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第1話
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1
家に鳴り響いた音は、約2年ぶりに家に幼馴染の家から、電話がかかってきた音だった。
「ねぇ、亮。あんた、なっちゃん知らない?」
「んー。知らないけどなんで」
俺は、今日の晩御飯のカレーを口に入れながら、電話しながら聞いてくる母親にそう返事を返した。
「そう、なんかまだ家に帰ってきてないみたいなのよ。」
ふーん。っと返しながら、チラリと時計を横目でみると、夜9時。
学校から、少し遠いが、帰ってくるにしては、まだ大丈夫な時間なんじゃないかと思いつつ。母親を再度みる。
「まだ友達と遊んでんじゃねーの?」
「そう?なら良いんだけど、携帯鳴らしても、取らないらしくて、なっちゃんは、良い子だから、あんたみたいに連絡しないで遊びに行くなんてしないだろうし」
「ちゃっかり、ついでのように息子に嫌味をいうなし!!」
「ああ、心配だわ!」
大げさにため息をつきながら喋る母親に呆れた顔をすると、俺の文句も素知らぬ顔でまた親同士話始める母親に「チッ」っと舌打ちすると。食べかけのカレーを急いで口にかきこんだ。
食べ終わると皿を流しにもって行き、チラリとまた時計を見る。
「はぁ・・・」
悩んだところでどうしようもないと、俺は、二階に駆け上がると、上着を羽織り、財布と携帯をポケットに突っ込むんだ。
階段を降り、とりあえず電話中の母親の肩をポンポンと叩くと、指でドアを差しながら。
「少し探してくるから、先に帰ってきたら電話して。」
「ふふふ。わかったわ」
ニヤニヤ笑いながら俺を見てくる母親に小さく「うぜぇ」っとかえすと、しっしっと手で早く行けと催促する母親を無視するように無言で靴を履いて外に出た。
外は、もう真っ暗で余計に寒さを誘う。
寒さが身体を突き抜け一瞬身震いすると、腕を摩る。
一応周りを見渡し目的の人物の前に人影も見えないことを残念に思いながら、電灯に照らされた暗い道を幼馴染が通るであろう帰路を予想しながらあるく。
夜の道は、見慣れたはずの昼の道とは景色が変わる。まさかあいつでも、迷子にはならないだろうと思いながら、少し昔を思い出し、学校に向かう道の途中。
なんとなく、ふと馴染みのある場所を思い出して立ち止まった。
俺たち二人の家の近くには、神社があり、境内も広いし、神主のオヤジさんがいい人で怒られないのをいいことによくそこで近所の子と遊んでいた。
でも、たまに喧嘩や嫌なことがあったりすると、不貞腐れた幼馴染は、決まって神社の奥の池の近くにある四阿で体育座りをして、誰か自分を追いかけて来てくれるのを待っているやつだった。
大体誰かというのは、俺のことで、そこでずっと俺が来るまで待っている。今にして思えば、可愛いやつだったのかもしれない。
まあ、俺と喧嘩した時も何故か俺が謝りに行くまで意地になって他のやつが迎えに行っても動かなかったりと、何かと迷惑なやつであったが、何故かそこがお気に入りの幼馴染は、いまは、もう高校生だ。
さすがにもう来ていないだろうと思ったが、一応っと、確認するため階段を上がりその場所を目指す。
辿り着くと、案の定と言うか、予想に反して、幼馴染は、小さいままの時と同じ姿でまるまるように座っていた。
ジャリジャリと敷き詰めてある小石を踏みつけながら歩く音にビクッとした彼女は、ゆっくりと振り返った。
「なつみ・・・」
そう続きは「なつみ。お前こんな時間までなにしてんだ。」そう呼びかけようとして、名前だけ呼んで、止まったのは暗闇に慣れた目に誰でもわかるくらいの泣き顔をしている幼馴染を見たからだ。
「・・・りょう・・ちゃん?」
1年ぶりくらいに呼ばれる名前に俺は軽くこたえた。
「ちゃん付けで呼ぶな」
