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オマケ
未来の話─永遠の花束を君に
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パサリ、と頭に何かを乗せられた。視界を上げれば、何か赤いものが見える。そして、俺に覆い被さるように別の鮮やかな赤色がやって来た。
「何をボーッとしている?」
「んー。ちょっと、昔のことを思い出してた」
「昔と言うと…どっちだ?」
「前の世界~」
そう言えば、あからさまに眉を潜めるその人。思わず笑えば、更にむすっとされた。
可愛い人だなぁ、と目の前に落ちてきた彼の赤茶の髪をいじる。適当に一括りにされたそれは、手入れしている訳ではないから少し傷み始めていた。
そろそろやってやろうかな、と犬をシャンプーする気持ちで予定を決める。水を嫌がらないだけ、犬より楽だろう。
ずっと無言で髪をいじっていれば、それすらも気に入らないのかぎゅうっと締められた。うわー、と笑いながら悲鳴をあげれば、少し満足したのか緩められる。
「なんだよ、何がダメ?」
「俺以外のことを考える。俺の髪ばかりいじる」
「全部じゃん。髪は別によくない?君のだけど」
「駄目だ。髪じゃなく、俺に構え」
「ご自分の髪に嫉妬しないでくださーい」
首もとに埋められた顔が、話すたびに息がかかってくすぐったい。思わず身を捩るが、許さんと言わんばかりに締められる。
それを繰り返していればいつの間にか、俺は彼の膝の間に収まっていた。完全に身動きが取れない。まぁ、丁度いい椅子が出来たと彼にそのまま寄りかかるのだが。
「よし、捕まえた」
「顔見えてないけど、ドヤ顔やめい。もー。ところで、さっき何か頭に乗っけた?赤いのは見えたんだけど」
「この前、キノから教わったものだ。ハナカンムリ、だったか」
「なるほど。じゃあこの赤いの花か」
「あぁ。よく似合ってる。新婦みたいだ」
「あっはは!気が早くない?」
彼の言葉に笑うが、じわりと体温が高くなったのを感じる。恐らく、後ろ及び上から見ている彼にはもろバレだろうが。
スルリと首をなぞられる。びくりと体が揺れるが、止めてもらえる気配はない。
「赤いな」
「…うるせぇ」
「ん?なにがだ?俺はただ花が赤いな、と言っただけだが?なんだと思ったんだ?ほら、言ってみろ」
「うわムカつく~~~~!!このやろっ!」
「ぐっ…貴様、今どこを狙っての肘鉄だ?返答によっては容赦せんぞ」
「え~?どう容赦しないって言うんですかぁ?」
「今夜は手加減無しでいいと、そう言うことだな?」
「すみませんでした本当に勘弁してください」
「聞こえないなぁ~~~?」
「うぜ~~~~~~~!!」
べしべしと膝を叩けば、止めろと両手が掴まれてしまう。これで本当になんの抵抗も出来なくなってしまった。
先程のお返しと言わんばかりに拗ねてみる。横からや上から顔を覗きこまれるが、つーんと逸らす。
不機嫌そうな気配を感じたが、俺だってからかわれて不機嫌なのだ。子供みたいなやり取りと言われようが、この攻防戦は数分続いた。
結局、捕まってる俺が彼に好き勝手弄られて降参する結果になったのだが。いい加減、勝てないことを受け入れた方が早いかも知れないと感じた。
頭に乗せられた花冠を取り、じっと見てみる。初めて作ったらしいが、随分上手に出来てるなぁと思う。手先が器用だとは思っていたが、こう言うのも得意なのか。
「ふーん。カランコエとアネモネか」
「花に詳しいのか?」
「んー、一時期気になって調べてたことがあって。ちなみに、この世界に花言葉ってある?」
「……いや。宝石言葉みたいなものか?」
「うん、そんな感じ。そっか、ここって花より宝石送るんだっけ」
「この花にもあるのか?その、花言葉」
