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アレクシアは、女としての発育が悪い。私は、この二年間でそう判断していた。
しかしだ。よくよく思い出してみれば、ゲームのアレクシアはそこそこ女性らしかった記憶がある。これから導きだされる答えはつまり。
アレクシアは、発育が悪いのではなく遅いだけだったのでは。
その証拠に、私は今世で初めて月に一度くる例の時期に入ってしまった。ゲームではどのルートでも死ぬので、全然来ないしでてっきりアレクシアは子どもが出来ない体なのではと疑いもしていた。
それがどうだ。15歳と遅いがアレが来てしまったのだ。今まではなかったから性別がバレなかったが、こうなってくると話は変わる。
どれだけ誤魔化そうとも、定期的に血の臭いをさせていれば察しの良い人は察してしまうだろう。今はまだ最初だから誤魔化せる。しかし、回数を重ねてしまえば…
「おい、アレク?聞いてンのか」
「へ?」
「聞いてねぇのかよ…だから、怪我してんならさっさと見せろ。化膿したらどうすんだ」
「あぁ、いや、怪我はしてないっすよ。魚捌いた臭いとかじゃ?」
「いつ捌いたんだ?まさか、勝手に食糧使ったとかじゃ…」
「おぁ…い、いや~じゃあ何の臭いなんだろうな~…」
墓穴を掘ってしまった!魚は最近の料理に使ってないし、仮に勝手に使ったことにしたらそれはそれでヤバイ。
またしても逃げ腰になる私に、船長は距離を詰めようとして─
「ガウッ!」
「うおっ」
「わっ」
間に入ってきた灰色毛皮に吠えられて一歩下がった。突然のことで私も驚くが、その毛皮には見覚えがあった。
それは私が飼っている設定の狼、イーヴォだった。
「イーヴォ!また船長に吠えちゃって~…すんません、船長。こいつ部屋に戻してきますね!じゃっ!」
「あ、おい!…ったく」
中型犬サイズの狼を抱え、自室に駆け足で戻る。普通、船長以外に個室は持っていないのだが、私が小さくて潰れそうだからと使ってない小さな部屋を貰った。
イーヴォもいるし、そもそも性別を隠すのに丁度良すぎたので助かっている。
その小さな部屋に飛び込み、ドアを閉めて鍵を掛ける。床に下ろされたイーヴォは、お座りをしてこちらを見上げて口を開いた。
「お嬢、危なかったな」
「いやもう、ホントに…ありがとう、イーヴォ」
「いーえいえ。個人的にあの船長気に入らないんで、オレが吠えたかっただけだ」
後ろ足で耳の裏を掻くイーヴォから、人間と同じ言語が出てくる。それはどう考えても普通の狼とは呼べず、これを知っているのは私だけだ。
イーヴォは五年前、私がまだ令嬢であった時に出会った精霊である。
この世界の精霊と言うのは、世界樹と呼ばれる世界の調和を保っている大樹を守る役目を持った種族である。
基本的に精霊界という世界樹が生えている場所に住み、人間界には滅多にやってこない。世界樹を守りながら、魂や世界の"歪み"の管理をしている。
そんな精霊が何故狼の振りをしてここに居るかというと、正直なところ私もよく知らないのである。イーヴォ曰く、色々あって事故のような感じで精霊界を追放されてしまった、とのことだった。
通常、精霊界からの追放は精霊としての力を全て奪われてからのものらしい。しかし、イーヴォの追放は事故のようなもので、力を持ったまま追放されたのだとか。
しかしそれでも、精霊は人間界に長時間居られない。と言っても数年は平気らしいが、丁度限界が来そうなところで私に出会ったのだ。
どうやら私の魂がイーヴォに相性が良かったらしく、時間で回復する程度だけでいいのでしばらく依り代として取りつかせてくれと言われたのである。
私はそれを了承したが、しかし自分に誰かが取りついていると言うのに慣れることはなく。何なら時と場所を考えず話しかけてくるイーヴォに反応しそうになり、ちょっと困りはじめてしまった。
どうにか出来ないかと聞いたら、回復してきたので別の依り代に移ると返事が返ってきた。