ついでにチョップをお見舞いしつつ、グリグリと頭をなでると、さっきまで死にかけのような顔をしてたやつが手を止めようと『やめて~』っといいバタバタと暴れだした。
俺は、その手をパッと離すとそのまま横に座りなつみの顔を覗きこんだ。
「なによ。」っと返された言葉に「ひっでぇ。顔してるぞ」っと返してやると持っていたタオルをバシッと顔に投げらたが、そんな事は気にする俺じゃない。
俺はタオルを親指と人指し指でつまむとなつみの目の前に持ち上げながら聞き返した。
「お前これ。もしかして、お前の鼻水とか付いたやつじゃないのか?」
「汚いもののように摘むな。レディーに失礼でしょうが!!」
そんな反抗するような言葉とともにタオルを奪い返したなつみに俺は、冷静に静かに諭すように話す。
「いいか。なつみ、レディーっていうのは、お前みたいに鼻水だらけのタオルを投げたりしない。」
「うるさい。」
いつも減らず口を引き出せた事で少し安心した俺は、プイッとそっぽを向いたなつみの頭を力でこっちに向けると、「で?」っと聞く。
「でってなに?」
「今日はなんでそんなに凹んでるか聞いてるんだ。」
「・・・関係ないじゃん。」
関係ないか。2年間なんだかんだと喋る機会がなかったのは認めるがちょっと、イラッとした俺は、なつみの顔を見て言った。
「ほう・・・そういうこと言う口は縫い付けるからな!まったく、2年ぶりくらいに家にかかってきたお前んちからの電話で、寒い中腕さすりながら頑張って探してやったって言うのに、その態度でいいのか?そんな優しい俺は、文句ばっかりの幼馴染の悩みまで聞いてやろうとも思ってるのに本当に他に何か言う事はないのか?」
一気に捲したてるように喋ると俺の袖をギュッと掴んで小さく
「・・・ごめんなさい」
と言われ催促するように
「よろしい。・・・ほら今のうちに聞いてやるからさっさと吐け。」
そう言いながらも、頭を優しく撫でてやるとゆっくりと話し出した。
「振られた。」
「おまっ・・・あの先輩?告白できたのか?」
予想外の言葉にびっくりして質問する。
「ううん。ちがっ・・二組の早川さんって子と付き合い始めたって・・・」
「二組の早川さんって、あの乳でかい」
「亮ちゃん。それ以上言ったら軽蔑する。」
「はいはい。でも、先輩も男だな。」
「違うもん。先輩は、亮ちゃんと違って胸ばっかり見てないもん。」
「いや、絶対見てる。」
「見てない。」
「・・・お前はちっこいもんなぁ」
「ちっこくない。」
「じゃあ、いくつだ。」
「な、なんで亮ちゃんにそんな事は教えなきゃいけないのよ。」
「んー。俺の見積もりは、A-だな。」
無視して、推測する。
「誰がA-よ。Bはあるの。」
「マジか。」
「まじで!!」
さっきまで泣いてたとは、思えないくらいにドンと胸を張るなつみに苦笑しながら、笑えるようになった顔をみると目を擦ったのか目が真っ赤で少し痛々しいが、そんな感情は悟られないようにちゃかす。
「その突き出してる胸は、触ってみろって事か?」
「な訳ないでしょ!!」
急いで両手で胸を隠すように腕を組むと俺を睨む。
「睨んだって怖くないぞ。」
ついでにホッペもぶにゅっとひっぱってやるとペシッとはたき落される。
「亮ちゃんは、エロいところは全然変わらないね。ちょっとは、大人になりなよ。」
「おれは、そうそう2年じゃ変わらないの。」
そう言いながら、2年間離れることになった原因を思い出す。
「亮ちゃんとは、もう一緒に帰らないし、登校しないから。」
いきなり、学校で呼び出しといて、要件はそれか。と思いながら一応理由を聞いてみるとまさかの今更な事だった。
「なんで?」
「なんでって、私達付き合ってるって噂がでてるんだよ。」
「知ってる。」
「ええ。そうでしょ。・・・って、えっ!!知ってるって、知ってたら教えてよ。」
「いや、いままで知らなかったお前が可笑しいからな。」
