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オマケ
最初の話─グラジオラスの思議
しおりを挟むある日、人間と動物の違いについてを問われた。
だからオレは、それは「交易」の有無だと答えた。"ソレ"はオレの答えを聞いて満足そうに頷いた。
では、とオレは問う。
人間の子供とペットの違いは何か。
そんなもの無いと、何処からか答えが返ってきた。
─────────
例えばであるが、別に生まれつきそうじゃないとしても、それを求められる立場だったとして。決して自分で望んだ訳ではないが、"親の物"であるオレに拒否権というものは存在しなかった場合。
それは果たして人間として生きていると言えるのか。
幼い頃のオレは、それに否と声を上げた。そんなもの、ロボットと同じだ。人間として生きている訳ではない。
オレの親、というかその実家は大分頭がイカれている奴らだった。何故だかは知らないし興味もないが、「天才」やら「神童」やらといった存在に異様なほど固執していた。
物心がついた頃にはすでに勉強、勉強、勉強、勉強の毎日。幼稚園や保育園といったものにはいかされず、ひたすら自宅で机にかじりつく日々。
これが異常だと言うことは、すぐに分かった。なまじ要領が良かったことが幸いか、不幸か。四歳にしてオレは所謂「神童」という存在になっていた。
小学校で習うことを全て習得し、大人ともある程度会話ができる。そうなったオレに、親も親戚の奴らも両手を上げて喜んだ。
こっちは何も嬉しくないと言うのに。
クソみてぇな環境で、クソみてぇな奴らに囲まれて、それでも発狂しなかったのは弟の存在が大きかった。
オレより二つ下の弟は、いつもふにゃりと笑ってオレに手を伸ばす。親よりもオレに懐いたのは、既に奴らが異常と言うことを察していたのだろうか。
生んだくせして世話をほっぽってオレに付きっきりの親は、どうやら"成功体"であるのはオレだけで満足したらしい。弟には無理な勉強を強いなかった。
その代わり、構いもしなかったが。
きの、と弟を呼ぶ。別に名前は親がつけていたような気もするが、全く呼ばれないので名前ではないのだろう。
呼ぶのにオレが困るから、たまたま目に入ったタンポポのように、綿毛になったら何処へでもいけるように、その色から名前を取った。
オレも名前に色が入っていたから、お揃いにしたかったんだと思う。黄色と緑。隣にある色だから、きっと一緒にいられるだろうと。
本当にうちの大人共がクソだったことを再認識したのは、小学校に入ってすぐのことだった。
「きのを孤児院に、って…何、言ってるんですか?」
「きの?あぁ…あれのことか。あれは私たちに必要ない。人並み程度のことしかできない、出来損ないだ」
「私たちには貴方がいるし、出来損ないは要らないでしょう」
はく、と声にならない空気が喉から漏れる。いったい目の前の奴らが何を言っているのか、全く理解できないししたくもなかった。
何が出来損ないだ。何が成功体だ。オレは、オレたちは、望んでそんなものになった訳じゃない。
大体、黄乃に構わなかったのはお前達じゃないか。誰だって、教えられなければ何も知らないのだ。もしかして、オレが何かしらを教えているとでも思っていたのだろうか。
あぁ、もう、うんざりだ。
オレは、黄乃を連れて逃げ出した。この前小学校に上がったばっかで、しかも四歳の子供を連れてなんて、無謀にも程があっただろう。
それでも、オレは普通の子供ではないから。ムカつくが、彼奴らのおかげで多少の生きる術は知っている。
小さなリュックに詰めれるだけ食べ物を詰め込み、今までの少しずつ親からちょろまかしていた金を持ち、夜中に黄乃の手を引いて家を抜け出す。黄乃は静かにと言ったオレの言うことをちゃんと聞いて、分からないながらも静かにオレの後を駆ける。
オレたちは家から次に近い、人気の少ない公園へと逃げ込んだ。少々居心地は悪いが、一応定期的に清掃の入っているトイレへと入る。唯一鍵をかけられるそこが、まだ安全だったから。
蓋を閉めてその上に座り、膝の上に黄乃を乗せる。横にはなれないが、オレが支えるだけ黄乃は寝やすいだろう。
寝ぼけて落とさないように気を付けながら、オレも軽く仮眠を取るために目を瞑った。
そこから三日間、オレたちは親からどうにか隠れていた。あまり人前に出ないようにし、小学校にも行かず。
昼間は公園の林に隠れ、夜はトイレの個室で鍵を掛けて朝を待つ。不審者や変質者といった類いのものがいなかったのは、本当に幸いだった。
しかし、それでは限界があると言うもので。食料も尽きるし、持ち出した金もせいぜい子供のお小遣い程度の金額だ。
どうにかしなければ、彼奴らに捕まる。また、生きているとは呼べない日々を送ることになるだろう。
もしかしたら、あの時は孤児院に行かせた方が黄乃には良かったのかも知れない。もっとまともな親に、愛情をもらってすくすくと育ったかも知れない。
我慢するのは、手を汚すのはオレだけでよかったのだから。
黄乃に手出しはさせない。オレは兄だから、弟を守らなくてはいけないんだ。だって、そうじゃないか。
オレが"緑翔"でいられたのは、オレが生きていると感じれたのは、黄乃のおかげなのだから。
その日、公園のトイレに黄乃を一人置いて、オレはあの家へと戻ってきていた。あの子には、オレが戻るまで鍵を開けることも、声も出さないよう言いつけた。