「あぁ、そうそう。えっとね、アネモネが『君を愛す』で、カランコエが『あなたを守る』だったかな?随分と熱烈な告白ですね?」
「ふっ。無意識にそんな花を選んでいたのか。お前への気持ちが溢れ過ぎてしまったらしい。せっかくだ、口頭でも伝えよう」
「まてまてまてまて、なんで??」
突然のことに追い付けないまま、ぐるりと体を反転させられる。目の前にきた赤い目が、まっすぐにこちらを射ぬく。
「シオン。俺はお前を一生涯愛し、守ると誓おう。だから、ずっと俺の隣で笑っていてくれ」
「…………不意打ちは、心臓に悪いといい加減覚えてくんない?」
「返事は?」
「…嫌って言っても、隣に居続けてやりますよ、ジークさん」
そう言った瞬間、彼に息が飲まれて二人の影が重なる。相変わらずいきなり過ぎるというか、強引というか。…そう言うとこに惹かれたと言われれば、全くその通りなんですけど。
少し離れて、目を合わせる。今度は俺の方からも近づいて、もう一度影が重なった。
額を合わせて笑い合う。幸せ過ぎてこれが夢なんじゃないかと疑うほどに、穏やかな時間だった。
少し前では、考えられなかったことだ。いつでも終わっていい人生だと思っていたし、周りのことなんかどうでもよくて。ただ、適当に流れていけばいいと思っていたのに。
今はひたすらに、ゆっくりと流れてほしいと思ってる。終わるのはもっと先であってほしいと。
自分をそう変えてくれた人物が今目の前で、隣で笑ってくれている。意地になっていた時期が懐かしいほど遠くに感じる。
それだけ、自分は変わった。この人に変えられた。
「赤目さんって本当、俺様」
「突然何だ。お前は可愛いな」
「何?何なの??会話のドッジボールがすぎない??そこは罵りで返せよ」
「お前には罵れる部分がない。全部が可愛い…はぁ…」
「わぁ、ありがとう何そのため息。ねぇ、ちょっと?」
「頼むから、俺以外と会話するな。拐われてしまう前に閉じ込めたくなる」
「俺様通り越してヤンデレかよ」
「何で今更赤目呼びなんだ?」
「そして今かよ!!遅いわ!!」
そんな会話をしつつ、赤目さん─ジークが、俺の目の前にあったベールを持ち上げた。何も遮るものもなく、赤い目を見上げる。
「お前がギリギリまで新郎の格好を望んだのには本当に苦労した…が、綺麗だ。世界一」
「いくら身内だけとはいえ、恥ずかしいんだよ分かれ…そりゃどーも!相変わらず偏差値の高いお顔ですこと!」
「好きだろう?」
「えぇ、そりゃもう!!言い逃れが出来ないくらい愛してますとも!!」
「何で先に言うんだ!?こう言うのは俺からだろう!?」
「勝った!!!!!!!」
「くっ…!俺の方がお前を愛してる!!!!気持ちの大きさなら負けん!!!」
「残念でしたー!!!先に言ったもん勝ちでーす!!!」
「君らね、こう言う時ぐらい真面目にしなさい!!」
「「…はい」」
神父、もとい義父のルーファスさんに叱られて、今度こそまともにお互いを見る。
いつも適当な髪はきちんと纏められ、前髪を上げた姿はあまりに新鮮すぎてまともに顔が見れなくなった。
思わずふっと目を逸らせば、ジークがニヤリと笑う。
「目を逸らしたから、お前の負けだな」
「え、あっ!くっそ!!」
「よし、こっちを見たな?」
「は?うわっ!?」
ぐいっと持ち上げられて、ドレスがふわりと靡いた。顔が至近距離にあり、体が固まる。そんな俺にお構いなしに、ジークは高らかに宣言した。
「新郎ジークレイン・ヴェルサス・アッシュロードは、シオン・リンドウを生涯愛し、守り支えていくことを誓おう!」
「へ、え?」
「ほら、次お前だぞ」
「え、あ、えっと、新婦、シオン・リンドウは?ジークレイン・ヴェルサス・アッシュロードを生涯愛し…えっと、と、隣で支えていくことを誓います?」
「何で疑問系なんだ」
「アンタが型から外れまくった行動を本番でやらかしたからだよ!?」