今まで知らなかったらしい幼馴染にこいつは本当に大丈夫か?っと心配になりながら気にしてもしょうがないと受け流す。
「えっ、そうなの?」
「そうそう。」
「じゃあ、なんで一緒に帰ってるのよ?」
そんな事をお前が聞くかと、早口ではなす。
「お前の両親に頼まれただろうが、中学に入る時お前がぼーっとして、誘拐されたら怖いからって中学も2人で登校して欲しいって」
「あっそう言えばいってたような。」
「そう言えばじゃねーよ。それにお前が「これで道に迷わなくて済むね」っていったからお願いから強制にかわったんだろうが。」
それで俺がどれだけ、昔からからかわれたりしたのかこいつはわかってないだろうからつい強い口調になってしまった。
「うっ・・・」
「とにかく。もう迎えに行かなくていいってことだな?」
「うん」
「一応聞いとくけど、理由は?」
「理由は、さっきの・・・」
どうやら、誤魔化す気らしいが、小さい頃から一緒にいる俺をお前が騙せるはずが、ないだろうと、無駄に抵抗するなつみにイラッときて、ちょっと低いこえがでた。
「さっきのだけじゃねぇんだろ」
「・・・うん。好きな人が出来たの。」
少し言い淀みながらも、恥ずかしそうに話すなつみについに好きな人が出来たらしい。
「そりゃあ、おめでとう。で?勘違いされたら困る?ってやつか」
「うん。」
まだ付き合ったわけじゃないが、ついに稔兄は吹っ切れたらしいと素直に祝福の言葉をかけると、なんとなくやっと俺の役割が終わった気がした。
「わかった。じゃあ、これからは朝は、俺いねぇから自分で起きろよ。」
「なっ、ちゃんと自分で起きてるもん。」
それからは、あっさりと一緒の登校は、終わりを迎え俺達は、学校では、唯一喋っていたが、春には、クラスも別々になってしまったりで用事もないのに別のクラスのなつみの所へとわざわざ話に行くのも噂が消えないだろうと、控えた。
なつみも憧れの先輩がいる学校に絶対受かる為に受験を頑張る事で忙しく。
まあ、別になんも用事がないからと、すれ違った生活は、まさか約2年もの歳月そのまままったく喋らなくなるとは、思わないまま続いた。
当初は、一時期知らない人にまで「別れたの?」っと聞いてこられた挙句、知り合いからは、からかわれて、高校の進路相談にまで「別れたのに一緒の学校でいいのか?」っと聞かれた時は、「付き合ってません!!」っと大声で否定してしまったのは、今じゃ笑い話だが、その煩わしさもあってか。
なんとなく近寄り辛いのもあいまって、喋らないまま高校を進学すると、いつの間にその付き合っているという噂もきえた。
そんな訳で長く続いたなつみの片思いは、2年という完璧な片思いのまま、先輩に今日恋人ができてしまった。ということらしい。
ふと、逃避行していると、なつみの顔が目に入る。
「諦めるのか?」
「だって、もう恋人もいる人を思うのは・・・」
一応確かめる為に聞いた言葉に薄っすらと涙が零れるなつみに追い打ちをかけるようにもう一つ質問する。
「告白もしない?」
「しない。振られるってわかってるのにする訳ないじゃん。」
そのまま恋人がいても好きなままでいるのも、告白して完全に吹っ切るのもいいが、両方選ばないなら、やる事は一つ。
「そっか。・・・なら、頭貸せ。」
「は?」
「ほらっ」そういってグイッと引き寄せるように胸に抱きこむと、頭を撫でる。
「・・・なにこれ。」
「んー。いっぱい泣けば少しはスッキリするだろ。」
涙声のまま聞いてくるなつみに軽くながすように返事をかえす。
「そうだけど・・・」
「いいか。俺が、新しくかったばかりの服をお前の鼻水で汚していいって言ってんだから、使っとけ。そして、後からクリーニング代よこせ。」
「亮ちゃんのバカ。少しは優しくしろ」
「じゃあ、使わない?」
「・・・使う。」
離されそうになった身体を服をギュッと掴むことで抵抗すると、そのあとは、泣けるだけボロボロとなつみは泣き喚いた。
