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しおりを挟む香坂梓。それが、私の前世の名前だった。
スポーツと海賊物の話が好きな何の変哲もない女子高生だった私には、自慢の幼馴染み兼親友が二人いた。一人は、優しくてイケメンでモテモテの男の子。もう一人は、美人で可愛い皆の憧れな女の子。
二人とも、学校や近所で有名な美男美女だった。対して私は外でよく運動するし部活もあるしで、髪は短く肌も焼けていた。顔も平々凡々で、端から見れば綺麗な花にまとわりつく虫のように見えただろう。
それでも二人は大事な幼馴染みだし、二人も私をそうだと言ってくれた。だから私は、自惚れていたんだと思う。
二人が付き合っているなんて、全く知らなかったのだ。
他の人から教えられて、初めて知った。何で言ってくれなかったんだと思ったが、二人は優しいから言えなかったのかもしれないと考えを改めた。
二人が付き合っているなら、私は完全にお邪魔虫だ。いつも三人一緒だったから、突然私だけをハブることになると気にして言えなかったのだろう。
だから私は、自分から距離を取ることにした。不自然じゃ無いように、少しずつ、少しずつ部活や運動の方に時間を使うようにしたのだ。
部活のない日などは、読みたい本があるからと部屋にこもったりもした。二人から誘われた時は、わざと避けていると気付かれないようにたまに受けたりなど、私は慎重に二人から離れようと必死になっていた。
寂しくないのかと聞かれれば、寂しいと声を大にして叫ぶだろう。しかし私は二人が大事だった。だからこそ、二人の幸せのためなら離れることだって躊躇するつもりはなかった。
そうして、もう放課後に三人で帰ることもなくなって暫くしたある日だった。
私は階段を降りている時、突然誰かに背中を押された。授業が終わり、部活に向かう途中の出来事だった。
落ちながら咄嗟に後ろを見る。やけに時間がゆっくりに感じられ、私は押した犯人の顔をハッキリと見た。
それは、私に二人が付き合っていることを教えてくれた女子の一人だった。
何で、と思った。私は確かに、彼女らに言われた通り二人の邪魔をしないように離れた筈だ。寂しさを我慢して、どうせいつかにはあることだからと、自分の心に─彼に寄せていた、想いに蓋をして。
だというのに、何と言う仕打ちだろうか。離れた筈なのに、何が彼女をここまで駆り立てたのか。
何も分からないまま、結局この想いを伝えることすらしないまま。
ゴシャリ、と世界が暗転した。朦朧とする意識の中で彼女が何かを喚いていた声と、大好きな二人の叫び声が聞こえた気がしたが。
何だかもう、どうでもよくなって来ていた私は、そのまま意識を手放した。
それが、モーニングティーを飲んでいる最中に思い出した私の前世の話である。
ここで私が一つ言いたいことは、そこは普通何かの事故で死にかけたとか、頭を打ったとか、そういう感じで思い出すものではないのかということだ。
何が悲しくて、ハーブティーを口に含んだ瞬間に思い出さなくてはいけないのだろう。危なく噴き出すところだった。代わりに盛大に噎せはしたが。
そうして前世を完全に思い出したことにより、私はこの世界が乙女ゲームの世界だと言うことに気づいた。このままいくと、私もろとも一族全員が処刑されることも。
自分も死にたくないし、大好きな家族が死ぬのもいやだった。だから私は家を飛び出した。誰にも内緒で、こっそりと。
それが、大体二年ほど前の話である。
私は現在、15歳の少年「アレク」として海賊船に乗っている。勿論、乗組員としてだ。
家出したあの日、この船の副船長だったドミニクさんに連れられ、私はこの海賊船にやって来た。リアル海賊にテンションが上がりまくっていたことは否定しない。
船長さんを一目見て、私は電撃が走ったような感覚に陥った。私は彼を知っていた。無論、ゲームで見たことがあったのである。