ギャーギャーと壇上で騒いでいれば、来賓として来ていた皆が呆れたように笑う。教壇ではルーファスさんが「これ、神父役いらなかったんじゃない?せっかく新婦の父親役をロクショウくんに譲ったのに…」と文句を言っていた。
それに申し訳なく思っていれば、顔を下に引かれた。そのままジークの唇とぶつかり、気づいて誓いもなんもないなぁ、なんて考える。
一回離れてから、軽く頭を叩いてやった。セットしてるとかどうだっていい。どうせ、すぐにバカ騒ぎで崩れてしまうんだから。
「義父にまで嫉妬しないでください、旦那サマ?」
「その旦那以外のことを考えるんじゃない、妻よ」
もう一回、今度は仕切り直してちゃんと誓う。今更、逃げれるなんて思ってないから。
投げたブーケは、ろっくの頭に当たってからヨルカナルの手に落ちた。皆でそれを笑って、苛立ち混じりに渡された花束に驚いてろっくを見上げる。
花束は随分とカラフルで、中心にあるのは紫と赤色。そして、その回りに緑や黄色、青や黄緑、オレンジにピンクまである。バラバラなそれは、確かに一つの綺麗な花束になっていた。
きっと皆で選んでくれたそれをそっと抱き締めて、感傷もなにも無しに宴会を始める勢いでご飯を食べる彼らの輪に飛び込む。
きっと枯れても、この花束は忘れないだろう。永遠に自分の心に咲き続ける。それが、きっと幸せというものだ。
────
「そう言えば、さっきお前がいじっていたこの花はなんだ?紫色の…」
「これ?えっと、クロッカスだったかな?」
「これにもあるのか?花言葉」
「あるよー。俺にピッタリなやつ」
「ほう?どんなのだ?」
「紫のクロッカスは『愛の後悔』です」
「……………後悔してるのか?」
「そうだなぁ。ちょっとだけ?」
「………」
「んはは!冗談だって。クロッカスには他にもあるんだよ。例えば、『切望』とか」
「切望」
「私は、私の身を焦がす程に貴方を切望しています。なんちゃって?」
「それは、随分と光栄なことだな」
「え、なに?もしかしてジークさんってば照れてる?こんなの、いつも自分が言ってるじゃん。なに?可愛いなー、もう」
「…お前の方が可愛いと何度言えば…」
end.
「何をボーッとしている?」
「んー。ちょっと、昔のことを思い出してた」
「昔と言うと…どっちだ?」
「前の世界~」
そう言えば、あからさまに眉を潜めるその人。思わず笑えば、更にむすっとされた。
可愛い人だなぁ、と目の前に落ちてきた彼の赤茶の髪をいじる。適当に一括りにされたそれは、手入れしている訳ではないから少し傷み始めていた。
そろそろやってやろうかな、と犬をシャンプーする気持ちで予定を決める。水を嫌がらないだけ、犬より楽だろう。
ずっと無言で髪をいじっていれば、それすらも気に入らないのかぎゅうっと締められた。うわー、と笑いながら悲鳴をあげれば、少し満足したのか緩められる。
「なんだよ、何がダメ?」
「俺以外のことを考える。俺の髪ばかりいじる」
「全部じゃん。髪は別によくない?君のだけど」
「駄目だ。髪じゃなく、俺に構え」
「ご自分の髪に嫉妬しないでくださーい」
首もとに埋められた顔が、話すたびに息がかかってくすぐったい。思わず身を捩るが、許さんと言わんばかりに締められる。
それを繰り返していればいつの間にか、俺は彼の膝の間に収まっていた。完全に身動きが取れない。まぁ、丁度いい椅子が出来たと彼にそのまま寄りかかるのだが。
「よし、捕まえた」
「顔見えてないけど、ドヤ顔やめい。もー。ところで、さっき何か頭に乗っけた?赤いのは見えたんだけど」
「この前、キノから教わったものだ。ハナカンムリ、だったか」
「なるほど。じゃあこの赤いの花か」
「あぁ。よく似合ってる。新婦みたいだ」
「あっはは!気が早くない?」
彼の言葉に笑うが、じわりと体温が高くなったのを感じる。恐らく、後ろ及び上から見ている彼にはもろバレだろうが。
スルリと首をなぞられる。びくりと体が揺れるが、止めてもらえる気配はない。