数分後泣く気力も無くなってきたのか。グデッとしなだれ掛かってくる身体を支えると。
「落ち着いたか?」
小さく聞きながら、抱きしめるように背中をポンポンとリズムよく叩くとなつみはモゾモゾと頭をすり寄せながら、んー。っと声をだす。
「そっか。・・・なら、いい加減親に電話しとけ。うちにまで電話かかってきたから、あと1時間もすれば警察に電話しかねねぇぞ。」
「ああっ」
今思い出したかのようななつみは、急いで鞄の中から携帯をガサゴソと探し当てると画面をタップしながら、「あっ」っと声を上げる。
「どうした?」
「充電がない。」
「・・・はぁ、貸してやる」
ポケットから携帯を取り出すと、渡す。
なつみはポチポチとボタンを押していく。
プルルルル・・・っと1コールもしないうちにとられた電話口でなつみの母親が喋り出すとなつみは、最初に電話に気づかなかった謝ると、安堵した声がした。
「うん・・・亮ちゃんと一緒・・・うん。送ってくれると思う・・・ごめんね・・・うん。」
会話である程度内容を理解すると、亮は着ていた上着を脱いでなつみにかけると勝手になつみの鞄をひったくると手を差し出す。
最初キョトンとした顔をしたが、おずおずという感じで乗っけられた手をしっかり掴むと、引っ張り起こす。
そのまま電話で喋り続けるなつみの手を引きながらゆっくりと歩き出す。
しばらくボケーっとしながら歩いていると腕を引かれる。
「ん?」っと振り返ると「ありがとう」っといって携帯を返された。
「もういいのか?」
「うん。はやく帰ってこいって」
「だろうなぁ」
ポツリポツリと喋りながら、なんとなく手を繋いだまま2人で並んで歩く。
「亮ちゃん大きくなったよね。」
「そりゃあ、バスケ部だからな」
「そうだっけ?まだ続け出るんだ。」
「おう。お前は相変わらずどこも成長してねぇな。」
「今どこを見た?」
「さぁ?」
おちゃらけながら、喋るのが久しぶりすぎて懐かしい。
「ねぇねぇ。亮ちゃん。」
「んー。」
「ここってあれ」
「ああ、お前がカエルぶつけられて、泣いた所だな」
「ちがうし。ってそれってここだったっけ?」
指差しながらも喋るなつみにんー。ッと絞り出したこたえはどうやら違ったらしい。
「そうだよ。カエル引っ付けて泣いてた」
「亮ちゃんその時爆笑してたよね。」
「いや、ずっとお前カエルくっつけたままだったし」
「とってって言っても、笑って取ってくれなかったんでしょ」
「いや、あの時は笑うので精一杯だったんだって」
「ひどい」
「それにあの後。ちゃんと、とってやっただろう。その時も、またあの場所に立て籠もりやがって」
「しょうがないじゃん。カエル嫌いだったんだもん。」
「あれ以来カエルが鳴くだけで逃げるもんな。」
「りょうちゃん笑いすぎ」
そんなたわいもない話をしながらだと、家につくのもすぐで「ほれ着いたぞ」と言うまでなつみは気づいていなかった。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして、しかし、高校生にもなって、まだあそこに立て篭るかなぁ」
「・・・だって」
「とにかく。いつでも話聞いてやるから親に心配かけるなよ。」
そういって、なつみを家の入り口まで引っ張っていくと、ドアを開けて中に入れる。
「またね。」
そういうと、少しの間見つめると亮は「またな」っとまた頭をグリグリして、さっさと、帰っていく。
なんだかなつかしくなって見えなくなるまで亮を見送るつもりで見ていると、いきなり、振り返った亮は、笑顔で言い放った。
「そうだ。その上着。クリーニングよろしく。」
「ああ!!」
さけんだなつみの返事を聞かぬまま。亮は、そのまま手をヒラヒラとすると小走りで帰っていった。
追いかける為にまた飛び出すわけにもいかず。なつみは、亮の後ろ姿を見送るしかなかった。
そして、小さくなつみは悔しがるようにつぶやいたのだった。
