伝えてくれるようになった。そんな殿下を嬉しく思いながらも、私はまだ慣れずにいる。
「レ、レイラもいるのですから、控えてくださいませ…!」
「いや、しかし…」
「ふふ。大丈夫ですわ、ロザリア妃殿下。サイラス殿下は以前から大して変わっておりませんから」
そう言ってレイラが笑う。実は、殿下の想いに気付いていなかったのは私だけで、周りにいる使用人や殿下の側近の者たちは、とうの昔に気付いていたらしい。彼らは、殿下と私の様子を見るたびに、嬉しそうに笑っていた。
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