【完結】雷の夜に

緑野 蜜柑

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3-2 (番外編)

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出張の荷造りが一通り終わった檜山を、座って抱き締める。

「村瀬…?」

「充電しとかないとって思って」

「ふふ。うん…」

そう答えた檜山の手が俺の背中に回されて、控えめにぎゅっと抱き返される。

俺が檜山を好きなだけでじゃなくて、檜山も俺のことを好きでいてくれるんだな、と心が温かくなる。

俺の腕の中で、檜山の心臓の音がドキドキと大きく伝わってくるのが、嬉しい。

「…村瀬は、あたしが仕事を優先しても、頑張れって言ってくれるのね」

「ん…?」

顔を覗き込むと、檜山は少し安心したような顔をしている。

「その…、あたし、仕事に一生懸命になり過ぎちゃうみたいで…」

知っている。会社での檜山はいつも完璧だ。涼しい顔でこなしているように見えるけど、企画部のエースとして日々期待に応えるのは、簡単なことではない。

「仕事ばっかり優先してるから、逆に束縛されたり、ね。あんまり、男の人と上手く付き合えなくて…」

恋愛に対して隙がない檜山のあの態度は、そういったことを牽制する意味もあったのかもしれない。

ただ、男側のその気持ちもわかる。付き合って、檜山をこうやってこの腕に抱き締めたら、俺だけを見ていて欲しいという独占欲のようなものはどうしたって沸く。

「嫌になったら、振ってね。村瀬なら、きっと他に幾らでもいい子がいるから…」

そう言いながら、檜山は俺の胸にスリっと頬を寄せた。言葉と仕草が矛盾しているが、どちらも檜山の本心なのだと思う。

俺の腕の中にずっと閉じ込めていたい気持ちはある。だけど、この5年間、檜山が重ねてきた努力を知る俺が、そんな利己的な欲を満たすことはない。

「安心していいよ。檜山が待てって言ったら、多分、俺は忠犬ハチ公のように健気に待ってるから」

「え…?」

「完璧で格好いい檜山も、真っ赤になって可愛い檜山も、俺は檜山の丸ごと全部に惚れてる…」

そう言って、俺は檜山にキスをした。



「あと、2回…。いや、頑張れば3回…?」

「なんのこと…?」

腕の中でキョトンとしながら俺を見上げた檜山が尋ねる。

「檜山が行くまでに、エッチできる回数」

「な…っ!?」

取り乱した檜山の顔がみるみる赤くなっていく。月曜に発つのだから、土曜日である今夜と明日の夜に一回ずつは当然として、明日の朝勃ちにも期待して合計3回という算段だ。

「き、昨日したばっかりでしょ…!」

「昨日のとは、意味が違うじゃん。2週間も離れるんだから、檜山にちゃんと覚えておいて貰わないと…」

「お、覚えておくって…」

そう言って黙り込んだ檜山は耳まで真っ赤だ。

「なに想像して、そんな赤くなってんの」

「な…っ!? な、何も想像してない…!」

「ウソつき。そう言えば、俺のこと避けてたときも、なに思い出しちゃってたの、檜山は」

「う、うるさいな…!」

「そんな慌てて、檜山のエッチ」

「ち、違う…っ! ぅわ…ッ!?」

必死に抗議する檜山をギュウッと抱き締めると、俺はそのまま檜山を押し倒した。
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