「しまった。してやられた」
と。
家に鳴り響いた音は、約2年ぶりに家に幼馴染の家から、電話がかかってきた音だった。
「ねぇ、亮。あんた、なっちゃん知らない?」
「んー。知らないけどなんで」
俺は、今日の晩御飯のカレーを口に入れながら、電話しながら聞いてくる母親にそう返事を返した。
「そう、なんかまだ家に帰ってきてないみたいなのよ。」
ふーん。っと返しながら、チラリと時計を横目でみると、夜9時。
学校から、少し遠いが、帰ってくるにしては、まだ大丈夫な時間なんじゃないかと思いつつ。母親を再度みる。
「まだ友達と遊んでんじゃねーの?」
「そう?なら良いんだけど、携帯鳴らしても、取らないらしくて、なっちゃんは、良い子だから、あんたみたいに連絡しないで遊びに行くなんてしないだろうし」
「ちゃっかり、ついでのように息子に嫌味をいうなし!!」
「ああ、心配だわ!」
大げさにため息をつきながら喋る母親に呆れた顔をすると、俺の文句も素知らぬ顔でまた親同士話始める母親に「チッ」っと舌打ちすると。食べかけのカレーを急いで口にかきこんだ。
食べ終わると皿を流しにもって行き、チラリとまた時計を見る。
「はぁ・・・」
悩んだところでどうしようもないと、俺は、二階に駆け上がると、上着を羽織り、財布と携帯をポケットに突っ込むんだ。
階段を降り、とりあえず電話中の母親の肩をポンポンと叩くと、指でドアを差しながら。
「少し探してくるから、先に帰ってきたら電話して。」
「ふふふ。わかったわ」
ニヤニヤ笑いながら俺を見てくる母親に小さく「うぜぇ」っとかえすと、しっしっと手で早く行けと催促する母親を無視するように無言で靴を履いて外に出た。
外は、もう真っ暗で余計に寒さを誘う。
寒さが身体を突き抜け一瞬身震いすると、腕を摩る。
一応周りを見渡し目的の人物の前に人影も見えないことを残念に思いながら、電灯に照らされた暗い道を幼馴染が通るであろう帰路を予想しながらあるく。
夜の道は、見慣れたはずの昼の道とは景色が変わる。まさかあいつでも、迷子にはならないだろうと思いながら、少し昔を思い出し、学校に向かう道の途中。
なんとなく、ふと馴染みのある場所を思い出して立ち止まった。
俺たち二人の家の近くには、神社があり、境内も広いし、神主のオヤジさんがいい人で怒られないのをいいことによくそこで近所の子と遊んでいた。
でも、たまに喧嘩や嫌なことがあったりすると、不貞腐れた幼馴染は、決まって神社の奥の池の近くにある四阿で体育座りをして、誰か自分を追いかけて来てくれるのを待っているやつだった。
大体誰かというのは、俺のことで、そこでずっと俺が来るまで待っている。今にして思えば、可愛いやつだったのかもしれない。
まあ、俺と喧嘩した時も何故か俺が謝りに行くまで意地になって他のやつが迎えに行っても動かなかったりと、何かと迷惑なやつであったが、何故かそこがお気に入りの幼馴染は、いまは、もう高校生だ。
さすがにもう来ていないだろうと思ったが、一応っと、確認するため階段を上がりその場所を目指す。
辿り着くと、案の定と言うか、予想に反して、幼馴染は、小さいままの時と同じ姿でまるまるように座っていた。
ジャリジャリと敷き詰めてある小石を踏みつけながら歩く音にビクッとした彼女は、ゆっくりと振り返った。
「なつみ・・・」
そう続きは「なつみ。お前こんな時間までなにしてんだ。」そう呼びかけようとして、名前だけ呼んで、止まったのは暗闇に慣れた目に誰でもわかるくらいの泣き顔をしている幼馴染を見たからだ。
「・・・りょう・・ちゃん?」
1年ぶりくらいに呼ばれる名前に俺は軽くこたえた。
「ちゃん付けで呼ぶな」
ついでにチョップをお見舞いしつつ、グリグリと頭をなでると、さっきまで死にかけのような顔をしてたやつが手を止めようと『やめて~』っといいバタバタと暴れだした。