『ここで働かせてください!!』
『えっ』
『あ?』
『ここで働きたいんです!!』
『突然何だコイツ。まず名乗れ?』
『アレクです!13歳です!!ここで働かせてください!!』
『……ドミニク?』
『はっはっ。流石に想定外』
正直、私の第一印象はイカれたガキかおもしれー奴、のどっちかだったと思う。そして、限りなく前者であっただろう。
彼の名前は、ロクサス・サッチ。世界一恐ろしい海賊と名高い、夜波の海賊団船長である。ちなみに、夜波と言うのは誰かが勝手に付けた呼び名だ。恐らくだが、船長の髪と目の色に因んでいるのではないかと思う。
そんな恐れられている海賊団だが、実は一年後に崩壊する。ゲームのイベントで、ヒロイン&攻略対象と敵対し、船長が捕らえられて処刑されるのだ。
運営は何故そこまで登場人物を処刑したがるのか。シナリオ担当に悩みでもあったのだろうかと本気で疑っている。
ともかく海賊好きの私にとって、ついでに処刑仲間としても、彼らとの出会いは幸運以外の何物でもなかった。
「───…─」
あのあと某アニメ映画と似たようなやり取りを繰り返し、どれだけ脅しても私の意志が変わらないことを察した船長。結局根負けして、私をこの船に乗せてくれることになった。
「─……ぃ…………ぉ……」
そしてコツコツと雑用をこなし、(他のクルーと比較したら)美味しい料理を作り、嬉々として甲板を走り回る。そんな私を見て、はじめは訝しんでいた皆も次第に受け入れてくれた。
今では、最年少と言うこともあり皆の弟みたいな立ち位置になっている。もしくは親戚の子供みたいな扱いだ。
「……おい………」
勿論、性別がバレているなんてこともない。どうやら私は発育が悪いようだし、軽く晒を巻くだけで体型を誤魔化せる。
言動だって、前世のTRPGで鍛えたRP力をなめないでいただきたい。どんな役だってこなしてみせ─
「聞いてんのかアレクゥ!!!!」
「ひゃっ、ひゃいぃぃぃいぃ!?!?」
突然真横からの怒号に、体がピョンっと跳ねる。持っていた皿がつるんっと手から飛び出すが、声をかけてきた人物が間一髪のところでキャッチした。
二人でほっと息を吐く。海の上では、食料だけでなくこういう備品も大事なのだ。商船を襲って手にいれることもできるが、そんなしょっちゅう襲ったりしていれば足がついて海軍に見つかってしまう。
しかし、ほっとしたのも束の間。皿を流し台に置き、その藍色の瞳が私を射抜く。
「お前、ぼーっとし過ぎだろ。どんだけ声かけたと思ってんだ」
「す、すんません、船長…」
いつの間にか真横にいたのは、ロクサス船長であった。今日も、夜の海色の髪に朱色のバンダナが映えている。
私はそっと距離を取ろうとするが、すぐに気付かれ距離を縮められた。ここ数日、私が彼を避けていたことに気付かれているのだろう。
ちなみに、私が幼いからだろうか。この船のクルーは皆、何故か私を甘やかす。弟扱いだの思った理由はそう言うことだ。
そして、その甘やかし筆頭がこの船長なのである。
初対面の第一印象は良くない方だと思っていたが、兄貴肌で面倒見がよいのだろう。ことあるごとに甘やかそうとしてくるので、ちょっと不満なこともある。
憧れもあるし、元々彼は好きなキャラだった。構ってくれるのは嬉しいし、私は彼に一番懐いているという自覚はある。
しかし、しかしなのだ。現在私には、この人にできる限り近づきたくない理由がある。
「やっぱりお前…この前から血の臭いがする気がすんだが。まさか、怪我を隠してるなんてこたぁ、ねぇよなぁ?」
「船長の気のせいなんじゃないっすかねぇ!!」
彼は海賊。血の臭いには敏感な職な訳で。そして今の私の状態は、察して欲しい。
そう、私の性別バレの危機なのである…!!
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