そして数日後、死にかけの狼の体を貰ったと嬉しそうに庭に現れたのである。ちなみに、突然やって来た狼に庭師は腰を抜かしてしまった。
二年前、家出するときは置いてきた筈のイーヴォだったが、どうやらこっそり付いてきていたらしい。この船に乗ることになったとき、船長から言われてようやく気づいた。
『お前を乗せんのはいいが、そこの犬はどうすんだ?つか、そいつ犬か?』
『え?犬?…あれ、イーヴォ!いつの間に!』
『ワッフワフ!ガルルルル…』
『噛みつく様じゃ乗せらんねぇが』
『大丈夫です!吠えるだけで噛みつきませんよ!ね、イーヴォ?(訳、頼むから大人しくしてろや)』
『クゥーン…(訳、うぃっす)』
という事もあった。私の無言の圧を受け取り、すぐに大人しくしてくれた。これで乗せられないなんて言われてたら、私は今頃ゲームの開始に巻き込まれることになっていただろう。
て、イーヴォのことはいいのである。そんなことよりも、私の性別バレについてだ。
このままでは女だという事がバレる。何が問題かって、折角この二年間楽しかったのに、もし女だと分かったら皆の態度が変わるかもしれないのが怖いのだ。
この関係は男だから成り立っていて、女になったら二年間の関係は全てなくなってしまうのではないか。そんなことないなんて、自信を持って言えればいいのだが。
如何せん、私は人間関係に対して鈍感なのだろう。前世がそうだった故に、私はクルーたちとの関係に自信を持てない。
皆の性格的に急に態度が変わるなんて無い、と言うのはただの希望的観測だ。少なくとも彼らは海賊という犯罪者集団である。どんな本性を隠しているか、たった二年では分からないことの方が多い。
「どうしたらいいかなぁ…」
「次で降りりゃあいいんじゃね?」
「それもやだぁ~~~~」
「お嬢はワガママだなぁ~」
私が海賊をすることにいまだ反対のイーヴォから良いアイディアが貰える訳がなく。
やっぱり船から降りるしか無いのかと、私は深いため息をついたのであった。
しかしだ。よくよく思い出してみれば、ゲームのアレクシアはそこそこ女性らしかった記憶がある。これから導きだされる答えはつまり。
アレクシアは、発育が悪いのではなく遅いだけだったのでは。
その証拠に、私は今世で初めて月に一度くる例の時期に入ってしまった。ゲームではどのルートでも死ぬので、全然来ないしでてっきりアレクシアは子どもが出来ない体なのではと疑いもしていた。
それがどうだ。15歳と遅いがアレが来てしまったのだ。今まではなかったから性別がバレなかったが、こうなってくると話は変わる。
どれだけ誤魔化そうとも、定期的に血の臭いをさせていれば察しの良い人は察してしまうだろう。今はまだ最初だから誤魔化せる。しかし、回数を重ねてしまえば…
「おい、アレク?聞いてンのか」
「へ?」
「聞いてねぇのかよ…だから、怪我してんならさっさと見せろ。化膿したらどうすんだ」
「あぁ、いや、怪我はしてないっすよ。魚捌いた臭いとかじゃ?」
「いつ捌いたんだ?まさか、勝手に食糧使ったとかじゃ…」
「おぁ…い、いや~じゃあ何の臭いなんだろうな~…」
墓穴を掘ってしまった!魚は最近の料理に使ってないし、仮に勝手に使ったことにしたらそれはそれでヤバイ。
またしても逃げ腰になる私に、船長は距離を詰めようとして─
「ガウッ!」
「うおっ」
「わっ」
間に入ってきた灰色毛皮に吠えられて一歩下がった。突然のことで私も驚くが、その毛皮には見覚えがあった。
それは私が飼っている設定の狼、イーヴォだった。
「イーヴォ!また船長に吠えちゃって~…すんません、船長。こいつ部屋に戻してきますね!じゃっ!」
「あ、おい!…ったく」
中型犬サイズの狼を抱え、自室に駆け足で戻る。普通、船長以外に個室は持っていないのだが、私が小さくて潰れそうだからと使ってない小さな部屋を貰った。
イーヴォもいるし、そもそも性別を隠すのに丁度良すぎたので助かっている。