俺は、その手をパッと離すとそのまま横に座りなつみの顔を覗きこんだ。
「なによ。」っと返された言葉に「ひっでぇ。顔してるぞ」っと返してやると持っていたタオルをバシッと顔に投げらたが、そんな事は気にする俺じゃない。
俺はタオルを親指と人指し指でつまむとなつみの目の前に持ち上げながら聞き返した。
「お前これ。もしかして、お前の鼻水とか付いたやつじゃないのか?」
「汚いもののように摘むな。レディーに失礼でしょうが!!」
そんな反抗するような言葉とともにタオルを奪い返したなつみに俺は、冷静に静かに諭すように話す。
「いいか。なつみ、レディーっていうのは、お前みたいに鼻水だらけのタオルを投げたりしない。」
「うるさい。」
いつも減らず口を引き出せた事で少し安心した俺は、プイッとそっぽを向いたなつみの頭を力でこっちに向けると、「で?」っと聞く。
「でってなに?」
「今日はなんでそんなに凹んでるか聞いてるんだ。」
「・・・関係ないじゃん。」
関係ないか。2年間なんだかんだと喋る機会がなかったのは認めるがちょっと、イラッとした俺は、なつみの顔を見て言った。
「ほう・・・そういうこと言う口は縫い付けるからな!まったく、2年ぶりくらいに家にかかってきたお前んちからの電話で、寒い中腕さすりながら頑張って探してやったって言うのに、その態度でいいのか?そんな優しい俺は、文句ばっかりの幼馴染の悩みまで聞いてやろうとも思ってるのに本当に他に何か言う事はないのか?」
一気に捲したてるように喋ると俺の袖をギュッと掴んで小さく
「・・・ごめんなさい」
と言われ催促するように
「よろしい。・・・ほら今のうちに聞いてやるからさっさと吐け。」
そう言いながらも、頭を優しく撫でてやるとゆっくりと話し出した。
「振られた。」
「おまっ・・・あの先輩?告白できたのか?」
予想外の言葉にびっくりして質問する。
「ううん。ちがっ・・二組の早川さんって子と付き合い始めたって・・・」
「二組の早川さんって、あの乳でかい」
「亮ちゃん。それ以上言ったら軽蔑する。」
「はいはい。でも、先輩も男だな。」
「違うもん。先輩は、亮ちゃんと違って胸ばっかり見てないもん。」
「いや、絶対見てる。」
「見てない。」
「・・・お前はちっこいもんなぁ」
「ちっこくない。」
「じゃあ、いくつだ。」
「な、なんで亮ちゃんにそんな事は教えなきゃいけないのよ。」
「んー。俺の見積もりは、A-だな。」
無視して、推測する。
「誰がA-よ。Bはあるの。」
「マジか。」
「まじで!!」
さっきまで泣いてたとは、思えないくらいにドンと胸を張るなつみに苦笑しながら、笑えるようになった顔をみると目を擦ったのか目が真っ赤で少し痛々しいが、そんな感情は悟られないようにちゃかす。
「その突き出してる胸は、触ってみろって事か?」
「な訳ないでしょ!!」
急いで両手で胸を隠すように腕を組むと俺を睨む。
「睨んだって怖くないぞ。」
ついでにホッペもぶにゅっとひっぱってやるとペシッとはたき落される。
「亮ちゃんは、エロいところは全然変わらないね。ちょっとは、大人になりなよ。」
「おれは、そうそう2年じゃ変わらないの。」
そう言いながら、2年間離れることになった原因を思い出す。
「亮ちゃんとは、もう一緒に帰らないし、登校しないから。」
いきなり、学校で呼び出しといて、要件はそれか。と思いながら一応理由を聞いてみるとまさかの今更な事だった。
「なんで?」
「なんでって、私達付き合ってるって噂がでてるんだよ。」
「知ってる。」
「ええ。そうでしょ。・・・って、えっ!!知ってるって、知ってたら教えてよ。」
「いや、いままで知らなかったお前が可笑しいからな。」
今まで知らなかったらしい幼馴染にこいつは本当に大丈夫か?っと心配になりながら気にしてもしょうがないと受け流す。
「えっ、そうなの?」
「そうそう。」
「じゃあ、なんで一緒に帰ってるのよ?」
