巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷

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本編

13、土砂降りの夜

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 雨が、降っていた。もう夜で、周りは真っ暗だった。土砂降りなせいで外灯の明かりすらボヤけて、一センチ先だって見えない気がした。
 橋の下は増水して勢いの増した川がある。俺なんかが落ちたら一溜りもないだろう。

 そう、あの日は確かに土砂降りで、橋の上から勢いの強い川を見ていた。
 なんで、あんな時間にそこにいた?三ヶ月も経ってしまって。色々あって、忘れてしまった。


 ─違う。忘れたくて、消したくて、言い訳をして忘れた振りをしただけだ。

 召喚されたあの日より、ずっともっと前。あんな感じの、土砂降りの夜だった。
 誰かとゲームをして、遊んで、笑って。土砂降りで、帰るのが億劫だって言うから、隣の家だろって言い返して。結局、雨足が弱くなるまで遊ぼうって。
 でも、全然弱くならなくて。むしろ激しくなる雨に、雷まで鳴り始めてしまったんだった。
 これ以上強くなる前に帰らそうとしたんだけど、もう泊めてくれよって言われて。どうせ隣だからと、夜通しゲームしようぜって、許可したんだった。
 雷が近くに落ちて、停電してしまって。真っ暗になったから、ブレーカーを直しに行こうとすれば、腕を掴まれて。

 暗くて表情が見えなかったけど、嫌な予感がして逃げようとしたんだ。
 でも、結局勝てなくて。そのまま床に押し倒されて。
 何かしたのかって。気に触るようなことしちゃったのって。いくら謝っても何も言ってくれなくて。

『騙された方が悪いんだよ』

 騙されたってなに?ずっと、騙してたの?なんで?

 必死に抵抗して、逃げて、雨のなか飛び出して。雷が近くに落ちて。

 あのあと、すぐに引っ越した。俺は、人が怖くて。引きこもりになってしまって。誰にも会わなければそれで、安全だなんて。油断してたんだ。

 あの日、あれを思い出すような土砂降りの日。たまたま夕飯を買いに出ていたら雨に降られて。今日はついてないな、なんて考えてた帰り。

 俺は、に見つかってしまった。

 思い出そうとすると、やっぱりあれの顔は黒く塗りつぶされてるみたいになって。それでも、あの日あの時、あれはとても笑顔だったような気がする。

 必死に逃げて、逃げて。それでも追ってきて。
 やっと撒けた時には、もう自分が何処にいるのか、最早何から逃げているのか分からなくなっていた。家に帰っても、もうあそこはバレてしまっている。
 行き場がなくて、どうしたらいいのかも分からなくて、どうしようもなくて。
 雷が鳴っていなかったことが唯一の幸いだった気もするし、いっそのこと落ちてくれとも思っていた。

 そして、一本の橋が目に入ったんだ。

 川は増水してて、勢いも強くて。もう、あれがすぐそこまで迫ってきているような気さえしていたから。
 このまま落ちたら、楽になれるって。もう嫌だって。もう、もう──


『**********』



「おい、起きろ!リンドウ!!」

 その声にハッと目を開ける。どうやら俺は寝ていた─いや、気絶していたらしい。
 まず気づいたことは、目を開けた筈なのにとても暗い。湿った土の匂いが充満している暗い穴の中のような場所のようだ。暗い上、視界がぼやけていてよくわからない。次に気づいたのは雨の音。随分と土砂降りのようだ。
 そして、酷く寒い筈なのに何でか暖かい気がする。何かに寄り掛かって…いや、誰かに抱えられている…?

 それに気づいた瞬間、ゾワリと寒気がした。もし、今この場にいるのがあれだとしたら。
 咄嗟に逃げようと暴れる。しかし、やはり簡単には逃がしてくれないのか、相手も押さえ込もうとしてくる。
 嫌だ、嫌だ、気持ち悪い、触るな、いやだ!!

「リンドウ!俺だ!!落ち着け!!」

 ぎゅうっと抱き締められ、聞こえた声を頭の中で反芻する。あれの声じゃ、ない。じゃあ誰?
 抵抗を止めて、ゆっくりと相手の顔を確認する。
 暗くてよく見えないが、なんだか知ったような気配がする。と言うか、今の声もどっかで聞いたことあるような…

「…む、あぁ。暗くて見えないか」

 そう言うと、俺を抱えていた人物は片手から薄く光る玉を出した。ちゃんと、目がやられないようにゆっくりと明るくなっていく。
 明るくなってわかった。今いる場所は小さな洞窟のような場所で、入口と思われる場所は雨が入ってこないように土の壁が出来ていた。
 そして、光の玉を出しておそらく土壁を作ったであろう、俺を現在抱えている人物。

「やっと目が覚めたか」

 やっぱり俺を睨みつける赤い目。…いや、最近気づいた。この人、ただ目付きが悪いだけのようである。

「……赤目の騎士さん」
「まて、なんだその呼び方」

 いつも結んでいた赤茶色の髪はほどかれていて、着ていた騎士団の制服は俺にかけられていた。その俺は胡座をかいた騎士さんの足の上に横向きで乗せられ、抱えられている。
 どうりで暖かいわけだ。色的に体温高そうな人に抱えられてるんだもんな。あ、心臓の音が聞こえる。雨の音と混じって、今まで寝てたのにちょっと眠くなってくる。

「おい、聞いてるのか。なんだ、さっきの呼び方」
「んー…赤い目の騎士さんだから?」
「そうじゃない。名前を呼んだらどうなんだ」
「…………………あー、名前忘れた」
「はぁ!?」
「ちょ、こんな狭い所で大声出さないでくれる?先に言っとくと、覚える気もないので諦めて」
「なっ、お前なぁ…はぁ、もういい」

 おや、随分と諦めがよろしいことで。無駄な体力を使わないのでいつも諦めてくれると助かるんだがな。

「何か失礼なこと考えてないか?」

 いいえ?滅相もございやせんぜ、旦那。

「おい、何か言え」

 いや、もう眠い。やだ…

「おい、おい!」

 うるさいなぁ…ちょっとぐらい寝させてくれよ。こちとら夢見が悪くて気分最悪なんだ。

「静かにしてね、赤目さん…おやすみ…」
「呼び方変わってるじゃないか!!というか、この状況でよく眠れるな!?」

 そんな声がだんだん遠くになり、俺は意識を手放した。







「…お前っ、せめて魔法解けてることに気づいてから寝ろ…!!」

 リンドウが眠りに落ち、ジークレインの長い夜が始まったのだった。



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