水と食料も持たせたが、あまり長時間置いていくと泣いてしまうかもしれないから、すぐに戻らなくてはいけない。
こんなとき、子供なのがもどかしい。思考は大人と同じぐらいにされて、しかし子供のままと言うのがなんとも気持ち悪く、矛盾で脳がぐちゃぐちゃになる。
もう少しで夕方になろうというころ。親がまだ仕事でいない時間。実はいつかやってやろうと準備していたことが、どうやら役に立つときが来てしまったらしい。
オレは親が戻ってくる時間までに準備を進めた。家の鍵は持ち出していた合鍵で開けたし、既にあらかたの準備はととのっていたため、あとは微調整のみ。
黄乃を待たせたくないし、できれば早めに帰ってこねぇかなぁと自室であった場所でぼんやり思う。手持ち無沙汰に持ち出すものをまとめていれば、玄関が開く音がした。
軽く音を立てる。どうやら気づいてくれたらしく、二階に上がってくる足音が聞こえる。だんだんと近づいてくるそれに、思わずオレの口は弧を描く。
どうやらオレも、彼奴ら同様狂ってしまっていたようだ。
部屋へと入ってきたそいつらが、オレの姿を見て驚いた。そしてすぐに、嬉しそうに安心した。
ちなみに、騙されてはいけない。これはオレという子供が戻ってきたから安心しているわけではなく、オレが戻ってきたことによる利益や世間の評価等が戻って来たことに安心している。
奴らに、子供への愛情なんてものは一切ない。
だからこそ、オレはこの生まれてからの六年間をこいつらに費やしてしまったことが、悔しくて仕方がない。
憎くて、仕方がない。
「だからさぁ…頼むから、オレらの前から消えてくれよ。二度と目の前に現れないでくれよ。頼むから……」
──しんでくれ。
自分たちの"功績"が戻って来たことに安堵していたそいつらは、オレの言葉にその表情を固める。しかし、もう何もかも遅いのだ。
言葉と同時に、オレは握っていた一本の紐を思い切り引いた。ガシャンッ!という大きな音と共に、奴らの、両親という肩書きであった男女の頭に、瓶やら灰皿やらの固く重さのあるものが大量に落ちてきた。
見事それはそいつらの頭にいくつもぶつかり、二人とも地面へと倒れる。ついでと言わんばかりにその重いもの達が体に乗っているため、どうやら身動きが取れないらしい。
たまらずオレは笑った。あぁ、あぁ、なんとも無様だ!なんとも滑稽な姿だ!
そのまま落ちてきた灰皿を掴んで、オレは床に這いつくばっている二人を見下ろす。
ざまーみろ、これがお前たちが望んだことの結果だ。これが、お前たちが求めた結果だ!!
ガツンと、もう一度大きな音がなる。それは何度も何度も続き、次第にグチャリという音に変わった。
赤いイチゴのように潰れた"それ"を見下ろし、それの隣で赤にまみれながら怯え泣く女に目をやった。
「…ひ、ぁ、お、おねがいよ…おね、がい…た、たすけて…」
た、す、け、て。とは。何もわからないという風に首をかしげれば、それをどう取ったのか。女は少しだけ安堵の表情を見せる。
それにすかさず、適当に掴んだハンカチを女の口に捩じ込む。
許してやるなんて、誰も一言もいっていないのだが。
無防備にさらされていたそいつの片手に、赤く重たい灰皿を振り下ろした。口に詰めたハンカチが、悲鳴を吸収してくれた。
近所にバレると面倒なのだ。先程は、思わずすぐに終わらせてしまったから。だから次は、ゆっくり、もう死にたくなるほど、しかし死なない程度に。
だってほら、オレの狂気は全く消える気配がないのだから。
しばらくして、もはやウンともスンとも言わなくなった赤いそれに興味が失せた。時刻は真夜中、午前一時。この辺では誰も、外にいないであろう時間。
少しずつ落とし重い物をどけていく。全てどけ終われば、先程引いた紐とは別の紐を掴む。それの先には大きめの篭がついており、先程どけた物がいくつか入っている。
それを持って、うまく階段上に詰んだ棚なんかを使い一番高いタンスの上に登る。
篭に足を掛けて紐を握り、タンスの上から飛んだ。そうすれば、反対側の紐に繋がったシーツの端が持ち上がり、その上にあった彼奴らであった物が持ち上がる。
紐をぐいっと引けば、バチンと留め具が一つ剥がれる。そして勢いのまま、開いた窓の外へとそれは落ちていった。
どしゃりと小さく音がして下を覗き込めば、オレが準備していた深い穴へと見事落ちているのが見える。
急いで下へ降りて、カートに入れておいた土を被せていく。
全ての土を戻し、小さい体で踏みつけて固めれば終わり。あとはカモフラージュに花壇用の煉瓦で囲って置けば完成だ。
例え見つかったとしても、こんな小さいガキがやったと思うだろうか?思われたとしても、きっと世間体を気にする親戚共が揉み消すだろう。
残るのは、一組の男女が行方知れず、という情報だけだ。
これは、ここは墓だ。あのクソみたいな親の。そして、オレの年に見合わない知識と思考の。
オレは全てを捨てた。年相応でいいから。黄乃を守るのに必要なもの以外何も要らないから。
神童とか、天才とか、オレには心底要らない称号だから。
全部壊して、埋めて、捨てたのだ。
まぁ、だから。
まさか次の称号がペットだとは、流石のオレも予想外過ぎた訳なんだが。せめて番犬がよかったなぁと、思ったりした訳なんだが。
別に、守るものが増えるのは構わねぇんだけどさ。
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