「赤いな」
「…うるせぇ」
「ん?なにがだ?俺はただ花が赤いな、と言っただけだが?なんだと思ったんだ?ほら、言ってみろ」
「うわムカつく~~~~!!このやろっ!」
「ぐっ…貴様、今どこを狙っての肘鉄だ?返答によっては容赦せんぞ」
「え~?どう容赦しないって言うんですかぁ?」
「今夜は手加減無しでいいと、そう言うことだな?」
「すみませんでした本当に勘弁してください」
「聞こえないなぁ~~~?」
「うぜ~~~~~~~!!」
べしべしと膝を叩けば、止めろと両手が掴まれてしまう。これで本当になんの抵抗も出来なくなってしまった。
先程のお返しと言わんばかりに拗ねてみる。横からや上から顔を覗きこまれるが、つーんと逸らす。
不機嫌そうな気配を感じたが、俺だってからかわれて不機嫌なのだ。子供みたいなやり取りと言われようが、この攻防戦は数分続いた。
結局、捕まってる俺が彼に好き勝手弄られて降参する結果になったのだが。いい加減、勝てないことを受け入れた方が早いかも知れないと感じた。
頭に乗せられた花冠を取り、じっと見てみる。初めて作ったらしいが、随分上手に出来てるなぁと思う。手先が器用だとは思っていたが、こう言うのも得意なのか。
「ふーん。カランコエとアネモネか」
「花に詳しいのか?」
「んー、一時期気になって調べてたことがあって。ちなみに、この世界に花言葉ってある?」
「……いや。宝石言葉みたいなものか?」
「うん、そんな感じ。そっか、ここって花より宝石送るんだっけ」
「この花にもあるのか?その、花言葉」
「あぁ、そうそう。えっとね、アネモネが『君を愛す』で、カランコエが『あなたを守る』だったかな?随分と熱烈な告白ですね?」
「ふっ。無意識にそんな花を選んでいたのか。お前への気持ちが溢れ過ぎてしまったらしい。せっかくだ、口頭でも伝えよう」
「まてまてまてまて、なんで??」
突然のことに追い付けないまま、ぐるりと体を反転させられる。目の前にきた赤い目が、まっすぐにこちらを射ぬく。
「シオン。俺はお前を一生涯愛し、守ると誓おう。だから、ずっと俺の隣で笑っていてくれ」
「…………不意打ちは、心臓に悪いといい加減覚えてくんない?」
「返事は?」
「…嫌って言っても、隣に居続けてやりますよ、ジークさん」
そう言った瞬間、彼に息が飲まれて二人の影が重なる。相変わらずいきなり過ぎるというか、強引というか。…そう言うとこに惹かれたと言われれば、全くその通りなんですけど。
少し離れて、目を合わせる。今度は俺の方からも近づいて、もう一度影が重なった。
額を合わせて笑い合う。幸せ過ぎてこれが夢なんじゃないかと疑うほどに、穏やかな時間だった。
少し前では、考えられなかったことだ。いつでも終わっていい人生だと思っていたし、周りのことなんかどうでもよくて。ただ、適当に流れていけばいいと思っていたのに。
今はひたすらに、ゆっくりと流れてほしいと思ってる。終わるのはもっと先であってほしいと。
自分をそう変えてくれた人物が今目の前で、隣で笑ってくれている。意地になっていた時期が懐かしいほど遠くに感じる。
それだけ、自分は変わった。この人に変えられた。
「赤目さんって本当、俺様」
「突然何だ。お前は可愛いな」
「何?何なの??会話のドッジボールがすぎない??そこは罵りで返せよ」
「お前には罵れる部分がない。全部が可愛い…はぁ…」
「わぁ、ありがとう何そのため息。ねぇ、ちょっと?」
「頼むから、俺以外と会話するな。拐われてしまう前に閉じ込めたくなる」
「俺様通り越してヤンデレかよ」
「何で今更赤目呼びなんだ?」
「そして今かよ!!遅いわ!!」
そんな会話をしつつ、赤目さん─ジークが、俺の目の前にあったベールを持ち上げた。何も遮るものもなく、赤い目を見上げる。
「お前がギリギリまで新郎の格好を望んだのには本当に苦労した…が、綺麗だ。世界一」