そんな事をお前が聞くかと、早口ではなす。
「お前の両親に頼まれただろうが、中学に入る時お前がぼーっとして、誘拐されたら怖いからって中学も2人で登校して欲しいって」
「あっそう言えばいってたような。」
「そう言えばじゃねーよ。それにお前が「これで道に迷わなくて済むね」っていったからお願いから強制にかわったんだろうが。」
それで俺がどれだけ、昔からからかわれたりしたのかこいつはわかってないだろうからつい強い口調になってしまった。
「うっ・・・」
「とにかく。もう迎えに行かなくていいってことだな?」
「うん」
「一応聞いとくけど、理由は?」
「理由は、さっきの・・・」
どうやら、誤魔化す気らしいが、小さい頃から一緒にいる俺をお前が騙せるはずが、ないだろうと、無駄に抵抗するなつみにイラッときて、ちょっと低いこえがでた。
「さっきのだけじゃねぇんだろ」
「・・・うん。好きな人が出来たの。」
少し言い淀みながらも、恥ずかしそうに話すなつみについに好きな人が出来たらしい。
「そりゃあ、おめでとう。で?勘違いされたら困る?ってやつか」
「うん。」
まだ付き合ったわけじゃないが、ついに稔兄は吹っ切れたらしいと素直に祝福の言葉をかけると、なんとなくやっと俺の役割が終わった気がした。
「わかった。じゃあ、これからは朝は、俺いねぇから自分で起きろよ。」
「なっ、ちゃんと自分で起きてるもん。」
それからは、あっさりと一緒の登校は、終わりを迎え俺達は、学校では、唯一喋っていたが、春には、クラスも別々になってしまったりで用事もないのに別のクラスのなつみの所へとわざわざ話に行くのも噂が消えないだろうと、控えた。
なつみも憧れの先輩がいる学校に絶対受かる為に受験を頑張る事で忙しく。
まあ、別になんも用事がないからと、すれ違った生活は、まさか約2年もの歳月そのまままったく喋らなくなるとは、思わないまま続いた。
当初は、一時期知らない人にまで「別れたの?」っと聞いてこられた挙句、知り合いからは、からかわれて、高校の進路相談にまで「別れたのに一緒の学校でいいのか?」っと聞かれた時は、「付き合ってません!!」っと大声で否定してしまったのは、今じゃ笑い話だが、その煩わしさもあってか。
なんとなく近寄り辛いのもあいまって、喋らないまま高校を進学すると、いつの間にその付き合っているという噂もきえた。
そんな訳で長く続いたなつみの片思いは、2年という完璧な片思いのまま、先輩に今日恋人ができてしまった。ということらしい。
ふと、逃避行していると、なつみの顔が目に入る。
「諦めるのか?」
「だって、もう恋人もいる人を思うのは・・・」
一応確かめる為に聞いた言葉に薄っすらと涙が零れるなつみに追い打ちをかけるようにもう一つ質問する。
「告白もしない?」
「しない。振られるってわかってるのにする訳ないじゃん。」
そのまま恋人がいても好きなままでいるのも、告白して完全に吹っ切るのもいいが、両方選ばないなら、やる事は一つ。
「そっか。・・・なら、頭貸せ。」
「は?」
「ほらっ」そういってグイッと引き寄せるように胸に抱きこむと、頭を撫でる。
「・・・なにこれ。」
「んー。いっぱい泣けば少しはスッキリするだろ。」
涙声のまま聞いてくるなつみに軽くながすように返事をかえす。
「そうだけど・・・」
「いいか。俺が、新しくかったばかりの服をお前の鼻水で汚していいって言ってんだから、使っとけ。そして、後からクリーニング代よこせ。」
「亮ちゃんのバカ。少しは優しくしろ」
「じゃあ、使わない?」
「・・・使う。」
離されそうになった身体を服をギュッと掴むことで抵抗すると、そのあとは、泣けるだけボロボロとなつみは泣き喚いた。
数分後泣く気力も無くなってきたのか。グデッとしなだれ掛かってくる身体を支えると。
「落ち着いたか?」