その小さな部屋に飛び込み、ドアを閉めて鍵を掛ける。床に下ろされたイーヴォは、お座りをしてこちらを見上げて口を開いた。
「お嬢、危なかったな」
「いやもう、ホントに…ありがとう、イーヴォ」
「いーえいえ。個人的にあの船長気に入らないんで、オレが吠えたかっただけだ」
後ろ足で耳の裏を掻くイーヴォから、人間と同じ言語が出てくる。それはどう考えても普通の狼とは呼べず、これを知っているのは私だけだ。
イーヴォは五年前、私がまだ令嬢であった時に出会った精霊である。
この世界の精霊と言うのは、世界樹と呼ばれる世界の調和を保っている大樹を守る役目を持った種族である。
基本的に精霊界という世界樹が生えている場所に住み、人間界には滅多にやってこない。世界樹を守りながら、魂や世界の"歪み"の管理をしている。
そんな精霊が何故狼の振りをしてここに居るかというと、正直なところ私もよく知らないのである。イーヴォ曰く、色々あって事故のような感じで精霊界を追放されてしまった、とのことだった。
通常、精霊界からの追放は精霊としての力を全て奪われてからのものらしい。しかし、イーヴォの追放は事故のようなもので、力を持ったまま追放されたのだとか。
しかしそれでも、精霊は人間界に長時間居られない。と言っても数年は平気らしいが、丁度限界が来そうなところで私に出会ったのだ。
どうやら私の魂がイーヴォに相性が良かったらしく、時間で回復する程度だけでいいのでしばらく依り代として取りつかせてくれと言われたのである。
私はそれを了承したが、しかし自分に誰かが取りついていると言うのに慣れることはなく。何なら時と場所を考えず話しかけてくるイーヴォに反応しそうになり、ちょっと困りはじめてしまった。
どうにか出来ないかと聞いたら、回復してきたので別の依り代に移ると返事が返ってきた。
そして数日後、死にかけの狼の体を貰ったと嬉しそうに庭に現れたのである。ちなみに、突然やって来た狼に庭師は腰を抜かしてしまった。
二年前、家出するときは置いてきた筈のイーヴォだったが、どうやらこっそり付いてきていたらしい。この船に乗ることになったとき、船長から言われてようやく気づいた。
『お前を乗せんのはいいが、そこの犬はどうすんだ?つか、そいつ犬か?』
『え?犬?…あれ、イーヴォ!いつの間に!』
『ワッフワフ!ガルルルル…』
『噛みつく様じゃ乗せらんねぇが』
『大丈夫です!吠えるだけで噛みつきませんよ!ね、イーヴォ?(訳、頼むから大人しくしてろや)』
『クゥーン…(訳、うぃっす)』
という事もあった。私の無言の圧を受け取り、すぐに大人しくしてくれた。これで乗せられないなんて言われてたら、私は今頃ゲームの開始に巻き込まれることになっていただろう。
て、イーヴォのことはいいのである。そんなことよりも、私の性別バレについてだ。
このままでは女だという事がバレる。何が問題かって、折角この二年間楽しかったのに、もし女だと分かったら皆の態度が変わるかもしれないのが怖いのだ。
この関係は男だから成り立っていて、女になったら二年間の関係は全てなくなってしまうのではないか。そんなことないなんて、自信を持って言えればいいのだが。
如何せん、私は人間関係に対して鈍感なのだろう。前世がそうだった故に、私はクルーたちとの関係に自信を持てない。
皆の性格的に急に態度が変わるなんて無い、と言うのはただの希望的観測だ。少なくとも彼らは海賊という犯罪者集団である。どんな本性を隠しているか、たった二年では分からないことの方が多い。
「どうしたらいいかなぁ…」
「次で降りりゃあいいんじゃね?」
「それもやだぁ~~~~」
「お嬢はワガママだなぁ~」
私が海賊をすることにいまだ反対のイーヴォから良いアイディアが貰える訳がなく。
やっぱり船から降りるしか無いのかと、私は深いため息をついたのであった。
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