「いくら身内だけとはいえ、恥ずかしいんだよ分かれ…そりゃどーも!相変わらず偏差値の高いお顔ですこと!」
「好きだろう?」
「えぇ、そりゃもう!!言い逃れが出来ないくらい愛してますとも!!」
「何で先に言うんだ!?こう言うのは俺からだろう!?」
「勝った!!!!!!!」
「くっ…!俺の方がお前を愛してる!!!!気持ちの大きさなら負けん!!!」
「残念でしたー!!!先に言ったもん勝ちでーす!!!」
「君らね、こう言う時ぐらい真面目にしなさい!!」
「「…はい」」
神父、もとい義父のルーファスさんに叱られて、今度こそまともにお互いを見る。
いつも適当な髪はきちんと纏められ、前髪を上げた姿はあまりに新鮮すぎてまともに顔が見れなくなった。
思わずふっと目を逸らせば、ジークがニヤリと笑う。
「目を逸らしたから、お前の負けだな」
「え、あっ!くっそ!!」
「よし、こっちを見たな?」
「は?うわっ!?」
ぐいっと持ち上げられて、ドレスがふわりと靡いた。顔が至近距離にあり、体が固まる。そんな俺にお構いなしに、ジークは高らかに宣言した。
「新郎ジークレイン・ヴェルサス・アッシュロードは、シオン・リンドウを生涯愛し、守り支えていくことを誓おう!」
「へ、え?」
「ほら、次お前だぞ」
「え、あ、えっと、新婦、シオン・リンドウは?ジークレイン・ヴェルサス・アッシュロードを生涯愛し…えっと、と、隣で支えていくことを誓います?」
「何で疑問系なんだ」
「アンタが型から外れまくった行動を本番でやらかしたからだよ!?」
ギャーギャーと壇上で騒いでいれば、来賓として来ていた皆が呆れたように笑う。教壇ではルーファスさんが「これ、神父役いらなかったんじゃない?せっかく新婦の父親役をロクショウくんに譲ったのに…」と文句を言っていた。
それに申し訳なく思っていれば、顔を下に引かれた。そのままジークの唇とぶつかり、気づいて誓いもなんもないなぁ、なんて考える。
一回離れてから、軽く頭を叩いてやった。セットしてるとかどうだっていい。どうせ、すぐにバカ騒ぎで崩れてしまうんだから。
「義父にまで嫉妬しないでください、旦那サマ?」
「その旦那以外のことを考えるんじゃない、妻よ」
もう一回、今度は仕切り直してちゃんと誓う。今更、逃げれるなんて思ってないから。
投げたブーケは、ろっくの頭に当たってからヨルカナルの手に落ちた。皆でそれを笑って、苛立ち混じりに渡された花束に驚いてろっくを見上げる。
花束は随分とカラフルで、中心にあるのは紫と赤色。そして、その回りに緑や黄色、青や黄緑、オレンジにピンクまである。バラバラなそれは、確かに一つの綺麗な花束になっていた。
きっと皆で選んでくれたそれをそっと抱き締めて、感傷もなにも無しに宴会を始める勢いでご飯を食べる彼らの輪に飛び込む。
きっと枯れても、この花束は忘れないだろう。永遠に自分の心に咲き続ける。それが、きっと幸せというものだ。
────
「そう言えば、さっきお前がいじっていたこの花はなんだ?紫色の…」
「これ?えっと、クロッカスだったかな?」
「これにもあるのか?花言葉」
「あるよー。俺にピッタリなやつ」
「ほう?どんなのだ?」
「紫のクロッカスは『愛の後悔』です」
「……………後悔してるのか?」
「そうだなぁ。ちょっとだけ?」
「………」
「んはは!冗談だって。クロッカスには他にもあるんだよ。例えば、『切望』とか」
「切望」
「私は、私の身を焦がす程に貴方を切望しています。なんちゃって?」
「それは、随分と光栄なことだな」
「え、なに?もしかしてジークさんってば照れてる?こんなの、いつも自分が言ってるじゃん。なに?可愛いなー、もう」
「…お前の方が可愛いと何度言えば…」
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