小さく聞きながら、抱きしめるように背中をポンポンとリズムよく叩くとなつみはモゾモゾと頭をすり寄せながら、んー。っと声をだす。
「そっか。・・・なら、いい加減親に電話しとけ。うちにまで電話かかってきたから、あと1時間もすれば警察に電話しかねねぇぞ。」
「ああっ」
今思い出したかのようななつみは、急いで鞄の中から携帯をガサゴソと探し当てると画面をタップしながら、「あっ」っと声を上げる。
「どうした?」
「充電がない。」
「・・・はぁ、貸してやる」
ポケットから携帯を取り出すと、渡す。
なつみはポチポチとボタンを押していく。
プルルルル・・・っと1コールもしないうちにとられた電話口でなつみの母親が喋り出すとなつみは、最初に電話に気づかなかった謝ると、安堵した声がした。
「うん・・・亮ちゃんと一緒・・・うん。送ってくれると思う・・・ごめんね・・・うん。」
会話である程度内容を理解すると、亮は着ていた上着を脱いでなつみにかけると勝手になつみの鞄をひったくると手を差し出す。
最初キョトンとした顔をしたが、おずおずという感じで乗っけられた手をしっかり掴むと、引っ張り起こす。
そのまま電話で喋り続けるなつみの手を引きながらゆっくりと歩き出す。
しばらくボケーっとしながら歩いていると腕を引かれる。
「ん?」っと振り返ると「ありがとう」っといって携帯を返された。
「もういいのか?」
「うん。はやく帰ってこいって」
「だろうなぁ」
ポツリポツリと喋りながら、なんとなく手を繋いだまま2人で並んで歩く。
「亮ちゃん大きくなったよね。」
「そりゃあ、バスケ部だからな」
「そうだっけ?まだ続け出るんだ。」
「おう。お前は相変わらずどこも成長してねぇな。」
「今どこを見た?」
「さぁ?」
おちゃらけながら、喋るのが久しぶりすぎて懐かしい。
「ねぇねぇ。亮ちゃん。」
「んー。」
「ここってあれ」
「ああ、お前がカエルぶつけられて、泣いた所だな」
「ちがうし。ってそれってここだったっけ?」
指差しながらも喋るなつみにんー。ッと絞り出したこたえはどうやら違ったらしい。
「そうだよ。カエル引っ付けて泣いてた」
「亮ちゃんその時爆笑してたよね。」
「いや、ずっとお前カエルくっつけたままだったし」
「とってって言っても、笑って取ってくれなかったんでしょ」
「いや、あの時は笑うので精一杯だったんだって」
「ひどい」
「それにあの後。ちゃんと、とってやっただろう。その時も、またあの場所に立て籠もりやがって」
「しょうがないじゃん。カエル嫌いだったんだもん。」
「あれ以来カエルが鳴くだけで逃げるもんな。」
「りょうちゃん笑いすぎ」
そんなたわいもない話をしながらだと、家につくのもすぐで「ほれ着いたぞ」と言うまでなつみは気づいていなかった。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして、しかし、高校生にもなって、まだあそこに立て篭るかなぁ」
「・・・だって」
「とにかく。いつでも話聞いてやるから親に心配かけるなよ。」
そういって、なつみを家の入り口まで引っ張っていくと、ドアを開けて中に入れる。
「またね。」
そういうと、少しの間見つめると亮は「またな」っとまた頭をグリグリして、さっさと、帰っていく。
なんだかなつかしくなって見えなくなるまで亮を見送るつもりで見ていると、いきなり、振り返った亮は、笑顔で言い放った。
「そうだ。その上着。クリーニングよろしく。」
「ああ!!」
さけんだなつみの返事を聞かぬまま。亮は、そのまま手をヒラヒラとすると小走りで帰っていった。
追いかける為にまた飛び出すわけにもいかず。なつみは、亮の後ろ姿を見送るしかなかった。
そして、小さくなつみは悔しがるようにつぶやいたのだった。
「しまった。してやられた」
と。
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